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男の娘と  作者: 梢田 了
3/9

男の娘と水鉄砲

「俺たちの状況、分かるか?」

 あたぼーよ。相棒の言葉に力強く頷く。

 残る戦力は俺と相棒の二人、しかし敵チームも残り二人だ。

 数で言えば互角、しかしこの場合に置ける問題点。……そうだな。

「なあ、勝てるかな、俺たち、勝てるかな!?」

 何をきらきら希望に満ちた目でこっちを見てやがんだこの野郎。

 あの二人に俺らのチームが討ち取られたのに勝てるわけねーだろボケ。お前のその観察眼の無さが今一番の問題点だ!

「まさやん先輩みーつっけた!」

「……後は……誰だ? 柾谷(まさや)の前の席の人か」

 バ、バレたっ! こうなりゃやぶれかぶれだーっ!

 俺は両手に持った水色と黄色の銃口を敵に向けた。相変わらずの真面目な面でこちらに銃口を向ける先野(さきの)先輩と、そして、不適な笑みで銃を構えることなく前進するツインテール。

 両手に抱える巨大なタンクつきの銃を持つ相棒が雄叫びを上げ、俺たちの最後の戦いが始まったのだ――!



「なんでだよー! 料理教えてくれるって約束だったじゃんかよ!」

 うーるせー。知りもせん約束を律儀に守ってられますかってんだ。

 荒い口調のセーラー服に舌を出すと、そいつは物凄い顔で睨んできた。ごめんなさい。

 そんなメンチ切り野郎の名前は安藤(あんどう)昌也(まさや)。そう、名前の通りこいつは男だ。男子校にも関わらず、入学式の時からセーラー服でツインテールのカツラ被った変な奴。

 だというのに女っぽい性格は一切ない。下ネタセクハラなんでもござれの安藤はその性格から男子学生にもウケが良く、マァサなんて周りに呼ばせている。

「部活もやってなけりゃ友達も少ない、ネクラなゲームオタクのまさやん先輩に女がいるわけでもないのに、なんで俺を邪険にするのさ」

 いやお前、そういうトコだろ後輩この野郎。

 安藤はまさやん先輩ことこの俺、柾谷(まさや)博一(ひろかず)のひとつ下、後輩だ。にも関わらずこの態度!

 俺だけに礼儀がないわけじゃないが、こいつの悪戯の餌食になっているせいか扱いが色々と酷いのだ。

 そんな俺が日曜の真っ昼間、こいつと一緒にいるのは他でもない、補習だったからだ。そ、それさえなければ……。

「お、柾谷。よく来てくれたな! あれ、マァサちゃんも!?」

「……うーわー……」

 俺の到着に目を輝かせるのは、何度席替えしても俺の前の席にいる野郎だ。安藤よりも鬱陶しい絡み方をしてくるが、代わりとばかりにゲームを布教している。

 あと、何故か安藤にはやたら嫌われている。まあウザいもんな、仕方ない。

「まさやん先輩、これ、何の集まりなわけ?」

 だぼだぼの白ティーシャツを着る男連中のむさ苦しい絵面に、見た目だけは美少女な安藤が眉間に皺を寄せる。

 ……さっきのメンチ切りと違って可愛く見えたのがムカボディ。

 安藤の登場にヒートアップを始めた彼らはさておき、簡単に説明すればバスケット部の三年対二年の対戦ゲームだ。

 ルールは単純明快。絵具入りの水鉄砲で戦いシャツに色をつけられた奴はアウト、二年チームが全滅したら三年チームの宿題一週間肩代わり、三年チームが全滅すれば二年チームは一週間の部活休みを得られるというわけだ。

 もちろん、負けたチームはプラス後片付けだ。

 俺は部外者だが、前の席の奴からゲームオタクだからという理由で誘われた。射的は畑違いだし最初は断ったが〝がんばれファイティング・バトル4〟という格闘ゲームを家族親戚、部活仲間にも布教するという奴の言葉に負け、参戦を決定したのだ。

 ぶっちゃけ料理とかそれほど上手くないし、家の中を安藤に荒らされることを考えればこっちを選ぶのは当然だ!

「…………、これ、俺も参加していいのかなー?」

「! も、勿論だぜマァサちゃん!」

 えっ。

 ニマニマ面の安藤におぞけが走る。こいつ、何やらかす気だ!

