2話、俺の眷族が優秀過ぎる件
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「はぁ、収穫無しか‥」
腹にアクアを乗っけてベッドの上へ横になる。俺の左手にはバインダーに挟まれた方眼紙があり、真っ白だった紙は二階層目が詳しく書き込まれて居た。
数日間掛けて二階層目を隈無く探したが、家に帰る手掛かり所かレアアイテムすら出て来なかった。そりゃまぁ、直ぐクリア出来るとは思わないさ。家には早く帰りたいが、無謀な事をして死にたくは無いからな。
「二階層の戦利品は硝子の瓶(小)が3個、(大)が1個か‥。しょっぱい」
アクアが俺の腹から退くのを確認し、引っくり返りうつ伏せの状態へ。アクアが寄って来るのを横目で見ながら指輪を触り、隈無く探した二階層目の戦利品を確認する。てか、結局ゴブリンはレアアイテムを落とさなかったな。
【硝子の瓶(小)、(大)】
《極々一般的な硝子で出来た空の瓶。何か液体を入れ、持ち運びに使用もされて居る》
何回見てもただの瓶。しょっぱさに俺は小さく溜め息を吐く。成るべく早く宝箱を取りながら上を目指し、経験ptを貯めないと。危ない橋は渡りたく無いけど何も出来ない気がする。
ふと、顔を横に向けると直ぐ側にはアクア。抱き寄せて頭を乗せると、うぉっ、柔らか枕。
嫌がらず、俺のしたい様にさせてくれるアクアに感謝しながら目を閉じる。が、そう言えばと指輪を触り、ステータスを調べようとタッチパネルを開く。
「最近確認して無かったよな‥」
【簡易ステータス】
【個体】志津、23歳、♂
【種族】人
【経験pt】381pt
【スキル】指輪2、打撃2、帰還、駿足
【装備】量販店の服一式、宿り木の棒、指輪
【眷族】アクア
【眷族ステータス】
【個体】アクア
【種族】無機生物
【レベル】Lv3
【装備】なし
【スキル】耐衝撃2、耐斬撃1、耐火、耐雷、水吸収、突進、触手、幸福3、忠犬、向上心1
【主】志津
【アクアから一言】
《〜〜♪〜〜〜♪〜♪【眷族】アクアはご機嫌な様です》
「アクア、明日から宝箱を探しながらpt稼ぎしたいんだ。大丈夫か?」
ぷにぷにアクア枕に顔を埋めながら問い掛けると、アクアは短い間微弱な震動をして返事をする。返事のバリエーション増えたな。てか、池に行かず此処に居て良いんだろうか?お腹空いて無いのか?
ま、腹が空いたら勝手に行くだろう。明日に向けて今日はさっさと寝る事にする。
次の日から、ある程度駆け足でダンジョン攻略を進めて行く事にする。レアアイテムは見逃したく無いので、きちんとマッピングするから少し早まるだけだ。
ただクリアした、ってだけでは味気無いし戦利品と魔物の確認も含めてお復習しよう。まず三階層目の魔物は角が生えた可愛らしい兎、外見に似合わず獰猛で油断した俺は掠り傷を負ってしまった。アクアは軽く叩きのめしてたけど。
【簡易ステータス】
【種族】兎
【レベル】Lv2、3
【取得経験pt】3、4pt
【装備】なし
【スキル】角突き、体当たり
【ホーンラビットの角】
《硬く先端が鋭利な角》
【ホーンラビットの毛皮】
《寒さに強く通気性に優れた毛皮、数が多い事から一般的な価格で取り引きされる》
まぁ、一般的な価格でとか言われても俺にお金は意味が無いからな。箪笥の肥やしならぬ指輪【収納】の肥やしだ。
んで、宝箱はあるにはあったが大した収穫は無く、具体的に言うなら多分この世界での通貨が入って居た。そりゃあ赤青緑茶黄紫黒白橙の色とりどりの通貨で、ぶっちゃけドン引きしたかも知れない。
次は四階層目の事なんだが、これは一二三階層目の魔物がオールスターで集まって居た。違いはLvが1〜3程度上って居ると言う事ぐらい。落とすアイテムも変わらなかったし、別に良いかなって思っていたら早速レアアイテムが宝箱に入って居たって言う訳。
【水魚の卵】
《数百年生き、生涯に一度卵を産む水魚と言う魔物の卵。戦闘能力は欠けるが見目が麗しく、人間の王族等が飼育する場合がある。発見数が限り無く少ない為レアアイテム》
【お知らせnew】
