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2011 デジャブ  作者: 森本 義久
9/17

東京女子医大

8   南東京女子医大   2001年春



‘今日の仕事はこれでラスト“ 一人つぶやいて318号室に入った 今日の担当の患者に「高橋さんどうですか?」 「はい 大丈夫です。。」  「じゃ僕はこれで失礼します 食事の件は今夜の担当に言ってあるので 明日の朝からお味噌汁が付くとおもいます」 「はい ありがとうございます」 「 では何かありましたら夜の担当者に言ってください  お大事に、、」  病室を出て ナースステーションに戻る廊下で「高杉さん」と医師の里菜先生が声をかけてきた。。


「はい あっ 里菜先生お疲れさまでした 」 と言うと「高杉君は明日は休みでしよね?」 「はい」?  「話があるので 夕方でも時間空いてないかしら?」

「えっ僕ですか?」「うん 食事でもしながら少し話したい事があって・・」

「ちょっと待ってください」  と 考えるふりをして 「はい 夕方なら大丈夫です」

この3年ほど 休みに用事があったためしがないが そう答えた。

「そしたら 新宿の京王プラザホテルの40階 アンブローシリアってお店で  そうね、、18時はどう?」  「はい 40Fのアンブローシリア 18時ですね  わかりました 」  「 うん  じゃ お疲れ様でした じゃ明日」 と言って里菜先生はドクタールームに入って行った。。



次の朝 高円寺駅北口から商店街を歩いて15分ほどの 古いアパートが並ぶ路地裏のメゾン中野の202号で目覚めた。。

肌寒い朝だが休みの日の布団の中はここちよく テレビを見ながらごろごろしてる間に 春の日差しがこのボロアパートの部屋にも ほんの少し差し込んできた。。

まだ午前8時 パンとサラダの簡単な朝食を済ませて 唯一の趣味と言うか財産と言うか

通勤にも使うため 思い切って買った21万円のGIANTのロードバイク (自転車だけど) で東京散歩に出かける。

いつもの休みなら 高尾山や奥多摩まで足を伸ばすが 今日は珍しく夕食の約束があるので そろそろ花見の時期を迎える上野公園周辺に出かけてみる事にした









5部咲きの桜の花の上野公園から帰ってすぐ まだ早い時間の‘松の湯“の大きな湯船にゆっくりと浸かる   子どもの頃の日本では銭湯にきたことがなかったが 看護学校時代にはじめて銭湯にはいってから とても大好きな趣味になっている。

アパートに帰って 去年買ったコムサのスーツにノーネクタイでクロっぽいシャツ まるで六本木交差点のクロ服のようないでたちで京王プラザホテル40f アンブローシリアに行った。。

案内された窓側の席には いつのもいかつい白衣姿とは別人の ピンクのワンピース姿の里菜先生が席についていた。


「遅くなりましたか?」 「いえ 早めに来たの 少し考えたい事があったから、、、お料理は適当に頼んでおいたから  ワインは赤でいいかな?」  「はい なんでも」

運ばれてくる料理はどれも美味しかった ソムリエが厳選したワインもまた この料理と夜景にマッチして自然なエアリー感をただよわせているようだ。

デザートとコーヒーが運ばれてくると 「高杉君 今の仕事はどう?」  「はい 何も不満もなく楽しくやってます」と答え いよいよ来たかと構えていると  「 そう、、もしもだけど、、、南東京女子医大を辞めて 他で働くって事は考えられないかしら?」

きた、、「どういう意味でしょうか? 僕に何か問題でもありましたか?」やはりそうか~と想いながら これまでの失敗や人間関係 昨日から考え続けた疑問を また頭の中でかき混ぜはじめた。。。



「いえ  そんな意味じゃないの、、、、田中さんの事なんだけど、、」  「田中さん? 患者さんのあの田中剛三さん?」  「そうよ もうすぐ退院させようと想うんだけど、、、田中さんに頼まれてね 住み込みの看護士を紹介してくれって頼まれたの」

「はい」「私も 田中さんについてくれる専属の看護師が居てくれたら 家庭医療としても安心だし 田中さんが家で過ごす時間が多く取れて 病院よりもその方が良いと想うのよ」 「そう言われたらそうですね」

「それで田中さんとの付き合いの長い高杉君なら 私も安心だと想って田中さんに言ったら 田中さんも高杉くんなら是非に頼んでくれって、、」「、、、、、」

「田中さん 孫のレナちゃんが亡くなって落ち込んでたのが 娘の香織さんまで死んでがっくり弱りましたものね」   「そうなのよ、、」

「辞めるのは少し考えさせてください  それより 聞けなかったんですが 田中剛三さん家はいったいどうなってんですか?  娘さんは刑務所で自殺したって噂なんですが?」と 思い切って聞いてみた。。