 などと考えていたが、安藤は後輩チームに加わるようだ。協力か。いや待て、背後には気を付けんと……!

「なにをしているんだ、君ら」

「おー、先野(さきの)! さっき話した勝負だよ。後輩チーム多くなったからこっちに入ってくれよー」

 マジかよ。

 先輩チームの勧誘に渋っているのは先野(さきの)(やから)さん。同じ格闘ゲーム趣味の仲間であるが、こっちは俺と違って文武両道、成績優秀、実家もデカけりゃ顔も良いという完璧超人だ。たったひとつの欠点を除けば。

 シューティングゲームで正確無比な射撃で初プレイノーミスクリアなんぞしてたもんなー。

 あの人があっちのチームについたら勝ち目が薄れるぞ!

「ま、柾谷! お前あの先輩と仲良かったろ。なんとかなんねーか?」

 任せろ相棒。先野先輩も乗り気じゃない様子、特に格闘ゲームの布教を知れば先輩チームに協力などしないはず!

「はーん? そんな理由で俺との約束破ったのかよ?」

 耳打ちする相棒とこそこそしていると、その間に割って入る安藤。あの、睨まないでもらっていっすか?

「せぇ~んぱーい、私ぃ、そっちのチーム行ってもいいですかぁ?」

「お、いいよいいよー!」

「! マァサ君もやるのかい!? し、仕方ない。ならば僕も――」

「いらっしゃいまし、ムッツリ君」

 甘ったるい声に顔を崩す先輩方。俺らが一年の時には見たことねえぞこんな顔。

 そして先野先輩、安藤の参戦によりこちらも参加が決まってしまった……。

 これなのだ、完璧超人の唯一の欠点! 安藤に骨抜きという事実!

「ど、どーすんだ柾谷!」

 ええい落ち着け! 先野先輩は要注意だが、お前らは所詮バスケット! 玉入れ精度と瞬発力だけでは……あれ、これ意外とヤバくね?

 ええい、作戦会議が必要だ!

「ようし、二年チームは体育館から出て校舎最奥の家庭科室に行ってこい。正午から始めるぞ」

 へーい。

 先輩の仕切りに従ってダボTを装備し家庭科室に集合する。先生と用務員は買収済みらしい。

 家庭科室で早速円陣を組む。まずは武器の把握だ。射程距離が二メーターそこらの拳銃形がほとんどを占める中、相棒はタンク付きのデカいのを自慢気に出してきた。

 さすがだ相棒! ウゼエぜ!

「それで、どうするんだ? ゲーオタかつ熟専かつマザコンかつモーホーな柾谷の考えを教えてくれ」

 ゲーオタしか合ってねえよ爽やかニキビ面部活生。女装野郎に鼻の下伸ばしてた癖になんだこの扱いは。

 しかしもカカシ作戦たって、相棒にも言ったが畑違いなのだ。だがそれなりの対策は考えている。こちらのチームは八人に対し、先輩チームも八人。同数ならば、一先ずすべきはツーマンセルの行動だろう。

 二人一組で散らばるように行動しつつ、ケータイアプリケーションのグループ通話で常に現状を把握できるようにしておくのだ。

「おお、いいねいいねー」

「チーム名はどうするんだ?」

 へ? チーム? 二人一組の名前とか別にお前らの名前でいいじゃん。

「いやいや、ここはアルファワンとかオメガクロイツとかアンタレスとか、色々あんだろー?」

「ゲーオタのくせにロマンがねえな」

 じゃかあしいわ、俺はミリオタじゃねーんだよ。

 などとわいのわいのやっていると一本の電話。どうやら先輩チームがさっさと始めろと急かしているらしい。

 ふーむ、もしかして先野先輩便りで来る気かな? 特に作戦たてる気ない相手、それならばチャンス到来だ。

 部活生よりは、絶体に動きの悪い俺が連絡係になるから、余った奴は俺と行動してくれ。動きはさっきの通り、敵の数を把握しつつ、数の少ないメンバーを奇襲する!

