親友への手紙
手紙形式でのお話を書いてみたかったのです…。
✳︎8/13 日間文学 best5
✳︎8/14 日間文学 best3→best1
総合日間best54
✳︎2018/3/7 アンサーストーリー投稿
ブックマーク、評価をしてくださった方、有難うございます!
ハロー、親愛なるクリスロッタ。
庭のフロルの花が蕾をつけました。
だいぶ暖かくなって、もうすぐ貴女の好きな春がやって来るわね。
元気で幸せに過ごしていてくれるなら、何も望むことはないのだけれど…。
ふふ、なかなか筆を取ることがない私が葉書でなく手紙なんて、と貴女は驚いているでしょうね。
貴女とは去年の春祭りで会ったきりだものね。
親友なのにこの交流の少なさは、他から見たらおかしいのかしら。
貴女が筆にまめな人でなかったら、私もこうして筆を取ることはなかったわね、きっと。
話は変わるけれど、あの日から、もう五年たったわね。
ずっと手紙でも触れてこなかったあの日の話を、しようと思うのよ。
あの頃の私は、自分に自信がなくて、いつも貴女に頼りっぱなしだったわね。
今思い直すと、とっても申し訳ない気持ちでいっぱい。
貴女が迷惑でなかったのなら良いのだけれど…どうだったのかしら?
と自分で聞いてはみるものの、貴女からの返事が怖いわ。
だって貴女、私に容赦ないじゃない。
学園でさえ、もちろん寮の自室でだけれど、猫を被ることなく私にガミガミ叱るんだもの。
まあ、そんな貴女にも先日家族が増えたと聞いたわ。
何故知っているのかって?
だって私、貴女の旦那様から報告を頂いたのだもの。
とても嬉々とした声で目をキラキラさせて、私にね。
ふふ、先日私のところにお仕事でいらしたのよ。
聞いていなかったのなら、それは私のせいよ。
私がサプライズにしたいから、黙っていてくださいねとお願いしたの。
そして、貴女が産後で報告のことが頭から抜け落ちている隙にと、こうしてしたためた次第よ。
貴女の怒る顔が目に浮かぶわ。
クリスは怒ると可愛いもの。
ああ、話が脱線してしまったわ。
そうそう、五年前の話だったわね。
あの日は私、人生で初めて絶望したの。
死んでやるって思ったくらい。
もう大丈夫よ、だって貴女が泣いてしまうのは嫌だもの。
もう遠い過去のように感じるけれど、あの頃私はロックバーツ公爵家の令嬢だった。
貴女は私の乳母姉妹であっても侍女で、親友なんて呼んではいけなかった。
私は当時の皇太子、シャルル様の婚約者で、未来の皇妃として、皇后として、努力をしなければならなかった。
幼い頃決められた婚約のせいで、私は兄様や姉様とは違って、あまり自由がなかった。
毎日続く家庭教師の授業に、私ったら、癇癪を起こして皆を困らせてばかりいたわね。
そんな私をこっそり街へ連れ出してくれた貴女には、今でも本当に感謝してるの。
もし貴女が私の味方でいてくれなかったなら、私は多分すぐに駄目になっていたわ。
あの日街で見たものは、きっと一生忘れないわ。
人々の話し声、足音、果物や食べ物の匂い。
今ではそんなに遠いものではないけれど、貴女が見せてくれた世界は、どれも私をワクワクさせてくれたのよ。
私を勝手に連れ出した貴女は、私と一緒にたくさん怒られてしまって、結局二人で泣いてしまったのよね。
それも今じゃ大事な思い出。
貴女のお陰で皇妃教育を頑張った私だけれど、シャルル様にとっては、私なんて目の端にも入れたくない存在だったのよね。
きっと初めてお会いした時に、近づきすぎたせいだわ。
私はシャルル様の皇妃になる為に生まれてきたのだと、周りの大人たちから言われてきたから、そうなのだと思い込んで、必死に気に入って貰おうとしていたのよね。
でもきっとあの方から見たら、迷惑そのものだったんだわ。
でもね私、頑張ったら絶対に幸せになれるって思っていたの。
だから、その日からもっとお勉強を頑張ったわ。
貴女にはやり過ぎだと心配させてしまったわね、ごめんなさい。
私が皇妃になっても、貴女は付いてきてくれると約束してくれたから、怖くはなかったの。
ずっと心強かった。
だって皇妃って、国にとってとっても大事な人でしょう?
皇帝を支えることのできる、唯一隣に立てる人なのよ?
