4話、森に落とし物はデフォ?
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「え、どうしたのこれ。アクアが拾った?‥違う。落ちてたの?‥‥あぁ、迷子ね」
アクアとある程度の会話は出来るので、当たったらしくグッジョブされて納得納得。俺はフランベルクを指輪に【収納】し、アザラシに近付く。これ、普通は海とかに居るんだよな?
どうしたモノか、と考えながら指輪【収納】から泉の水を入れた硝子の瓶を取り出す。何かの役に立つかなって、水入れて一本だけ残しておいて良かった。
「濡らす?もしくは飲ます?うーん、取り敢えず最初はアザラシのステータス標示」
【簡易ステータス】
【種族】胡麻斑海豹
【レベル】Lv1
【取得経験pt】2pt
【装備】なし
【スキル】なし
「胡麻斑海豹、セルキーって何だ?えーと、白い産毛じゃ無いから授乳期間は過ぎてる‥か?」
昔見た事がある動物番組を必死に思い出しながら、俺は悶々と考える。食べ物は魚介類だし、まぁ【経験pt⇔交換】に自炊用の食材があるから大丈夫か。
硝子の瓶を傾けてアザラシの身体を濡らす、どれ位効果があるかは分からないけど。口をパクパクさせて居るので口元に硝子の瓶を持って行き、傾ける。飲んでくれてるんだろうか?
お、でも弱かった呼吸はしっかりして来た。辺りには水場が無さそうだし、脱水症状になり掛けてたのかね。甘える様によじ登って来るアクアを支えながら、俺は頭を悩ます。
「どうするかな、親とか‥」
「その子、最近ここに迷い込んで来たみたい。アタシも探してみたんだけど、親は居なかったわ」
「あぁ、そうか‥‥‥っ!」
俺の呟きに返答が返って来て暫く放って置くも、それに気付き吃驚する。バッと音がする程の勢いで振り返るとそこには、美しい姿で男を誘い捕食する、が代名詞のアウラウネ(正し男)が立って居た。
アクアと青月が警戒して居ない、と言う事はアウラウネの敵対心は皆無と言っても良い。てか、こんな序盤のダンジョンに居るとか怖過ぎるんだが。怒らせない様に気を付けよう‥。
「‥‥貴方のステータス、見ても良いですか?」
「あら、見れるの?良いわよ。じっくり見ちゃって頂戴」
【簡易ステータス】
【種族】植物亜種(アウラウネ♂)
【レベル】Lv51
【取得経験pt】520pt
【装備】なし
【スキル】耐火、耐雷、水吸収、土魔法、触手、誘い、草食主義、穏健穏和、自然、慈愛
‥‥Lvが酷い事になってる。敵じゃないみたいだから本当に良かった!
「アタシは女所帯のアウラウネにとっては異端でしょ?それに草食主義だし、居た堪れなくなってここ迄来たのよ」
「そ、そうなんですか‥」
俺も居た堪れないです。何て事は言えずに数十分、アウラウネの身の上話&愚痴を聞いて居た。まぁアザラシの意識がハッキリする迄どうするか悩んで居たし、アクアと青月は俺に触れてれば関係ねぇぜ!って感じだし。
頭にアクア、肩に青月、胡座の上にアザラシ、目の前にはアウラウネ。うーん、魔物パラダイス?
