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第九話 久方ぶりの会話

10月25日20時21時22時23時24時に一話づつ投稿します。

これが第四弾です。

「うっま! なんだこれうっま!」


 さっきまで死んだように眠っていたネズミがメリウスの喰い残し、といっても途中でハイエナたちに食事を邪魔されたので正確には後で食べようと思っていた食事となる。

 それをまぁおいしそうにガツガツと食べている。

 あっけにとられていたほんの一瞬で見事に食事をすべて平らげてしまった。


「いやー! こんなにうまい物は初めて食べた!

 ……ところでここはどこ?」


 メリウスは気配を完全に消し、達人のみが可能な神速の動きでねずみの首根っこをつかみ上げる。


「あいてててて! なになになにー!?」


「よう、ねず公。

 俺の夜飯は旨かったか?

 助けてやったのに恩を仇で返すのがお前の流儀か?」


「ひ、ひええええええ!! お助けくだせぇ旦那様!

 あまりのいい匂いに無意識に飛びついちまっただけでございます!」


「ふうん。このところ俺に付きまとっていたのはお前か?

 もう一匹いたと思うが?」


「ああ、旦那! そうでした!

 私の非礼は詫びます。そのうえでお願いを聞いちゃくれませんか?」


「……なんだ?」


「私のたった一人の妹を助けてくだせぇ!」


「……どういうことだ?」


「へぇ! 実は俺と妹は天涯孤独。お互いしか支えあうもののない流れ者。

 虫などを喰らいながら生きながらえてきましたが、妹が毒虫にやられてしまって生死の境をさまよっているんです。旦那の引っ張ているものから馬鹿みたいにいい匂いがする物が撒かれて、鼻が利かなくなって毒虫を喰らっちまったんです。もちろんそれに文句は言いやせん、それでも、旦那お願いだ!

 妹を救ってくれ!」


 滑り止めのせいでもあると言えなくもない。

 断るのも簡単だけど、変にこいつを助けてしまって、偽善ついでに助けることにする。


「わかった。妹はどこに?

 ただ、助けられるかはわからないぞ?」


「ああ、ありがとうございます!

 すぐに妹を背負ってまいります。兄弟しかわからねぇ匂いをたどればすぐに見つかります!

 ところで旦那、ひとつ聞きたいことがあるんですが!」


「なんだ? 言ってみろ?」


「なんで旦那はあっしらの言葉がわかるんですか?」


 結局その問いには答えることはできなかった。

 そのネズミ男はすぐに戻ると草原に潜っていった。

 薬草がうまく効いたらしく元気に走っていった。

 まぁ、それだけでもメリウス的には満足だった。


「毒虫といわれても、いくつかの薬草ぐらいしかないし、そもそもネズミに効くのか?」


 外傷ならともかく、毒物に使う薬なんてメリウスは知らなかった。さらに相手はネズミだ。

 用意してある薬草を出しておく、外傷、腹痛、熱などなど、彼の知識の中には野草薬草の豊富な知識が存在していた。

 目についた薬草、香草などは大切に保管して、万が一の状態に備えていた。

 すりつぶして外傷に塗れば化膿を防ぐ香草、濡らすと肌にくっついて包帯の代わりになる葉、すりつぶすと爽やかな風味が出て嘔吐感を抑えてくれる香草などなど、自然には様々な薬が存在する。


