6話、基本【眷族】は喋らない
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つんつん。ちょんちょん。寝て居る俺の頬を突いたり髪や服を引っ張ったり、まだ眠かった俺は邪魔だと手で払う。だけどスカッと手が空振りし、何か楽しげな笑い声が聞こえて来る。
くすくす、くすくす。
あどけなく、幼い少女達が笑う声が耳元に。寝呆けて居る俺には、何か笑われてるんですけどー‥位にしか思えなかった。
「‥‥‥‥って違う!」
少し間が空き、漸く可笑しい事に気付いた俺はハッと飛び起きる。慌てて辺りを見渡すも、そこには何時も通りのベッドにテーブルセット、泉に木々。
飛び起きた俺に気付いた3人が泉の縁に集まり、シオは心配そうに一鳴き。ベットから居り、泉へ歩いて居る途中何かに足を引っ張られた様に俺は縺れさせる。
「っ、うわ!」
体勢を立て直す事が出来る身体能力何て俺には無く、そのまま泉の中へと飛び込んでしまう。あれ、これ何てデジャブ?
ある程度深さもあったしアクア達は逃げてくれ、一応皆無事でホッとした。心配してくれる3人に大丈夫だと伝えると、また幼い少女達の楽しげな笑い声が聞こえ、俺は顔を上げる。
くすくす、くすくす。
目の前には、15cm〜20cm程の身長をした可愛らしい少女が3人。背中には蝶、蜻蛉、葉っぱを模した羽を生やして居て、その姿は正しく妖精の様だ。
俺が理解出来て居ないだけなのだろうが、3人は顔を見合せ話し合い。俺へ向くとスカートの裾を持ち上げ、お辞儀する。
「‥‥と、兎に角、着替えてからにしよう」
アクア達が警戒をして居ないし、敵では無い事は明らかだ。それに、少し心当たりがあったり‥。その前にびしょ濡れの自分をどうにかしないとな、脱衣場へ向かい服を着替える。
包帯も水に濡れてしまって、駄目かも知れんね。幸いな事に傷は塞がってるみたいだし、包帯と絆創膏を外して部屋へと戻った。
するとテーブルの上にちょこんと3人が座って居り、俺も椅子へ座り口を開く。
「えーと、先に謝っとく。妖精語は分からないから、頷くか首を振るかして貰っても良いか?」
こくん。
「君達は妖精、だよね?」
こくん。
「あの大きな花から生まれた?」
こくこく。
「自然に帰りたい?」
ぶんぶんぶんぶん。
ふむ、此処が彼女達にとって家だし、でも外へ行きたかったら自由に良いよ。そう言ったら、またぶんぶん首を振られた。
アクア達を見るとこっちの事に興味津々な様で、さっきからずっとこちらを眺めて居る。いや、そうかな?とは思ってたんだけど、彼女達には寝起きに意地悪されたし、少しお返しも込めただけさ。
「じゃあ、家族だね」
こくこくこくこく。
俺がそう呟くと、彼女達3人の表情がパァッと花が綻んだ様に輝き頷いた。やはり名前は無いらしく、俺に決めて欲しいとの事。余りセンスが良いとは言えないが、精一杯捻り出そう。
赤い髪と蜻蛉の羽を持つ、活発そうな浜薊の子は「シルス」。淡いオレンジ髪と蝶の羽を持つ、清楚な岩戸百合の子は「リリム」。白い髪と葉っぱの羽を持つ、一番小さな浜昼顔の子は「カリス」。
どうかな?と問い掛ければ、喜んでくれた様で彼女達は部屋中を飛び回った。時間が経ち、落ち着くと彼女達は一斉に頭を下げる。どうやら泉に落とした事を気にして居る様子。
「もう気にしてないよ。そうだ、ステータス見ても良いかな?」
こくこく。
妖精はいたずらっ子だ、と何かの本で読んだ記憶がある。それに本当に気にして居ない、彼女達に許可を貰い指輪を弄り、ステータスを覗かせて貰う。
【眷族ステータス】
【個体】シルス、リリム、カリス
【種族】妖精(花妖精)
【レベル】Lv1
【装備】妖精ワンピース
【スキル】悪戯心、一蓮托生、敬愛、耐魔法3、土魔法1(シ)、風魔法1(リ)、光魔法1(カ)、妖精の舞
【主】志津
【3人からの一言】
《あたし達家族!主様に何処迄もお供致しますわ。よ、宜しく、なのです‥》
【スキル説明】
悪戯心=妖精なら誰もが持つ有名スキル。知性up、知恵up
一蓮托生=1人1人は弱いが3人集まればそれなり。ステータスは3人合わせた時の7割となるが誰か1人居れば倒されても復活出来る、とメリットを持つ
耐魔法3=全属性に耐性を持ち、ダメージを3割抑える
土魔法1=初級土魔法。威力は低いが攻撃、防御補助に長けた魔法が多い
風魔法1=初級風魔法。素早い攻撃に長けた魔法が多い
光魔法1=初級光魔法。癒しや全体補助に長けた魔法が多い
妖精の舞=3人が魔力を合わせる事により、自身が使える1ランク上の魔法を使用する事が出来る。正し魔力消費は2倍
おぉ、この子達は完全に後衛タイプか。それに一蓮托生と言うスキルは一見どうかな、と思う様な物だが結構強みだと思える。