「わかった! じゃあ、俺らはチーム・エース!」

「こっちはブラックオメガマーキュリーだな」

「むむっ、じゃあ俺らはチャーミングデストロイヤープレジデントでどうだ!?」

 なに張り合ってんだよお前らこの野郎。そんな覚えにくい名前があるかボケ。

 右からABCで、予想通り余った相棒と俺がDチームだ。先輩に怒られる前に出発しろって。

 俺の言葉に非難ゴーゴーだったが、やはり先輩が怖いか三チームは別れ、相棒が先輩チームに開始を通達する。

 よし、これからだな。

『こちらチーム・エースことA! 通話の状態はどうか? オーバー!』

 こちらD、面倒なこと言わずにとっとと索敵しろ。オーバー・ハン。

『なんだよハンって。こちらB、ウェイ・ポイント到達。CP、指示を願います』

 CPって、なんじゃらほい? Cチームのことか?

『………こちらC、CPとは指令部、つまり熟専マザコンホモ野郎の事だ。オーバー』

 だーからややこしい言い方すんなっての! 人をゲーオタ扱いの割りには詳しすぎだろお前ら。とりあえずウェイ・ポイントがなんか知らんがBは体育館に向かってたからその事か?

 誰とも鉢合わせしないのは意外だな……Bは渡り廊下と体育館の屋上を警戒しつつ、裏に回れ。敵対勢力を発見した場合は即時撤退されたし、オーバー!

『ターリホー! こちらA! 美術室外にてエンジェル確認! エンジェル確認! 敵エースと行動中! 室内に他メンバーもいる模様! オーバー!』

 なぬ、なんで美術室!?

 おそらくエンジェルは安藤でエースは先野先輩か。こちらD、Bは後退、美術室裏へ、Cは何処か? オーバー!

『こちらB、了解! オーバー』

『こちらC、現在校内三階散策中! 美術室へ回るか? オーバー』

 いや待て、二階に移動してCは安藤たちを見張れ。Aのほうは様子どうなんだ?

 動き始めた状況にポンプがしょがしょやる相棒がうるせえ。

『こちらA、残り敵チームが全員出てきた! 向こうもツーマンセルで行動中、敵エースを追う模様。オーバー!』

 ………、あ、これ勝てるかも。

 Dより通達、Bは後方から敵チーム接近、Aは敵チーム前に回り込み囮となって撹乱せよ!

 Cは敵エースが合流しないよう攻撃開始! あの人は足ちょっぱやだから気を付けろよ! オーバー!

『こちらA、了解! 一気に攻めるぜええっ!』

『こちらB、やったぞ、二人倒し――うわあああっ!』

『Bワン・ダウン! 続いてBツーが連絡する、オーバー!』

 そんなの要らんから撃てよ兵共。オーバー。

『くっ、逃げられた! こちらA! 目標一つ逃しだが、ダウンは五つ、ダウンは五つ!』

 犠牲一つに戦績が五なら上々だな。Cはどうなってるんだ?

『こちらC、エンジェルに攻撃が当たらない! どういうことだ、まるでリノリウムを舞う妖精…………ううっ。た、弾が切れた!』

 落ち着けC。よーわからんが室内で戦ってるんだよな。

 DよりBへ、校内にいるCの援護を、Aは無理しない程度で逃亡勢力を追跡! オーバー。

『B、了解!』

『A、了解!』

 よし、相棒、俺らも出るぞ!

 Cを援護して先野先輩と安藤の野郎を物量で押し切る!

「待ってたぜ!」

 部活生の皆様からお借りした水色と黄色の水鉄砲を構える。

 Cとの距離はそこまで離れてない、急げば間に合うか?

『こ、こちらC、トイレに逃げた……! Cツーもやられてっ……あ、あぁっ、わぁーっ!』

 ちょちょちょ、どうしたC!?

 突然の悲鳴に度肝を抜かれる。いやマジでどんな悲鳴だ。

『止めてぇーっ、止めろぉーっ! ソコだけは、ソコだけはぁ……おうっふぅ……』

 …………なんかやたらと艶っぽい声と共に通信が途絶えたんだけど。

 思わず顔を見合わせた俺と相棒。そこへ再び通信が響く。

『こちらA、敵と会うと同時に無力化――なっ、お、お前は! なぜお前がここに――!』

 ちょ、Aー!? 今度は何だ!?

 ヤバいぞこれ、何か変だぞ! 迂闊に動くなB、Cへの援護は中止だオーバー!

