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第八話 反撃、そして終息

ロトは、体の奥底から色々な感情が湧き上がってくる。悲しみ、怒り―そして、憎しみ。それらの負の感情が自分を飲み込んでいくように感じた。


『ワレヲウケイレロ。サスレバ、ナンジノノゾミヲカナエテヤロウ』


それと同時に誰かの声が頭の中に響く。


ロトは言われるがままにその誰かを受け入れる。すると、体の中に力があふれてくるが、意識が遠退いていき、最後には全く意識が無くなった。


だが、“ロト”は歩いていく。この村の獣人たちを滅茶苦茶にした元凶に向かって。



「なんで、あの子がここに?あの森へ向かわせたはずなのに。どうして」

イグレアは困惑してそんなことを言う。


自分の変身が見破られた感はなかったし、それよりも自分の変身には自信を持っている。ティグルには疑われていたそうだが、それは、スキルの恩恵が大きい。だが、調べた限りでは、ロトはまだスキルを持っていないはずだった。だから、気づかれるはずはない、と思っていた。


一方、ロトがこちらにやって来るのを見たグレイは叫ぶ。


「ロト!こっちには来るな!全力で逃げろ!今のお前なら逃げ切れるはずだ!ほら、早く!」


だが、ロトの歩みは止まらない。ただ淡々と歩いてくる。剣を持ったまま。


「くそ!」と言いながら、グレイは拘束から脱出しようとするがやはり動けない。だから、ただ、ロトに逃げるように怒鳴るばかりである。


この状態から最初に動いたのはイグレアだった。

グレイに使ったのと同じ魔法でロトを拘束しようとした。


『地よ、我求む。彼の者を拘束せよ。地鎖奪縛≪テーレ・リアン≫』


だが、“ロト”が剣を地面に向かって振ると、魔法が途中でキャンセルされた。


「ばかな!この魔法は剣で斬れないはずなのに。なんで」

イグレアは驚きながらも、これは偶然起こったことだろうと考え、もう一度同じ魔法を発動させようとする。


しかし、“ロト”はイグレアがもう一度魔法を発動させようとすると、剣を持っていない方の手をイグレアの方に向け、声を出す。


『散れ』


ロトがその言葉を発すると同時にイグレアの魔法が強制的にキャンセルされた。さらにイグレアは魔法の発動途中であったため、その分のリバウンドを受け、ダメージを受ける。


この世界の魔法は、魔法を詠唱により、構築→発動の流れに従って魔法を使うことができるとされている。しかし、魔法を構築した後、発動するまでに魔法を自分で或いは、他人からの干渉でキャンセルすると、リバウンドといい、魔法の副作用が発生する。副作用としては、ほとんどが、威力の大きさに応じてダメージを受けるというのが多い。だが、中には、死に至らしめる場合も存在する。まあ、それは特殊な魔法の場合に限るが。普段、使う魔法の場合だと、せいぜい血を吐くぐらいが限度である。だが、これを防ぐために待機という技術がある。構築の後、すぐに発動するのではなく、魔法を一定時間、構築の状態で停止させることで、魔法の副作用を無くすことができるのだ。ただし、待機をするのは非常に神経を使うため、戦いの中で使うのは難しい。そのため、魔道具なのでそれをカバーすることが多いのだ。現にイグレアのマントにもその効果が付与されている。


「ばかな、なぜ、私がリバウンドを受ける。・・・ちゃんと、このマントを付けているのに」イグレアは血を吐きながら、言う。どこかの臓器がやられたようだ。体中がものすごく痛い。


“ロト”はそんなイグレアの言葉を聞いて、笑い出した。


その様子を見て、“ロト”と向き合っていたイグレアも傍にいてそのやり取りを見ているグレイも信じられないように“ロト”を見る。余りにも知っているロトと違いすぎる。


『そんなちっぽけな魔道具で、我の魔法を防げると思ったか。思いあがるなよ、人間』

“ロト”は激しく怒りながらそう吐き捨てる。


「あなた、一体、何者なの・・・」

イグレアはここに来て初めて怯えた表情を見せた。


『我が何者か、だと?人間、お前も知っているだろう。ロトだぞ。それ以外の何者でもない』“ロト”は淡々と答える。


「だって、ロトは魔法を使えなかったはずよ」

イグレアは尚も反論する。


『ただ今まで必要性を感じなかったまでのこと。そんなの当たり前だろう。魔法を使わない獣人の村で暮らしているんだ。何を今更』

“ロト”は今度は何を言っているんだ、という表情をしながら答える。


『・・・さて、もういいかな、人間。お前のおしゃべりもお終いだ。こんなつまらないことなんて直ぐに終わらせてやる』

“ロト”は先程まで発していた魔力を更に増加させながら言う。


「ちょっと、一体、何・・・するつもり?」

イグレアは最悪の場面を想像しながらも聞き返さずにはいられなかった。


『何、お前たちと似たようなことをするんだよ。なあに、一瞬で行かせてやる。だから、怖がることはない。安心しろ』


“ロト”からの返事は想像してた通りの最悪のシナリオだった。


「いや、私は死にたくないの!グレイと幸せになるのよ!」

イグレアはここにおいてもまだ、自分の願望を言う。


“ロト”はイグレアの言葉を聞いても何も反応しない。


『死ね』


“ロト”がその言葉をつぶやくと、村中の“人”が一斉に倒れた。イグレアも同様である。みんな等しく地に伏した。そして、命までも失った。一瞬の出来事である。



“ロト”たちから離れたところで奴隷の首輪をつけられていた者たちは、驚いた。なんせ、今まさに新しい獣人に首輪をつけようとしていたのに、何の前触れもなく、いきなり倒れたのだから。そして、つけられそうになっていた獣人がその者を恐る恐る調べると、既に死んでいることが分かったのだ。辺りを調べても同じで、“人”は一人残らず死んでいた。これには獣人たちは助かったと安堵するよりも恐ろしさが勝った。生きている獣人たちは、グレイたちを除いて、一人残らず、その場で怯えていた。



