11話、守る為のLv上げです
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魔物の肉、魔物の肉、魔物の肉。この階層はオークとゴブリンが沢山徘徊して居る。何気無く見てみたら、指輪に【収納】した数が100を超えた。
肉食系の魔物を【眷族】に出来たら、悩む事は無いだろう。いや、産まれて来る羊の魔物達が嫌がるかね。グダグダ考えながらも貧乏性な俺は、きちんと【収納】するけど。
「む、漸く階段。ムキムキエリアからはさっさと脱出するに限る」
こんな暑苦しい場所は、例え経験pt稼ぎに最適だとしても留まりたくない。皆が俺の呟きにこくこく、と首を上下に振ったのを見て直ぐ階段を上り出す。階段を上がれば追い掛けて来ないのは階層ボスだけなので、心持ち早足。
階段を上がった先の28階層目は、湿原地帯と言った所か。先程より気温は下がって居るが、湿気は沼地がある分こちらの方が高い。しかも地面は水気を含み、ぬちゃぬちゃと音を立てる。
辺りを見渡すと全体的の地面がそんな具合で、俺は溜め息を吐く。まぁ、8階層で使った長靴があるから良いとしよう。長靴を【収納】から取り出し、スニーカーから履き替える。
「中々楽に経験pt稼げる魔物が居ないな。欲を言うなら、皆をLv20辺りにしたい」
早々簡単には下の階層へ行けなくなった訳だし、やはり上の階層で探さないと‥。そんな事を思いながら、比較的水気を帯びた土、つまり泥の無い場所を歩いて行く。
湿り気の帯びた足音だけがこの階層に響き、何の為の湿原地帯なのかと首を捻る。嫌がらせ?いや、それにしては随分手が込んでる。
「ここに魔物が居るとしたら、湿原地帯をフルに使った魔物だよな。動物、虫、魚、鳥、泥があるか‥、うわっ!」
言い終わる前に、俺は何かに躓いてしまう。幸いな事に転ぶ事は無かったが、転んだら全身泥だらけになるのは確実。ふと足首に違和感があるので見てみると、手首が生えて居る。
もう1度言おう、手首が生えて居る。それは泥の色と同じく、がっしり俺の足首を掴んで離さない。フランベルクを【収納】から取り出して装備、そいつを突っつくと慌てて引っ込む。
何なんだコイツ!
さぞ俺とアクア達の心が1つになった事だろう。だが一体感に浸る時間は無く、泥の手首が引っ込んだのを皮切りに、至る場所から人の形をした泥、先程の泥手首が出現する。
「皆、汚れるだろうけど俺等には風呂がある。頑張って行こう。ってか終わったら帰ろう!」
時計が無いので時間は分からないが、小腹が空いたから結構時間は経って居るだろう。探索に時間の掛かる様になって来たし、余り無理しない程度の探索で切り上げるべきだ。只でさえ俺はLvが上がらない、魔法も使えない異世界人。
アクアは直ぐ様、スキル擬態で狼アクアへ。青月と3姉妹は飛び上がり、上からMP関係無く全力支援。シオは真白に頼んで、真白は戦況を見てどう動くか自分で考えて貰う。
ぐねぐねと人間なら有り得ない動きをする泥人形、絶対攻撃が当て辛いであろう泥手首。取り敢えず、先ずはステータス確認だな。
【簡易ステータス】
【種族】無機生物(泥人形)
【レベル】Lv21〜30
【HP】226〜384
【MP】0/0
【取得経験pt】22〜31pt
【装備】なし
【スキル】土吸収、水耐性、泥飛ばし、ぶん殴り
《空の魔法石に何かしらの魔力が宿り、動き出した泥人形。攻撃力は余り無い》
【簡易ステータス】
【種族】無機生物(泥手首)
【レベル】Lv19〜28
【HP】181〜297
【MP】0/0
【取得経験pt】20〜29pt
【装備】なし
【スキル】土吸収、水耐性、鷲掴み、分裂
《空の魔法石に何かしらの魔力が宿り、動き出した泥手首。攻撃力は余り無い》
余り高く無い攻撃力、大量に出て来る魔物、HPが低い、そして何よりアイテムドロップは空の魔法石だと匂わせる説明。これはもしかしなくてもカモだ!
