男の娘と誕生日
…………。
「……えー……」
『やだっ、なにするの!』
『抵抗するマスミを組み倒し、俺はマスミの上に跨った』
「……うおっ……こんな事もすんのか……」
…………。
「ええ? えーっ……うわわわっ。こいつら男だろ。この先もすんのかな?」
そうね。たぶんするね。そういうゲームだからね。
「げえ、マジかよまさやん先輩。やっぱオタクは詳しいなぁ」
…………、あのな、誤解を招く言い方は止めたまえ!
俺にこの趣味はねえよ! このソフト買ったのお前だろうが~!
唐突だが、今日は俺こと柾谷博一の誕生日だ。
クラスでも前の席の奴ぐらいしか知らないが、まあそんなもんだろう。ひとつのクラスで何人いるか考えればわかると思うが、そんなことやってたら財布ももたんし身ももたん。
友達同士、クラス総出の誕生日なんて都市伝説だ。
「今週はトコやんとマー坊が誕生日みたいだぜ」
「マジかよー。まあ一年に一回だし、ちっとぐらいはお祝いしねーとな」
………。
友達同士の誕生日会はあるかもしれんが、クラス総出の誕生日会は都市伝説である。
伝説ったら伝説なの!
とはいえしょせんは独り身野郎の誕生日。祝うのなんて母ちゃん父ちゃんぐらいのもんなんだよね。
その父ちゃんもメールぐらいだし、母ちゃんなんぞは朝の挨拶ですませてる。夕飯が少し豪華になるぐらいでケーキが出るわけでもない。
今時の高校生のバースデーとはこうなのだ。別に俺が寂しい奴だからって話じゃない。ないったらない。
そういうわけで、俺は一人寂しく帰り道を歩いている。寂しい奴ではないが寂しいのだ。
「あ、まさやん先輩めーっけ!」
あひゃあん!
背後から男のデリケートゾーンを揉みほぐされて情けない声が思わず漏れる。
声を聞かなかろうが誰だかわかる、我ら男子校のアイドル気取り、安藤昌也その人だ。校外でまでこのノリ止めろ!
ツインテールのカツラにセーラー服と、男が着ようもんなら正気を疑う格好なのに、それが似合うところがイヤらしい。中学生のようなスキンシップを嗜むこの男、歳もひとつ下だが礼儀の欠片もない。
背で言えば一般高校生平均ラインの俺より低いにも関わらず、やたらとケンカにも強い元不良っ子だ。本当になんでこいつ女装してんの?
そんな安藤、ニマニマした顔で俺に封筒を寄越した。なにこれ?
「誕生日プレゼントだよ、まさやん先輩!」
お、おう?
まさかの祝福である。拍手する安藤に思わず照れながらお礼を言う俺。いや、やっぱ嬉しいもんだね、祝ってもらうのは!
…………いや待て、なんでお前が俺の誕生日を知ってんの?
「は? 職員室にあんじゃん、イロイロさ」
ちょっと教師ィー! 個人情報ざる管理もえー加減にせいよこらー!
お前もお前で当たり前のように漁るんじゃねえ!
……やべえ、不安になってきた……。わざわざそんなことしてまでのプレゼント。これ、封筒の中にトラップがあるんだろ!
せいや! とばかりに封筒を左右に引っ張るとビリビリと破れ、中身が落下する。
ふむ、特に開封時点では罠はなかったようだな。……あ、すみません、すぐに拾いますんで睨むの止めてください。
安藤の鬼をも殺すメンチ切りに萎縮しながらもそれを拾い上げる。
なになに……〝どっきゅん☆萌え萌え! 男の娘大戦争! 春の嵐編〟……。
……おま、これ……、え? お前これ何のつもり?
「いやあ、先輩はオタクってよく聞くからさ。そういうの好きなんだろ? さっきー先輩ともモエがどうの話してたしさ」
あー、燃えね。さっきー先輩こと先野輩先輩とは同じゲーム趣味だからね、こういうシチュエーションがいいよな、熱いよな、燃えるよなって話はしてたよ、うん。
ジャンルがちげーよボケ! なにが萌え萌えだ! 要らんわ! やっぱトラップだよ、おい! 今度は俺がこれ持ってる写真撮って何をほざきながら学校にバラまくつもりだてめえええっ!
危うくひっかかる所だったが、安藤はこういう奴だ。こいつのせいでクラスの奴らに吊し上げられたこともあるんだからな!