「そうね~~どちらにしても高杉君にはちゃんと話しておかなきゃね  他の人には話してはダメだけど、、」「当たり前です 誰にも話しません」「だよね、、」





里菜先生の説明によると 「田中剛三さんはね・・・・


 田中剛三 簡単に言うと 新潟から出てきて 1代で今の地位を築いた人で 本当の苦労人なのだ


新潟の山間部の高校を出て上京し いろんな仕事をしながら25歳の時に不動産関係の会社に入った。 そして不動産鑑定士の資格を取ってから35歳で独立し 高円寺に店舗専用の田中不動産を作った

じょじょにバブルに向かっている頃で その波に乗って売り上げを伸ばし会社を大きくしていった。 

45歳まで独身だった田中剛三だったが 周囲の勧めで結婚 しかしなかなか子宝には恵まれず 奥さんの命と引き換えに やっと出来たのが娘の香織さんだった。

 そしてみんながバブルに踊ってる時にも 地道な商売しかしないがトコトコと階段を上るように業績と信用をつけていき バブル崩壊とともに去っていった同業者や金融機関の間で超然と立ち続けていたのが田中不動産だった。。

10分の1にまで下がった土地にマンションを建てて 家具 電化製品つき賃貸マンションのシステムや 六本木や汐留の都心型の高層マンション販売など 独自色の経営があたった。。

そして娘香織さんが短大を卒業した年に 田中不動産社内の男と結婚して女の子が生まれた。、 それがレナちゃんだった。。

剛三は大喜びで 自分が死んだ後でも 田中香織とレナの暮らしが成り立つようにと 江東区の土地に生前贈与で 香織 レナ名義の38階のマンションを建てて そこの最上階で家族揃って不自由なく暮らせるようにした。


剛三75歳 事業も順調で 家庭でも娘香織さん夫婦に孫レナが出来 その生活基盤のマンションもあたえ 人生これで落ち着いたと想っていた矢先に 田中剛三に肝臓がンが見つかった。。

しかしまだ初期段階 南東京女子医大で手術をし1週間 この時の担当が西病棟消火器内科の森本里菜先生 主任看護士が高杉英樹だった。 


そんな中 娘の香織さんは旦那さんと離婚してレナちゃんとの2人暮らしにはなったが 

退院後 いったん高円寺の自宅に帰った田中さんも これからは身体を労わりながら孫とゆっくり暮らせると想っていた。。






2001年3月15日


左耳裂け全身打撲痕  5歳女児死亡


東京地検は25日 江東区の自宅マンションで 保育園児田中レナちゃん(5歳)を

暴行して死亡させたとして 母親の田中香織容疑者(23)と 同居の無職の男 小森連(28)を傷害致死の疑いで起訴した。

起訴状によると 小森連容疑者は今年3月15日 午後5時半から10時45分までの間に 

自宅でレナちゃんの頭などを殴り 耳や髪の毛などを引っ張るなど暴行し、翌16日午前2時頃に脳が腫れる「急性脳腫脹」により死亡させた としている。

 小森容疑者は一貫して否認を続けてる。

レナちゃんの全身には打撲の痕があったほか 左耳の付け根が裂けるなど凄惨な暴行の痕が残されていた。

捜査関係者によると 司法解剖の結果、レナちゃんの胃の内容物から夕食後、間もなく暴行を受けた可能性が高い。 田中香織容疑者は「レナちゃんが食べるのが遅い」との悩みを児童相談所に相談していたという。

同居の小森連容疑者はこれを知って激怒したもよう。 警視庁捜査1課は 小森連容疑者とレナちゃんの母親 田中香織容疑者が日常的にレナちゃんを虐待していたとみている。



「新聞を見たときは まさか、、と驚きました でも本当にあのレナちゃんだったとは、、、

剛三さんが入院していた時に お見舞いに来てたレナちゃんと遊んでいました。

 まさかあのレナちゃんが虐待されていたなんて・・・悔しくて悔しくて 僕も涙が止まりませんでした」   「そうよね、、  私も田中さんになんて声をかけていいか解らなくて とりあえず鎮静剤注射と栄養補給の点滴の指示をしただけだったんだけどね、、」

