白雪姫の目覚め
冬の童話祭、白雪姫で書きました
目をあけるとそこには、知り合いではない、見たこともないほど綺麗な顔をした男の人が、至近距離で微笑んでいた。
長めの栗色の髪は、羽根飾りのついた帽子の下でゆるやかにうねっていて、前髪の乱れ具合と、艷やかな唇にずいぶん色気がある。
まるで今、愛する女性とキスを終えたばかりのような。
紺色の高級そうなマントの下の軍服にはきらびやかな飾りがあり、まるでどこかの国の王子様のようだ。
こんにちは、私は今、自分の部屋で目覚めたばかりの白雪姫です。
ところで、この小さな家はなんだろうか?
あっ、そうだった。カラフルな帽子をかぶった、七人の小人の姿を見て思い出した。この人たちは行き場のない私を受け入れてくれて、食事や部屋を与えてくれたのだ。
ずいぶんお世話になっていて、感謝している。
今も心配そうな顔をしているが、彼らはしつこいくらいに
「気をつけて!知らない人には警戒しろ!」
とかん高い声で言ってくれていた。
それなのに私ときたら、魔女の持ってきた真っ赤な林檎にがっつりかぶりついてしまったのだ。つやつやでおいしそうな色をしていたのだもの。そしてその後の記憶がない。
あっ!色気だだもれな男の人に抱きしめられてるー。細身に見えて、筋肉質な体ですね、体が硬め。ぎゅうっと締めつけられるけど、けっこう力があるので加減って大事ですよ、ぐえっ。
上を見ると、顔が近くてよく見えるからなんとなくそうかな、って思うんだけど、この人ってもしかして本物の王子様?
そんなぁー、やだっ。
私の知っている王子様の髪色はもっと金に近くて、小柄で可愛らしい方でしたよ。いかにも王子様って感じの、くったくのない笑顔がすてきだったのに。
急に大人になって現れるとこうなるの?
ずいぶん成長されましたね、元気な子供が、急に憂いのある妖しい色気の青年になったようだ。
「姫、迎えに来ましたよ、お変わりなくて安心しました」
そう、私はどうやら成長していないようで、胸がぺったんこのままで童顔だ。
それなのに、可愛らしい高い声が、妙な色気のある低い声になっちゃって、私の知ってる王子様じゃない。
でも、ここでそんなこと言って、素敵な感じの流れをぶち壊すのもどうかと思うから、とりあえず
「はい」
と言っておいた。
するとそこから一秒後には、私の混乱など全く関係なく、無理やり横抱きで白馬に乗せられた。
なんとか首をひねって、お世話になった小人たちに手を振ってお別れすると、高速でお城に到着した。
馬は速すぎて息が上がっているし、私もぐったりしている。
しかし王子様はそれに全く気付かずに、私を横抱きにしたまま、のしのし歩いて行く。
城内の人々は大歓迎で、手を振ってくれる。中には涙を流して、ハンカチを振ってくれる人もいる。一体これはどうしたことかしら?
