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2011 デジャブ  作者: 森本 義久
15/17

平田警部

14    平田警部 白河交番


2011 2月 9日 

「おい  何してる?  ン?  ホームレスか?」  「・・・・・」

「お前 そこの西深川公園に 最近住んでるやつか?」「はい  すみません」

「いや  別にいいんだが 俺はここの管理人だ あまり敷地内に入ってくるなよ  苦情が来たら俺も お前に言わなければいけなくなるから」「・・・・・」

「お前 若いんだな~~ あっ  ほら 今そこのファミマで買ってきたんだ 暖かいから食べな 」「はい」その男は コンビニの袋にはいったまだ温かい弁当とお茶をくれた

「風邪ひかないようにな  じゃ」と言ってマンションに入っていった。。


男の背中の残像を 目を見開いて見ながら 身体がガタガタ震えだした

あ  あ ああああああああああああああああ   あいつだ  あの男だ・・

わ~~~っと走って逃げた。。


2009年の夏 幼児虐待の罪で執行猶予付きで釈放された後 高知の馬路村のおばあちゃんの家で居るところを 知らない男に拉致され 背中に大火傷をおわされた。。火傷の跡は未だにひきつれて 銭湯に行くにも周りに気をつかわなければいけないくらいだ。。

「次に会った時は   殺す」  あの時  あの男が言った言葉  「次に会った時は    殺す」  あの声だ   あいつの声だ   あの時 目隠しされて顔は見てないが

あの声だけは忘れない。  今の男だ  あの男の声だ・・・・


あいつの気が変わって 戻ってきたら殺されると想って あの後すぐに高知駅から電車にのって大坂に出た   大坂に出てやっと安心した  ここでは誰も俺のことを知った奴はいない  あの事件のことも誰もしらない。。 と 嬉しかったのもつかの間  世間はそんなに甘くはなかった。。

執行猶予付きで逃げた俺にまともな職はなく はじめは日払いの宿で日雇い仕事でなんとか暮らしていたが お婆ちゃんから貰った50万が尽きた1年後から 宿代さえ払えずに寝る場所さえない生活になっていた。

東京ならなんとかなると 各駅停車で電車代をごまかしながらなんとか上野に出たが

不景気は大坂も東京も変わりないようで とうとうホームレスの仲間入りになってしまった。。しかし それでもまだましだった 上野駅で寝起きしていたのだが この年末の一斉取り締まりで年寄り達は区に保護されたが  俺は本名の 中村高志と分れば 執行猶予が取り消され逮捕されるから逃げたのだ

そして正月の浅草も追い出され 行く当てもなく毛布をかついで歩き続けて 10日ほど前になんとか寝場所を見つけたのが この西深川公園だった。

そしてさっき 清澄白河駅前のファミリーマートのゴミ箱でも漁ろうと 公園横の近道 白河マンションの敷地を歩いて居る時に あの男に声をかけられたのだ。

「なんて事だ   どうしよう  どうしよう・・・」

ダンボールの家で毛布に包まりながら いまだ振るえが止まらない。

どうしよう  どうしよう・・・・




2011 2月25日  なんでここに下田早苗の財布が落ちていたんだろ?

半蔵門線 清澄白河駅を出てファミリーマートを通りすぎてすぐ 下町に似合わない38階建ての真っ白いマンション  白河マンションの公園のような広い敷地に平田警部が立っていた


ひょんなことから この財布と中身の国民健康保健証が新宿署の平田まで回ってきた。。

下田早苗がまだ17歳の頃 歌舞伎町で援助交際と言う呼び名の売春で 生活安全課だった平田が何度か捕まえた女だった


そして6年前 新宿区初台の「2幼児餓死事件」 はじまりは 夏のマンションの部屋で 腐敗した2つの子どもの死体が住民の通報で発見された。。

そしてそれは 子どもがそこに住んでる事さえ誰も知らず 親が誰か? 子どもの名前もわからず 飢え死にして裸で折り重なった 2つの腐敗した遺体があるだけという  都会のミステリーのような事件で  マスコミにも大きく取り上げられ  連日の報道合戦が繰り広げられた。


