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第三話 村の獣人たちへの訪問①

ある晴れの日、とある家の前が大層にぎわっていた。


「やったー!僕、一人で外を歩いているよ!すごい!すごい!」

「ああ、ほんと、嬉しいよ。この前怪我した時は、本当に焦ったが。無事、歩けるようになってよかったよ」

「ええ、本当ね。嬉しいわ」


ロトは、満面の笑みでスッキプをしているかのような足取りで家の周りを歩き回っていた。グレイとアリアは、それを見て涙ぐんでいた。予想よりも回復が遅かったため、途中、何度も治らないのでは?と心配していたのだ。お互いに口にはしなかったのだが。

そして、2週間ほど前、リハビリの一環として、家の中を歩かせていると、小さな段差に躓いて転んでしまい、転んだ時の体勢が悪かったのか、足首を痛めてしまう、という出来事があったのだ。


「そうだ、このまま、村のみんなにご報告に行きましょう。心配してくださった方々もいらっしゃったのですから」


「おお、それはいいな。賛成だ。ロトもいろんなものを見たいだろうし」


「そうね。ロトって、意外と何も知らないのよね。記憶消失のせいなのかはわからないけど」


「そうだな。でも、基本的な会話ができるってことは、常識的なことは覚えているはずなんだがな。・・・バートンの受け売りだけど」


「やっぱり、そうよね。じゃあ、・・・生まれた時からふつうの家庭で育てられたわけじゃないのでしょうね」


「ああ、俺もそう思うよ。だが、俺たちがしっかりと今までの分も愛情を注いでやればいいって話だよ。・・・あの子のためにも」


「ええ、そうね。もう、失うのは絶対に嫌だわ。あの悲しみは二度と味わいたくないし、味合わせたくない」


「もちろんだ。あの時、誓ったことだ。絶対に守ってみせるさ」


「ええ、私も一緒に守るわ」


グレイたちは、元気に歩き回っているロトを見ながら、悲しそうにも見える表情で決意していた。そして、ロトがある程度歩きまわった後、村の人たちに挨拶に行くと言われると、少し不安そうな顔をして、アリアのスカートの裾を掴んだ。

その様子にグレイたちは、苦笑いしながら、歩き出した。


一軒目は、バートン先生の家だ。

「バートン先生、こんにちは!」

さっきまでの様子とは違い、とても楽しそうに挨拶をする。


「やあ、こんにちは、ロト。おめでとう。歩けるようになってよかったね」


「うん。バートン先生やお母さん、お父さんのおかげだよ」


「うう、なんていい子なんだ。おじさん嬉しいよ」


「えへへ」


「そうだ。今日は助手のキャロもいるから。挨拶しておいで。きっと、彼女は泣いて喜ぶよ」


「うん、わかった」


ロトはバートンの言うことを聞いて、助手のキャロに会いに行った。


キャロは、兎族で、昔、バートンによって救われたことがあり、今ではバートンの助手をしている。年は、18歳だが、バートンの右腕として活躍している。

まだ、病室にいるとき、ロトはキャロから治療を受けたこともあり、とても感謝している。また、キャロは、子どもの面倒見がよく、ときどき、グレイ家に行ってはロトと遊んであげたりしていたため、ロトはすごくなついているのだ。


ロトがいなくなると、バートンは感慨深そうにしていた。


「あれほど衰弱していたロトが元気になったのを見ると、とても嬉しいですね」


「ええ、私も今日は涙が出てしまいました。あの子は、随分外を走り回ってみたいと言っていましたし、今日、あんな笑顔を見ては我慢ができませんでした」


「俺もだよ。やっぱ子どもが元気になるのは嬉しいものなんだな」


「そうですね。・・・それで肝心の話なんですが、やっと、教会公認のステータスプレートが手に入ったそうです。俺たちといつも取引してくれる商人たちの知り合いに教会で働いている者がいるらしく、俺たちのことをぼかしながら事情を説明したら、快くくれたそうで。登録方法はただそれに血を垂らすだけらしい。詳しい事情は説明できないから無理かなと思っていたが、手に入れられそうでよかったよ」


「本当か!ロトは“人”の子だからな、人用のステータスプレートを持っていないとおかしいしな。・・・ところでさ、どんな風に事情を話したんだ?」


「ええと、まあ、こんな感じだ。

・・・商人たちが町から遠いところで取引するために立ち寄った村では、教会まで行くことができず、ステータスプレートを持っていないらしい。なんでも、働き手が少なく、何か月か村を開けると、残りの村人たちが生活できないらしい。だが、信仰心はあるようで、毎日教会の方を向いてお祈りしているから、なんとかしてあげたいと思ったんだ。・・・と」


「おいおい、最後の方嘘が入っていたぞ」


「いいんだよ。それを言わないと絶対にもらえないんだよ。信仰心がない奴は異教徒としてステータスプレートがもらえないか、ときには、牢屋に入れられてしまうこともあるそうだぞ」