思わず怒鳴り付けると、安藤の表情が固まる。次第に赤くなると、怒りとも悲しみともつかない表情になった。
あ、あんれー? なんか予想外な反応。
「……なんだよっ……! わざわざ恥ずかしい思いまでして買ってやったのに、そんな言い種ねーだろ!」
えっ。
も、もしかしてこれ、裏表なしのお祝いのつもりだったのか!?
「要らねーなら返せよ! 胸糞わりぃの!」
あああああ。
す、すまん安藤! てっきりお前のイタズラだと……いやお前って普段ゲームとかやらないの? 男の娘とか意味知ってる?
「イタズラじゃねえよ! 今回は、その……きちんと、お祝いしてやろうと思ってさ。まさやん先輩を」
そ、そうか。
顔を赤らめたままでそっぽを向く。恥ずかしそうにカツラをいじる姿が思いの外、可愛らしくてこちらも戸惑ってしまった。
ちなみに安藤、ゲームはチンコロを嗜み、ボーイッシュな格好の女子を男の娘と呼ぶのだと思っているそうだ。
男の娘の勘違いはいいんだけどさ、所々で出てくる元ヤン臭が半端ないよね君?
ま、まあ、誠意を踏みにじってしまったのは悪いことだ。安藤にびびったわけじゃないと断言できるわけがないけど、再び謝罪して許しを請う。
「…………。やだ。許さねえ」
いや本当に俺が悪うござんしたどーにかこーにか許してちょんまげ! あ、ごめんホントに許して!
「許してやってもいいけど……家に連れてってよ」
…………はい?
「まさやん先輩の家だよ。そのゲーム、一緒にやろうぜ」
……おまっ……、はあぁああ!?
そっぽを向いたままの安藤。いやいやいや、お前に家の場所知られたくないんだけど! 放課後休日朝昼晩こいつの悪戯に怯えなきゃならんのじゃないかそれ!
つーかこれ絶体恋愛シミュレーション系の奴だろ! なんで男と二人でやらにゃならんのよ、しかもこれ攻略対象が十中八九、男の娘だぞ!
女装野郎とプレイするとか気まずいってレベルじゃねえ!
何とか断らねば、と気合いを入れ直す俺だが、そこで安藤は俺の考えに気づいたのか先制のメンチ切りをかましてきた。コワイ。
あ。うん、いいよ。行こうか?
気づくと俺の口からそんな言葉が出ていたのだった。
やたらとウキウキしている安藤を家にあげ、掃除する前に部屋に突撃され、ポスターをいじられたり、お決まりのエロ本探しやアルバム探しなどされながらもゲームプレイに漕ぎ着くことに成功した。
……めっちゃ疲れる……。
しかしこのソフト、パソコン用のゲームソフトだったのね。エロ系はパソコンで観る派の俺にとってパソコンは見せたくない分野第一位だが、平成っ子のくせに携帯電話ぐらいしか触ったことのない安藤なら大丈夫だろう。
ディスクを入れてプログラムをインストール。パソコン机のすぐ後ろのベッドにあぐらをかく安藤も固唾を飲んで見守っている。
そういうゲームじゃねえよこれ。
インストールも終わり、ゲームを始める俺。やる気はないと言ってもやはりオープニングは気になるもの。
予想通りの女にしか見えない登場人物のキャラクター絵が並び……て……ちょっ……。
ままままま待て待て待てー! なんかとんでもないのが見えてんですけど!
慌ててパッケージを確認する。これアダルトゲームじゃねえかふざけんな!
オープニングを飛ばして安藤を見ると、衝撃的な構図に驚いたのか口が半開きで固まっている。
あー、安藤?
「ま、まさやん先輩。あれって男同士だったよな? 男同士であんなことすんのか!?」
お前ホモとか知らねーの? めっちゃ目をつけられそうな見た目してんのに。いや、いわゆる〝その先〟を知らなかったのか。
激しくカルチャーショックを受けているご様子。よし俺らまだ十八じゃねえし、もっと健全なゲームやろうぜ!
「……そっか、そうだな……そんな事もあるんだよな……続きやろうぜ、先輩」
なにやら一人ぶつぶつ言うと続行宣言発動である。
なに考えたら続行になるんだよ。お前やっぱりこれ狙ってるだろ。とりあえず写真撮らないようにケータイは捨てろ。
しかし、ううむ。腐っても恋愛シミュレーションゲーム、つまり選択制のシナリオプレイ。ならば出てくるキャラに反感を与える選択を続ければ問題なくエロ展開を逃げられるはず!
