第五十四話 御神像
メリウスの目の前に塩に埋まった二つに分かれた大きな魔石がある。
「また、何か起こるんだろうな……」
メリウスが魔石を手に取ると、自信では気がつかないが額の赤い珠がほのかに光、それに反応するかのように魔石も光を放つ。
メリウスの持つ手にかかる負担がスッと軽くなり、二つの魔石が光を放ちながらふわふわと虎の石像に向かって飛んでいく。
石像にたどり着いた魔石はそのままスルリと石像の中に入り込む。
メリウスの額の石がより力強く輝き、石像も光りに包まれていく。
全員がその光景を静かに見守っている。
石像が完全に光に包み込まれると、どんどんとその大きさを縮小させ、小さな虎の像へと姿を変える。
ふわふわと浮いている石像を、メリウスはそっと手に取る。
「……さて、帰ろうか?」
「そうじゃな、これで村の危機も回避できたじゃろ」
「お疲れ様でしたメリウス様」
「今回はみんな疲労で倒れたりしなそうだねー」
「……犠牲も無く倒せて、本当によかったです……」
「シャロン……」
天井の動物たちの亡骸のために大きな穴を開ける。
土の魔石を利用してメリウスとカインが穴を作り、少々乱暴になってしまうがフーが上部の受け皿を破壊する。
亡骸は穴へと降っていく。
「せめて大地に帰って新たな生となって欲しい……」
土をかけその場に弔う。
この国の赤目達は人間に固執すること無く、野生の動物を捕獲し、自らの数を増やすことに利用していたようだった。
弱肉強食、自然界の定めとしては、丑の国よりも自然なのかもしれない。
メリウスは少しそんなことも考えていた。
皆それぞれ思うことはあったが、ひとまず帰路へと着くことにする。
御神像はフーが大切に持っている。
この国の像はフーが持つことが自然な気がしたメリウスの提案だ。
洞窟の帰り道は特に他の赤目にも出会うこともなく外へと出ることが出来た。
「……外へ出られると、やはり疲れてますね……」
カインの一言が皆の正直な感想だった。
「倒れるほどではないが、やはり消耗は激しいな」
「なに言っとるんじゃ、闘気を利用してあれだけの長時間の戦闘をこなして立っとるだけでとんでもない事。以前の儂なら既に魂の燃えカスさえ残らんわい。
お主達は常識を知るべきじゃな、強さのタガが外れとる」
「……フーじーちゃんに言われたくない」
「かっかっか! 今のわしからすれば皆まだまだじゃ!
近くに小言を言う爺がいたほうが良いじゃろ!」
「まだまだフー大老には教えていただかねばならないことが山ほどあります。
今後共よろしくお願いします」
「この像を持ってわかった。儂はメリウスと共に行く定めのようじゃ」
「そう、フーじーちゃんは虎の御子。
メリウスと契を結ぶ」
「え?」
「なるほどのぉ、では村に帰ったら一手交えるかのぉ……」
「え?」
「お互いの全てをぶつけ合って、契りを結ぶ」
「ふむ、楽しみじゃわい……」
「え?」
メリウスは恐怖に震えている。
過去のプリテとシャロンとの契の記憶、甘美な記憶のはずが、今は恐怖でしかない……
「ぷ、プリテ……本当にフー大老が……御子なのか?」
「間違いない。メリウス、頑張ってね!」
「……頑張るのか?」
「全力で相手をしないとフーじーちゃんにも失礼、全てを出すべき」
「す、全て!? 全力の前にそんな状態になるかどうか……」
「いざ本番になればメリウスはやる気出る。大丈夫!」
「と、ところで……俺が攻めるのか?」
「うん? 攻めきれればいいが、フーじーちゃん相手に受けに回らないのは不可能だと思う」
「なっ!? ……どうしてもやらなければ駄目か?」
「当たり前、メリウスの務め。
どうしたのメリウス? いつもフーじーちゃんとの手合わせは楽しそうだった。
いつものように思いっきり頑張ればいい!」
「ん? 手合わせ? どういうこと?」
「ん? 御神像とつながりを持った御子と拳を交わすことで縁が結ばれる。
それが契。大切な儀式。頑張ってメリウス」
「……おっしゃあ!! やったるでー!! はっはっっはっは!!」
「変なメリウス」
メリウスは大変な思い違いをしていたことに気がついた。
牛車に揺られながらアホなことを考えていた自分自身をぶん殴りたくなりながら、村へと帰還する。
「このあたりまで来たら大丈夫でしょう。中継地点に狼煙をあげますので少し休憩でもよろしいですか?」
カインの提案で小休止を取ることにする。
プリテとシャロンが手慣れた手つきでお茶と軽食をを用意してくれる。
ローはメリウスとの戦闘用にグローブのような物を作成しており、メリウスも弾力性のある素材で剣を作っている。二人共実力が実力なので木刀などを使うと思わぬ大怪我をする可能性がある。
と、プリテの提案だった。
「真剣勝負じゃないと駄目」
プリテが真面目な顔で二人にそう告げた。
もちろん二人にしても一度本気の相手と戦ってみたいという気持ちはあった。
「どうですかメリウス様、勝算は?」
「はは、分かってるだろ、十中八九相手にならない。
それでもただ負けるわけに行かないからな……」
「楽しそうですねメリウス様」
「そうかぁ? ……そうかもな、強い相手に挑むってのは楽しいものだ……」
「わかります」
かたやフーも同じような気持ちだった。
「フーじーちゃんどう準備の方は?」
「少し、気になるが、本気は出せるじゃろ……
ワクワクするのぉ、伸び盛りの弟子に超えられるかもしれんという緊張感は……」
「フフフ、フー様子供みたいですね」
シャロンがお茶と軽食を運んでくる。
「ああ、この年でこんな気持にしてくれるメリウスには感謝せんとな……
儂の本気を味わって、できれば色々と学んで欲しい……」
戦闘の準備は着々と進められていた。