「でも まさか香織さんまで留置所で自殺するなんて、、、」 「うん あの夜は高杉君 田中さんに朝までつきっきりで居てくれたのよね」  「はい なんか、、剛三さんまで、、って想ったもんですから、、考え過ぎでしたけど、、」  「いえ ありがとう  ナースセンターには 田中さんから目を離さないように指示していたの」 「そうだったんですか」


田中さんが運ばれて来た翌日の朝6時頃 ナースセンターに警察から電話がかかってきた。。 ちしょうど側に居た僕が受話器を取ると「 深川警察の鈴木ですが 田中剛三さんは今 そちらに入院していますか?」「はい」「田中さんの容態についてお聞きしたいのですが そちらの責任者の方はいらっしゃいますか?」「一応 ここ消化器内科ナースセンターの主任が私 高杉と申しますが?」「失礼しました  では高杉さん 少し聞かせてください、、」

驚いた事に 保護されていた剛三さんの娘 田中香織さんが さっき留置所のトイレで首を吊って死んでいるのを 見回りの署員が見つけたと言うのだ。。

そして保護者の田中剛三さんが ここに入院しているのが解って 香織さん死亡の事を 話していい状態なのかを聞かれた。。

「待ってください 担当の医師に相談して すぐに折り返し電話します」

と言って電話を切り すぐにその事を里菜先生に知らせた。。

里菜先生は「解りました 後は私がしますから 高杉君はそのまま通常の仕事を続けてください」 と言うことだった。。

そして夜勤を終えて 明日まで休みだったが 田中剛三さんが心配なので 高円寺のアパートに帰るのをやめて更衣室で仮眠をし そのまま夜もナースセンターに詰めて次の日まで過ごした。




「実はあれから1ヶ月 剛三さんとは会話をした事がないんです。。話しかけても何も答えてくれなくて、、」  「うん 知ってるわ  強い人だからね  可哀相にそんなに我慢しなくていいのにね、、,高杉君はレナちゃんとも親しかったわね」

「はい 香織さんが剛三さんと仕事の打ち合わせの時は 僕が休憩を取ってレナちゃんと裏の公園で遊んでました」「そう~」「レナちゃんがあの男に虐待されてたとは 気づいてあげれなくて悔しいです」「そうね~~」「後で考えてみたらレナちゃん 今年に入ってから時々 急に抱きついてきたり  病室に帰ろうと言ったら 僕の足にしがみついて離れようとしなかったり、、、」「難しい問題よね、、虐待って、、」


「香織さんまで なんで自殺なんか?」「あれもね~~私は偽装だと想うんだ」「えっ??」

「田中さんに聞いたんだけど 逮捕されて面会に行ったときに 香織さんが すぐにここから出られるようにって パパの力で出きるでしょ って言ったらしいの それを聞いて田中さん頭にきてたのね  怒鳴りつけて お前なんか一生刑務所にはいってろ  って言ったらしいの」「、、、」「ブラジャーで首を吊ってたらしいんだけど たぶん 見せしめにやってみたら 首って左右の動脈の流れを止めたら 簡単に意識不明になるから  それで誤って死んでしまったんじゃないかと、、」「ありえますね、、  あの香織さんだから  本気で自殺なんかするわけないと想います、、」「全て終ったことよ、、」「はい」


そして「仕事の話 高杉君の人生の問題だから 急がなくていいからよく考えてみてね」

「はい 今日はご馳走様でした~~多分 気持ちは決まってるのですが もう1度よく悩んでみます」 くすっと笑って里菜先生は「じゃね~」と新宿のネオンの中に消えて行った。。



京王プラザホテルの地下の駐車場に預けておいた自転車に乗って車道に出ようとしたとき ホテルの駐車場からいきなり黒いベンツが猛スピードで追い越して行った。。けたたましいクラクションに思わず止まってみたベンツの助手席に 驚いた目で俺を見る男と 一瞬目があって 「あっ」と叫んだ。。

ベンツはクラクションを鳴らしたまま車道から次の交差点を強引に左折して消えていった。。    「ライアン、、、、」声に出してみて始めて 助手席の男があのライアンだと確信した。。間違いない ライアンだ  しかし何故ライアンが日本に、、しかも新宿に居るのか、、いきなり疑問の津波が襲い掛かった。。

青梅街道を高円寺に向かって自転車で走りながら 久しぶりにフィリピンに電話してみようと考えていた  同い年のライアンももう26歳 この十数年 なにをしてるのかも知らなかったライアンがなぜ??その事も確かめてみよう と考えていた。






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