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羽切家の非日常  作者: ラウス
羽切朱音
8/32

第八羽

「お願いします! 勉強を教えてください!」


 一時間目が終わった後の放課、沢田リコが伊藤詩織に土下座をした。

 頭を地面に付けた、完全な平伏態勢である。


 プライドとか無いのかあの娘……。


「ふぅーん、そうねぇ……まあ親友の頼みだし……」


 伊藤詩織は、靴を脱ぎ、靴下を脱ぎ、足を組んで、机に座った。


「三回回って『ワン』って言った後、『詩織様、卑しい雌豚にどうか勉強をお教えください』って言いながら私の足を舐めたら十秒だけ検討してあげるわよ?」


 と、光惚な笑顔で言った。


「……どSだー!」

「公衆の面前での羞恥プレーとかサゾティックすぎるだろー!」

「というか親友じゃなくてそれは主従関係だろー!」

「しかもそれだけやって検討するだけなんかーい!」

「僕も罵ってー!」

「生足ハァハァ」


 クラスの皆さんが一斉にツッコミを入れた。

 いや、何人かおかしいのもいたが。


「…………」


 え、ちょ、沢田リコさん? 何で思案顔なの?


「……赤点よりはマシ!」

「だめえええええええええええ!」


 その後三回回ろうとする沢田リコをクラスメイトの皆さんが止めて、騒ぎは収まった。


 尚、伊藤×沢田の薄い本が男子の間で広まったのはまた別のお話。






*****






「羽切くん助けてー!」

「いいよ」

「いいの!?」


 昼放課、今日は妹が弁当を作ってなかったので購買でラーメンを食べていた時のこと。


 突然沢田リコが泣きついて来たのだ、そして助けてコール。

 どうせ勉強教えて、だろう。


「びっくりしたー、まさか即答されるとは思ってなかったよ」

「勉強だろ? だったらまあ……なんとかなる」

「ありがとー!」


 抱きついて来た。

 避けた。


「何で避けるの!」

「購買だから」


 は、と今気付いたのか、沢田リコは頬を赤らめながら大人しく俺の対面上に座った。


「んで、教えてほしい教科は?」

「ぶっちゃけ全部だけど」

「ですよねー」


 だとするととても一日二日だけじゃとても教え終えれないだろう。


「ところで何日が暇? 沢田リコは部活あるだろう?」

「顧問に『部活は公欠にしとくからテスト勉強頑張れ、マジで』、って泣きつかれたからこの二週間は暇だよ」

「顧問ェ……」


 さて、なら適当な図書館でも行って勉強しますか。


 ただ一つだけ問題があるんだよなー……。


「あと一人欲しいな……」

「へ? 何で?」

「年頃男女が二人きりで勉強会とかそれなんてギャルゲ?」

「ギャルゲ……?」


 ああそういえば疎いって設定だったな、忘れてた。


「要するにデートっぽいなってこと」

「――――――ッ!」


 途端に顔を真っ赤にする沢田リコ。

 素直に可愛いなとは思うが俺は幼馴染にしか萌えんからフラグは立ちません。


「い、いい今すぐ探そう! あと一人!」

「そうだな、適当に声を――」


「話は聞かせてもらったわ!」


 ドドドドドド、という効果音が聞こえてきそうなほど完ぺきなジョジョ立ちをした伊藤詩織が来た。


 何故、ジョジョ。


「あと一人必要というのなら、私が入るわ!」

「いいの? しーちゃん、私三回回ってワン、もしてないし靴も舐めてないよ」

「あれは半分冗談よ」


 半分は本気なんかい。


「まあいいや、メンバーが決まったところで適当な図書館にでも……」

「え、羽切くん家でいいんじゃないかしら?」

「え」

「え」


 何ソレ怖い。


「何ゆえに」

「近いから」

「沢田リコ、ヘルプ」

「え、近いなら羽切くん家でいーじゃん」

「ねー」

「…………」


 四面楚歌? ちょっと違うか。


「……まあ、いいか」


 やましいことするわけでもないし。

 妹と弟が若干心配だが。




 ――キィイイイイイイイイイイインコンカンコン。




 おっと、もう昼休みも終わりか。


「いつも思うけどこの学校チャイムが特徴的だよな」

「なんでこんなに『キ』が長いんだろ」

「校長の趣味らしいよ」

「へー」


 ひどくどうでもいい理由だった。





******






 さてさてやってきました愛しの我が家。


 しかも今日は美少女ともいえる容姿の同級生二人と勉強会です。


 もげろ、と言われてもしょうがないと思っている。

 別の立場だったら俺ももげろと言っていた筈だからだ。


 だがしかしあえて言おう、いや、言わせてもらおう。


 俺は幼馴染萌えであるためにもげろ展開など一切無い!