《レアアイテム【水魚の卵】を入手しました。ダンジョン探索をすると極稀に魔物の卵等レアアイテムが入手出来る場合があります。それ等は育てると【眷族】に出来ます、詳しくは‥‥》
久々のお知らせに俺は驚きつつ、しっかりと水の珠に入った水魚の卵を宝箱から取り出し指輪に【収納】する。そうか、レアアイテムだけじゃ無くて魔物の卵を俺自身が育てる事によっても魔物を【眷族】に出来るのか‥。
マッピングが終わり、次の五階層へ上がるとそこはだだっ広い大広間。何だ此処は?アクアと顔を見合わせて居ると、突如大きな咆哮がビリビリと空気を震わせた。
「き、帰還で!」
真っ黒な霧の様な物が広間中央に集まって来て、朧気な姿が段々と明確な姿へと変わって行く。多分、コイツはダンジョンで言う階層ボスなのかも知れない。
【スキル発動→エラー】
《スキル帰還が発動されません。この場所で特定のスキルを使用する事は出来ません》
「なん、だと‥!」
準備もして居ない今、コイツと戦うのは流石にヤバイかも、とアクアを抱き上げスキル宣言するもエラーで帰れ無かった。その間どんどん黒い霧は肥大化して行き、体長4〜5mの狼?へと変貌して行く。
グルルルッと威嚇する姿は正しく獣のそれで、目を離し隙を見せればこの距離は一気に詰め寄られてしまうだろう。四階層目の階段までは距離が離れて居て、狼に背中を見せるには距離が近過ぎる。正しく八方塞がり。
「‥‥困った。取り敢えずアイツのステータス表示」
【簡易ステータス】
【種族】狼
【レベル】Lv??
【取得経験pt】???pt
【装備】なし
【スキル】??、?、?、?????、?????
意味無かった。全く意味無かった。何でこんなに疑問符だらけなんですか?最近の魔物も個人情報を気にしてるんですかね?って、そんな訳あるか!と心で一人ノリツッコミしてしまう。
「! ‥くそっ」
一瞬気が逸れたのを感じたのか、狼は鋭い爪を掲げて飛び掛かって来る。今回は運良く横に飛び退いて逃れるも、何回も来られたら反応出来ないかも知れない。体力に限界がある、武器も木の棒のみ、帰還出来ない‥‥ヤバイな。
余計近くなった狼との距離を気にしつつ、何か無いか何か無いかと思考を巡らせる。不意にアクアが俺の腕から地面へと降り、そのままじわじわ薄く薄く伸びて行く。
「したい事は分かったけど、上手く行くか‥?いや、行かせるしか無いか」
アクアをそのままに、俺は木の棒を狼へ構えゆっくりジリジリと後退して行く。狼は全くアクアに興味が無い様で、俺が下がれば狼もジリジリと前へ詰める。
狼は鋭い牙を剥き出しにし、スッと獲物を狩る為の前傾姿勢へ。俺は汗で滑らない様に強く木の棒を握り直し叫ぶ。
「来いっ!」
大口開けて飛び掛かって来る狼、俺は何とか木の棒をつっかえ棒に鋭い牙の餌食になる事を防いで居た。巨体にのし掛かられて居るんだ、俺の体力は明らかに目減りして行く。尽きたら最後、気力を振り絞り耐える。
狼の後ろに見えるのは、さぁ来い!と言わんばかりに極限まで薄く伸びたアクア。これで駄目なら死ぬだけだ、と最後の悪足掻きに似た力を使い両足の裏を狼の胸へ付け蹴り飛ばす。
「アクア、頼むっ!」
突然の事に対処出来なかった狼は簡単に蹴り飛ばされ、背中からアクアへと突っ込んで行く。すると待ってました!と言わんばかりに狼を包み込み、何て言うか、取り込んでしまう。
それから狼は凄まじい咆哮を上げながら暴れ狂った。殺さねば殺される、可哀想だ何て思わない。俺は真相を知らずに死にたく無い。体力の消耗が激しく、荒く肩で息を吐きボトボトと落ちてくる汗を拭いながら狼を眺める俺。
「はぁ、っは、は。終わった?」
段々と普段の大きさへ戻って行くアクア。狼を取り込んだ、で良いのか?良く分からん。アクアに問い掛ければ褒めて、と言っているかの様に俺へ近寄り擦り寄ってくる。
本当、アクアが居なければ俺は死んで居ただろう。下の階層の敵が楽に倒せるからって、警戒心を解き過ぎた。反省。
有難うを伝えるなら、とアクアを抱き上げ優しく抱き締める。するとアクアは小刻みにプルプル震え出し、俺は微笑む。
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