しばらく後 偽名で風俗店で働いていた 下田早苗を捕まえたのも平田だった。。

あれから6年経ち 今年退職する平田警部の新宿署に 年末に出所した下田早苗が挨拶にきた

今度はもう少しましなクラブで働くと言うことだったが どうせキャバクラあたりだろう まっ それでもいいほうだと思っていたところだった。


それが年を明けた先週 財布と国民健康保険証の落とし主の下田早苗が行方不明だと知った  歌舞伎町の知り合いに聞いてみると また売春をしてたようだが 最後に客をとった2月16日夜から居なくなったと言う

歌舞伎町から人が居なくなるのは日常茶飯事 珍しくもないが  早苗と財布の落ちていた深川との接点が見えない   

まっ 客ならどこに住んでいようとかまわないのだが

退職まであと1ヶ月 周りが気をつかって暇になったので 気分転換にここまで見に来てみたのだった。


「やはり 客かな・・」  マンションを見ながら こんなマンションに住んでる人間のレベルを考えてみる   俺の2倍  いや3倍の給料がないと住めないな。。

ホテルのロビーのようなエントランスをガラス越しに覗いて見ると「管理人室」と書かれたインターフォンがあった。  「まっ  話しでも聞いてみるか」と押してみると

「はい」  「警察の者ですが 落し物のことで少しお話を聞かせてください」「落し物?  はい  今行きます」   待っていると 入り口とは違う所にある左側のドアが開いた



「えっ」  驚いた   「・・・・」  30代の男も驚いた顔で見ている

「ライアンか?」「平田警部・・・」「お前がどうして??」  ・・・・・

そこに居たのは間違いなく 6~7年前まで歌舞伎町で抗争を繰り返していた フィリピンマフィアのボス ライアンだった


ほんとうに驚いた  何故ライアンがここに   偶然なのか?    いや そもそも何が偶然なのか?   気を取り直し  平静を装って

「ここの管理人をしてるのか?ライアン」「はい ちゃんと就労ビザも持ってますよ  今持ってきます」と行こうとした「いや  いいんだ  今日はそんな事じゃない  それより いつからここで働いてるんだ?」  「いつからって  もう6年くらいになります」「ほう  そうだったのか~~」感心した  と同時に  やはり 何故?が・・

「今日は何ですか?  そういえば落し物がナンとか?」「ああ  そうだ 1週間前にこの敷地で財布の落し物があって 下田早苗って言う・・・・んだが?・・」

これも驚いた  下田早苗で  ライアンが反応した  普通の人なら解らないかも知れないが 刑事歴30年の俺の目には 明らかな動揺がライアンの目に走ったのがわかった

「どうした?」「あっ  いえ  その財布がここに落ちていたんですか?」「ああ そうらしい」「いえ  何も知りません  落し物なら この向こうに白河3丁目交番がありますよ  三つ目通りに」  「そうか  うん  じゃそっちで聞いてみるよ ライアン 元気で頑張れよ」「はい  ありがとうございます」

と ドアの中に消えた  ガチャっと 鍵を閉めた音が  なんだか焦っているようにやけに大きく聞こえた。



三つ目通りの白河交番までてくてく歩いた  なんか気になって仕方ない。

交番の入り口の生真面目そうな立ち番に警察手帳を見せて 下田早苗の財布の件を調べてもらった。。  ちょうどこの警察官が受付をしたようで運良く事情がわかった。

それは先週2月17日の朝 白河マンションの住人が出勤しようとエントランスから外に出た足元に落ちていた  出口のこんな所に財布が落ちていれば 自分じゃなくても気が付いて拾うはずなのに・・と疑問におもいながらも 管理人室に声をかけたが今日にかぎって居ないから 仕方なく白河交番に届けたと警察官に話したらしい。。

 現金は無いが中に期限が何年も過ぎた国民健康保険証が入っていてすぐにわかった。

住所が新宿区初台・・・そこで規定どうりの書類と財布を上にあげて一件落着だった。


「そうか じゃ落とした場所は関係ないのかもな」「はい すりにでもあったのかも知れないですね~」「あっ   そうだ」「はい」「あそこのマンションの管理人 昔知ってた男なのだが あんたは何か知らないか?」「ああ  白河マンションですか?」「そうそう」

「高杉英樹さんですか?」「えっ??高杉英樹??」「ああ  ライアンですか~~」「ああ  そうだ」   「いや 若いのにいい人たちですよ 町内会の役員もやってて 毎朝マンションの前の歩道から清澄白河駅までの20mのゴミを もう6~7年前から掃除してくれてるんですよ」「ほう」「ライアンが昔なにか悪い事でもしたんですか? こちらには上がってないのですが?」「いや  そういう意味じゃなくて・・・」「そうでしょう  ほんと2人とも白河の町会では欠かせない人物ですよ」「ほう  そうなのか」


