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第三十話 ホルス

今日は四話、一話目です

 カーンカーンカーン、メリウスの村に警鐘が鳴り響いた。

 

「どうした?」


「メリウス様、人型の魔物が村に向かってきています!」


「どうだプリテ?」


「牛さんかなぁ? でも目は赤くないよ? それに普通に歩いてる」


「警戒態勢を取って待機、俺とカインプリテはとりあえず接触してみるぞ」


 すぐに見張り台から降りて、獣人? が向かってきている道へと駆けていく。


「申し訳ないが、止まってもらえるか?」


 警戒しながら声をかける。

 獣人は3人の接近に気がついていたが、別段敵対行動は取らなかった。


「驚いたな……本当に『果て』の先に人がいる……」


「言葉は通じるのだな、何用で我らの村に向かうのか理由を聞きたい」


「ああ、そうだな。失礼した。

 私はノタ村のホルス。『果て』の先に突然現れた台地に煙が上がっているという話を確かめるためにノタ村の村長から調査を命じられたものだ」


「どうやら、敵ではないみたいだな。

 俺の名前はメリウス。この先の村の長を務めている。

 敵でないのなら、旅人よ我が村は歓迎する」


 ゆっくりと近づいて握手を交わす。

 ホルスの手は筋張っていて、近くで見ると体つきもガリガリだ。

 二本の角に大きな鼻、ボロボロの布に近い服に布を羽織っているような状態だ。

 メリウスたちと比べると、はっきり言ってしまえば貧相な姿だ。


「甘えついでに一ついいかな?」


「ああ、なんでも言ってくれ」


「3日ほど何も腹に入れてないんだ、何か分けてもらえると助かる……」


 ぐるぐるぐるーーーーっとホルスの腹がなる。


「ぷっ! いや、失礼! 歓迎するホルス殿!」


 すぐにホルスを屋敷へと招待する。

 ホルスは村の防備と立派な建築様式に驚きっぱなしだ。


「し、信じられない、どうすればこんな立派な物が……」


 そして料理を与えられてさらに驚くことになる。


「こんなに大量に、しかもわ、私など他人に、これほど……」


「遠慮はいらない。我らには十分な食料を得る術がある」


「かたじけない! いただかせてもらう!」


 それからホルスは一心不乱に食事を楽しんだ。

 数日の絶食など気にもせず、食べに食べに食べた。


「……俺は神に感謝をする……偵察の役目を俺に与えてくれたことに……

 ふーーーーー。ありがとうメリウス。これほど満たされたのは……生まれて、初めてだ」


 その瞳から一筋の涙が流れた。


 それから旅の汚れをしっかりと落として、衣服も提供した。

 食事のせいか格好のせいか、ホルスは見違えて見えた。

 ガリガリで骨ばった貧相な体つきも、引き締まった精悍な印象に変わる。


「何から何まですまない……」


「落ち着いたようで何よりだ。それでホルス。

 情報交換しよう。君はどこから来たんだ?」


「ああ、そうだな。それだ。

 俺はここから先、幾つかの森と草原を抜けた村から来た。

 しかし、それは本来あり得なかったんだ」


「あり得ない?」


「そう、俺達は『果て』と呼んでいたが、俺の村からこの村の方向には、『何もなかったんだ』

 ある朝、突然その何もなかった場所に草原が、山が、森が現れたんだ」


「なにもないっていうのは……」


「簡単に言えば、切り立った崖と底のない谷……それが『果て』だ。

 どこまで下るのか確かめようとしたやつはいるが、用意した縄が全て出されても崖は終わる気配はなかった。谷に物を投げても、返ってくる音はない。その先に広がる空間は、何もない。

 そんな場所が一晩で陸続きの草原になった。

 俺達の村は大混乱だ。

 喧々諤々の話し合いの結果、俺が派遣されたってわけだ。

 用意していた食料を『赤目』から逃げるのに使った時は死を覚悟したよ……」


「赤目ってのは、あの魔物たちか……」


「そうだ、俺達は赤目に見つからないように逃げ隠れて暮らしていた……もう、長年そうして生きてきたんだ……」


「そのあたりの話をもっと詳しく聞かせて欲しい。

 俺は、たぶん俺はその赤目からこの世界の人々を救うために生まれたんだ。

 こいつでも飲みながら今日はたっぷり話してもらうぞ」


 メリウスは酒を用意させた。

 生まれて初めて飲むその甘美な味わいにホルスは再び涙を流した。

 そして、一通りホルスの知る、この世界の話を終えると真面目な顔でメリウスにお願いをする。


「どうか俺達の村を助けてくれ! この村のように豊かで、恐怖に怯えず、飢えない生活を俺達に分けてくれ、メリウス! メリウス様!」


 跪き、頭を深々と下げてくる。

 メリウスも膝をつき、その両手を握る。

 

「大丈夫だ、俺に出来ることならなんでも手伝う。

 だから、様は止めてくれホルス」


「ああ、ありがとう、ありがとう。俺の力、命でもなんでもお前に貸す。

 だから村を、皆を、頼む」


 メリウスは気がついていなかった。

 ホルスの身体がほのかに光り輝いて、自分自身の額の宝石も暖かく輝いていたことに。


 ホルスはそのまま酔いつぶれてしまったので客室にカインと運んで寝かせることにした。


「旅の用意ですね。久しぶりです」


「村は、平気かな?」


「大丈夫です。この村の戦士たちは、強いですよ」


「そうだよー、女だって弓を取れば男にだって負けないよー」


「そうか、それじゃぁ、まずはホルスの村を、救いに行こうか!」


「はい、メリウス様についていきます!」


「プリテはメリウスの最初のお嫁さんだからずっと一緒にいるよー」


「最初のってなんだよ、俺はプリテがいれば他の嫁なんていらないぞ?」


「ふふふ、ありがと~メリウス」


「それではメリウス様、明日にでも出立できるよう手配いたします」


「すまないなカイン」


「私も女衆にはなしてくるー、あとでね~」


「わかった。助かる」


 メリウスは自身の中にいつの間にか存在した使命を、今力強く感じていた。


 この世界を救う。


 熱い想いが体中に巡っていた。

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