10話、フラグ建築資格保持者
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「真白さん、何だかヤバそうなんですけど」
音に気付き、後ろを振り向くと真白だけが視線を逸らす。アクアは俺の前を歩いて居るし、3姉妹は俺の周り、青月は俺の頭に乗って居る。だから後ろで音がするのは、真白が何かを踏んだから。
途端にダンッ!ダンッ!と、大きな音がこちらに向かって来る。上から下に物を落とした様な、足下にすら鈍く響く音。
「逃げる!」
満場一致。俺は振り向いた身体を進行方向へ戻し、飛び込んで来たアクアを抱き締めながら走り出す。きちんと着いて来ているのを蹄の音で確認しながら、後ろから迫るダンッ!ダンッ!と言う音に内心焦る。
何処か部屋があればそこに逃げ込んで、どうにか罠をやり過ごしたい。と言うか、最近追い掛けられるのが多くないか?嬉しく無い事実に気付いてしまった。
直進して居ても何れは十字路、T字路に当たるのは当たり前で、俺達が引き当てたのは行き止まり。盛大に舌打ちしたい気分になるけど皆の手前、やらない。アクアも青月も3姉妹も、このまま純粋に育って欲しい。
「どうした物か」
時間は余り残されて居ない様に感じた。然程早くは無いが、確実に音は迫って来て居るのが分かる。
何か無いか、と視線を巡らせるもこれと言った収穫は無し。追い詰められると己に隠された勇者の力が覚醒する‥、何て事は無く。どんどん焦りが募るだけ。
「ひっ」
ガコンッと大きな音が辺りに響き渡り、一瞬の浮遊感。一体全体何が起こったのかを確認する術も無く、重力に従いカパッと足下に開いた真っ暗な穴へと俺達は落下して行く。
えーと、えーと、どうすれば良いんだ!俺が少し考えて居る間にも、物凄い勢いで落ちて行く俺等。青月と3姉妹は飛べるから、落ちると言うより追い掛けて来て居るって感じ。
「しっ、下、下ぁぁぁぁっ!」
不意に薄暗い落下道から、光が降り注ぐ明るい場所へ投げ出された。あぁ、下の階に落とされる落下トラップか。そんなちぐはぐな事を考えながら、俺等が落ちる場所を予測する。
上手く行けばオアシス、下手すれば砂。どちらもこの高さから叩き付けられたら皆は防御力があれば大丈夫だろうが、ヘボい俺はきっと無事では無い。
ギシャアアアアアッ!
何か知らないけど、デカいデザートワームが口開けて待ってる!どうすれば良いのか、考えてる暇も無い位近付くと俺はフランベルクを【収納】から取り出し装備。
「ひぃぃぃぃぃっ」
石壁に突き刺すよりは楽にフランベルクが刺さる。デザートワームが俺等の落下点を見誤ってくれた様で、鋭い牙に戦々恐々ながらも皮膚にフランベルクを突き立てて勢いを殺す。
まるでアニメや漫画の世界みたいだ。と思ったけど、ファンタジーの世界に来てるのでそれは言わない約束。
傷口から噴き出す変な色した液体に塗れながら、勢いが殺せた頃合いを見てフランベルクを【収納】。地面にはまだ距離があり、不様に尻から着地して痛かったが、デザートワームが物凄い怒ってるので直ぐ様離れる。
「真白も同じ様に着地か、無事で何より。アクア、宜しくな」
少し離れた場所に青月、3姉妹、真白の無事な姿を見て安堵の溜め息を吐く。俺とアクア、皆から距離が離されてしまったけどまぁ良しとしよう。
腕に引っ付いて居たアクアを砂上に降ろすと、分かってると言わんばかりに直ぐ狼アクアへ擬態する。頼もしい限り。フランベルクをまた【収納】から取り出し装備。
「HPは半分位、良し」
指輪を弄りデザートワームのHPを確認、結構あれで削ったんだな。未だ治まらない心臓に苦笑しつつ、特攻あるのみ!と砂を蹴る。
いつも通り、物理メインの俺とアクアが特攻。遠距離、魔法支援メインの青月と3姉妹が後方で状況を見ながら撹乱。そして今回、万能ユニコーン真白が居るから捗る事この上無い。