「そうなのか。知らなかった・・・」


「あなたってば、冒険者していた時はどうしてたのよ」


「確かに。お前さんは相変わらずだな」


アリアとバートンはグレイを呆れるような眼差しで見た。グレイはうっとひるんだが。つかさず反撃した。


「あの頃は、そんなことあんまり関係なかったんだよ。信仰心があろうがなかろうが、女神様の悪口を言わず、かつ力を示しておけば何も問題なかったんだよ」


「ふむ、そうだったのか。俺は、昔は外のこと何にも知らなかったしな。・・・あの時からだよ。外の話を積極的に取り入れるようになったのは」


「まあ、普通はそうだよな。悪かったな、嫌なこと思い出させてしまって。アリアもすまんな」


「いえ、気にしないでください。ただ私たちが愚かだっただけですから。・・・それにあなたがいなければ、・・・」


「ああ、もう!やめだやめ。この話はおしまいだ。もうすぐしたら、ロトも帰ってくるだろう。そしたら、別のやつのところに行くよ」


「ああ、わかったよ。確かにこのことは聞かせられないな。・・・じゃあ、俺がちょっと様子を見てくるよ」


「ああ、わかった」


しばらくすると、バートンがロトを連れて戻って来た。そして、そのままバートンと別れて次の家に向かった。


「今度は誰のお家に行くの?」


「次はね。毎日パンを届けてくれるレントンさん家だよ。レントンさんにはね、今年6歳になる娘さんがいるんだ。名前はミスティーちゃんって言うのよ。私たちと同じ猫族なんだけどね、髪が銀髪ですごくきれいなの」


「僕は、お母さんの髪の色好きだよ」


「うふふ、ありがとう。・・・それでね、ロトと同じくらいの年だと思うから仲良くなれると思うの。他に年が近そうな子はいないから、一緒にいるときも多いだろうし、ちゃんと挨拶するのよ」


「うん、わかったよ。お母さん」


ロト達が歩いていると、とても美味しそうな匂いがしてきた。


「ねえ、この匂いって何?」


「ああ、この匂いはパンだよ。今から行くレントンさん家のパン屋から匂いが来ているんだろ。この時間は新しいパンが焼きあがる時間だろうからな」


「ほんと!僕食べたいな」


「はいはい、わかったよ。でも、一個だけだぞ」


「うん、ありがとう、お父さん」


「そうだ、パンを食べるのと同時にそこで休憩しましょう。いきなりたくさん歩いたら体に負担をかけるかもしれないし」


「そうだな。ロト、それでいいか?」


「うーん。でも、まだ、歩けそうだよ」

ロトは少し不満げに言う。きっと、もっと歩いていたいのだろう。


「焦らなくても大丈夫。明日も明後日も歩けるのよ。初日からそんなに歩く必要はないわよ。これからは好きな時に歩けるのだから」


「そっか!もう、ずっとベッドにいる必要はないんだね」


「ええ、だからわかったわね」


「うん、わかった」

今度は満面の笑みで頷く。


そうして、レントンさん家へ入っていった。


「いらっしゃい。・・・おや、アリアとグレイじゃないか。珍しいな、店の方に来るなんて、いつも配達しているだろ」


「やあ、レントン。そっちの方にも用があるんだが、今日の主な用は別にあるんだ」


「別?」


「そうだ、この子だ」


そう言って、ロトを前に出す。


「初めまして、レントンさん。僕の名前はロトです。レントンさんのパンは大好きで毎日食べています。よろしくお願いします」と自己紹介をした。


「ああ、この子が。・・・初めまして、俺はレイトン=カッツェと言うんだ。直接会うのは初めてだよな。でも、アリア達からよく君のことを聞いているよ。それに俺のパンを気に入ってくれているなんて嬉しいぞ。よし、今日はおじさんが奢ってやろう」


「ほんと!ありがとう。・・・どれにしようかな」

ロトはすぐにどのパンを食べるのか選び始めた。初めて見るものが多く迷っているようだった。すると、突然何かが閃いたようでレントンさんの方を向いた。


「そうだ!レントンさんのオススメはどのパンなの?」


「そりゃあ、もちろん、クリームパンだ。自家製のクリームを使っているんだ。ほっぺたが落ちるおいしさだ。ぜひ食べてみてくれ」


「じゃあ、僕はそれがいいな」


「よし、わかった、ちょっと待ってな」


「おい、レントン。今日はここで食べていくから、テラス席の方に持ってきてくれ。俺とアリアも同じもので頼む」


「おお、了解」


レントンはグレイがしゃべっているうちに中の方に入っていったが、注文はしっかり聞こえているらしくちゃんと返事をしていた。


「よし、それじゃあ、俺たちはテラス席に向かうか」


「てらすせき?」


「そうだ、ここでは、店の外にある食べる場所のことだ。そこからは牛を見ることができるんだ。それに天気がいいから外の方が気持ちがいいしな」


「うしって何?」


「動物だよ。牛乳を作ってくれるんだ。まあ、実際に見てみた方が早いだろ」


「そうだね。僕、見てみたい」


「じゃあ、行きましょうか」


三人は一度店の外に出て裏側の方に向かうと、大きく開けた場所に出た。そこには、テーブルとイスが少しあって、他は、柵で囲まれた場所であった。そして、その中には十頭ほどの牛がいた。


