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第七話 イグレア=ウィッチ

時をさかのぼり、ロトが森へと向かったころ、村では、相変わらず、獣人と“人”が戦っていた。そんな中、スインガはただ歩く。まるで、周りで何事も起こっていないかのように、堂々と。余りに不自然な光景。

だが、誰も、彼に剣を向けようとはしない。また、彼のそんな態度を注意する者もいない。ただ、スインガを避けるように周りは戦う。


スインガはそんな様子を見て、声を上げないように気を付けながら、笑う。そして、目当ての人物を探して、村を歩き回る。


「あいつのことだから、大太刀回りしているんだと思ったんだけどな。全く見つからねえ。どういうことだ?折角、こんな舞台を用意してやったのに、あいつめ」


スインガはいつもからは考えられないようなすごい殺気を出しながら、イライラするように吐き捨てる。そんなことを言いながらも歩いていると、前の方から自分と同じくらいの殺気が吐き出されていた。


「みーつけた」と、スインガは嬉しそうに言いながら、その方向へ走っていく。




「くそっ!これじゃあ、キリがない」


「全くだ。これじゃあ、女子どもを遠くへ逃がせられない」


「へっ、お前たちに勝ち目はないんだよ。この薄汚い獣人めが」


「黙れ!お前らみたいなのに負けるかよ」


その場では、獣人二人と“人”一人が剣で斬り合っていた。だが、ずっと膠着状態のままで、疲労が見え始めていた。


「くそ、こんなときに」

一人の獣人の動きが鈍くなった。


すると、もう一人の獣人がすかさず、フォローに入る。

「焦るな。相手は“人”、体力は俺たちの方が大きいはずだ。いずれ相手の方が先に倒れる。その時を狙うんだ。絶対に無理な攻撃をするなよ」


そんな獣人たちの会話を聞き、“人”は呆れたような顔をした。

「全く、これだから獣人は。俺たち“人”の方が上位の存在であるにも関わらず、自分たちの勝利を信じているとは、なんと愚かなことか」


「なんだと!それなら、俺たちを倒してみろよ。できもしないくせに、偉そうなことを言うんじゃねえ」

一人の獣人が“人”の言葉にキレて攻撃をする。


「バカ!やめろ!」ともう一人の獣人が制止の声を上げるが相手は聞かない。それどころか、益々、剣の振りが大きくなって、隙ができる。


“人”もそれを待ってましたと言わんばかりに迎え撃とうとする。


だが、もう一人の獣人が考えていた通り、仲間の獣人が斬られてしまった、・・・という未来は来なかった。


なぜなら、そうなる前に“人”を背後から別の獣人が斬りつけたからである。


「おい!こういうとき、相手の挑発に乗るな!やられるぞ!」

その獣人は、“人”が死んだことを確認するとすぐに説教をした。


説教された獣人もすぐに頭が冷えたようで、すまなさそうな顔をする。

「すまん、グレイ。頭に血が上ってしまって。・・・助かったよ」


「ああ、分かればいいんだ。・・・それにしても敵の数が多い。指揮官らしい者を見かけなかったか?」


「いや、俺たちも見かけてねえ。敵の襲撃があった時も村の広場にいたんだが、指揮官らしいものを見なかったぞ。・・・それよりも、村から見える位置まで敵が近づいてくるのに気が付かなかったんだ。情けねえ話だろ。それで、俺たちに気づかれたとわかると、いきなり火の魔法を使ってきたんだ」


「何?」


「そうなんだよ。グレイ。村の管理網に引っ掛からずにここまでやって来たということになるんだ。そんなのできると思うか?」

二人の獣人たちは腑に落ちない、という顔をした。


逆に、グレイは何かを思いついたかのような顔をした。

「まさか、魔法か。こんな人数を隠せるとなると、そんじょそこらの魔法使いではダメだ。そう、帝都お抱えの魔法使いぐらいじゃないと。・・・もしかして、あいつか」と、グレイがある人物を想像していると、タイミングを狙ったかのようにその人物から声がかかった。