『こちらB、エンジェルと遭遇! なんてこった、攻撃が当たらねえ!』

『Bツーより、エンジェルは人形を持っている! あれで先野先輩と行動しているように、みせかけたんだ!』

 マジかよバスケ部員共、先輩と人形の見分けもつかなかったのかよ。

 てことはAは先野先輩に襲われたのか。先輩チームを囮に美術室で隙を伺ってたな!

 行くぜ相棒、先輩が戻る前に安藤を落とす!

「げへへ、マァサちゃんをオとすのは俺だぁーっ!」

 …………。

 ま、まあ、お前がやる気を出してくれればそれでいいよ、うん。

『こちらA、なんとか逃げられた! 美術室だ、オーバー!』

 ……う、うーむ……出直しだ相棒。混乱状態のBじゃたぶんアテにならん。先野先輩からも上手く逃げおおせたAと合流するぞ!

 失敗するかも知れんが一か八か、向こうが合流するようなら三人で囲って一斉射撃だ!

「ラジャー!」



「ダメなのぉ、マァサちゃん、狙うのはおティーシャツじゃなきゃダメなのぉ!」

 うるせえ。とっとと四つん這いになってケツを出せ。

 ぷるぷる震える先輩ズの一人を足でひっくり返す。すると、自分からホントに尻を上げてくるからムカつく。

 とりあえずケツの穴にゼロ距離で決めて、満足そうに死体役になった先輩を転がしておく。これで四人!

 まさやん先輩、もうやられてたりしないよな?

 俺との約束よりもあの前の席の奴との遊びを取りやがって……それも俺を差し置いて相棒だとかなんだとか……ずえったいに恥ずかしい目にあわせてやる!

 …………、走ってる足音が聞こえてたけど、遠ざかったな。逃げたのかな?

 などと考えていると電話が。先野(さっきー)だ。

『や、やあマァサ君。最後の二人組を誘き出すのに成功した。美術室へ来てくれ』

 はーい。ポチっとな。

 チッ。さっきーはまさやん先輩とやたら仲が良いんだよなぁ。まあ今回だけは手を組むにしても、あまり会いたくはない人だ。

 さて、決着をつけますか、美術室!

 美術室でさっきー即作の人形を先輩ズの上に置きつつ、まさやん先輩が残っていることを期待する。

 …………、お?

 まさやん先輩、みーつっけた!



 捨てられたAの電話に罠だったことを悟る俺。そういや先野先輩は後学のために声真似練習してるとか言ってたけど、まさかそれやったのか?

 現れた二人の姿にやはりそうかと俺は武器を握り締めた。先野先輩、変なところで役立つもん練習しやがってー!

 やぶれかぶれだーっ!

「うおおおおっ」

 相棒の先制攻撃! 射程、流速、継戦能力共に抜きん出た巨大砲台だ!

 しかしここで先野先輩、俺と同じく二丁の水鉄砲を連続発射し相棒の水流を散らす。

 う、嘘でしょおおおおっ?

「こちらの水鉄砲の内圧、そこからへ導き出される他水鉄砲の容積や水流、口径、君の持つ水鉄砲のポンプアクションに使われるレールの距離を見れば威力を計算するのは容易い。

 後は風向きさえ把握していればご覧の通り、迎撃することは誰でも出来る」

 な、なるほど、そんなコツが……って、出来るわけねーだろ完璧超人! なにそれらしい事に見せかけた無理難題を平然とおっしゃっいやがってますかこの野郎さん!

 もう一回だ! 撃ちながら屈め相棒!

「こ、こうか? どわっ!」

 適当に撃った水を迎撃する先野先輩、俺は相棒を踏み台に飛び越え、無防備に接近する安藤を狙う。

 死なば諸共ぉお!

 空中での四連射撃。

 しかし安藤、ニンマリ笑うとあっさり避けやがった。マジで当たらないぞこいつ!

「やられたぁー!」

 着地と同時に振り返った先で、相棒が先野先輩に仕留められる。

 ちいっ、構図としては前門の先野先輩に後門の安藤か! にしても役に立たねえ相棒だな、お前とは相棒解消だ!

 まだ水鉄砲を構えていない安藤にはブラフの水鉄砲を見せつつ、やはり驚異の先野先輩へ水撃を――、あれ?