程無くしてキュゥ、と小さくアザラシが鳴く。顔を覗き込めば瞳はキラキラ輝いて居て、一先ず安心だと俺はホッと一息吐いた。
「お前、うちの子になるか?こんな場所に居たらご飯も水も無いだろう?どうかな‥」
キュッ!とアザラシは一際大きな声で鳴き、俺のお腹辺りに頭をグリグリ擦り付けて来る。直ぐ様聞こえて来た機械音声に安心、敵対してる魔物は「ホーム」に入る事が出来ないから。
【お知らせnew】
《魔物セルキーが主・志津に忠誠を誓い【眷族】に加わりました。ダンジョンに居る魔物には忠誠を誓わせ己の【眷族】に率いれる、と言うやり方が‥‥》
そう言えば最近水辺、ってか水系の魔物ばかり家族になってる気がするなぁ。3人目だけど。
「お兄さん、その子の事宜しく頼んだわよ。セルキーが大人になるには凄く時間掛かるのだけれど、まぁ水魚を連れてる貴方には関係の無い話ね」
「は?」
「お兄さん、人間でしょう?だったら生きてる内に大人になった水魚やセルキーは見られないわ。と言うか、何故お兄さんがこんな■■■■に■るのか■■よね。■■■が■かしたのかしら?」
【情報取得制限】
《貴方の指輪Lvでは許可されて居ない情報が混じっております。その為、部分にノイズを入れさせて頂きます。ご自身で仰る分には構いません》
アウラウネが言って居た水魚やセルキーの事は吹っ飛んでしまう程、俺は茫然となる。そうか、情報請求に許可不許可があったんだから、誰かが喋る言葉にも制限が掛かるのか。
俺がこのダンジョンに来た謎は、どうやらスキル指輪のLv上げるしか無い様だ。でも、八方塞がりな気がしてならん。
「どうしたの?大丈夫?アタシは戦えないから着いて行かないけどお兄さんの事、凄く心配だわ」
「あ、あぁ、有難う。いや、今後どうしようか悩んでて」
アウラウネに心配掛けてしまった。でも、頬に手を当ててクネクネするのは割りと本気で止めて欲しい。少し虚ろな眼差しで彼を見て居ると、閃いた!と言う表情で口を開く。
「そうだわ!ここから20階層位■がった場所に、■■■に■■が■められて住んで居るエルフが居た筈よ。その子ならお兄さんを人間の所まで追い出してくれるんじゃないかしら?」
「追い出し!」
「えぇ、魔物ってほら、ちょっぴり人間にカ・ゲ・キでしょう?」
じゃあアタシは行くわ、頑張ってね!と言う言葉を最後にアウラウネは茂みの中へと姿を消す。残ったのは伏せ字の意味を解釈出来ないもどかしさ、俺そのエルフに会ったら生きてられるかな?と言う虚しさ。
茫然自失、とまで行かないが今日の探索は終了じゃい。「ホーム」に帰ろうと口を開く。勿論、アクアと青月が俺に触れて居るのを確認してから。
「セルキーも住みやすい「ホーム」に改装しような。んじゃ帰還」
【スキル発動】
《スキル帰還が発動されました。ホームに帰還します》
スキルが発動されると視界が歪み、直ぐ様「ホーム」へ。俺達はベットに向かい、3人を降ろすと俺は仰向けに寝転がる。
小さく溜め息を吐き考える。そう言えばあのアウラウネがダンジョンに来て初めて喋った相手なのか、と。気にしない気にしない。アクアが隣に居たので抱き寄せ、抱き枕にする。
「アクア枕は心地い‥ぐふっ」
アクアのプニプニ感触に癒されて居ると、不意に腹と額に重さを感じ呻く。額は青月が乗ったからで、青月は大した重さが無いから大丈夫。問題は新しい家族となったアザラシのセルキー。
あぁでも、何この癒し系天国。俺が考えても分からない事は分からない、頭も大して良く無い。そうだ、とセルキーに視線を向ける。
「セルキー、って種族名だよな?多分。名前付けても良いかな?」
かな?の部分に被さる様にしてセルキーが元気良くキュッ!っと一鳴き、両手をばたつかせた。勿論俺の腹の上なので、薄っぺらな腹筋では耐えられず撃沈。
盛大に悶えた後、ベットから降りて俺は椅子に腰掛け3人はテーブルへ。俺の腹が空いたから刺身定食&お新香&緑茶の食事セットに舌鼓、セルキーに刺身をあげたら3分の2を平らげた。やっぱりお腹空いてたんだな。
「セルキー、アザラシ、胡麻斑海豹、海っぽい名前が良いよなぁ。‥‥シオ、とか?」
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