「正解だよ。グレイ。久しぶりだね。十何年ぶりかな」


グレイは予想していた通りの人物の声であり、振り向きながらその相手の名を言う。

「ああ、そうだな、イグレア=ウィッチ。貴様の仕業だったとはな」


だが、グレイが振り返ると、そこにはスインガがいるだけだった。

傍にいる二人の獣人も訳が分からないっといった顔をしていた。グレイが言うこともスインガが言うことも。


「うふふ、やっぱり、私のことを覚えていてくれたのね」

スインガは周りのことは気にせずに、グレイの言葉を聞いて嬉しそうにする。


「ああ、いやという程な。というか、その姿はやめてくれないか。俺の息子の友人なんだ、その姿は」

逆に不機嫌そうに言うグレイ。


「わかったわ。あなたが言うなら仕方がないわ」

そう言うと、スインガはその場でくるっと一回転する。すると、服だけでなく、顔や背丈が一瞬で変わり、白いマントを羽織った女の人になった。


「やっぱ、変身魔法か。お前、そういうの得意だったからな」


「やあね、今も得意よ。どう、この私なりのサプライズ」


「全く、嬉しくねえ。それよりも憎らしいよ」

グレイは吐き捨てるように言う。


「そうかしら、私はあなたが戻ってこられるようにしているだけなのに」とイグレアは若干いじけたように言う。


「その話は断っただろ」


「私は、承諾していない。だから、ずっと待っていたの。そしたら、この場所にグレイがいるって聞いたの。だから、わたしが来たのよ。あなたのしがらみを無くすために。それに私が来なかったら、すぐにここが灰となっていたのよ。だって、あのNo.0≪ナンバーゼロ≫がここにくるかもしれなかったんだから。そうなっていたら一瞬のうちに全てが消し飛ぶわよ。あなたでさえ。それに比べたら、私は慈悲深いのよ。あなたを助けて、あなたの息子も助けてあげるんだから」


イグレアはペラペラと聞いてもいないことを話す。だが、中には、スルーできないものまであった。


「何!?No.0≪ナンバーゼロ≫だって!?なんで奴がこんなことで出てくるんだよ。あいつの専門は別だろ!」

グレイは驚いて声を荒げる。


「そうだけど、なんでも上からの命令だったらしいよ。・・・まあ、いつも通りあいつは淡々としていたけど。周りの奴らが言ってたのを私が聞いたの。「今回の獣人排除は、No.0≪ナンバーゼロ≫が行うらしい」って。そのときに、グレイがいるって話も聞いたのよ。そして、私がやりたいって言ったら、OKが出たのよ。まあ、私の実力があれば、当然よね」


「ふむ。じゃあ、ロトのことはどうするつもりなんだよ。そして、アリアは、・・・」


「ロト?ああ、息子のことね。彼は、あなたと一緒に帝都に迎えてあげる。あの子、人間なんでしょ。いくらでも言い訳なんてできるわよ。もし、ダメだと言われても私の魔法で入らせてあげる。それぐらい可能よ。グレイだって知っているでしょう」