 これ引き金が戻ってねえ、撃てないじゃん! 安物め~!

「貰ったぞ、柾谷!」

 向けられた水鉄砲に思わず戦慄。

 や、やられるーっ。



 放たれた水が白いティーシャツを黄色く染める。

 その一撃を受けた男は、驚いた顔でこちらを見ていた。

「……マ、マァサ、君……? ……な……ぜ……」

 ばたりと倒れたさっきー。予想外の事態に目を見張るまさやん先輩。

 ふっふっふ、よーやく二人っきりになれましたねえ、まさやん先輩?

「こ、こいつ、何をするつもりだ!」

 怯えちまってさあ、可愛げあるじゃん。

 使えなくなったのか知らないけど、水鉄砲を一つ投げ捨てて、両手で一丁を構え直す先輩。

 両手持ちでも当たらんけど、撃たせもしねーもんねー!

 シィッ!

 右のジャブでまさやん先輩の水鉄砲を弾き飛ばす。目が点になってるぞ、先輩。

 さあて、可愛い声で鳴いて貰おうか。固まる先輩を押し倒すと、あっさりと転んでくれた。

「な、なにを……」

 決まってるだろ、まさやん先輩。先輩の恥ずかしい部分をどろぐちょに汚してそのまま帰宅してもらうんだよ!

「てんめーっ、なんつー恐ろしい事をーっ! ティーシャツがルールなんだぞ、ズボンは止めろ! 母ちゃんに叱られちまう!」

 知らねっつーの、お仕置きだ。ほんじゃ早速ー。

「楽しそうじゃあないか、安藤ぅ君」

 後ろから肩に置かれた手、非常に聞き馴染んだ声に、思わず動きを止める。

 ……ア……アネ、キ……。

「校内を汚して何をしているんだぁ、貴様らーっ!」

 教師は買収したって話はどうなったんだよ~!



 結局、今回の水鉄砲戦争は、安藤の補習の為にやってきた女教師によってご破産となった。勝負っつっても残った状況は一対一だったから引き分けということで、皆で仲良く後片付けをするハメになったのだ。

 くっそー、もうお昼もとっくに過ぎて腹が減っちまったよー。家に残りもんのカレーがあったし、あれでも食うかな。

「まさやん先輩ー、間ってくれよ」

 うおっ。

 後ろからどーんと抱きつかれて思わずよろける。加減を知らんのか、女の子らしく可愛く来いよどうせなら!

 あ、ごめん今のナシで。

 よろけた体は安藤が支えてくれたお陰で倒れる事はなかったが、そのまま背にひっつかれた硬直してしまう。ど、どったの安藤?

「まさやん先輩、俺たちに勝つ為に色々と考えて行動してたんですね。まあぶっちゃけ一ミリも負ける気なんざしなかったですけど、凄いです」

 …………。あ、うん。ありがとう。おいそれ褒めてるつもりかこの野郎。

 そんなまさやん先輩にご褒美があります、と肩越しに振り返る俺に弾けんばかりの笑顔の安藤。いつものニマニマ顔じゃなくて、思わずときめく。ええい、狼狽するな! 彼奴は男であるぞ!

「はい、どーん!」

 おぎゃあっ!

 後ろから突き飛ばされて為す術なく転がる俺。なにしてくれてんの?

 倒れたまま振り返ると、ニマニマしている安藤が、俺の左足の膝を踏みつけてきた。ちょっと痛い!

「さっきは邪魔が入ったからな~、十分時間があいたんだ、覚悟は出来てるだろう先輩よー?」

 え、うそー! ティーシャツがルールなんだってティーシャツがぁー! もう終わっただろ、引き分けだったじゃん。ねっ、ねっ!

 俺の訴えにも聞く耳すら持たず、安藤が足に力を込める。反対の足も同じようにされ、エム字開脚の形にさせられてしまった。動けねーんだけどこれ。

 股間を両手で守る俺に安藤。

「踏まれたくなかったら手ぇ退けろ」

 お前、男なのにそれはねえべ?

 あ、ちょっと待って、まだ心の準備が……あああ、止めて、止めてーっ!

 もういいだろ、ちょっ、幾つ用意して……止めろー! 誰か、誰か助けてーっ!

 いやあああああああああっ!

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