水曜日3
よくある、自覚のないイケメンくんです。
「しっかし姉弟揃って派手だねぇ。」
雨のなかを並んで歩きながら半ば呆れたような心地で言った。
「派手・・ですか?」
宗太くんには自覚がないらしい。
イケメンにしかなりようのない整った顔に疑問を浮かべている。
正直羨ましい。
いやマジで。
しかしこればかりはどうしようもない。
でも、時々思う。
違う顔に生まれていたら、どんな高校生になっていたのだろうか、と。
「ーーーーーぇ、ねぇ。ちょっと、聞いてる?」
江良姉が怒った顔でこちらを見ている。
「ん、ごめん。何?」
考え事してた、と言うと、どーでもいいと言いたげな顔で
「ああ、そう。」
と言った。
ああそうは無いんじゃない、と思った。
デリカシーの欠片もあったらモテるのに。
きっと宗太くんも苦労しているんだろうな、と思っていたら
江良姉から意外な言葉が飛び出した。
「あんたに頼むなんてしたくなかったんだけど、
私これから用事があって出かけなきゃいけないの。
だからそーたを家まで送って行ってくれないかしら?」
結構姉らしいことを言う。
「いいよ。一人で帰れるから。あの、普陵さん。
大丈夫です。僕一人で帰りますから。」
「いーよ、いーよ。気にしないで。暇だし。」
「でも・・・」
でも、江良は江良だった。
「そうよ、そーた。もし途中で具合が悪くなったらどうするの。
もしホモセクションに会ったらどうするの?もし」
「あー、分かったよ。分かったから。」
どうも弟のこととなると変なことまで
心配になるらしい。
宗太くんはうんざり、と言うか半ば呆れたような顔で
江良の言葉を遮った。
「おとなしく普陵さんと帰るから、
お願いだから警察官を呼ばないでね?」
「えっっ!?」
「しょうがないわね。分かった。崎原は呼ばない。」
「五島さんもだよ。」
「えぇっ!?どうして!」
「どーしたもこーしたもない!
なんで僕の帰宅ごときでSATの隊長を呼ばなきゃいけないの!」
「SAT!?」
「で、でも普陵だけじゃ心配だわ。何かあったら・・・」
「特殊部隊呼ばなきゃいけなくなるような危険が
そんなゴロゴロ落ちてるわけないでしょ!」
宗太くんの絶叫が響く頃、駅の入口の前に着く。
「普陵」
「はいっ!?」
「そーたになんかあったら」
梓はいつもの無表情だ。
しかしにじみ出す殺気を感じた。
「財力・権力全てをもって潰すから。覚悟しておいてね。」
そして、今まで見たことも無いような、
花のような可憐な笑顔で手を振った。
末恐ろしい奴だとしか言いようが無い。
宗太くんの申し訳なさそうな顔だけがせめてもの救いだった。
「本当、申し訳ありません。優しい姉なのですが、
どうも方向性が間違っていて・・・」
ココアを前に宗太くんが溜息をつく。
「大変だね。梓ってちょっとズレてるんだよね。」
「そう!そうなんですよ!それなのに誰も分かってくれなくて。
良かった。分かってくれる人がいて。」
本当に嬉しそうにするので、何だかかわいそうになってくる。
「なんか話したくなったら呼んでよ。相手になるよ。
午後は暇なもので。」
そう提案すると、
「ほ、ほんとですか!」
満面の笑みと共に是非ともという返事が返ってきた。
パイを食べて、そろそろ帰ろうと言うと、
「あ、はい。伝票ください。払います。」
なんて言う。
最近の子どもはませている。
「何言ってんの。俺が誘ったし、俺が払うよ。」
財布を開いて固まる。
「・・・・・・」
「・・あの本当に払いますから。別にお気になさらないでください。」
会計を済ますとき、店員の目が明らかに
「かわいそうに。おごらされてんだな。」
と言っていた。
俺を睨んでいたように見えたのは気のせいと思いたい。
駅で、宗太くんの切符を買って改札を通り、階段を下りると
丁度帰宅ラッシュと重なったのか人であふれ返っていた。
「あちゃー。もう少しずらせばよかったかな。」
電車を待つ人が列をつくり、スマホをいじったり読書をしたり、
それぞれ思い思いに過ごしている。
「宗太くんの家まで何駅だっけ?」
隣に立つ小さい気配に尋ねる。
「えぇっと・・3駅です。」
声に元気が無い。
見ると少し顔をしかめている。
「どうしたの?」
「あ、いえ。満員列車って初めて乗ります。いつもは姉がだめと言うので。」
笑顔になって答えたが、どこか不安げだった。
「しばらく待って空くの待つ?」
「えと、んん。前の方なら空いてませんかね。」
「あ、じゃあそうしようか。」
一両目のところは人が少なく、宗太くんも安心した顔で
「ここなら平気そうですね。」
と言った。
ほどなくして電車が来て、思ったよりも人は多かったが
二人が座るには困らない混み具合だった。
一つ駅を過ぎて二つ目の駅に止まったとき、
「でさー、そんときマジイラッとしてさー」
「マジで?でどうしたの?」
周りのことを全く考えない大きな声で話しながらチャライ野郎が二人乗り込んできた。
そして話していた方のチャラ男が俺を見て
「ああっ!!」
と叫んだ。