第十四話 敵
回想編
村は炎に包まれていた。
メリウスは魔物に蹂躙され燃え尽きた村を歩いていた。
住人だったものはそこかしこに散らばっていた。
食い散らかされたであろう後も見て取れる。
メリウスは魔物を殺し、人を救っていた。
しかし、この村は救えなかった。
魔物の情報を考えれば、この村が先に襲われることはわかっていた。
メリウスは魔物を殺し、人々を救った。
王から命じられたのは、魔物の目撃情報のあった場所から、その村よりも遠い街だった。
人数の原理から言えば、もしかしたら王の判断は正しいのかもしれない。
しかし、王がその街を護れと言った理由はもっと単純だった。
その街に住む貴族が、王に賄賂をよこしたからだ。
もちろんメリウスはその周囲にいるであろう魔物を討伐に出ることを申し出る。
しかし、王は許さなかった。
国宝とも言える武具を渡し、援助をしてきた王の言葉に大きく逆らうことはメリウスであっても難しい。
そして、王は約束した。
村へはきちんと防衛の軍を差し向ける。
魔物相手でも遅滞戦、防衛戦に徹して村人を避難させれば被害は出ないと。
メリウスは、襲い掛かってきた魔物を殺し続け、街を救った。
しかし、その軍が王都を出立することはなかった。
王都付近で魔物を見かけたという報告が入り、王都に住む多くの人々を守るために軍を動かすわけにいかなかった。
そう言われてしまえば、メリウスは何も言い返せない。
メリウスが村にたどり着けた時、すでに村は村だったモノに変わってしまっていた。
全てを救うことが出来ないことぐらい、わかっている。
それでも、守るのではなく、いつものように攻め続ければ、街へと向かった部隊も、村へ攻め入った部隊も引き返し、そして全てを殺せば、被害は少なかったのではないか?
どうしても、考えてしまう。
人民は英雄を攻めなかった。
結果を言えば、街を防衛し、すぐに村へと向かい、周囲に魔物の陣を発見し殲滅している。
人々は賞賛の声をかける。
王も破顔しメリウスを褒め称えた。
「村が一つ滅んでんだぞ!」
メリウスただ一人が、メリウスを攻め続けた。
人々は、完全に浮かれていた。
要所であるガーニック砦を落としてから、人間は連勝を重ねている。
物資や人員を集中して守れる位置の砦を抑えたおかげで、その背後には余裕が生まれる。
余裕があれば戦力も補充出来る。
きちんとした戦力を整えて、互角以上の状態で戦端を開けば、力押しの魔物軍にも負けることはない。
魔物たちに滅ばされた街を砦を、一つ、また一つと取り戻していく。
前線ではあるが、チャンスを掴むために人々は街へ、砦に、村へと入植していく。
散々不遇の時間を過ごすハメになってきた人間が、メリウスを筆頭とした強靭な戦士たちの手を狩りて、生存エリアを増やしていく。
人間の王はその戦果に、慣れて、飢えるようになってしまったのだ。
人々のためとどんな方法でも絞り出していた賢王も、勝利の美酒に毒されてしまった。
そして、勝利の立役者、勝利への確約とも呼ばれるメリウスは、そんな欲望の渦に巻き込まれ、彼自身の全てを他者にコントロールされるようになってしまっていた。
「……くそっ!」
「おいおい、それはまだ完成してないんじゃ! あちこち弄るな!
お前は馬鹿力なんだからな」
「ああ、悪いゴーヴァン」
「荒れとるな、まためんどくさいことでも起きたのか?」
「……救えなかった。村を一つ……」
「ふーん。さすがは英雄メリウス様じゃな!
なんでも自分の思い通りになるとでも信じておる!
あー立派立派!」
メリウスを罵ってくれるのは、自分自身と、この稀代の天才鍛冶師ゴーヴァンぐらいだった。
彼は、ここに罵られに来ているのだ。
「ゴーヴァンの武器は、魔物を殺してくれる。
ありとあらゆる方法で、魔物を、多くの魔物を、強大な魔物を殺してくれる」
「なーに当たり前の事言っとるんじゃ?
頭でも打ったか?」
メリウスはパーティを組まない。
組めないといったほうが正しいのかもしれない。
彼にとって魔物は殺すだけの存在で、どんな方法でもいいから殺せればいい、いかに早く、効率よく、大量に殺すかが大事だった。
ゴーヴァンの作る数々の武器、魔道具はメリウスの考えを実現するのにとても役に立った。
しかし、戦いに誇りを持つ人間は、英雄メリウスの戦い方であっても、その戦い方を認められなかった。
いや、英雄だからこそ、戦い方を認められなかったのかもしれない。
戦いには美学が必要で、魔物との戦いであっても最低限の戦い方があるそうだ。
メリウスはそんな夢見事を鼻で笑った。
美学で人は救えない。
魔物を殺せば人は救える。
自分は何一つ間違っていない。
事実彼は、この世界で最も多くの魔物を倒し、最も多く人々を救い、守っている。
そんなわけで、彼は基本的には一人。
ついてくるのは王の軍隊だった。
単身で敵軍に突入して、将首を獲って帰ってくる。
その結果に、人々は英雄と賞賛を送った。
人民に過程なんて見えない。
敵に爆発物を巻きつけて帰らせ爆破したり、一騎打ちを申し込んで落とし穴と落石で将を殺したり、身動きも取れない網で敵を捉えて、網の上からすりつぶす。
そんな戦いの姿は人民には映らない。
そういう戦い方の結果は、被害を最低限に抑えて莫大な戦果をあげている。
ぼろぼろになるのはメリウスだけで済むのだった。
彼自身がそれを望んでいた。
滅びた村の小さな建物の中の、小さな椅子と人形が燃え尽きるのを見て、彼は王の元を去る決心をした。
「英雄殿は、何か良からぬことを考えておるな」
気がつけばゴーヴァンがうつむいたメリウスの顔を覗き込んでいた。
「次の街、メルテパを取り戻せば残すは魔物の本拠地デスヴァリィだけだ。
俺は、帰らない。この戦いを終わらせる。
街を解放したら、そのまま本拠地を叩く、この手で一刻も早く戦いを終わらせる」
「王が許すかな? お主が街を取り戻したら、また大層大騒ぎしてお主を担ぎ上げるじゃろ。
英雄を動かしているのは自分だとアピールするために、な」
「わかっている」
「……死ぬ気か?」
「いや、全ての魔物を殺すまでは死なん」
「……いつだ」
「一週間後だ」
ゴーヴァンはそのまま炉に向き直り、炉の火を調整し始める。
こうなったらゴーヴァンは殺戮兵器が完成するまでは外の話は聞こえない。
メリウスは立ち上がり、自分の寝床へと帰る。
戦友への別れの挨拶は、済んだ。
一週間後、彼は始まりの悲劇、メルテパ奪還作戦へと出立する。