だから、そんなものを背負うことが私に出来るのかと、いつも不安だった。
でも、ずっと貴女が居てくれるならと、頑張ろうって思えたの。
だってクリスは絶対に私を裏切らない、大事な人だもの。
だから、貴女の主人に相応しい、立派な皇妃になろうって思っていたの。
だからこそ、五年前のあの日の出来事は、とても辛いことだった。
ああ、安心してね、私は今とっても幸せなのだから。
あの日、私は学園の最高学年になっていて、シャルル様のお役に立とうと、学園の生徒たちの相談役になっていたわね。
貴女も私の活動を応援してくれたでしょう?
だからとても嬉しくて、思いつきで始めたあの活動を続けていたの。
その頃、シャルル様は生徒会の会長を務めていらっしゃっていて、その周りを未来のあの方の側近の方々が固めていらっしゃった。
皆様総じてご優秀で、私はこの国の未来の国政を思い描いていたのよ。
シャルル様も少しずつ私のことを認めてくださっていて、とても嬉しかった。
けれど、彼女(ごめんなさい、お名前を書くとまだ苦しくなってしまうから、こう書くわね)が学園に転入していらしてから、あの方たちは変わってしまわれた。
生徒会のお仕事よりも彼女との恋に走っておしまいになられた。
私も相談役として、何人もの方のお話を聞きましたわ。
シャルル様の婚約者として、公爵令嬢として、何か行動せねばならないのではないかと、私は必死に考えたけど、結局何も思いつかなかったの。
私は臆病なままね。
きっと現実を受け入れられなかったのだわ。
あんなに素晴らしかった皆様が、どうしてあんな風になってしまったのかが、分からなかったの。
それに、彼女は男爵家の庶子の生まれの方だった。
もちろん、そんな風に偏見を持つことは許されることではありませんけれど、あの学園は、貴族の子弟が通う学園。
殆どの方々が婚約者をお持ちになっていて、皆そのことをきちんと理解して、新たな恋愛を育もうとはなさらなかった。
過去には駆け落ちという結末もあったそうですが、皆己の義務だと婚約者の方と仲良く、恋愛感情が例え持てなくとも、人生のパートナーとして認め合っていた。
男爵家の庶子という立ち位置は、血筋を重んじるあの学園では弱すぎたの。
だからきっと、彼女は他の生徒たちの反感を買ってしまい、安寧な学園生活を送ることが出来なくなってしまうと思っていたの。
これを言って、貴女には怒られてしまったのよね。
お人好し過ぎますって。
でも、そんな風にうだうだしていたせいかしら…学園の卒業パーティーの日、次の日に結婚式を控えた私は、シャルル様に婚約破棄を言い渡されてしまった。
私が学園の一室を不当に占拠して、生徒をそこに連れ込み脅している、と。
そして身に覚えのない罪の数々。
シャルル様や生徒会の皆様に庇われて、涙を貯める彼女。
何が起きたのか分からなかった。
でも一番辛かったのは、私が貴女を、クリスを虐めている、という噂。
そんなもの、ありはしないと必死に否定したけれど、シャルル様は信じてくださらなかった。
貴女は調度実家へ送る荷物を点検する為に、少しパーティーに遅れてきたのよね。
あの時貴女が隣に居てくれなくて、とても怖くなったの。
世界に一人ぼっちのような気持ちになった。
騎士の方に会場から引きずりだされて、貴女に逢えないまま学園から追い出されてしまった。
あの夜の闇は今も覚えているわ。
お陰で今も少し怖いの。
あの時私は混乱していて、調度通りがかった旅商隊の方に、助けてって言って荷台に隠れさせてもらって、王都から出てしまった。
後から確認したら、あの時の私は意地悪な婚約者から逃げてきたお姫様みたいだったって。
今聞いてみたら、少し当たっているから笑ってしまったの。
そして私は王都から離れた地方都市に辿り着いたの。
その頃王都は皇太子の婚約者だった私が行方不明となって、大混乱だったそうね。
シャルル様は陛下にとても怒られてしまったとか。
大丈夫だったかしら?
そう言えば、貴女がシャルル様や生徒会の皆様を顔の形が分からなくなるくらいに引っ叩いたなんて酷い噂もあったけれど、そんな筈ないのにね。
優しい貴女がそんなことするなんて、あり得ないし、何より貴女は女の子だもの。
殿方にそんなことするなんて、不可能に決まっているのに、本当、酷い噂。
だから私、噂を教えてくれた方にはちゃんと貴女の良いところをたくさん教えておいたのよ。
それがまさか、貴女の旦那様になるなんてね、運命ってこういうことをいうのかしら?