「全力で倒す!よっ、あ、あれ?感触が‥、ぶっ」
俄然やる気の出て来た俺は突きの構えを取り、手近な泥人形へ向かうと思いっ切り突き刺す。だが思ったより突き刺した感触が軽く、驚いて居ると反撃を食らった。
たっ、確かに攻撃力は低い様子。これがスキルにあるぶん殴りだと言うなら、叩かれた程度の痛みしか無い。慌てて辺りを見ながら距離を取り、泥の付いた頬を拭う。
気合いを入れたと言うのに恥ずかしい、フランベルクを構え直す。皆は簡単に楽々倒して居るので、弱点とかあるんだろうか?
「突きが駄目なら斬ってみるか」
これで駄目だったらヒートソード装備でもう一回、って手もあるからな。皆ばかりに負担を掛けられない、素早く泥人形に近付き腕辺りを今度は斬ってみる。
するとそこから先は只の泥に変わり、重力に従って地面へと落ちる。その場から離れてHPを確認すると減っている事から、この戦い方は当たりだと確信。
新しく斬った場所が再生する、何て事は無いので後は只のお掃除。
「はぁ‥、疲れたね」
無限湧きかと思えた泥の魔物もパタリと出現しなくなったので、最大出現数を倒したらしい。スライム部屋と原理は同じだろうが、さっぱり分からない俺にはどうでも良い事だ。
一息吐きながら、フランベルクを【収納】して辺りを見渡す。青月と3姉妹は上手く避けたらしく、俺の様に泥は一切付いて無い。狼アクアとシオは少し汚れてる程度、真白は汚れが目立つので余計に汚れて見えるのかも知れない。
気を抜いて泥手首に足を掴まれ、1度派手に転けたのは内緒。皆を労いつつ狼アクアの側に行くと、何か光りにキラキラ輝く物が落ちて居る。
「おっ、やっぱり!」
丸い硝子の様で、直径3cm程の大きさ、数は少ないけど正に魔法石!空だから入れて貰わないと使えないが、これを沢山集めれば俺も遠距離攻撃が出来る。戦略の幅が広がるのは良い事だ。
嬉々とした表情を浮かべながら皆で拾う。やはりアクアのスキルが効いて居るのか、アクアの周りに集中して居る。俺が戦っていた場所には、残念ながら1個しか無かった訳だし。
泥の魔物は数えて居ないから分からないけど沢山倒し、手に入れた空の魔法石は7個。上々だな。
念には念を入れ、14階層で手に入れた数を合わせて50個は欲しい。暫くここでLv上げとアイテム集めをする事にし、皆のステータスを確認する前に「ホーム」へ帰ろうと思う。
羊魔物の卵が孵化するのも時間の問題だろうし、何より皆を泥だらけにして置けない。アクアの擬態を解かせ、皆を真白の背中に乗せて俺も触る。
「帰ったら何があろうと皆風呂に直行だからなー、帰還!」
【スキル発動】
《スキル帰還が発動されました。ホームに帰還します》
相も変わらず一瞬視界が歪んだと思えば、もう「ホーム」に到着。ベッドに置いてある卵は遠目から見ても変化は無く、ホッと安堵の溜め息を吐きながら逃げ出そうとする真白を捕まえる。
《ましろ、おふろはいるの!ますたーこまらす、めっ》
青月は俺の頭、シオと3姉妹は先に風呂へ。3姉妹が居るから溺れる事は無いだろう、多分。真白と攻防を繰り広げて居ると見兼ねたのか、アクアからの支援を受けた。全長30cm位の小さなアクアに怒られて居る真白。
うーん、シュールだ。
泥が中々落ちず苦労したが時間を掛けて落とし、皆も丹念に洗ってやり風呂で温まって出る。
《ほかほかー。みんな、ますたーとはいるおふろたのしいって!》
「そりゃ良かった。ほらシオ椅子に座れ、ご飯食べるぞ」
