大阪 つばさ
6 大坂 つばさくん虐待死事件 犯人 大島祐二(33)
荷物を受け取って 刑務菅の後ろについて行くと ガラス張りのドアの向こうには 信じられない程の明るく広い空が広がっていた。
そして 大坂刑務所の建物の出入り口に立つと そこはまるでオーケストラの舞台のように 下って行く階段から延びる歩道の先に低い金網の門扉、檻の中と自由の世界との境目が 随分と弱弱しくみえる
「ありがとうございました」刑務菅に深く頭を下げて挨拶をしてから 広い門扉の横の小さなドアから外に出た時 振り返りながら思わず涙があふれた。
そして 9年間塀に囲まれた中で恋焦がれた自由が 降り注ぐように目の前に広がっていた。
当たり前のように出迎えの人の姿はどこにもなく この刑務所を出所する者だけが立つバス停で 程なく来た難波行きのバスに乗り込んだ。
人々が生活する 当たり前の日常の風景を バスの窓越しにみながら 逮捕された瞬間と その後に読んだ新聞記事が頭の中によみがえった。
7歳長男 虐待死容疑 新大坂府警 両親逮捕 日常的か
小学校2年の長男(7)に暴行し死なせたとして、大阪府西淀川署は26日 障害致死の疑いで大阪市西淀川区吉名 無職 大島祐二容疑者(33)と妻、涼子容疑者(28)を逮捕した。 同署によると、死亡したのは吉名小2年 大島翼君で、涼子容疑者の連れ子。 翼君の体にはたばこの火を押し付けられたような痕が約10箇所あった。 逮捕容疑は25日午後7時頃 自宅で翼君を突き倒すなどして26日午前4時に死亡させた疑い。死因は頭頂部強打による脳幹部出血などだった。
同署によると 大島祐二容疑者は「つばさを放り投げた 妻が突き倒しているのを見た」と認め 涼子容疑者は「突き倒していない」と否認している。
涼子容疑者が8月25日午後7時半頃「プロレス遊びでふざけていたらおかしくなった」と119番。近所住民が同日昼過ぎ「つばさ 目を開けて」という涼子容疑者の声を聞いており、暴行が長時間にわたっていた可能性もある。
夫婦と翼君、次男(4)、三男(2)の5人家族。三男は夫婦の実子で、次男は現在も児童擁護施設に預けられている。
想い出すとだんだん腹が立って来た、、ったく涼子の奴 結局全て俺のせいにしやがって
刑務所で離婚はしたが あいつは2人子供が居るからって 保護責任者なんとかで執行猶予がつきやがって、、、ったく 俺だけなんでこんな目に。。
とにかく今日はどこか安い宿をみつけて ゆっくりと風呂にでもはいって うん 風呂上りのビールか~いいな~~そうだ たばこも忘れずに買わなきゃな たまんないな~~
誰か~~誰か助けて~~~助けて~~ 声がかすれて大声にならない、、、
痛い痛い痛い、、、、投げられたり蹴られたりした骨がギリギリと痛い、、
それに顔や太ももに押し付けられたたばこの焼け痕も・・・ 膿んでるんじゃないか? ジリジリ痛く どこもかしこも痛くて痛くて訳がわからない。。
なんでこうなったんだろう?