あら、また話が脱線してしまったわ。
戻すわね。
いくら混乱していたからとは言っても、王都を出てしまったのは失敗だったわね。
でも、その失敗のお陰でたくさんの優しい人たちに会えたのよ。
貴女に逢えないのは寂しかったけれど、その旅で私の心の傷は癒えたの。
いくら地方都市とは言っても、私の容姿は目立ってしまうから、すぐに王都に連絡が行ったようね。
そして迎えが来たけれど、私は拒否してしまった。
まだ王都は怖かったの。
お父様やお母様、兄様や姉様も心配してくださったけど、まだ私には現実を受け止めることが出来なかったのね。
だから、その地方都市の近くの要塞で長を務めていらした叔父様の元に身を寄せたのよ。
貴女も来ると言ってくれたけど、貴女に頼りっぱなしの自分を変えたくて、私はそれを断ったの。
貴女を嫌いになったのではないのよ、ちゃんと説明してなかったから、もし貴女が勘違いしていたとしたら怖いな、と今まで思っていたの。
そこでの暮らしは、とっても楽しかったわ。
叔父様やその奥様はとっても優しくて、第二の父と母のような存在だわ。
そしてね、友人も出来たの。
彼は男性でね、叔父様の部下なの。
王都の貴族の子弟なのに、わざわざ地方にやってきた変わり者で有名だったわ。
私に会った時はまだ新人で、私とは三つしか年が違わなかった。
そんな彼は実は私を乗せてきた旅商隊の護衛をしていたのよ。
どうやら旅商隊の目的は、要塞の武器や食料を運ぶことだったみたいで。
彼はね、たくさん楽しいお話を聞かせてくれたの。
それにね、とっても強いのよ、彼。
学園に居た頃、こっそりギルドに登録して傭兵をしていたのですって。
私なんて、貴女に守られてばかりだったのに、凄いって思ったわ。
それでね、なんだか自分が恥ずかしくなってしまって。
そうして始めたのが、今の仕事。
国土最北端に近い要塞やその近くは、冬はとても冷え込んでね。
熱石はとても高価だし、薪だって無限にあるわけじゃないし、自分で拾いに行くのはとても大変。
だから、安価で熱石の代わりになるものが作れないかなと思って、それで研究を始めたの。
皇妃教育の時に習った魔法の仕組みがここで役にたったわ。
そうして、熱の魔法道具が出来たの。
彼がそれに熱籠という名前をつけてくれてね、それで街の人たちに試作品を配ったの。
彼や叔父様にも渡して、要塞でも使って貰った。
それが好評で、王都にも伝わって、今では国外へも輸出されているみたいね。
私も何人か弟子をとったわ。
どうやら火属性の魔法道具を作ることって今まで不可能とされていたみたいね。
私、知らなかったわ。
でもそのことで私、彼に胸を張れるようになったの。
それを言ったら、何故か呆れたように笑われてしまったのだけれど。
それでいきなり求婚の申し込みが殺到してね、困ってしまったわ。
知らない方からの恋文なんて、頂いてもどうしたらいいか分からなくて…。
私が困っていたら、彼がニコニコ笑いながら、それらを何処かへ持って行ってしまったの。
お返事をしなくてはと言う私に、彼はいきなり、その…求婚をしてきてね。
私、そこで彼のことが好きなんだって気付いたの。
恋していたのね。
えっと、それでね、クリス。
お父様にもご連絡して許可を頂いたから、近々正式に発表されると思うのだけれど、彼と婚約したの。
でも結婚は半年後。
凄く早いと思わない?
でも私ってほら、行き遅れでしょ?
貴女にも先越されちゃったし、早くしないとおばさんになっちゃうって思って。
貴女は祝福してくれるかしら?
なんだかとっても今、貴女に会いたいわ。
貴女は結婚して、侯爵夫人になって、私も侯爵家夫人になる予定。
やっと貴女と同じになれるわ。
ねえ、今度は私のこと、名前で呼んでくれる?