「もしかして、あれが牛?大きいね」

ロトは目をキラキラ輝かせて見ていた。


「ああ、そうだぞ。もっと近くで見てきてもいいぞ。ただし、柵の中には入らないこと。・・・守れるよな」


「うん。ちょっと見てくる」


そう言って、ロトは小走りに柵のほうへ言った。さすがに普通に走るのはまずいと思ったのか、ぎりぎり走っていない、と言えるぐらいを保っていた。それを見て、グレイたちは苦笑いを浮かべていた。


「全く、元気になったばかりだというのに、あんなに動き回って大丈夫か?」


「そうねえ、心配だけど、それでこそ、男の子というものよ。あなただって、子どもの頃、相当やんちゃだったよね。私、しょっちゅう注意していた気がするわ。「危ないからやめなさい」って。でも、あなたは、いつも、「大丈夫だから、邪魔すんな。いちいちうるさいんだよ」って言ってたわよね」


「・・・確かにそんなこともあったな。・・・ていうかよく覚えているな」


「ええ、もちろんですとも。かなり手がかかりましたもの。あの苦労の数々、忘れるわけありませんわ」


「・・・そうか。なんか、すまんな」


「まあ、今となってはいい思い出ですよ。あの時、やんちゃだったからこそ、冒険に出てこんなに強くなったのでしょう」


「確かに、そうとも言えるが」


「いいじゃないですか、子どもは元気が一番って言いますしね」


「まあ、そうだな。悩んでも仕方ないか」


「ええ、私たちが、見守っていきましょう」


ロトが牛を見て大興奮し、グレイとアリアがそんなロトを微笑ましく思っていると、レントンがやって来た。


「やあ、お待たせ。・・・と、ロト君はどこに?」


「ああ、ほら、あっちで牛を見ているよ。ロトは好奇心旺盛でいろんなことを知ろうとするんだよ。療養中のときも」


「なるほど、それは大変だな。でもさ、そんぐらい元気の方が安心するぞ。うちのミスティーは人見知りが激しくてな、友達を作るのができないんだよ。しかも、ミスティーぐらいの年の子っていないから、それが原因で人見知りにさらに拍車がかかっちゃって」


「そうなのか。でも、俺達には普通に話しかけて来てたよな」


「ええ。私もパンを直接買いに来ていたときは、毎日のようにおしゃべりしていたわ」


「ああ、そのことなんだがシレマーさんがやっている教室あるだろ」


「もちろん。村の子どもはみんな行っているじゃねえか。俺たちもだったろ」


「でさ、そこでのことなんだけどな、ミスティーのやつ年上の男の子同士がけんかしていたところに巻き込まれたらしくてさ。それ以来、どうも男嫌いになっちまって、さらに経つと、人見知りになっちまったというわけよ。今もミスティーを連れてこようかと思ったんだが、ロトが男の子だと知ると途端に行きたがらなくなったんだ」


「そんなことがあったのか、お前も大変だな」


「まあな、でも俺には甘えてくるからかわいいんだけどな」


「おいおい、それが原因で治らないってわけじゃないだろうな」


「まあ、そうとも言うが。・・・だってよ、娘に男を近づけたくないって気持ちはわかるだろ」


「いや、わからねえ。俺、娘いないし」


「じゃあ、アリアに男が寄ってくるってのは許せるかよ」


「許せるわけないだろ!そんな奴いたら滅多切りにし・・て・・・、ってなんてこと言わせるんだよ!」


「全く、熱々だな」


「おい、茶化すんじゃねえ!」


「ほんと、グレイはいじりがいがあるな。面白いよ」


レントンはにやにやと笑いながらグレイをいじる。そして、グレイが想像通りの対応をするのを見ては、さらににやにやしていた。


「それぐらいにしてあげて。パンが冷めちゃうわ」


「おっと、いけね。うっかり、忘れてた。・・・それじゃ、これが頼んでいた品ですよ」


「ええ、ありがとう」


アリアは、レントンからパンを受け取ると、ロトを呼び戻し、早速食べた。パンの柔らかさとクリームの濃厚さがマッチしてとてもおいしい。ロトは初めて食べる味のようですごく驚いていた。そして、もっと欲しいと言っているかのように、グレイやアリアのパンをじっと見ていた。二人は苦笑いしながら少しちぎって分けてやる。すると、ロトはすごく喜んで美味しそうに食べた。

食べ終わった後は、またここに来ようね、としきりに言っては、レントンを喜ばせていた。逆にグレイやアリアを困らせてはいたが。


そんなこんなで、二軒目の訪問が終わり、次の家へと向かった。

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