第二十四話 始まりの地メルテパ
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「なんだよ、まだいたのか!?」
部屋に入ってきたゴーヴァンは開口一番嫌味を放つ。
「……王が、メルテパヘの侵攻を許してくれない……」
「メルテパ、ね……きな臭い噂もあるからな……」
「王が、いや、高官や貴族たちが、今の戦争を終わらせたくない。ってやつか……」
「ああ……まぁ金になるからな戦争は!
俺もお陰で毎日好きなだけ酒も旨いものも食える」
びきっ、メリウスが握りしめていたくるみが粉々に砕ける。
「あーあ、もったいねーな。今の食糧難、食うもの粗末にしたら罰が当たるぞ」
「くだらない冗談を言うからだ……」
あーあー、すまんすまんとジェスチャーだけで対応するゴーヴァン。
しかし、メリウスの耳にもその手の話はたくさん入ってきている。
ある程度魔物たちの侵攻に耐えられるようになった人間は、魔物から得られる魔石を用いて豊かな暮らしを手に入れてきている。
そのせいで、この戦いを長引かせて魔石を得続けるほうがいいのでは? なんてメリウスからすればとても許せないような話もある。
「未だに魔物による被害は無くなってないんだぞ!!
各地では散発的に魔物に襲われる人は後を絶たないし、忽然と人がいなくなったり、子供が犠牲になったり……それをなんだ!
自分たちは安全な場所で……!!」
「それくらいにしておけ、今度は机が壊れるぞ」
メリウスの力でミシミシと机が悲鳴を上げていた。
叩きつけそうになった手をそっと降ろす。
「そういえばゴーヴァンがうちに来るとは珍しいな。いかがした?」
「死ににいくやつに手向けでもと思って作ってた武器が出来たんでな、出立には間に合わなかったから家に墓標代わりにおいていこうかと思ってな……」
部屋の中だと言うのにお構いなしに一本の剣を突き立てる。
下は土床だからメリウスもさしては気にしなかった。
「珍しく、綺麗な剣だな」
「別に綺麗に作ろうとしたわけじゃない、様々な物を混ぜ合わせて強さだけを追い求めたら勝手に綺麗になったんだ。見た目なぞ俺が気にすると思うか?」
「確かにな……」
メリウスが剣を掴むと不思議な感覚がする。まるで何十年も愛用していたかのように手にしっくり来る。長剣は形容し難い様々な色が混じり合い、まるで波紋のようにうねり絡み合っている。
軽く振ってみると重さのバランスがいい、思い通りの剣筋を描きながら剣が踊るように動く。
自分に足りなかったものが満たされたような、そして、自分の覚悟が決まったメリウスは剣を振るいながら、そう確信していた。
「気に入ったみたいだな……」
「また何か悪辣な仕掛けがあるのか?」
「いや、ない。魔物を殺す、破壊することだけを考えて作った。
結果、ただの剣になった。ただただ強い剣。
お前に渡せば、多分それが一番魔物を殺すんだろうな……」
「相変わらず鞘はなしか……」
「これで巻いておけ、並の鞘ではそれは納まらん」
同じような模様の布を投げてよこしてくる。
少しざらつくような手触りの布で剣の刃を包みまとめる。
「……そいつが俺の最後の作品だ。
なぜだかそれを打ったらやる気がなくなった。
俺の中の何かが全てそれに入っていったんだろうな……」
「そうか。ありがたく使わせてもらう」
友からの最後の手向け。
この日、メリウスはゴーヴァンとの最後の杯を交わした。
「ありがとう、友よ……」
メリウスは大いびきをかきながら寝ているゴーヴァンに最後の挨拶をつげ、家を出る。
準備は既にできていた。何度も王に出撃を願ってもいろいろな理由をつけられ許されなかった。
この行動は以前から考えていたことだ。
王都の外れの馬房、その中でも一番大きく力強い馬。
メリウスの相棒であるペルサスの美しい芦毛の馬体が月に輝いている。
「今日でお前とも最後だな」
まるでメリウスをねぎらうように優しく顔を擦り付けてくる。
馬具をつけ、跨るとまるでメリウスの意図を理解しているかのようにゆっくりと城門へと向かう。
「メリウス様! このような夜更けに如何なされました?」
「いや、なに、不穏な気配を感じたのでな」
真面目な顔で兵士に告げ、続けて小声で耳打ちする。
「酔い覚ましに周囲をこいつと一周してこようかとな」
「ははは、なるほど。このあたりはメリウス様のお陰で魔物も少ない。
ただ、不穏な気配なら仕方ありませんな。どうぞお通りください」
「うむ、お役目ご苦労!」
兵士が通る小さな戸が開けられる。
メリウスは馬から降りて馬を引いてその戸を抜ける。
兵士はその姿を見て、妙に荷が多いと少し疑問に感じたが、あまり気にもとめなかった。
「ではな!」
メリウスは再び馬にまたがり走り始める。
これが、メリウスが王都との最後の別れであった。
ペルサスは強く疾い馬だ。もちろんそれでも馬であるのだから食事、水、休息が必要だ。
しかし、英雄メリウスの乗る馬は最高の装備を馬もつけている。
飢え知らずの加護、乾かずの加護、疲れ知らずの加護。
国宝級のエンチャントを施された馬具。
昼も夜もなくその脚を生かして走り続けることが出来る。
またがっているメリウスもその加護を得ている。
飲まず食わずで10日、走りに走った。
そして、人類の悲劇の始まりメルテパへと到達する。
次は20時




