7話、貴方の為なら貢ぎます
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「何だ此処は‥」
十四階層、階段の出入り口付近で俺は頭を抱えた。思わず口からポロッと呟きが漏れてしまったが、誰も俺を非難出来ないと思う。
物凄くだだっ広いだけの空間で、遥か彼方の方に視線を向ければ微かに上へ行く階段が見える。そして数十歩先には1つの看板。罠か?罠なのか?と疑ってしまうのも無理は無い。
取り敢えず行かないと話が進まないからな、一応警戒体制を取りながら進む。看板の元へ着き、何か書いてあるのが分かる。
「ほ、ほも?‥‥ほも、つ、こー?あ、ああ、宝物庫1か」
看板の文字は何歳児が書いたんだ!と言いたい位に汚かった。蚯蚓が這った様なあっちへ行ったりこっちへ行ったり全体的に字が震えてるし、全部平仮名で書かれて居るのも問題だ。
何故に日本語で書かれて居るのかは分からないだろうからさて置き、何処をどう見たら宝物庫に見えるのか。
「続きが書いてあるな‥」
何々【此処は宝物庫です。侵入者対策に人避けのトラップが掛かってます。人には広いだけの部屋にしか見えません。クリアするのは難しいかも?取り敢えず、どんまい!】‥‥何で最後は投げ遣りなのかね。
侵入者には死の鉄槌を、位は書けなかったんだろうか?まあ良いとして、読み終わった看板は砂が崩れる様に消え去った。
宝物庫も気になるけど、人避けのトラップが何か気になるな。字体では軽かったからそんな感じは無さそうだが、即死トラップだったら‥‥、考えただけでも怖いな!
「何処ら辺に罠があるか分かんないし、適当に歩けん‥」
はぁ、俺は思いっ切り溜め息を吐く。一難去ってまた一難があってるかなー。取り敢えず立ち上がり、恐る恐る一歩一歩と歩き出す。アクア達には危ないので俺の後ろから着いて来て貰ってる。
「〜〜〜〜っ!」
あ、大丈夫じゃね?と気が緩んで来た途端、身体全体を何か硬い物にぶつけた痛みを感じた。主に額をガツッと勢い良くぶつけた様で、思わず涙目になりながら額に手を当て蹲る。
アクア達がいきなりの事に慌てた様子が分かり、痛みを我慢しながら大丈夫だと伝える。優しいカリスが癒し魔法を掛けてくれた。あ、ありがたやー!
「ん?見えない壁」
落ち着きを取り戻し、先程ぶつかった場所に触れるとひんやりした壁の感触が俺の手に伝わる。見えない壁だろうか?分からん、思わず首を捻る。
俺の余り無い頭で頑張って考えて居ると、ちょんちょん、アクアに服を引っ張られた。そちらに意識を向ければ、全員が同じ方向に指を差す。
「え、皆は道が分かるの?」
こくこく。
何てこったい。俺だけ通り道が見えないらしい。皆に問い掛けると頷かれ、俺は少しばかり落ち込む。ん?待てよ、道見えないのが俺だけ?確か、人にだけって書いてあった様な‥。
俺=人、皆=魔物。もしかして、人避けのトラップって人にだけ作用する物かな?でも、警戒は怠らない様にしないと。
俺には何も見えず、案内して欲しい旨を伝えると皆が一斉に頷く。一部ぷるっ、て震えてたけど。アクアが先導して道筋を教え、青月と3姉妹は俺の両隣で壁に衝突しない様に気を付けて貰って居た。
「他の罠が無いか気を付けろよー‥、んん?!」
広間の中頃まで歩いた時、元気印のシルスが先導して居るアクアを追い越して飛び回る。諌めるお姉さん立場のリリムも慌てて追い掛け、俺は直ぐ様声を掛ける。
するとシルスとリリムの姿が消え去り、吃驚。追い掛け様とするもアクアに止められ、青月とカリスと待って居る様に言われた。確かに見えない俺は足手纏い。