そのまままっすぐ廊下を進んで行くといきなり、王様と王妃様に謁見することになった。大変です、身なりを整えようと思っても、王子様が横抱きにしたままなので動くこともできない。
こんな格好で大丈夫なの?王子様に捕らえられた、ちょっとした不審者じゃないかしら。
「只今戻りました」
「うむ、ご苦労。二年もの長い間がんばって探したかいがあったようだな」
王様が言うには、私が家を出てから二年もの間、王子様は私を探してくださったらしい。二年も過ぎたら、15才の可愛らしい王子様は17才になっているのか。
「よかったわね、無事に白雪姫が見つかって」
王妃様にもご心配をおかけしたようだ。
「はい、やっと見つけました。ご覧のとおり、白雪姫は美しいままです。ぜひ結婚させてください!」
「よかろう」
は?この見慣れない王子様と、いきなり結婚なんて無理。
それでも城の中の人たちに祝福されているし、ここで断ることも無理だった。
一か月後に結婚式を挙げることが決定した。
城の中に私の部屋ができて、毎日教師が来た。この女性教師は、森の中で小人と暮らしていた私が王子の妃になるのが気に入らないようで、とにかく厳しい。
ねちねちと嫌がらせの言葉があり、そのついでに授業があるくらいだ。
私の記憶では、高位貴族のご令嬢だったはず。
そのため、勉強は全くはかどらないし、こちらにもやる気がない。嫌々やっているのが伝わって、ますます嫌がらせの言葉が増えていった。
いつの間にか、朝起き上がるのが嫌になっていた。
食事も食べたくなくなって、めまいがする。
何もかもが嫌になって、朝起き上がらずにそのまま寝ていたら、いつの間にか夜中になることが多くなった。
何日かそうしていたら、王子様がお見舞いにいらっしゃった。
「何か、嫌なことでもあったのかな?」
「そ、そんなことは……」
はっきり言ってしまえば、結婚することになったところからが嫌なのだけれど、王子様が悪いわけではないし、悪い人ではない。
それでまた意識がはっきりしないまま、眠ってしまった。
真夜中のお城にいる夢を見た。
大嫌いな女性教師ではなく、優しそうな栗色の髪の女性教師がやって来て
「困ったことがあるなら、わたしに言いなさい。何でも解決してあげる」
と女神様のようなことをおっしゃった。だから一晩中、なんだか嫌になってしまったことを話した。
「小人たちと暮らしていた頃は、楽しかった」
「そう……」
次の日は真夜中に目覚めると、ぼんやり遠くに小人たちがいた。また夢を見ているのだと思って、手を振ってお別れした。
「食事をとりなさい」
とかん高い声で注意されてしまった。
仕方がないから、翌日の朝は普通に食事をとることにした。
身支度をして食卓についていると、誰かがやってきた。
「おはよう!」
小人の衣装を身につけたその人たちは、かん高い声で挨拶する。
でもこの人たちのこと、知ってる。
近衛騎士の精鋭だ。女の子たちに人気の七人が、なぜか小人の衣装を着て、私の部屋にいる。
さらに、女神様とまちがえそうな栗色の髪の優しそうな女の人は、絶対に王子様だ。
「ちゃんと朝食を食べなさい!」
何してるんですか?
真夜中ではなく、朝日の中で見るとものすごく違和感がある。体が皆さんがっちりしすぎている。これで小人?
あー、そうだった。真夜中、この人たちにむかって言いたい放題言ってしまっている。
そして私は、小人たちとの暮らしが楽しかった、と言ってしまった。
こうなったのは、たぶん私のせいだ。受け入れるべきなのだろう。
「困ったことがあるなら、何でも言いなさいね」
優しい女神様、今のあなたたちに混乱しています。
次の日の朝は、七人の小人たちが低い声で歌を歌ってくれた。
侍女の皆さんが、こらえきれずに後ろをむいて笑っている。いいんですか?近衛騎士の皆さん。
その次の朝には、ついにダンスまで披露してくれた。女装した王子様まで加わって、見事にキレのある、すばらしく揃ったダンスだった。
日頃の鍛錬の成果なのだろう。思わず侍女の皆さんから歓声が上がって、拍手喝采だった。
それが何日か続いて、私の朝食の給仕の人数がどんどん増えていった。
十日後には、あくまでも小人だとい言い張る近衛騎士のダンスを見ようと、城中の人たちがやって来た。
毎日ダンスを踊ってくれる近衛騎士さんたちは、いつも私を気にかけてくれている。
部屋に入れ替わり来てくれる、侍女の皆さんともさらに仲良くなれた。すべてはこの人のおかげなのだろう。
「お城の暮らしは楽しくなったの?」
栗色の髪の女神様が私に問いかける。
この人はどこまでも私に優しい。
「ええ、とっても、王子様」
結婚式まで、あと数日になっていた。




