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第十話 カインとプリテ

10月25日20時21時22時23時24時に一話づつ投稿します。

これが第五弾です。

 熱い……顔が……熱い……


 メリウスはうなされていた。

 顔にくっついた仮面が熱を発している。そんな夢を見ていた。

 それが夢なのか現実なのかは分からないが、寝ぼけながら思わず仮面を引き剥がそうとしてしまう。


「痛って!」


 ガバッと身体を起こす。

 無理やり仮面を引き剥がそうとして、その痛みで跳ね起きてしまった。

 まだ周囲は暗い。

 地平線がほんの微かに明るくなりかけている。

 かなり早い時間に目を覚ましてしまった。

 周囲の篝火は未だにきちんと焚かれている。

 石窯の火も残っている。


 向かいの蓙には青年が寝息を立てている。

 寝床を見れば少女がすやすやと眠っている。


「ああ、カインとプリテ、俺が名をつけたんだったな」


 メリウスは蓙に横たわり、再び睡眠に落ちようとする。


「……!? 少年と少女じゃないだろ!」


 昨日眠りについた時は、たしかにネズミだった。

 しかし、今メリウスの目の前で眠る姿は、毛皮を着た少年と、少女、人の姿になっている。


 カインの寝姿を詳しく見ると、微妙に人間ではない。

 年の頃は15・6くらいの幼い顔、顔立ちは人に近いが、耳の先には毛が残っていたり、灰色の美しい髪はうなじを超えて背に繋がり、まるで服のように身体を包んでいる。

 腕や手先は人間のそれに近い、明らかに変化している。

 足の裏はネズミっぽい肉球と毛に覆われている。

 プリテはカインとほとんど変わらない14・5なのだろうか、寝顔も可愛らしい。

 女であることは間違いないのであまりマジマジと見るのは悪い気がして、布団をかけなおして椅子に腰掛ける。


「……なにが起きた……」


 メリウスの頭の中は?(クエスチョンマーク)で満たされていた。


「昨日は、ネズミ人間が、一晩で人間、いや、かなり人間っぽくなったネズミ人間?

 仮面が熱かったのと関係あるのか?

 名前つけたのが不味かったのか?

 どんな世界なんだここは?」


 この世界に来て、こんなに小さくなっているメリウスは初めてかもしれないぐらいに混乱していた。

 取り敢えず落ち着くためにメリウスは朝食作る。

 キノコと燻製肉の炒め物、芋を蒸して潰して野草と塩豚を練ったものを包み込んで竈で焼いたもの、野草と塩漬け鶏肉のスープ。

 じっくりと時間をかけて調理することで心が平穏を取り戻していった。


「メリウスの旦那! すげーいい匂いしますね!」


 目を覚ましたカイン。

 同時に突きつけられる見間違いとか夢のたぐいではないという現実。

 それでも先程のようにうろたえたりはしない。

 立つと身長は170cmは超えている、顔つきからすれば長身と言っていい。

 メリウスが2mくらいの恵体なので目立ちにくいが。

 

「おにーちゃん、いいにおいするー」


 さすがにこっちはうろたえてしまう。

 年場もいかぬ女の子が自前の毛で隠されているがまるで下着のような姿で歩いてくる。

 背の丈は150と少し。わかりにくいが女性のそれとわかるボディラインに可愛らしい顔をしている。


「おお、妹よ、なんだか大きくなったな。

 喜べ、昨夜お前のの名前はプリテになったぞ!

 メリウスの旦那がつけてくれたんだ!」


「プリテ……私はプリテ。わかったー。

 おにーちゃんも少し大きくなったねー」


「ん? ああ、ホントだ。

 昨日美味いもの食べたからな!」


「そうだねー。ぐっすり眠れたし、メリウスのだんなーありがとー」


「待て待て待て! なんで二人はそんなに冷静なんだ!?

 昨日までとまるで姿が変わっているだろ、あと、プ、プリテ……

 えーっと、あった! これを着なさい!」


 以前の鹿の革で作ったシャツを渡す。

 メリウスが羽織れる大きさなので、プリテが着るとワンピースのようになる。


「あったかーい」


 ワンピースをたくし上げて頬ずりをするプリテは、メリウスの女性を見慣れていない目で見ても可愛らしい姿だった。


「おお、良かったなプリテ。しかし旦那、これは旦那のお力じゃないんですか?」


「いや、俺は知らん。

 目を覚ましたら二人が人間っぽくなっていて、驚いた」


「うーん。俺らは思い当たりませんね……プリテは何かわかるか?」


「いただきまーす。わー、おいしー!」


 食卓の料理を美味しそうに食べるプリテ、なんというマイペース。


「確かにうまそうだ! 旦那! いただきます!

 ああ、ウメェ!!! 最高です!」


「あ、ああ。まずは、飯を食うか……頂きます」


 手をかけただけあって最高の朝食だった。

 三人で貪るように平らげてしまう。


「そーいえばプリテ夢を見たの。

 真っ白い人が、名を与えられしものより高きそざいになれ? とかなんとか?」


「素材? ……何かの素材になるのか?

 名前は、何かそういう力があるのか……今後は気をつけよう……」


「俺は覚えてないっす旦那!」


「そうか、しかしカインも服を作らんとな……」


「俺はこれでも平気っすよ!」


「いや、その毛皮どんどん抜けてるぞ」


 気がつくと体の部分の毛がボソボソと抜けている。

 このまま行けばすっぽんぽんになってしまう。


「昨日のハイエナの革をなめすか……しかし、これからは3人分の水と食料か……」


 これも、何かの運命だろう。

 メリウスはこの二人と今後の旅をすることを覚悟する。


「いいかカイン、プリテ。

 これから二人は俺と旅をする。

 基本的には自給自足、自分のことは自分でなんとかしろ。

 物を作ったりとかは協力するが、食事を探したりするのは全員で協力するぞ」


「わかりました旦那!」


「わかりましただんなー」


「あと、その旦那はよせ。メリウスでいい」


「分かりましたメリウス様!」


「わかったメリウスー」


「……はぁ……」


 すっかり騒がしくなった所帯。

 不思議と悪い気はしなかった。


 二人の非凡な才能が明らかになるのに時間はかからなかった。


「メリウス様! アッチに何かいます!」


 メリウスでも感じられないほどの距離で生物の気配を察知するカイン。


「えーっと、あーいたー。えーい!」


 荷車の上にヒョイッと上がって周囲を見渡し、その動物を発見すると弓でいとも簡単に射ってみせる。

 メリウス用に作られた弓矢は、かなりの力を必要とするが、筋肉をバネのように使って弓矢を手足のように使用するプリテ。

 カインも与えた剣をあっという間に使えるようになる。

 少しメリウスが稽古をつけてやれば、それなりに打ち合えるほどの使い手になる。


「いやー、メリウス様は強い!」


 正直メリウスは驚いていた。

 記憶の中でも自分は強い方だと考えていた。

 その認識を直した方がいいのかもしれない。

 この世界は、自分などちっぽけな存在かもしれない。

 二人を見ているとそう考えてしまっても仕方ないほど、才能に満ち溢れたケインとプリテ。

 森を見つけて知識を与えれば、スポンジが水を吸うように生活の知恵を吸収していく。

 人間としての所作振る舞い、言葉遣い、知性、みるみると成長していく。

 プリテの話し方は成長しなかったが……


 一週間もすれば、カインとプリテはメリウスの生活に欠かせない存在になっていた。


次は夜のいつもの20時に投稿します。

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