“ロト”は村に侵攻してきた“人”が全員死んだことを確認すると、今度は、天に向けて腕を上げ、魔法を発動させる。


『我が名のもとに許可する。我が仲間に天の祝福を』


その詠唱が終わるのと同時に、空から雪のようなものが降ってくる。

それが、獣人たちにあたると、怪我をしている者は傷が癒え、死んだ者は生き返り、奴隷の首輪をつけられている者はそれが外れ、部位欠損が生じている者も完全に元通りになった。


これには、獣人たちは大いに喜び、泣きながら互いの無事を確認して抱き着きあっていた。これは、きっと天の思し召しに違いない、と新たな宗教が生まれそうな予感である。


そんな中、グレイと“ロト”だけは全く異なる雰囲気の中、対峙していた。そして、何故か“ロト”の周りにいるアリアやティグルは傷が治ったり、生き返ったりしたのに眠ったままだった。


「ロト、お前は何者なんだ?」

グレイがイグレアが言ったことと同じことを尋ねる。


“人”の軍政を一瞬で倒したこともすごいが、何より、死んだ者の蘇生はありえないことだった。現に、今知られている魔法の中には、特殊な魔法を含んでも、死者蘇生は存在しなかった。死者蘇生を目的とした研究は行われているそうだが、目ぼしい結果はただの一度も発見されたことがないそうだ。だから、“ロト”がどうしてできたのかが説明できない。ステータスプレートを見せてもらったときには、そんな魔法やスキルは存在していなかった。なので、今の“ロト”には、得体の知れない不気味さがあったのだ。


“ロト”は、そんな様子のグレイを見て、さらに真剣な眼差しをして言う。


『確かに我は“ロト”であって、ロトじゃない。だがな、ロトはこの世界に必要な存在だ。だから、こやつのことをあらゆるものから守ってほしいのだ。そして、様々なものを経験させてほしい。今回のことでこやつが我を覚えておることはない。だから、我のことは誰にもいうな。幸運なことに目撃者はいない。我のことが知られることはない。・・・もし、我のことが知られれば、ロトはロトでなくなる』


「どうして、そう言い切れるんだ?」

グレイはなぜ“ロト”がそんなことを言うのかわからない。それ故に尋ねた。


『ロトがロトでいられるには、そうするしかないのだ。一度目の失敗ではやり直すことができたが、二度目の失敗は許されないだろう。だから、頼む。我らに残された時間も少ないのだ。お願いだ。こやつの親なら、こやつを生きさせてくれ』


“ロト”はそう言い、頭を下げる。


グレイは“ロト”が言ったことを吟味していた。こいつのことを信じてよいかどうか。だが、どちらが正解なのかがわからない。信じるべきか、否かを判断できない。

しかし、“ロト”のある言葉を聞いて決断する。そう、自分が『ロトの親』である、ということだ。

確かに、“ロト”の言っていることは容量を掴めない。だが、その中で自分に関係あるのは、ロトを守り、育てるただそれだけである。それは、“ロト”に言われなくても、するはずのことであり別に言われなくても、“ロト”の言う通りになっていたはずである。だが、“ロト”は自分から頼んできた。それは、ロトを大切に思っているから出た言葉なんだろうと思った。


だから、決断する。―信じる方に。


「おう、わかったよ。約束する。お前のことは言わないし、ロトを守るぞ。親としてな。・・・だが、一つだけ忠告しといてやる。ロトを害することがあれば、お前を滅ぼしてやる」


『もちろんだ。我がこやつを害するときは既に終焉を迎えていることになる。だから、ためらわず我を殺せ。では、我はこれで』


“ロト”はグレイの返事を聞き、嬉しそうに頷いた。そして、さよならの挨拶をすると同時にロトが倒れ、アリアとティグルが目を覚ました。


グレイはロトが倒れると、急いで傍に行き、息をしているのを確認した。そして、アリアたちが目を覚ましたのを確認すると、ロトを抱いたまま、二人を抱きしめた。二人は自分が無傷で生きていることに驚いたが、安堵の気持ちが強かったのか、直ぐに受け入れ、涙を流しながら喜んだ。グレイも涙を流しながらも、泣いていないと言っていたのはご愛嬌というべきであろう。


だが、二人はロトが目を覚ましていないのを知ると、不安そうにしたが、グレイが、眠りの魔法の作用が強かったため、起きるのが遅くなっているのだろう、と伝えたため、二人は安堵して、再度、生き残ったことを喜び合った。


その後、無事ある倉庫に監禁されていたスインガを救出することもできて喜んだ。実質、衰弱が激しかったようだが、例の天から降って来たものにより回復したそうだ。ただ、拘束倶は魔法的要因を含んでいなかったから、外れなかったのだと考えられた。

それでも、自分が回復していったのだけでも、大層神秘的に感じたそうだ。



そうして、獣人たちは“人”の侵略を乗り越えたのであった。



年明けたら、毎日投稿じゃなくなるかもしれませんが、第一章までは毎日投稿する予定です。

来年も読んでもらえると嬉しいです。

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