「っし、最後!」
デザートワームに青月が尾剣を食らわせてHPを削り切り、デカブツは霧散。褒めて欲しそうに擦り寄って来た青月を撫で、皆を集めて習慣となったHPMPを指輪で見る。
大丈夫だな。ホッと一息吐きつつ、ステータスパネルを消す。今の戦闘で【お知らせnew】があったけど、こんな敵の真っ只中で確認する馬鹿じゃない。
「2階層落ちたのか‥」
そそくさと階段を目指しながら、俺は染々呟く。そりゃあれだけの高さだ、色々と考えてる時間もあるか。階段まで行く道に数体のサンドワームが出たが、本当に倒すのが楽になった。
んで、また23階層目。泉で遊ぶ皆を視界に入れながら、俺もひんやりする泉の水に足を浸ける。取り敢えず指輪を弄り、パネルを開くと【お知らせnew】の項目をタッチ。
24階層の罠をどうしようか、そればかりが頭の中を占める。閃いたり、機転を利かせる、何て俺には難しい。唸って居ても仕方無い、画面を見るか。
【お知らせnew】
《成長の兆候があります。
対象→【眷族】シオ》
「い、今?だが喜んで!」
手詰まりな俺に朗報、とまでは行かないけど何か新しい進展があるかも知れない。それに、我が子の成長は喜ばしい物だ。携帯さえあれば写真を撮りまくっただろう。
そう言えばスーツ一式は持って来れたのに、持って居た筈の家の鍵や財布は無かった。残念過ぎる。
急いで皆を集め、直ぐ様【帰還】スキルで「ホーム」に。シオを探せど辺りには居らず、泉の中に居ると推測して青月に頼む。
「青月、水の中を‥、中を‥」
泉の縁に行き喋って居る最中、ヌッとアザラシの皮を被った小さな女の子?が顔を出す。隣に居た青月が上機嫌でその子の側へ行き、くるくると辺りを泳いで居る。
いや、分かるよ。この子がシオ何だろうって。大丈夫、分かってる。だけど帰ったらいきなり成長した姿とご対面、ってのは驚くから仕方無い。
「シ、シオー‥ぐふ」
俺が呼べばニパッと満面の笑みを浮かべたシオが立ち上がり、嬉しそうにタックル。勢いがあったので、鳩尾直撃した俺は少しばかりの悶絶タイム。
カリスに癒して貰って事なきを得た、ふぅ。
落ち着き、皆で集まって今後の対策でもしよう。俺の話より皆の話の方が良かったりするもんな。その前に、俺の足の間でご満悦なシオの【眷族】ステータスを確認。
【眷族ステータス】
【個体】シオ
【種族】胡麻斑海豹
【レベル】Lv2
【HP】80/80
【MP】24/24
【装備】胡麻斑海豹の皮
【スキル】親愛、泳ぎ、潜水、new水吸収、new水の踊り、new水刃、new危険察知
【主】志津
【シオからの一言】
《シオ、おとな!しず、シオつれてって!おいてかないで!》
【スキル説明】
new水の踊り(消費MP12)
愛らしい踊りで水属性強化。水属性の敵味方ステータス1.5倍up
new水刃(水属性攻撃)
空気中の水分を集め、刃状にした物を敵に放つ
new危険察知
野生の勘が生き残る術
あ、罠だらけの24階層を攻略出来るかも知れないって思った。置いてかないで、と言われてもHPの低さで連れ歩くには尻込みしてしまいそうだ。
でもこの一言は心の声。我が儘を言わない良い子にして居ても、ずっと来たかったに違いない。ニコニコ愛らしく笑うシオの頭を撫でながら、悶々と考える。
「え?あ‥、うん」
アクア、青月、3姉妹が俺の前へ来てピョンピョン跳ねたり自らの胸を叩いたり。真白は我関せず、って感じだけど。良し、皆で行く方が良いよな。
「シオ、シオの力が必要だ。危なくなったら逃げて良い、着いて来てくれ‥げふっ」
アクア達を見渡し小さく頷き、シオと向き合い語り掛ける。シオの表情は嬉しさで輝き、俺へ喜びのタックルを鳩尾に食らわせてまた俺は悶絶。スキル欄に突進を追加した方が良いんじゃないか?