まさやん先輩ってホントに鈍感だなー。
幼馴染みと一緒に帰る約束してたのにすっぽかしたり、一緒に遊びたがってるクラスメイトを追い払ったり。こういうところあるよな、ホント。
見てられねーや。先輩の選ぶものに口出しすると、スゲー嫌そうな顔しやがるし。でもきちんと選んでくれるあたりヘタレだな。
そんなこんなでクラスの一人といい感じになった主人公。
……うわあ……これ完全に男を女扱いしてんじゃん。こんなメスくせえ男とかいんのかな?
「いや、カラオケの時のお前もこんな感じだったろ」
……は? はぁ!?
あれはまさやん先輩をからかってただけだっつーの! ボクとか言ってナヨってんのと一緒にすんなよ!
「お前はまず自分の格好に疑問を……」
言いながら振り返った先輩が固まる。なんだよ。
「おま、え……枕と膝かかえてるお前の方がメスくせえわっ!」
なんだとーっ!
恥ずかしいんだからしょーがねえじゃん! なんかいつもより足元もスースーしてて、こっちのが落ち着くんだよ!
つかなんでまさやん先輩は落ち着いてんだ! 恥ずかしくねえの?
「恥ずかしいに決まってんだろボケ!」
じゃ隣に来いよ! 俺だけこの格好だとヨケーに恥ずかしいだろ!
「わーかったよ、うるせえな。……いやどんな理屈だそれ。別にいいけどさぁ……」
めんどくせー、て顔して隣に座る先輩。ベッドがぎっしり音をたてて歪む。まさやん先輩のところに転がりそうになったので踏ん張った。
ほら、タオルケット。おんなじ座り方しろよ。
「タオルにくるまんのかよ……いやクッション代わりか?
…………、つーか、その、臭くないか、それ」
それ? 枕のこと?
恥ずかしそうに頭をかく先輩。別に臭かないけど……。それならいっかとパソコンに目を向けた先輩の横で、思わず臭いを確認してしまう。
洗剤の良い匂いがして、洗い立てなんだと今さら気づいた。なんだろう、なんか、残念な気分。なんでだ?
あ、主人公が男を押し倒しやがった。
安藤のナビゲートにより、ついにクラスメイトとのエロイベントに突入した主人公。こいつ俺の母ちゃんと名前同じだからなんかもうすっごい嫌なんだけど。
安藤と言えば続く展開に「うわー、うわー」とか言いながらも赤い顔で釘付けだ。
改めて状況を整理してみよう。ひとつ下の女装癖のある後輩野郎から受け取った男同士の恋愛シミュレーションゲーム、それを後輩と一緒にベッドに座って膝抱えながらプレイ中。エロイベントに突入したよ!
…………。なんかもう、ただのプレイの一環にしか見えねーわ。
よし! 終了だ終了!
「ええっ。なんでだよ、まさやん先輩!」
うるへー。俺の家で俺の部屋なんだから俺・ルール・ザ・ルーム! 服の脱げかけた野郎の一枚絵をそのままに、ゲームを終了する。
納得のいかない顔をしている安藤だが、きちんとゲームしてやったんだから文句あるめえ!
パソコンの電源も落としてとっとと帰れと安藤を見やると、相変わらず赤い顔のまま縮こまっている。不機嫌そうだなぁ。
「な、なあ、まさやん先輩」
なんだよ。
「……まさやん先輩はさ……こういう女っぽい男がいたら、タつもんなの?」
!?
…………。いやあの、あのあの、どういう主旨の質問?
これタつっつったらマジキモ~イ! とか言われて学校中に言いふらされる感じ?
タたないっつっても、こいつ見た目に自信ありそうだし、殴られそうだわ。
それとも、まさか、他に……他の……意味が、あるのか?
「……なんだよ……?」
枕に埋もれた顔に、上目遣いの目が覗いてる。思わずドキッとしてしまうのはしょうがない、だってこいつ見た目だけは可愛いからな。
タつとかそういうのは一切関係がねえ。なので俺は逃げを選ぶ。
おめー、人の気にするってことは自分がタったんじゃねえのーっ!?