「あっ  そうそう  5年前に自分がこの白河交番勤務になった時に このあたりの事を少し調べてみたんですよ   警察のデーターベースを使わなくても今はパソコンでなんでも調べられるから便利ですよね~~  あの~平田警部はお時間大丈夫ですか?」 「ああ 来月退職だから 仕事を干されてるんだ」というと 「じゃ  奥で  お茶入れてきます」  そして「調べていたらあの白河マンションで殺人事件があったんです  今からだと11年前になるかな・・・」と話しだした。


2001年  夏   

大した事件のない下町に 深夜パトカーが10台以上集まった

真っ白い壁の新築されて間もない白河マンションの敷地に 赤い回転等が賑やかに回った

このマンションの38階  オーナーの5歳になる孫娘が死亡した。

死亡を確認した医師が 虐待の疑いがあると通報してきて 逮捕されたのが母親の愛人の男だった


このあたりでも高級マンションの中でも 最高の部屋に住む若いセレブ 田中香織24歳の娘 レナちゃん(5)の司法解剖の結果は 


死因は頭頂部の強い打撲による脳幹部出血 外傷性くも膜下出血


左耳断裂痕1箇所  

身体には30箇所以上のたばこの火を押し付けたような火傷ようの痕

打撲痕が 目視確認できるだけで身体に18箇所 両足に14箇所 両腕に27箇所

頭部に7箇所のかなり強い打撲痕跡 (古い内出血は無数)

2箇所の肋骨骨折 (2ヶ月以上前でほぼ治ってる)  左手 左足の骨折跡 それぞれ1箇所(1ヶ月以上前) 暴行の痕跡あり


「というもので その残忍さに 自分も調べていて気分が悪くなりました」  という

そのインパクトにマスコミも飛びついて報道合戦 連日のテレビ中継は白熱し このあたりは常時100人以上の野次馬やマスコミ関係者で賑わった。


「ああ  その事件ならわしも覚えてるよ  確か犯人は小森 連 だったよな?」

と言った時に また変な胸騒ぎがした   そう 無くしたパズルを見つけたような、、

「へえ  そうなんですか? 犯人の名前までは覚えてませんけど」

「ああ たぶんそうだ」といいながら 頭を整理しようとしていると

「そしたら白河マンションの持ち主 白河不動産の社長が高杉英樹って あそこの管理人なんですよ  マジビックリしました」  んんん?  「なんだと!!   あっ!!」


話しを聞くと 白河マンションの1Fの管理人室は そのまま白河不動産で登録されていて 実質白河マンションは あの高杉英樹の所有物だった。

そして思い出した   6年ほど前の2005年頃 新宿歌舞伎町や大久保で 中国北京グループ対 上海 台湾連合との抗争があり 死者も10人以上出たという事で 新宿署 組織犯罪対策課も総力を上げて捜査に走り回ったが   中国人の残虐性は やられた仲間同士でも 死体は中華料理店の厨房でミンチにされて下水に流すという方法で 死体が上がらない    鑑識が下水道までさらって収集したがDNAを特定する人間の肉片というだけで 本人の特定さえ出来なかった。


そして 武闘派のフィリピン系ボス ライアンに目をつけている時に そう 高円寺の不動産屋 田中剛三の付き人 看護士の高杉英樹との接点をみつけた

それからが不思議な事に ライアンが田中剛三の家に入った7月頃  あれだけ派手に抗争を繰り広げていた中国マフィアや台湾 フィリピンマフィア達が 潮が引くようにそれぞれの国に帰ってしまった。。

未だに  あの時の謎は 新宿署の刑事課 組織犯罪課 生活安全課でも首をかしげる出来事であった。



「もしかして  あれもライアンとその高杉とか言うやつが  何かしたって事なのか????」「 はい?  なんですか?」  「いや  なんでもない・・・」「・・・」

「いや~ありがとう  いろいろ参考になったよ  また聞くことがあれば連絡させてもらうよ」 と言ってポリボックスを後にした。。


そして  今日の収穫を  落ち着いてゆっくり考えよう  もしかしたら  とてつもないでかい山を見つけたのかもしれない  と想った。。。。







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