今日はそのまま探索は終了、明日に持ち越す事に。砂やら汗やらを流す為に風呂何だが、シオは女の子の様で、女の子仲間の3姉妹にバトンタッチして俺は先に入る。
真白は神秘的な木々が気に入ったらしく、木々の中に入るや否や爆睡。風呂から上がり、お食事タイムなのでいつも通り天丼セット、シオに刺身盛り(小)、3姉妹にスライムの核を渡して頂きます。
「シオ、フォークの使い方上手。醤油は‥、気に入らなかったか」
まぁ、フォークは握ってぶっ刺して食べるだけ。楽なんだろうけど、醤油を一舐めしてしかめっ面。醤油はしょっぱいからな、シオはお気に召さなかった様だ。
食べ終わった食器を消し、明日の為にも早く就寝。
起きて俺だけ飯を食べ、準備を終わらせるとシオを抱き上げ真白の上に乗せる。嫌々ながらもやってくれる辺り、意外に面倒見が良いのかも知れない。
「青月、真白、シオの事を宜しく頼むな?」
すりすり、青月が可愛らしく俺に擦り寄って了承。真白はジト目でこちらを見るけど、心良い了承と勝手に取ろう。嫌がるなら乗せたりしないだろうし。
俺とアクアと3姉妹で戦い、24階層になったらシオのスキル危険察知を使う。うーん、シオが先頭に立つ事になるから役に立たない俺はハラハラしそうだ。
ささーっと階段を上がり22階層、安全に行きたいから壁伝いに行こうと思う。だけどやはり見付かるから仕方無い、フランベルクを【収納】から取り出し装備。
「んー‥、攻撃あるのみ!」
あのデカいサンドワームはまだ復活して居ない様で、一同ホッと一息吐く。さっさとサンドワームを倒し、次の魔物が出て来る前に階層を上がろうと移動。
距離があるからか、数度戦闘して階段へ。そろそろだと思うけど中々Lv上がらないな、残念。そしてシオに砂漠は暑過ぎたらしく、少しグッタリして居る。
「暑いのはもう終わりだから、次から涼しいよ」
声を掛けながら23階層目。ひんやりとした空間に皆も、少し元気を取り戻した様だ。身体に籠った熱を無くす迄、ちょっとだけ休憩。因みにシオの服は全てが胡麻斑海豹の皮で、例えるならば着ぐるみ服かな?
「さて、次が難関。早めに行ってクリアしちゃおうか」
涼しくなったので、ピクニック気分の休憩終わり。泉で仲良く遊んで居た皆を呼び戻し、早速次の階層へ行く階段を上り始める。
前回は暫く歩いても罠に掛からなかったが、階段の出入り口に差し掛かった所、直ぐ様シオが真白から降りて通せんぼ。成る程、前回はただ運が良かっただけらしい。
「印を付けたい?クレヨン、いやチョークの方が良いか?」
シオの動作で推測すると合っていたらしく、嬉しそうに表情を輝かせる。俺は指輪を弄り、悩みながら【経験pt⇔交換】でチョーク(白3本1pt)を取り出す。
チョークを受け取ったシオは任せとけ!、と決め顔をして作業に取り掛かった。罠であろう石畳の周りに大きく○を描き、それを指差して次にしかめっ面をして両手を×にクロス。
落とし穴に落ちた俺達に確かめよう、何て強者は居ないから安心だ。胸を張るシオの頭をわしゃわしゃ撫で、探索続行。
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