髪や身体を拭くのに一悶着しつつも、無事に皆がテーブルへと着く。あ、真白は本人の希望を尊重して森に返却した。意外にも風呂を気に入り、浸かって居る姿が湯治に来た競争馬にしか見えなかったのも内緒。
上機嫌でみょいんみょいん伸び縮みして居るアクアに癒されながら、俺は指輪を操作して自分とシオ、3姉妹の食事を用意する。アクアと青月には何もあげられないが、仕方無いと割り切ろう。
さて、お行儀が悪いけれど食べながら【お知らせnew】を調べるか。Lvを上げて、探索して、地上を目指すのも良いが如何せん情報不足。そろそろ本格的に調べてみるのも良いかもな、自分で検索ワードを考えるのは難しいけど。
【お知らせnew】
《【個体1】アクア
【レベル】Lv20→21
【HP】391→402
【MP】58→61
【個体2】青月
【レベル】Lv17→18
【HP】156→164
【MP】204→213
【個体3】シオ
【レベル】Lv11→12
【HP】158→163
【MP】57→60
【スキル】new水掌
《手の平に水を集め、そのまま殴る水属性の物理攻撃》
《【個体4】シルス、リリム、カリス
【レベル】Lv16→17
【HP】216→225
【MP】375→389
【個体5】真白
【レベル】Lv29→30
【HP】436→447
【MP】389→411》
む、スキルを覚えたのはシオだけか、中々覚えないな。Lvや経験、その他諸々が条件なら仕方無いかな。仲間が多いのだから、それぞれの長所を生かして全員で補い合えば良い。
一応これで終わりにし、パネルを閉じて夕飯を食べる事に専念する。ふと急に、聞いてみたい事が出来たのでアクアに聞こう。
「そうだアクア、アクア達って進化するのか?」
《む?しんか?むー、あくあとしるす、りりむとかりすはしんかできるよー》
「え?マジで?」
《まじ!》
食べ終わった食器を片し、慌てて指輪のパネルを開いて調べる。すると、結果には【進化についてnew】の項目。アクアを疑った訳じゃないんだけど、本当にそんなのがあるんだ。
ざっと目を通すと、進化するにはLv100以上無いといけない。ステータスによって何に進化するのか分からない、と書いてあった。俺達には余り関係の無い話だったかもな。
お腹一杯になって舟を漕ぎ始めて居るシオをベッドに移動させ、アクアを枕にして自分も中に潜る。青月と3姉妹は泉、花のベッドに帰って貰う。卵があるから少々狭いが、寝るだけには不便無し。
「なぁ、アクア」
《む?》
「アクア、俺と一緒に居て嫌じゃないか?命の危険がある訳だし」
《ますたー?ますたーは、あくあたちのおとうさん!ますたー、あくあたちかぞく。かぞく、いっしょ!いっしょ、しあわせ!》
折角話せるのだから、寝る前に少しアクアと話す。色々目を瞑って居た部分もあるから、1度がっつり話し合う必要もあるかも知れない。む、難しい。
思って居た事を話せば、アクアは拙いながらも必死に言葉を紡ぐ。軽率な発言だったかも知れないな、不覚反省しよう。そして【眷族】達へ最大限の感謝を。
「アクア、有難う。お休み」
《ますたーおやすみー》
嬉しそうにぷるぷる震えるアクアを頭に感じながら、俺は瞼を閉じる。やっぱり可愛いな、癒されるし。と言うか、まだ震えてる。気にならない程度、むしろ気持ち良いから構わん。
考えを止めると直ぐ睡魔が襲って来て、意識を手放す。そう言えばアクアは寝るのか聞くの忘れた。
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