第六羽
入院生活を半分過ぎたころ、クラスメイトにして友達、ライスメイサーポニウムス部エースの沢田リコが病院を訪ねてきた。
ちょうど妹と弟もおらず、やることがエロ本読むくらいしかなかったので、それなりに嬉しい訪問だった。
ていうか何故他のクラスメイトは見舞いに来ないんだ。
別に俺はありがちなラノベの主人公のように孤独を好む青年じゃないのに。
「久しぶりー、怪我大丈夫? 何読んでるの?」
「もう殆ど治って来たよ、あと一週間くらいしたら学校行けそうだ。読んでる本はエロ本、ちょっと待って、今ベッドの下に隠すから」
「堂々と言うことじゃないよね!?」
エロ本をベッドの下に隠し、身体を若干起こす。
「……あ、これお見舞いのフルーツ」
「ありがとう」
手に持った籠を渡してきた。
中身はバナナ以外全て皮のみとなっていた。
「ごめん……我慢できなくて」
「……いいよいいよ」
相変わらず安定と信頼の胃袋キャラだった。
「ところで他の奴らは?」
「んー、最初はもっと人数多かった筈なんだけど皆腹痛とか風邪ひいたとかで急にこれなくなっちゃってね、仕方ないから一人で来たの」
「ふーん」
まあ嫌われてはいないようだ。
よかった。
「しかし大変だったねー、強盗に襲われて全治一ヶ月だなんて」
「え? あ、うん」
そういえばそういうことになってるんだった。
「やたら強い外国人の強盗でなー、一介の高校生に過ぎない俺は手も足も出なかったよ」
「へー、外国人だったんだ。どこの国の人?」
「バルタン星人」
「勝てるわけねぇー!」
今日は沢田リコ、つっこみの日のようだ。
元々こんなんだっけか。
「天然ボケとつっこみをこなすハイブリットなプリティーウーマンだよ」
「自分で自分のこと天然って言うやつの九割は計算だよな」
「私はその残りの一割だよん」
どうだか。
まあプリティーウーマンは認めるが。
その後、くだらない話を二、三すると、沢田リコは帰って行った。
……さあって、またやることなくなったしエロ本でも読むかな。
*****
さて、色々あって退院の日。
この一ヶ月は、常に弟が家の付近にいたらしいので襲撃は無かったらしい。
……是非これからもそうしてください。
そんなことを考えながら、帰路。
妹弟の出迎えはなし。まあいいけど。
「ただい……」
ま、と言いかけたところで、言葉を止める。
玄関に見慣れぬ靴があったからだ。
黒い革製の成人男性用の靴。
俺のじゃない、妹は勿論、弟も運動靴しか持ってない。
母さんは仕事で南極にいるはずだし、父さんは他界済みだ。
つまり今この家には来客がいるということになる。
…………。
まあ弟がいるなら問題は無いか。
リビングに入り、荷物(主にエロ本)を机の上に置く。
チラッと客間を覗くと、そこには妹と弟、そして中年男性がいた。
中年男性はスーツに身を包んでいて、茶色いサングラスを掛けている少し胡散臭そうな男だ。
必死に妹に何か言ってるが、妹は首を横に振った。
交渉決裂というやつだろう。
妹は白衣のポケットから便利スイッチを取り出すと、押した。
中年男性の座ってた椅子が火を噴き、まるでロケットのように垂直に飛んだ。
そして天井に穴が開き、そこからボッシュート。
…………。
……どこから突っ込めばいいんだ。
「あ、帰ってたんですか? 兄上」
妹が客間を覗いてる俺に気付いたようで、こっちに向かってくる。
弟も一緒にだ。
「今日のやつは何をお前にやらせようとしてたんだ?」
「……さぁ? 半分寝てたから良く聞いてなかった」
妹は何気に酷いやつだった。
まあいいか、どうせ碌なやつじゃあるまい。
「さてと、今日は退院祝いということで兄上の好きな晩御飯にしましょう。何がいいですか?」
「マグロ一択」
「……相変わらずのマグロスキーですね、他の生魚は食べれない癖に」
いいじゃんかよ、マグロ好きなんだよ、マグロ。
「あ、マグロで思い出したけどシーチキンってあれマグロなんだな、知らなかったよ」
「常識でしょう」
「なん……だと……」
溜め息を吐きながら言われた。
「えー! マグロだったの!?」
弟も驚いてる様子である。
流石弟、お前ならそう言ってくれると思ってたぜ!
「シーチキンって牛肉だと思ってたよ、俺」
…………。
……………………。
……流石我が弟、予想の斜め上を行くとは……。
弟は感心しながら庭に出ていった。
おそらく夕飯までトレーニングでもするのだろう。
「……勇大って」
妹が呟く。
「脳筋ですよね」
全くだ。