「なっ、なん、そんなわけねえだろ! なんで男の裸でタつんだよ!」
ホントかなー? 信じられないなー。
「…………っ!
わかった。じゃあ、脱げよ」
えっ。なにゆってんのこの子?
「まさやん先輩の裸見たところでなんとも思わねーよ! 脱げおら!」
待て待て、違うだろう! なんで俺になるんだよ、女っぽい男の話してたんだろうがー!
だ、駄目だこいつ、頭のお味噌が恥ずかしスパークでショートしてやがる!
ベッドに引きずり込まれて馬乗りという構図はさっきのゲームを彷彿とさせた。だが配役は逆だ。
止めてくれよう、止めておくれよう。おい止めろってば、服破れる!
力ずくの安藤に制服のボタンが弾け飛んだ。だから言ったろーっ。
「!?」
制服が開かれて素肌が晒される。なにじっくり見てんだてめえ。
安藤はしばらく俺の立派でもない体を見ていたが、さすがの俺も心配するほど顔を真っ赤にした口をぱくぱくさせている。
おい、マジでどうした。
「な、な、な、なんで肌着も着てないんだよーっ!」
がばっ、と服を直そうとする安藤だが悲しいかな、お前がボタン飛ばしたせいでとまらないんだよね。お前本当に直せよコレ。俺が母ちゃんに叱られるんだぞ。
肌着は元から着てないわけじゃないんだけど、掃除時間に暇を持て余した前の席の奴が鬼ごっこに誘うもんだから、汗臭くなっちゃって鞄に突っ込んでんだよな。
「またあの野郎か!」
どの野郎だこの野郎。いやあいつしかいねえけど、お前あいつ相当嫌いだよね。
しっかし結局、赤くなってるし。うぷぷっ。
…………あ。
思わず笑ってしまった俺を鬼のような形相で見下ろす。こ、こりゃー赤鬼だー。
「おう、先輩。脱げよ」
え? い、今、脱がされたざんしょ?
「下も全部脱げやこらあ! タたねえって事をとことん証明してやるよ!」
うわああああっ。止めろ馬鹿野郎ううううう!
やっべえ、こいつ力ちょーつえええ! こうなったらくすぐりだ!
窮地に立たされた俺は安藤の脇腹をくすぐると、動きが止まる。こ、こいつ、くすぐりに弱いのか。
「ま、待て、まっ……て……! ぶっ、ははははっ! ――待てって言ってんだろ!」
おげええ。
執拗にくすぐる俺に対し、安藤は下段直突きボディストレートを披露した。危うく吐くぞ。
この理不尽暴力女装野郎め。
馬乗りになっている安藤がくすぐり攻撃で息を切らしている間に抱え込む。
「うわ、なんだこの! 離せよ!」
離したら殴るじゃねえかこの野郎! 思いっきり力を込めると、やたらと熱い男の体温に思わず緊張する。こいつどんだけ怒ってるんだ!?
とりあえず暴れないって約束したら離してや――いいってええっ。
脇腹に突き刺さる左の拳に悲鳴を上げる。距離関係ないぞこいつ。お、お前えー加減にせいよ!
「もう一発食らいたくなかったら離しやがれ!」
食らいたくないから離しますけど離した後も殴ったりしないで下さいまし!
安藤を解放すると、息も荒く、安物のツインテールも乱れた姿が俺の上にある。セーラー服も胸元がはだけてたりして、これが男でなければ素晴らしいアングルだったと思う。
あと、その、真っ赤な顔に表情が怖いんですけど。
「……覚悟は出来てんだろうなぁ……」
嘘でしょーっ!
拳を作る安藤に再びくすぐり攻撃で難を逃れようとした俺。すると突然、部屋のドアが開いた。
救世主! パート終わりの母ちゃんだ!
「た、大変、ひろ君! 女の子の……女の子の……靴……が……?」
目がまん丸な母ちゃん。あ、これ救世主の雰囲気じゃないわ。
あらやだ、ごめんなさいとばかりに口元を押さえて部屋を出て行く母ちゃんを呼び止める。そういうアレじゃねえからこれ、こいつ男だからぁー!
なんつーベタな展開を……、こら安藤、ひろ君呼びを笑ってんじゃねえ、とっとと降りろー!