確か 難波でバスを降りて とにかく安い宿を探して裏道へ裏道へと歩きまわって
やっと 1泊2800円の素泊まりを見つけた そしてすぐに近くのコンビニでビールやジュース 美味そうな焼肉弁当やお菓子をどっさり買って部屋に戻り 10年ぶりの豪華な食事を満喫した。 久しぶりのビールに酔ったのか急に眠くなった 敷いてた布団に倒れこんで うとうとと昼寝のつもりだったのが・・・・・・
気が付くと真っ暗な箱の中で身動き出来ないように縛られている ガタガタと振動するのは車で運ばれている・・・のは解るが・・・・それにしても頭が割れるように痛い、、安もんのシャブを打ちすぎた時のようだった。
そしてこの部屋について目隠しを外されたときに見た 浅黒い顔の男の光のない目 瞬間に日本人ではないと想った。
男の手にはモクモクと煙るたばこが束になって握られていて すぐにその訳がわかる
男は 俺の顔や首 胸や足と 狙いも定めずにジュージューとたばこの火を押し付けて 俺は痛さと恐怖で訳もわからずウ~ウ~言いながらころげまわった。。
しばらく静になったかと想うと どのタイミングでか?無言の男が入って来て 縛られたままいもむしのような俺を プロレスでも楽しむかのように床に投げ 壁にぶつけ 倒れた俺を踏みつける
意識を失いかけた時 バタンとドアがしまり また静になる・・毎日がその繰り返しだ
ただ 未だ男の声を聞いたこともなく 俺の口の中には 食事の時以外はピンポン玉のようなのが入れられていて その上から皮状のものでマスクをされているので声が出せない。
もう1週間くらい経っただろうか? 何故俺はこんな目に、、あいつは誰だ?
聞きたい事は山ほどあるのに、、、
38階 ゲストルーム A号室
ガチャ A号室のドアを開けると 小太りの中年男が驚いたように目を見開いてこっちを見てる。
「おい 足はいいから 手錠とマスクは取ってやれ」 「気をつけろよ」「ああ」
男は 固まったように俺の顔をみている
「大島祐二 聴こえるか?」 「、、、、、、、、、、、、、、、、、、」聴こえてるようだ
「気分はどうだ?」 「た た たすけて~~」と 俺にしがみつく前に
ドン とライアンに蹴り飛ばされた。。
「翼くんの感じた 恐怖や絶望が 少しはわかるか?」
「つ つばさ? あんたつばさの本当の父親か?」 「違う」
「じゃ あんた誰だ? 何故俺にこんな事をする?」
「解らないのか? だろうな お前は分からない人間なんだよ いや 人間ですらない お前が解らないから 俺が解らせてやるんだよ」
「おい 俺はそれで9年も刑務所に入って 翼の償いをして出てきたんだ」
「それでお前は つばさくんの死ぬほどの苦しみが解ったのか?」
「、、、、あんた、、何言ってんだ あんたにそんな権利があるのか? 俺は刑務所の中でさえ 小さな子供を殺したって事で 同じ受刑者からもどんだけの仕打ちをされたか あんたに解るか?えっ 分かるのか?」 「お前に翼君を殺す権利でもあったのか? それに俺も その優しい受刑者と同じ気持ちだ ただそいつらより 俺はあまり優しくはないがな」 「、、、、」
「まっ 解るようになるまでゆっくりしててくれ 時間はたっぷりあるからな」
と言って リビングに戻ろうとドアを開けたときに 後ろから「待ってくれ~~頼む 聞いてくれ~~~」 ドスッ ダン ダン、、、、 ライアンがまた始めた。。
ガチャ いきなり開いたドアから 知らない男が入ってきた。
「おい 足はいいから手錠とマスクはとってやれ」 「気をつけろよ」「ああ」
驚いた 底冷えのするような低い声に なんだか解らない恐怖が襲いかかる
しかも 外国人だと想った男も 完全な日本語だ
「大島祐二 聴こえるか?」 人違いじゃない、、確かに俺の名前だ、、
もしかして これは人違いの誘拐事件じゃないか と想った一縷の望みも絶たれた。。
ぽつぽつと話す男の話の意味はわかった やはり翼の事件らしい しかし、、
懸命に説明する 刑務所のことや裁判のことを話そうとした時に 男は終り とでもいうようにドアの方に歩きだした
「待ってくれ」 言ったとたんバシッ またこいつの暴力が始まった まってくれ~~~ 助けてくれ~~やめてくれ~~~お願いだ もう蹴らないで~~~