向こうの壁や上がる階段は見えるのにアクア達が行った方向に目を向けても見えない、不思議だ。手探りで壁を探し、その場に背を預け座る。
「心配だけど、エースアタッカー居るし大丈夫かな?」
ぽつり、小さく呟いた俺の声に分からなかったのか青月とカリスは首を傾げる。そんな仕草が可愛らしく、頬を緩ませると2人の頭を撫でくり回す。
皆は大体魔力で補うので喉の渇きは無いらしい、俺は指輪【収納】から前に入れっぱなしだったスポーツ飲料水を取り出すと一口煽る。本当、この収納は便利だな。
それにしても、3人組は何処まで行ってるんだ?連れ戻すだけならそんなに時間は掛からない筈、少し心配になってきたな‥。
「俺等も行ってみるか?壁伝いに行けば大丈夫そうだし」
アクア達は左に曲がったから、この壁伝いに行けば言い筈。立ち上がり青月とカリスを肩に乗せゆっくり歩くと、目の前を何か早い物体が飛んで来た。驚きながらも目を凝らせばリリムで、手には何か光る物体を持って居る。
そこから俺は置いてきぼりタイムとなり、青月とカリスが2人で話して居る様子。そしてついには本当に置いて行かれ、ちょっと泣きそうになった。
「皆何処行ったー‥」
はぁぁぁ、と盛大に溜め息を吐き壁を背にしてその場に座る。皆を追って彷徨きたいが、迷子になるのは目に見えて居るので我慢。
仕方無いので指輪を操作してタッチパネルを開き、暇を潰そう。経験ptの残りは1162ptか、次の階層で「ホーム」移転してもある程度は生活出来るな。
【お知らせ】も目新しい情報も無いし、つまらん。早速暇潰しが無くなり、立ち上がろうとする。
「なん‥‥、何だ!」
ゴリゴリゴリゴリ、何か硬い物同士が当たる様な引き摺られて居る様な音が聞こえ、視線を向ける。二度見をした俺は悪くない。
俺を置いて何処か行ってしまった皆が帰って来た、別にそれは嬉しいから全然OK。寧ろ帰って来なかったら本気で泣く。
問題は皆が持って帰って来たもので、俺の目が正しければ財宝的な何かだと思うのだが‥。まぁ、此処は宝物庫って看板にも書いてあったし良いんだけど。
「俺も連れてって欲しかった」
皆が言うには、財宝も見えないんじゃないか?って事で、誰が1番俺が喜ぶ物を持って来れるかの戦いになったらしい。当の本人は放置ですか、そうですか。
でも皆子犬みたいな純粋な目で俺を見て、怒るに怒れない。怒るつもりも無いけど。取り敢えず、宝の重さで必死に超低空飛行してる青月を助けよう。
「大丈夫か青月、有難うな」
口に咥えて居たピアス、2本の首飾りを受け取り青月を撫でた。とても嬉しそうに青月から頬擦りされつつ、俺は3つの宝石をまじまじと眺める。
ピアスは水晶みたいな丸っこい石が付き、首飾りの1つはカメオ、もう1つは中世の女王とか着けて居そうな感じの代物。早速ワクワクしつつ指輪機能で調べてみた。
【白水晶のピアス】
《地底湖の中にだけあると言う、白水晶を使ったピアス。精神系の攻撃を肩代わりし、許容量を越えると壊れてしまう》
【天使のカメオ】
《愛らしい天使の彫刻が彫られた瑪瑙で出来たカメオ。無名の彫刻家の作品だが、芸術品として価値は高め》
【断頭女王の首飾り】
《色とりどりの宝石が埋め込まれた豪華な首飾り。これを着ければ必ず首を狩られる末路を迎える。呪われたレアアイテム》
‥‥首飾りは何も言わずにそっと指輪【収納】へ。天使のカメオも可愛いんだけど、今の俺には価値が無いから此方も【収納】。白水晶のピアスは高校時代、泣きながら開けた場所へと着ける。
