第78話 結婚式
天気は快晴。抜けるような青空、雲一つない。
二人の花嫁は真っ白な衣装に包まれその時を待っている。
その姿は天から舞い降りた聖女のように美しい。
一人はプリテ、元はネズミの獣人だったが、今は人の形にだいぶ近くなっている。
料理上手で天真爛漫、元気を詰め込んだような、はじめは妹のように思っていたが、今では俺を照らす太陽のような存在になっている。
もう一人はシャロン、元は牛の獣人だった。ホルスの遺志を継いで俺と共に旅をしてくれた。
人間化してもそのスタイルは人目を惹く、ファンも多かったのでこれからの夜道は気をつけないといけない。献身的でいつも一歩引いて俺の世話をしてくれる。
プリテが太陽ならシャロンは月のような女性だ。やさしく俺を導いてくれる。
二人と、そしてカイン、フー、リューにアン、ドワ、たくさんの仲間と一緒に自分たちの生活する場所を取り戻す戦いに勝利した。
「これからも、よろしくな」
「もちろん~」
「はい! メリウス様!」
「シャロン、もう様はおかしい」
「え、え、じゃ、じゃぁ……旦那様で……」
ぐらっときた。男たちの目線が怖い。
新天地ルナネクサスで行われた俺と二人の結婚式には多くの人々が訪れてくれた。
皆楽しそうに用意した酒や食事を口にしながら大騒ぎ、そんなみんなの姿を見て、俺は自分のやってきたことが間違いでなかったことを感じた。
皆に笑顔を取り戻したくて必死に走り続けていたが、ここで一旦腰を据えてこのルナネクサスを発展させていかなければならない。
ルナによる情報収集の根は順調に広がっているそうだ。
何年かかるかはわからないが、大神様の足取りを掴むことが出来れば、俺の役目も本当に終えられたといえるだろう。
結局、それからしばらくの時間は、ルナネクサスの地で平穏に暮らし続けることになる。
俺自身が、不老の存在になることに気が付き、子や妻たちよりも長く生きねばならない事実に絶望したりもしたが、仲間たちや妻、子達の笑顔にあふれた生活を守ることを使命として、生き続けている。
野生に話された動植物は長い時間をかけて少しづつルナネクサスに広がっている。
人々の生活圏もどんどんと広がっていて、穏やかな時間を皆で分かち合った。
もちろん楽しい時間だけではない。
仕方がないことだが、仲間からも寿命が尽きる者も出る。
フーは、たくさんの子や孫に囲まれながら笑顔で旅立っていった。
本当に幸せそうなやすらかな死に顔だったので、寂しさよりも充足感が勝ってくれた……
初めからいる村人たちから旅立つものも多くなる。
その子供たち、さらにその子供たち、代を新しくなると、どんどんと身体能力が向上していく傾向はある程度で落ち着いた。やはり生活環境の改善が若い世代の能力向上に寄与していたんだろう。
ルナネクサスの広大な大地に対して、多産早熟の力は爆発的な人口増加を呼び起こした。
普通なら食糧危機などで深刻な問題になってしまいそうだが、異常な速度で発展していく魔道具や、なんといっても広大な土地、豊富な水産資源によってそのバランスは保たれていく。
「メリウス様、最後までお供いたします」
「もちろんプリテも行くよ」
「私もです。旦那様」
子供たちがそれぞれ家庭を持って独立し、孫なした頃、俺は一つの決断をする。
「俺は、歴史の表舞台から消えようと思う」
ごく親しい、最初の使徒と呼ばれたメンバーだけにそのことを打ち明けた。
俺のような不老不死の存在が居れば、いまでもそうだがどんどん権力が集まってしまう。
この大地はすでにこの地で生きる人々の物だ。
魔道具開発者のリューやアン、ドワはこのまま民の生活の向上のために生きていくと決めたようだ。
カイン、プリテ、シャロン、そして俺は、冒険の旅に出るということで初めに降り立った地から海を渡った大陸へと移動することを発表する。
もちろん民の動揺は大きかったが、異を唱える者はいなかった。
温かく送り出してくれた。彼らとしてもすでに俺に依存するような生活でないことを薄々考えていたんだろう。
おかげで今俺は4人で久しぶりにのんびりとした旅をしている。
新しい大地では独自の動植物が存在しており、その日その日の暮らしは新しいことの連続で、とても充実している。
少し歳をとったといってもカインもプリテもシャロンもまだまだ現役で戦える猛者たちだ。
あと数十年はこんな感じで旅を続けられるだろう。
ルナの情報収集も順調に続けている。
俺がルナネクサスのどこにいようが彼女のネットワークは俺を探すことが出来る。
本当に俺の役目を終えるその日が来れば、彼女から連絡が来るだろう。
「メリウス、今日はこの獲物にチャレンジする」
プリテとシャロンはかなり大きな牛に似た動物を獲ってきた。
慣れた手つきで川で解体作業を行っている。
「こっちも面白い木の実を見つけました」
カインは自分の顔ぐらいある巨大な木の実の皮をむいている。
癖のない瑞々しい味わいで、そのまま食べても煮物などにもよさそうだ。
俺は皆の食事のために火を起こしている。
最近はこのあたりの探索拠点として作ったログハウスでこんな生活を送っている。
新大陸はスケールがでかい、頂上を拝むこともできない巨大な山や、反対側さえ見えない巨大な河川、そしてそこに生きる様々な生物、植物たち。
毎日が新しい事の出会いで退屈しない。
安住の地を得て穏やかに暮らすよりも俺にはこの方があっているみたいだ。
「プリテも今のほうが楽しいよ!」
「私は旦那様といられればそれで幸せです」
「メリウス様のいらっしゃる場所が、私の生きる場所です。
それに子供たちもいずれはこの地に来ることもありましょう。
そのための準備と思えば」
動植物の情報はルナの情報網を利用してリュー達に渡している。
もっと言ってしまえば、会話だってできるし、映像を出すこともできる。
遠い地までやってきたが、彼らとはつながっているのだ。
胸躍る未開の地を探る旅をしながら、穏やかな生活も送っている。
これはとても贅沢なことだと思っている。
「明日はあの山を越えてみるか……」
「超えよー!」
「頑張ります」
俺たちの旅の終わりは、まだまだ続いていく。
次話で最終話となります。