家族になる【眷族】の子達、チートじゃないっすかね?これ位じゃないとダンジョンクリアは無理?まぁ俺は少し戦闘に慣れて来た一般人、俺が一番足を引っ張ってる自覚はある。
「取り敢えず、飯にするか」
流石は妖精、と言う訳でご飯は辺りに漂う魔力で良いそうだ。俺とシオだけが食べ物を口にしないと駄目。うーん、燃費から言うと高燃費だな、流石俺。
彼女達は立ち上がった俺に一礼し、あのデカい花の中へと入って行った。ベッドの役割も果して居るらしく、乙女部屋って感じか?初めて性別がはっきりしてるから、気を付けねば‥。
今日はのんびり休もうかな。そんな事を思いながらシオを抱き上げ、テーブル迄連れて行く。まだ小さいから持ち上げられるが、大きくなったら無理だな。
「‥‥俺は鯖の味噌煮定食セット、後は単品刺身盛り(小)っと」
朝っぱらから胃もたれしそうな物は食べられ無いし、和食なら大丈夫だろうと認証する。んで、シオと一緒にいただきます。
食べ終わった食器は指定して返還、と言えば消えてしまう。便利ではあるけど、やっぱりどう言う原理なのか小一時間程問い詰めたい気分だ。誰かを。
のんびりしよう、と決めたら本格的に自堕落になるのは当たり前で。シオを連れてベッドに入り、ゴロゴロ。因みに少し部屋を温かくしてあるから、シオの低めな体温と合わさって良い感じ。
「ちょっとだけ二度寝しようか、ちょっとだけ」
誰に言い聞かせる訳でも無く、自分に言い訳するかの様に呟くと目を閉じる。この微睡んだ感じが堪らない。二度寝、三度寝はどうして心地良いんだろうな。
体感的には1時間位、俺等は寝てた様な気がする。目を覚ますと、左にはシオ、右にはアクア、頭の近くに青月が居て、俺の身体を枕に3姉妹が寝て居た。
あぁ、何と言う幸せ祭り。すやすやと寝入る皆に釣られ、もう一度目を閉じ寝に入る。
【お知らせnew】
《【眷族】アクアがスキル親愛を習得しました。【眷族】青月、シオ、シルス、リリム、カリスのスキル敬愛が親愛に変化しました》
【スキル説明】
親愛=【眷族】との仲が良好、尚且つ強い信頼で結ばれて居る証。全ステータス+10
少しだけ、の域を外れた二度寝から起きると凄く身体が軽くなった気が‥。アクアも起きたが他の子達がまだなのでぷに枕を堪能しつつ、指輪を弄り新しいスキル習得を見付ける。
「これは、本当に嬉しいな‥」
きっと、アクア達が居なければ俺は「ホーム」に引き込もって居たに違いない。俺の目的の為だけに無条件で慕い、一緒に来てくれると言うのは物凄く嬉しい。だからこの親愛に俺は、ずっと答えていけたらと思う。
アクアの触手と遊んで十数分、くぁぁと可愛らしい欠伸をしながら皆が起きる。
ガッツリ寝ちゃったから、これから迷宮ダンジョン探索でも良いな。時間の概念無いし。ぶっちゃけ、やる事が無いと手持ち無沙汰でそわそわするんだよね。ワーカーホリック気味?
「ん?どうした?」
花精霊3姉妹のカリスがもじもじもじもじ。可愛いから眺めて居ても良いが、優しく問い掛ける。すると3人でこしょこしょ内緒話をし、手を取り合う。
訳が分からずに首を捻るも、理由は直ぐ気付く。彼女達の身体が淡く光り一段と輝きが増した時、俺の傷がむず痒い様な感覚に陥った。そして光が消えた頃、俺のむず痒さも消え去る。
「治してくれたのか!」
小玉鼠に引っ掻かれた傷に恐る恐る頬に手を当てると、そこには何時も通りただの頬。一番深かった腕や足の傷も見てみるが、何も無かったかの様に治って居る。
物凄くファンタジーの世界なのに俺は魔法が使えない、と言うある意味現実を見せられて居る訳で、彼女達の魔法は俺やアクア達の生命線になるかもな。
有難う、の意味も込めて彼女達の頭を撫でて居るんだけど結構加減が難しい。青月もそうだが、小さいモノに触るのはおっかなびっくりになってしまう。まぁ、慣れて居ないし仕方無いか。
「そうだ、かなり前にアクアが拾ってくれたスライムの核があるんだ。食べるか?」
確か説明文には、自然系魔物の大好物と書いてあった筈。数もそれなりにあるし、スイーツっぽかったよな?指輪を弄り【収納】から1つスライムの核を取り出す。すると、瞬く間に彼女達の表情が満面の笑みに変わる。
成程。スライムの核は皮みたいなのを剥いて食べるのか‥。見た感じは風船羊羮、それを3人は美味しそうに仲良く頬張って居る。
「俺も食えるかな‥?」
他人が食べて居る物って、何故か美味しそうに見えてしまう不思議。あれだけ最初はドン引きしていたのに。小さく呟いた俺の言葉を拾ったのか、胡座の上に乗せたアクアが器用に触手を操り×ポーズを作った。
うーん、やっぱり駄目か。
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