「旦那ー、お願いしますー!」


 ネズミ男が帰ってきた。

 背負われているネズミ娘はたしかにつらそうだ。


「大丈夫か?」


「おい、大丈夫か? 旦那はお前を助けてくれる。安心して話せ」


「今はどんな状態なんだ?」


「食べた虫の味がいつまでも口に残って、気持ち悪くて気持ち悪くて……」


「ふむ、そして吐きが止まらないと」


「いえ、吐いてません。吐くのはもったいないので」


「……吐け、今すぐに吐き出せ」


「え? 旦那そんなことしたら妹は飢えちまいます」


「その後飯は用意してやるからさっさと吐け、ええい、口開け」


 グダグダやるのがめんどくさくなり、ある果実を潰してネズミ娘の口に放り込む。

 キョトンとしたネズミ娘は、急に草むらに走り出す。


 詳しくは書かないが、食べたものを全て吐き出した。

 草むらから戻ってきたネズミ娘は、さっきまでの辛そうな様子はどこ吹く風、すっかり元気な様子を取り戻していた。


「凄いよにーちゃん! あんなに気持ち悪かったのがすっかり治った!」


「さすが旦那だ! 旦那は命の恩人だ!」


 そのうち我慢できないで吐き出せば治っただろうなとも思ったが、齧ると口から胃にかけてスッキリする果実をあげておく。

 もきゅもきゅと果実を食べてご満悦なネズミ兄弟のため、それに自分のためにもう一度食事を作る。

 吐いたばかりなので、少し優しいものがいいと考えて、細かく切った野菜と鶏肉の塩漬けをミンチにして煮込んで、そこに芋を崩して混ぜたスープを作る。

 香草も風味出しと体調を整える作用に期待して普段より多めに入れておく。

 独特の風味はあるが、いい匂いが漂ってくる。

 ネズミの兄弟は激しく鼻を動かしながら少しづつ近づいてくるが、火は苦手なようだ。


「もうすぐ出来る。ところで二人は名前はないのか? 俺はメリウスだ」


「メリウスの旦那! 俺らには名前なんて物はありません。

 生まれて物事わかるようになった頃には妹と二人でしたから」


「おにーちゃんはおにーちゃんです」


「そうか、自然に生きるということはそういうものかもしれんな。

 よし出来た。熱いから気をつけて食べろよ」


 木製の器に野菜スープを分けてやる。

 小さな手で器用にスプーンを利用してスープに口をつける二人、はじめはその熱さに驚いていたが、それ以上にその味に感動してあっという間に平らげた。

 メリウスも独特の風味があるがなかなかに美味しいスープを飲み干す。

 体全体に熱が行き渡る。


「メリウスの旦那! 俺らこんなに旨いもの食べたことがありません!

 妹も救ってもらって本当に有難うございます!」


「ありがとうございます!」


「……ほんの気まぐれだ。

 ところで、この世界にはお前らみたいなのはたくさんいるのか?

 その、言葉を話す動物みたいな者は?」


「俺ら以外に言葉を話す者に出会ったのは旦那がはじめてです!

 イノシシや鹿、鳥なんかも言葉を話しているのは聞いたことが無いっす!」


「無いー、おにーちゃん……眠くなってきた……」


「あそこを使え」


 メリウスは寝床を指差す。

 はじめは恐る恐るテントを探っていたが、その寝心地の良い布団に驚き、すぐに丸くなって寝息を立て始めた。


 やっと火にも慣れてネズミ男はメリウスと並んで椅子に腰を掛ける。


「見たこともないものがたくさんありますね、旦那は何者なのですか?」


「人間、と言うのは聞いたことあるか?」


「いえ、そもそも俺は自分が何なのかも知りませんです」


「ふーむ。俺の知識では、お前はネズミ人間ってとこだ。

 ネズミに似ているが、手先が発達しているし、なにより大きい」


「へー、自分が何者かなんて考える余裕もありませんでした。

 ありがとうございます!」


「……お前も苦労してるんだな。

 お前お前と読んでいるのも気持ちが悪い、名前をつけてもいいか?」


「いいんですか旦那! 旦那は命の恩人だ! ぜひ俺達に名前をつけてくだせぇ!」


「そうだな……兄はカイン、妹はプリテ。……どうだ?」


「カイン、俺はカインになったんですね!

 プリテかぁ、良かったなぁいい名を与えられて、良かったなぁ!」


 ネズミ男改、カインはポロポロと涙を流して喜んでいた。

 カインとメリウスはしばらく話した後に、蓙を引いて体を休めた。


 三人を祝福するように満天の星空はキラキラと輝いていた。

 





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