少しは強くなって来たと思いたいが、魔法系に俺は無防備にも程があるからなぁ。スキル、装飾品、味方の補助に頼るしか無いだろう。髪も伸び、チャラくなって来たけど有難い。
青月の次は3姉妹で、3人で一緒に麻袋へ沢山の光る物体を詰め込んで持って来た。それは俺が放置された時にリリムが持って居た物と同じで、直径3cm程の大きさ。
「これは‥‥、おぉ!」
【空の魔法石】
《何も魔法を入れて居ない空の魔法石。魔法使いに魔法を入れて貰わなければ意味無いが、魔法の使えない冒険者に重宝されて居る。一度使用すると壊れてしまう》
このアイテムを見た途端思わず歓声を上げてしまうのも無理は無く、これはマジで俺等の生命線になるかも知れない。頭に青月を乗せ、3姉妹は胡座の上に乗せて頭を撫で撫で。
数は18個、何個か「ホーム」に帰ったらカリスに回復魔法を入れて貰おう。後は強い魔法を覚えるまで大事に【収納】だな。
「次はアクア‥、ってまたか!」
何だか重そうに身体を引き摺りながら、此方へ来るアクア。随分昔と同じくブルブルブルブル震え、アクアの身体に割れ目が出来ると一気にソレは吐き出される。
直径30cm程の体長しか無いアクアの何処に入って居たんだ、と我が目を疑う位の財宝からガラクタまでが吐き出された。どれだけ体内に入れて居たか。
「アクアの身体に合わない吐き出し量、不思議だ」
生命の神秘を目の当たりにしながらも、皆で使えそうな物を分別する。小さな花ビーズで出来た指輪は3姉妹へ、いやいや頑張って貰うのは嬉しいけど、俺が可愛らしいテディベアを持ってたら笑えないよ青月。
結局指輪に【収納】してしまうが、麻袋に使わなそうな物を入れて【収納】すれば一々スクロールしなくて済む。時間にして1時間程度、価値がありそうな物は5つ。
【完全自律人形】
《繊細な技術で作られた美しい人形。心臓なる核、魂が足りず動く事は無い。雌雄は魂にて決まるらしい》
【水竜の逆鱗】
《淡い水色に透き通った水竜の逆鱗。手に握って水の中へ入ると息継ぎの必要が無くなる。武器、防具の素材としても優秀》
【フレイムソード】
《刃の部分に炎が渦巻く剣。攻撃力+75、稀に燃焼効果》
【生命の指輪】
《樹齢1000年を越えた生命の大樹から削り取って作られた木製の指輪。HP+50》
何かの役に立つかな?ってだけなので一応個別に【収納】するだけ。んで、5個目がマジでチートアイテム!これを宝の山から見付け出した時、思わず二度見しちゃったからね。
【スキルLv1upの実】
《最果ての地にある世界樹の実を収穫、食べやすい様に加工した物。実は栄養価が高く、自身の潜在能力を高めてくれる幻のレアアイテム》
残念ながら数は1つしか無かったが、俺達のスキルLvを上げられるのは嬉しい。3姉妹の魔法か俺の指輪スキルか、考え抜いた末に俺の指輪スキルに決定。
3姉妹が全力で遠慮したってのもあるけど、次にいつスキルLvが上がるか分からない物を上げた方が良いと思って。3姉妹の魔法は自身のLvが上がったら強いのを習得する、らしいし。
「んじゃ、食べます」
【お知らせnew】
《スキルLv1upの実によりスキルLvが1upします。スキル選択→指輪4、許可。条件を満たした為、スキル指輪がLv5になりました。尚、解放は「HP&MPのステータス追加」「情報」です》
思わず敬語で勢い良く丸かじり、味は林檎と桃の良い所取りって感じ。瑞々しくて美味しい。そして漸く見たかった物の追加、嬉しさは小さくガッツポーズする位。
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