散々な形で終えた俺の誕生日だったが、久々の来客に我が家の母ちゃんは楽しそうで、晩飯をやったりと安藤を暖かく迎え入れてくれた。餌付けすんなよ母ちゃん。
そこで俺は安藤の家庭事情とやらを不本意ながら聞く形になり、安藤と母ちゃんがやたら親しくなったりするのに危機感を覚える。
こ、こいつ……我が家のフリーパス権を手に入れやがった……。
「はー。食った食った」
言うほど食ってねえぞ。少食だからこその背の低さか、玄関先で腹を叩く安藤に思わず笑ってしまう。
まあ、なんだかんだ言っても根っからの悪人ってわけじゃないんだよな。ただその悪戯が鬱陶しかったり、クラスの連中からイジメかと思われるぐらいしこたまやられたり、たまにやるパンチや金的が凄い辛かったり。
てめえ無邪気ならなにやっても許されると思ってんじゃねーぞ、今度は泣くまでくすぐり続けてやる。
「あ、と、さ……その、なんか言い忘れてたんだけど。おめでとうな、まさやん先輩。誕生日」
…………お、おう。
お祝いの言葉。プレゼントだけでなく、そういえばこれを言われたのって、ここ数年で母ちゃんと父ちゃんしかなかった気がする。父ちゃんに至ってはメールだし。
なんだかぽかぽか暖かいものを感じつつ、俺も安藤にお礼を言った。祝ってくれてありがとう、と。すると安藤ははにかんだ笑顔で、また明日なと手を振って小走りに去って行った。
なんだか犬みたいな愛着の沸く奴である。
「――で、ひろ君はまさ君と付き合うの?」
わーおびっくりしこたまげ~。
なに急に出てきて変なこと言ってんだよ母ちゃん! もう見送りはすんだんだから中に入れ!
くすくす笑う母ちゃんを家に押し込んで溜息を吐く。まあ、今回ばかりは寂しくない誕生日だったよ。
翌日、部屋に飾ってあったポスターの事を学校中にチクられてしまった俺。
いいじゃねえかよ別に。ただのゲームキャラだぜ? フィギュアとかじゃねえしポスターも一枚だけじゃんよ! なんの問題がある!
「おいおい柾谷ー、お前熟女趣味のマザコンってホントか~?」
前の席の奴がニヤニヤしている。死ねよお前。なんかスンゲー尾ひれがついてんですけど!
ポスターにのっているのは俺が虜となった格闘ゲーム、〝がんばれファイティング・バトル〟シリーズのキャラクターだ。引き出しは少ないものの直感的な操作が出来るため、初心者か熟練者しか使用しないというキャラクター性であり、俺が最も使用するキャラクターなのだ。
確かに熟女だけど……熟女なんだけど……!
ひろ君呼びされていなかったから母ちゃん関連はバレてないだろう。安藤の奴がポスターの話をして、そっから尾ひれがついたんだな~!
「なに怒ってんの、まさやん先輩」
噂をすれば女装っ子! てめこら安藤! ポスターのこと変な言いふらし方しやがって……!
「ポスター? なんの話?」
俺の部屋の話だよ、トボけんな。お前のせいで熟女趣味のマザコン呼ばわりされてるじゃねえか。
しかし安藤、ここでニンマリ笑ってそんなことは言っていないと。え? どゆこと?
「俺はマスミちゃんから『うちのひろ君はよく熟女もののエロ動画観てるみたいなの!』って聞いたのをみんなに言っただけだよ」
…………。
それ言っちゃダメなやつうううううう! なんで言ったんだ母ちゃん! なんで知ってんだ母ちゃん! そしてお前もそれをなぜ広めたんだ安藤この野郎ううううっ!
あと学校でまで人の母ちゃんを下の名前で呼ぶな!
「おい、ちょっと待てよ。今の話を総括すると……」
「マァサちゃんは柾谷のおうちでラブラブしたって事か?」
「……母親公認だと……」
クラスの奴らから不穏な空気を感じ取る。お前らどこをどう総括したらそーなるんだよ。ランドセル背負って小学校からやり直して来い。
って、ちょっとちょっと! なんで君たち詰めよってくんの? 怖い、怖いよ! おい馬鹿胸元掴むんじゃねえ、昨日の今日で服破れたら母ちゃんに殺されるわ!
おい、ちょっと、……止めてーっ!
ただ一番の友達になりたかった安藤が、〝その先〟を意識するきっかけとなった日です。