第七十五話 新世界へ
すでに住人たちは自衛手段を手に入れている。
優れた武器防具、そして厳しい訓練の日々によって培われた強力な力、赤目におびえる日々は終わりを告げている。
衣食住は十分に満たされ文化的な活動もどんどんと発展している。
新たに表れた三つの国もあっという間に平定している。
すでに封じられていた御紳像も解放し、さらに4か国の国々が現れた。
事前に策を練っていればやることは同じだ。
申・酉・戌・亥の国、とうとう12の国を解放し、御紳像を復活させるに至る。
精密作業、化学技術、畜産技術、建築技術各人が持つ知識と技術が混ざり合って急速に獣人の世界が近代化していく。
『メリウス、お疲れさまでした。とうとう我らを全て解放してくれたのですね』
「ええ、とうとうここまで来れました……」
夢の中で神とであると過去の神との会合の記憶も思い出せる。
亥の神を持って12柱の神を全て解放したことになる。
『これでようやく大神様を救いに上がれます』
「大神様ですか……助けに?」
『我らは大神様によって、あの憎き邪神の世界より切り分けられ、隔絶された世界へと逃がされたのです』
いつの間にか12体の神が並んでいた。
『邪神の強大な力の前に打ち勝てないと判断した大神様はその力の一部を12の形、つまり我々に託して世界の一部に自らの眷属を乗せて閉鎖された空間に逃がしたのです』
『邪神の力は、大神様の加護をすり抜けて赤目として世界に取りつきましたが、眷属たちは必死に生き延びて、そしてメリウスと出会ってくれました』
『神を救い、邪神を討ち果たすことのできる存在を大神様はずっと待っていました』
『それが、メリウス、貴方です。12の神の力を少しづつその身に取り入れ、そして神具を邪神を打ち倒せる武器へと進化させること、それが貴方の役目だったのです』
俺は自分が持つ仮面から生まれた武器、そして12の神の力を経て美しい大剣へと変化したモノに目を落とす。
『あなたが最も得意とする武器の形に収まりましたね。その神剣の力で邪神を打ち倒してほしい』
『あなたと近しい12神の使徒たち、彼らを中心に国の民達にはそれぞれの国を守る力を与えました。
いや、貴方と旅をして自ら手に入れた力ですね』
『今から貴方が救った世界をもとの場所へと転移させます』
『邪神によって一度は滅ぼされかけた世界、貴方たちが最後の希望です。
激しい戦いになると思います。それでも必ず打ち勝ってくれると信じています』
『お願いしますメリウス、大神様を邪神の元から救ってください』
「精一杯頑張りますが、元の世界とはどんな世界なのですか?」
『人の生きる世界……人が繁栄を極めた世界、たった一つの隕石とそこにいた邪神によって全てを失った世界。【ルミネクサス】、我々はそこをそう呼んでいました』
『12の国、本来は大神様が作った移動型浮島でした。すべての島がそろった今、メリウスにはこの島を動かす方法がわかっているはずです。
この島は最後の希望、この島の力うまく使ってください』
『我々も一つになり元の姿に戻ります。メリウス、あちらの世界でまた逢いましょう』
「それって……」
激しい衝撃が寝ていた俺を突き上げた。
それが、新たな世界への到着を告げていたことを、今の俺は理解していた。
「メリウス様! ご無事ですか!?」
カインとプリテが飛び込んでくる。大丈夫と手で制してすぐに着替える準備をする。
「皆に話したいことがある。各村に連絡しておいてくれ、あと外部国境部分の警備体制を最大レベルに引き上げるよう即時通達を」
「わかりました!」
12の国は亀の甲羅のように組み合わさった形をしている。
そして、これが巨大な船の内部構造なことを俺は知っている。
無限に広がる空と思っていた場所も、はるか上空に存在する外郭の内部に投影された映像だということも……
大神様によって滅びゆくルミネクサスから飛ばされた船、『ルナ』と名付けられた時空間移動船体。
今、再び元の姿を取り戻した。
赤目と言われる邪神の最末端兵はある一定数を集めると巨大化してしまう。
そのために12か国に細分化して分散させた。
赤目は現地でいろいろなものを取り込んで数を増やそうとしていたが、なんとか俺たちが間に合った。
そして、ルナの船下部分の半球内では大神様が託した活動がずっと行われ、その結果俺が召喚され、そして邪神を打ち倒すことのできる武器とそれを扱う人間、さらには邪神と戦える者たちを育て上げた。
邪神に対して人は無力だった。ウイルスと呼ばれた細分化した邪神に人は侵され、そして滅亡した。
抗体という抵抗手段を手に入れたのは12種の動物だった。
大神様はルナとその12種の動物を隔離し、その進化、邪神に打ち勝てるほどの進化にかけたのだった。
そして人の身でありながら抗体を持っていた俺を召喚し、この世界で皆に力を手に入れさせた。
俺はそれらの話をかいつまんで各村へと演説した。
突然の突拍子のない話に獣人たちは混乱もしたが、すぐに現実問題に向きあう。
「つまり、今は敵の真っただ中におるわけじゃな」
「今までの赤目とは比べ物にならないほどの強大な敵が蠢く世界……」
「私たちを救ってくれた方を助けないわけにいかないですよね」
「メリウスはもう決めている。ならついてく」
「そうじゃな、メリウスが進むと決めているならともに進むだけじゃ」
いざとなったら俺一人ルナの外に行くつもりだった……それでもみんな俺についてきてくれる。
目頭が熱くなった。
「ありがとう、本当にありがとう……皆には、この世界を見てもらおうと思う」
俺は念じる、額の宝石を通じてルナとの意識がつながる。
同時に、空が割れる。青空を投射していた映像が周囲の世界を映し出していく。
濁った雲、暗闇に包まれた……ルミネクサスの世界を……