「――で、そこの公式が――」

「えーと……xを……」

「あ、それはね」


 真面目に勉強中である。

 ちゃぶ台を真ん中に置き、面白いことなど一つもない、何の変哲もない勉強。


 平和っていいね。


「わーかーんーなーいー」

「諦めんなよ! 諦めんなよ、お前! どうしてそこでやめるんだ、そこで! もう少し頑張ってみろよ! ダメダメダメ! 諦めたら! 周りのことを思えよ、応援してる人たちのこと思ってみろって! あともうちょっとのところなんだから!」

「はいはい」

「軽くスルー!?」


 強いて面白かったことを挙げるとしたらこんなことがあったくらいだ。

 ちなみにスル―されてショックを受けた様子の伊藤詩織だったが、顔がにやけていた。

 一度言ってみたかったらしい。


「しっかし意外と理解力あるな、沢田リコは、もっと勉強出来ないイメージだったんだが」

「リコは日々の学校生活の全てを部活に注いでるからね、ほぼ部活をするために学校行ってるようなもの――らしいわよ」

「違うよ! 部活のおまけで学校行ってるんだよ!」

「同じようなもんでしょ」


 ふーん、確かランバリートリークラスターベースト部のエースだったっけか。

 部活名からはどんな活動内容なのか想像もつかんけど頑張ってるんだな。


 そんな話をしてると、いきなりコン、コンとノックの音が響いた。


「兄上ー、入ってもいいですか?」


 妹か。何の用だろう。


「ちょっと今朝のことで――」

「入ってくんな! 今お客さんいるからその話しは廊下でな!」


 勢いよく立ち上がり速攻でドアを開けて閉める。

 我が妹はナース服に白衣というわけわからん格好でバズーカ砲と思わしき筒を担いでいた。


「今来てるやつらは一般ピーポーだからそういう(・・・・)話は後で……!」

「おっと、それはすいません」


 小声でそういうと、妹は例の便利スイッチを押した。


 妹の手に持ってたバズーカ砲が一瞬にして消え去り、服装も赤と白のパーカーに、ピンクのスカートという普通の服装になっていた。


 ……なんでもありだな、もう。


「……それで、どんな用だったんだ?」

「いや、ちょっと耐久実験を忘れてただけですから、それより……」

「それより?」

「誰が来てるんですか? 青井さん? それとも藤宮さん?」

「いや、今日は沢田リコと伊藤詩織っていう女子二人と勉強会してるんだが……それがどうし」

「おじゃまします!」


 女子二人と言うなりものすごい勢いで妹は部屋の中に入って行った。


 おいちょっと待てい!


「わ! 可愛い! 羽切くんの妹?」

「ほほう……じゅるり」


 急いで俺も部屋に入ったが、妹はすでにちゃぶ台の一角に身を置き梃子でも動きそうにない様子。


 ていうか伊藤詩織! じゅるりってなんだ!


「初めまして! 羽切朱音と申します! 兄上がいつもお世話になってます」

「あ、兄上だと!? 羽切くん何時も兄上とか呼ばれてるの!?」

「すごーい、漫画でしかいないよこんな子!」


 まあ良く考えたら今の時代、兄上なんて呼ぶ奴いないよな。


「昔見た時代劇に影響されたらしいよ、ってか羽切朱音、勉強するんだから早く出て行きなさい」

「へー、というか羽切くんって妹相手にもフルネームなの?」

「イエス」

「いいじゃない羽切くん! こんな可愛い生物を追い出すなんてそんな無殺生な!」

「邪魔はしませんよ、兄上」

 こういうのって兄からすると存在自体が邪魔なんだが……年下の兄妹がいないやつにはわからない悩みだぜ……。


「それに、今数学をやってるようですが……」


 妹がにやりと笑う。


「それだったら私が居た方がいいのではないかと」

「…………」


 まあ、確かに十歳で最難関高校に入り、数学と物理で人類初の内申点『6』を取った化け物だけどよ……。


 どう考えてもオーバースペックだろうよ。


「何? 朱音ちゃん数学得意なの?」

「はい、とても」

「ほほう……自信ありげ、ならばこれを解いて見よー」


 言って、伊藤詩織は教科書の最後の方にある章末問題でも特に難しい問いを指差した。


 妹はそれをちら見すると、

「a=12、b=55」

 と、答えた。


「早っ!」

「……しかも合ってる」


 ……多分コイツ、問題見ずにページ数と問題番号見て答えたな。


 教科書がこのページにはこの問題を出しそうだな、ていう勘で答えたのだろう。


 ……化け物すぎる。


「すごーい! まだ中学生なのにこんな問題解けるなんて!」

「数学は得意ですから」

「得意とかいうレベルじゃないと思うけど……」

「じゃあさじゃあさ! 154525×452342=は?」

「69898147550」

「……えーと」

「自分でもわからん問題だすなよ」


 しかも正解、まあコイツの頭を悩ませることが出来る問題なんて存在しないだろうし、当然か。


「すごいすごい、……何なのこの子」

「…………」


 ていうか、一般人の前で神スペック晒すなよ羽切朱音……。

 説明がめんどくさいじゃないか。


「えーとだな、サヴァンってやつだよ、コイツの場合数学力に特化してるんだ」


 サヴァン――生まれつき何かが化け物的に特化してる代わりに他のことが一人では何も出来ない人のことを言う。


「サヴァン……賢者だっけ、ふぅん、ならまあ納得かな」


 賢者サヴァンどころか愚者フールだけどな、コイツは。


「あ、ところで」


 妹は不意に、これだけが言いたかった、ただそれだけだ、と言ってるような目で、言った。


「お二人のどちらかって……兄上と付き合ってたりしてます?」





「無い」


 俺は即答した。


 後ろでアワアワしてる沢田リコや、ニヤニヤしてる伊藤詩織を尻目に、即答した。


「……そうですか、それは安心しました」


 では、とそれだけ言って妹は部屋を出ていった。


 ……安心?

 …………。


 ……………………あ、そっか。


 そういうことか。


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