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ほんわか日和  作者: 千助
6/7

水曜日4

「お前あん時の!」

染めてバサバサになっている髪を無造作に伸ばした、

俗にチャラ男と言われるような高校生くらいの男の人が、

普陵さんを見て叫んだ。

それに対し普陵さんは不思議そうな顔をしている。

その様子に腹を立ててか、男の人は刺々しい声で

「まさか忘れたとか言わねーよな?」

と言った。

普陵さん、怒ったかな、と顔を見ると、

怖いような微笑を浮かべて

「静かにしなきゃだめだよ。」

と子どもを諭すような落ち着いた口調でたしなめた。

それが気に食わなかったらしい。

額に青筋を浮かべて怒鳴った。


「あ゛あ゛?お前次降りろ。」


「ええ、もちろん。次で降りるつもりでしたから。」

少しもたじろがないどころか、

相手が怒れば怒るほど冷めていっているように見える。

さっきは普通の話し方だったのにいつの間にか敬語になっている。

なんとなく、普陵さんが怖くなった。



駅を出て少し歩くと人通りの少ない道に出る。

そこで男二人に普陵さんが尋ねた。

「で、何の用?」

もう慣れっこだと言わんばかりの口調だ。


「何の用、だあ?なめてっと殺すぞ?」


思わず肩が震えた。

殺す、という単語を人の口から聞いたのが初めてだった。

普陵さんは顔色一つ変えない。

「あのさ、無視しないでくれる?何って聞いてんだけど。」

怒っていないほうの男の人は、二人のやり取りを面白そうに聞いている。


「この前俺の小遣い稼ぎの邪魔をしたろうが。

 お前のせいで先公にばれて親に通報されて

 すげーしぼられたんだよ。おかげで先輩も監視される羽目になるし。

 どーしてくれんだ、あ゛あ゛!?」


言い分を聞いて、ものすごく呆れる。

まるで子どもの癇癪だ。

それとも普陵さんが、よっぽどひどいことでもしたのだろうか。

「かつあげしてたから止めたんだよ。知らないのか。

 かつあげは法律に触れるんだよ。」

男の人は顔を真っ赤にして怒鳴り返してくる。

「はっ!知ってるに決まってんだろ。だからどうした。」

怖い。

今にも殴りかかってきそうだ。

首をすくめて黙っているよりほかなかった。

それでも普陵さんは胸を張って言い放った。


「人に迷惑をかけるとな、結局自分に帰ってくるんだよ。

 お前それが全然分かってない。未来を、自分の手で潰すんじゃねぇ。」


はっとして、普陵さんを見上げた。

190cmはあろうかという長身に憤りをみなぎらせて、

男の人を見下ろしている。

普陵さんの気迫におされたのか少し声が小さくなった相手が、

なおも文句を言い立てる。

「正義面してぇのかしらねーけどよ、偉そうに人に口出しすんじゃねぇよ。

 何様なんだっつう話だろ。なあ?」

隣の連れに同意をもとめるが、

「お、俺に聞くんじゃねぇよ。」

その人も怯えて拒んだ。

そのぐらいに、今の普陵さんは怒っていた。

一歩、男たちの方へ足を出す。

それと同時に男たちは後ろへ身を引く。


「お、おい、何かしたら仲間呼ぶからな。先輩にはあの『フリョウ』

 の知り合いだって・・・」


普陵さんの顔が険しくなる。

効いたと見えて、少し落ち着きを取り戻した男が得意顔で続ける。


「『フリョウ』、名前ぐらいは知ってるだろ?

 不良の頂点に立つ最強の不良だ。アイツに目を付けられたら

 ただではすまねえ。地域全部のグループが全滅すると言われてる。

 怒らせたらどうなるか、分かんないぜ?」


『フリョウ』

今までなんとも思わなかった単語が、今は意味をもったものに聞こえる。


「じゃあ、教えてやるよ。」


不良だと言ってるんじゃない。

それが名字なのだと。


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