「ああ、もちろんな。だが、アリアのことは何も言わないつもりか」

グレイはそう言いながらイグレアを睨む。


すると、イグレアは今までの嬉しそうな様子から一変して憎しみを顔に浮かべる。

「あの女は絶対に許さないわ!私のグレイをたぶらかした事実は万死に値する。私が直接殺してやるんだから」


「やはり、そう言うか。・・・それなら、俺はお前を倒さなければならない」

そう言って、グレイはイグニアに剣を向ける。

それにつられて、二人の獣人も剣をイグニアに向けて臨戦態勢になる。


イグレアはそれを忌々しそうに見る。

「グレイの足を引っ張る者どもめ。・・・それも終わりだ」

最後にイグレアがニヤリとすると同時に地面に大きな魔法陣が現れた。


「さすが獣人。やっぱり魔法に対しては無知よね。こうもあっさりとこれが発動するとはね」

イグレアはそう言いながら、どこからともなく杖を出し、魔法陣が描かれた地面に杖の先をトンっと当て、呪文を唱える。


『天よ、我求む。数多の星々を以ってして我の道を阻む者どもを打ち滅ぼせ。流星爆撃≪ソレイユ・エクスプロジオン≫』


すると、魔法陣が現れた場所に立っている獣人たちに空から魔法が降ってきた。避けようとしても、軌道を変えて追撃する。それにより、多くの獣人たちが魔法を受ける。

グレイは降ってくる魔法を剣で斬り、相殺していた。


だが、そんな中、イグレアが別の魔法を発動する。


『地よ、我求む。彼の者を拘束せよ。地鎖奪縛≪テーレ・リアン≫』


それと同時にグレイの足元の地面から無数の鎖が現れ、グレイを拘束する。


「くそ!取れないっ!」

グレイは鎖を断ち切って拘束から逃れようとするが、鎖を断ち切ることができなかった。しかも、抵抗すればするほど、拘束がきつくなっていく。


「この鎖を魔法なしで切るのは無理よ。これはね、拘束者の力を吸い取る性質があるの。だから、力を入れてもすぐに吸収されてしまうの。対剣士用の魔法よ」


「くそが、体が・・・」と言いながら、グレイは片膝をつく。


その頃にはもう流星爆撃≪ソレイユ・エクスプロジオン≫の魔法は止まっていた。


イグレアは辺りを見渡すと、既に立っている獣人はおらず、みな一様に地に伏していた。


「よし、これでほぼ仕事は完了だな。・・・よし、お前、例の獣人をここに連れてこい」

イグレアは近くにいた“人”の部下に頼む。


「はっ!了解しました」

部下はそう言うと、急いでここから立ち去った。


「さてと、・・・グレイ。あなたを開放するための儀式を行いましょう」

イグレアはニコニコと言う。


「・・・何をするつもりだ」


「あら、さっき言ったじゃない、あの女の処刑よ、処刑」


「何!?アリアをか。くそ、やめろ!あいつは関係ないだろ」

グレイはその言葉を聞いて焦り、止めさせようとするが、イグレアは聞く耳を持たない。


「遂に、ついにグレイが手に入りますわ。そして、あの女が死ぬ。なんていい日なんでしょう」


そう言っていると、先ほどの兵士が戻って来た。

「イグレア様、お連れしました」


その者は、傷だらけになり、首輪をつけたアリアを連れていた。


「ご苦労様。あなたは、他の者たちと一緒に生きている獣人を捕まえて奴隷の首輪をつけなさい。そうすれば、奴らは私たちに逆らえなくなるわ」


「了解しました」と兵士は言うと、すぐに仲間のところへ行った。


「さあて、あなたには初めましてと言うべきかしら、アリア」


「あなたは・・・誰?」

アリアは、意識が飛びそうになりながらも尋ねる。


「私は、グレイと結ばれる運命にある者よ。だからね、あなたが邪魔で邪魔で仕方がなかったのよ。それでね、あなたには今から死んでもらうから」

そう言って、イグレアは先ほどの杖と同じように剣を出し、振り上げる。


アリアはこれから起こるであろうことを予測し、逃げようとするが、体の傷と奴隷の首輪のせいで、動けそうになかった。


イグレアはそのまま振り下ろす。アリアに向けて。


「やめろー!」と言うグレイの声が響く。


だが、イグレアは止まらない。


剣がアリアを切り殺す直前、何者かがアリアを押し飛ばした。


そして、剣がその者の体に突き刺さった。


アリアもグレイもイグレアもその者を見る。


それはよく知っている人物だった。


「お前は、確か、・・・スインガとよく一緒にいたティグルじゃないか」とイグレアが声を上げる。


「なんで、ティグルが・・・」とグレイは呟く。

なんで自分の命を犠牲にしてアリアをかばったのか、その理由がわからない。


だが、その解は、本人の口からもたらされる。


「俺、・・・今日のスインガは何かおかしい気がして、ずっと後をつけていたんです。・・・そしたら、“人”と接触しているのを見つけてしまったんです。・・・だけど、どうしたらいいかわかんなくてそのままずっと後をつけていたんです。・・・実は僕、気配遮断の神の寵愛≪ディユ・ファヴール≫を持っていたんですよ。だから、ばれなかったんです。・・・でも、さっきの魔法で致命傷を負っちゃいましてね。もう、一矢報いることしか、考えていなかったんですが、ロトの母親を殺すと聞いて、居ても立っても居られなくなりましてね、・・・こんなことになったんですよ。馬鹿だと自分で思うんですけどね・・・」

そう言って血を吐くティグル。


「あとそれと、本物のスインガは生きているんですか?最後にそれだけ教えてください」

そう言いながらイグレアを見る。


「ふふ、そういうことか。私の後をつけることができたということで特別に教えてやろう。・・・あいつはね、もちろん生きているよ。なんたって、今回の首謀者にするつもりだったんだから。そうすることで、獣人たちの仲間意識を粉々に砕くつもりなんだから」

笑いながらイグレアは答える。


「そうですか・・・。グレイさん達、できれば彼を助けてください。僕は、もうダメ・・なの・・・で」

それを最後にティグルは口を開くことは二度となかった。


「ティグル、お前は・・・」と言い、グレイは涙を流す。アリアもまた、涙を流していた。


「じゃあ、邪魔者もいなくなったし。次こそは殺っちゃいますか」と言いながら、新たに剣を出そうとすると、近くから突然物凄い魔力が流れてきた。


イグレアは慌ててそちらの方を見ると、そこには、自分が森に追い出したはずのロトがいた。


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