幼い頃と同じように、家族みたいに、「メル」って。
敬語も二人っきりの時は無しよ。
やっと本当の親友になれるわ。
約束よ、クリス。
貴女が約束してくれたように、私も貴女に約束したもの。
貴女の幸せを応援する、そして貴女が心配しないように、自分も幸せになるって。
ね、ちゃんと守れたわ。
それとね、もう主従ではなくなるのだから、今度は私に貴女を助けさせてね。
貴女のようにはなれないかもしれないけれど、貴女が困った時、辛い時に、貴女を支えてあげられる人になりたいとずっと思っていたの。
やっと願いが叶うわね。
辛いこともあったけど、私は今、とっても幸せ。
それを伝えたくて、貴女に手紙を書いたの。
それじゃあ、またね。
結婚式には、きっと来てね。
待ってるから。
要塞都市ホワイトクロスから、貴女の親友、メルクレア・ロックバーツより
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メルクレア・ロックバーツ公爵令嬢、後のアンクロット侯爵夫人は、魔法工学を学ぶ者らにとっては、有名であろう。
貴族にとっては、知らねば恥であると言われても過言ではない存在である。
幼少時より皇妃となる為の教育を受け、高い教養に加えて類稀なる美貌を持った、当時至高の淑女とまで呼ばれた令嬢だった。
しかし、当時の皇太子やその側近が、敵国と裏で繋がり策謀していた男爵家の庶子に惑わされたことにより、彼女は一時期社交界から姿を消した。
皇太子である第一皇子は廃嫡され、代わりにそこに第二皇子が立ち、新たな皇太子の皇妃にと求められるも、彼女は辞退した。
そして彼女は防塞都市ホワイトクロスに身を寄せ、その地で世界初の火属性の魔法道具を開発した。
彼女の功績は大きく、それを武器に他国との繋がりを強め、敵国への牽制にも大きく役だった。
これらのことから、彼女は灯火の母と呼ばれている。
彼女は敵国との戦役で見事国内に敵を侵入させることなく追いやったとして、後に国防の英雄となるガイエル・アンクロットと彼の地で結ばれた。
結婚を期に王都へ戻り、社交界に復帰した彼女の周りには多くの人が集まったが、その側には常に親友であるローゼリン侯爵夫人が居たという。
しかし、まるで侍女のように彼女の一歩後ろに立ち、彼女に悪意を持って近づこうとするものには、見る者すべてを震え上がらせる氷の笑みを送ったとかどうとか。
ローゼリン侯爵はアンクロット侯爵と共に国防の英雄となった武官であった。
それ故に、後に彼女らの子供たちが結婚し、両家の仲の良さが周知の事実となった頃、生まれた子供たちは皆、英雄の子どもたちと呼ばれるようになった。
メルクレアの下には多くの問題が押し寄せ、その生涯は決して穏やかなものではなかったが、夫を失った晩年は、娘の元に身を寄せ、静かに北方の地で過ごしたという。
そして何故か、彼らの墓の側には、それを守るようにローゼリン侯爵夫人の愛用していた暗器が埋められたという。
それはローゼリン侯爵夫人の遺言に寄るものらしい。
メルクレアは最期に微笑みこう告げたと言う。
「ねえ、私、ちゃんと幸せに生きたわ」
それが彼女よりも二年早く亡くなった彼女の親友への言葉ではないかと、それを自分の息子と聞いた娘は語った。
アンサーストーリーを投稿致しましたので、お時間のある時にお読みくださると嬉しいです。
✳︎人物紹介✳︎
メルクレア・ロックバーツ(メルクレア・アンクロット)
元公爵令嬢。後に侯爵夫人となる。
世界初の火属性の魔法道具を作った偉人。女性台頭のきっかけを作った人。灯火の母と呼ばれ、尊敬を集めた。
何処かの過保護な侍女のお陰で純粋培養な純粋無垢な子。嫌味を言うと無垢すぎて罪悪感だけが倍返しされるというある意味貴族では天然記念物並みな子。
幼い頃からの英才教育により、文句の付け所なしの淑女だった。異国から嫁いできた母から受け継いだ美貌を持つ。母は友好国の王の末妹にして現皇后の実の妹で、母娘共に皇后から溺愛されていた。それ故に皇后は婚約破棄した馬鹿息子(第一皇子)を勘当しちゃった。
夫はさりげなく腹黒な爽やか系イケメン。夫の腹黒さには一生気づかなかったとか。子供を五人産んで幸せに暮らしました。
クリスロッタ・ベルベリー(クリスロッタ・ローゼリン)
元々侍女としてロックバーツ家に仕えていた子爵家の令嬢。代々側支えをしていた腹心の家柄。
幼い頃己の主人を誘拐しようとした悪党を一人で退けたとか。(当時五才)武官の道でも栄達出来るであろうと言われていたが、主人から離れなかった。護衛もお茶汲みも出来るハイスペック侍女。
主人が婚約破棄されてすぐに関係者をボコボコにし、当時の皇后を味方につけて責任を取らせ、主人がすぐにでも王都に戻って来られるようにした。
夫とは主人を通して知り合う。主人を褒めたことから、好感度大に。
結婚しても夫〈主人。主従の契約が解かれても、事あるごとに付き従った。裏ではアンクロット侯爵夫人の犬とまで呼ばれたが、ぶっちゃけ気に入っていた。
分かると思うが、主人が大好き。大事に大事に守ってきたお嬢様を取られたせいか、アンクロット侯爵とは最後まで不仲だった。