表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2011 デジャブ  作者: 森本 義久
8/17

ミンダナオ島 ジャングル

フィリピン ミンダナオ島ダバオ 小学校6年生


「さて そろそろ帰るか」 山に入って8日目の朝 慰霊碑の広場を見回しながらおじいちゃんが言った。。

僕は一回り大人になった気持ちで20k程の猪のもも肉とライフルをかつぎ おじいちゃんはママの大好きなうずらを10羽と 猪肉を40kほどかついで山を降りた。



農園に続く道に下りるといつもどうりライアンの家に寄った 久しぶりのライアンとカレンの顔が なんだか幼く見えて思わず笑いがこぼれた。。

「なんだよヨハン?」可笑しかったが「いや なんでもないよ」 すると

「お~~~ロメオ  ヨハン  いつも悪いね~」とライアンのおじいちゃんが出てきた。「こんにちは ごぶさたしてます」 と挨拶すると 「丁度今 教会から帰って来たとこじゃよ」 と そか今日は日曜日だったのかと  始めて気づいた。

  そしておじいちゃんが「ヨハン ジジイん家に肉を切り分けて帰るから 先に帰ってなさい ママが心配してるからな」  「はい」 「俺も行くよ」とライアンがライフルとうずらを持ってくれた。

「ああヨハン これも持って帰って 後で整備しておきなさい」と アメリカ製の銃 コルトガバメントを渡されてライアンの家を出た。。



4月のフィリピンの空は 抜けるように高く蒼く 家々に咲くハイビスカスがとても綺麗だ。。   ライアンとゆっくり歩いて3分ほどで 真っ白の洋風2階建て 人が言うにはミンタルで1番美しいハウスに着いた。。



異変に気づいたのは門を開ける時だった、、鍵が開いている  用心深いママやメイドが 鍵をかけ忘れるはずがない。。   それに 20mくらい離れたところに止まっていた見たことの無い汚れたトラックが気になっていた。  そして1歩庭に入った時 

う~~~~っ  と こもった叫び声のような音が聞こえた、、とっさに2階からだと想った。

振り向くとライアンも異変に気づいて ウンと目でうなづいた,,

僕は目でライアンにここで待つように指示してから裏口にまわった そこに荷物を置いて

リビングの窓からそっと中に入ると カタコトとやはり2階から人の居る音がしている。

そっと階段を上がった 音がするのはおじいちゃんの仕事部屋だ 廊下をそろっと移動しドアをゆっくり 少し開けて覗いてみると デスクの奥の床に裸の人間が横たわって居るのが見えた。   そしてその人の上にまたがっている男の姿が、、、


とっさに想像がついたが  萎えそうになる心に  ガンバレガンバレと  これはジャングルだ  と自分に言い聞かせ  しっかりと確認しろ  と自分自身に命令した。。


女はママだ   しかも 首がぱっくり開いていて目は見開いたままこちらを見ている

男はまだ動いていた   思わず タガン  と持っていたピストルを床に落とした   その音に気づいた男が振り返った  「誰だ!!」  今度は男の目が見開いた ウオ~~~ 凄い勢いで向かってきた  男の手に大型のナイフが見えた   殺される、、

反射的にピストルを拾って ひざをついたまま男に向けた  そして夢中で引き金を引いた  ダンダンダン、、

煙の向こうで 男が向こうにスローモーションで倒れていった。。

全てが一瞬の出来事だった、、  


ウオ~~と 今度は後ろから声がして 振り向くと ガツっとひたいに何か当たった

ジン~~としびれるような感覚と 再び男が振り下ろすナイフが見えて目をつぶった

その瞬間 ド~~~ン  と音がして目を開けた瞬間  男は左のこめかみから血を吹きながら壁にぶち当たって倒れこんだ     見上げると・・・・ 銃口から煙を上げるライフルを構えたライアンが呆然と立っていた。。


静だった  鼓膜が破れたのか何の音も聞こえない そして不思議なことに目に見えるものが全て赤く 赤いフィルターを通して見るように何もかもが赤く見える。。

首を回し部屋の中を見ると 倒れている顔の無い男   奥のデスクの向こうに横たわる裸の女は どう見てもママ   生きているとは思えない。

そして目の前の廊下の壁にもたれかかっている男もピクリとも動かず 奇妙なままのポーズを維持している。。  

見下ろすリビングも 外の光も全て真っ赤だ。

横を見るとライアンは ライフルをかかえて 僕と同じようにうずくまってヒクヒクと声もたてずに泣いているようだ。。「ライアン 大丈夫か?」 と声をかけた自分の声は  年寄りのようにシャガレタ音がして ライアンには意味不明だったようだ。。



「ヨハン 大丈夫か?」  突然頭の上から声がした  「痛むか?  ヨハン 目は見えるか?」  知らない間にそこには 大きな目で見下ろすおじいちゃんが立っていた。。

うんうん  とうなづくと  僕の顔を両手でかかえて「よかった よかった 傷は大したことはない  もう大丈夫じゃ  ライアンも立てるか?」 と言って ライアンをおじいちゃんの広い背中に担ぎ 僕を抱き上げて階段を下りた。。





それから先はよく覚えてないが 外には意外にも大勢の人々が居て大騒ぎになって

いた そして僕は誰かに額をタオルで巻かれ ぼんやりと人々を眺めていると 

駆けつた救急車に乗せられ病院に連れていかれた。


不思議なことに その時から 僕の心と身体が離れ離れになってしまった、

そうとしか言い様もなく 想ったように身体は動いてくれなくなり 反対に身体は痛いはずなのに心はふわふわとして夢の中のような不安定な感じなのだ。


医者が言うには 運良く僕はとっさに身をかわしたようで ナイフは空を切る寸前に少しだけ僕の目の上を掠めたらしい、、  7針縫っただけで 出た血の量の割には軽症で済んだようだ 1週間ほどで退院となり事件のあったミンタルではなくダバオの方の家に帰った。。


家に着くと あの日は日曜日で休みだったメイドが笑顔で迎えに出て来て 運転手は僕を降ろした後またどこかへ出かけて行き 庭師のおじさんはせっせと芝生の手入れをしている  何もかもがダバオの日常の日々の生活に戻ってしまっているのに 僕の中では全てが変わってしまった。

2階の自分の部屋に入ると ミンタルの家と作りが似てるせいか またあの苦い思いが浮かんで来る。。

そう  ママが 居ない   おじいちゃんも居ない。。


病院に弁護師が来て じいちゃんが捕まった事 しかし正当防衛で裁判が終ればすぐに無罪で帰ってくる事  知事も市長も 警察署長もみんなおじいちゃんの見方であること  ママを殺したのがモレス過激派組織であること  農園の資金の強奪が目的だったことなどを子供の僕でもわかるように説明してくれて  「ヨハン 君は何もしてない  もちろんライアンも  ただあそこに居合わせただけだ  わかったね」  といった。。


わかる訳もないが  心と身体が離れた僕には  もうどうでもいい事のような感じがした  ただあの日 全てが真っ赤に見えた部屋や倒れた人 ミンタルの空 見物の人々の顔  赤い赤い世界は  多分一生忘れる事が出来ないだろうと想った。。



人生2度目の葬儀では 大人達の言うままに操り人形のようにして ママの葬儀は終った。

日本でのパパの時と同じように 人々は好機の目で僕を見て ひそひそと物陰でささやきあっていた。

そして小学校最後の休みは 何故か1度も現れないライアンを気にすることもなく 静に過ぎていった。。






 






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