第二十二羽
ブラブラと街を練り歩くこと五時間。
そろそろ腹が減ったのでコンビニで、おにぎりを数個買った。
具は鮭とシーチキンと昆布、特にシーチキンは大好物である。
「……む?」
公園で静かにランチタイムを取ってると、見覚えのある連中が次々と公園に入ってきた。
ベアコンに読書中毒者、天然ボーイッシュにどSカチューシャ、そして金髪美少女。
要するにいつものメンバー、変人戦隊の奴らだった。
「ん? あれ羽切じゃね?」
「え? ホントだ、おーい! 羽切くーん!」
向こうも俺に気付いたようである。
俺はおにぎりのごみをきちんとゴミ箱に捨て、立ち上がった。
「どうしたの羽切くん、こんなとこで……何度も電話したのに出ないし……」
沢田リコの服装はピンクが中心の、暖かさ重視の格好だった。
お世辞にもオシャレとは言いにくい。沢田リコはその辺興味が無いのだろうか。
「え? 電話?」
ポケットから携帯を取り出す。
着信履歴がエライことになってた。
「あー、悪い、サイレントマナーにしてた」
「もー、何かあったのかと心配してたんだよー」
「すまんすまん」
「で、何で公園にいたんですカ?」
「ん? あー……」
最近滅法日本語が上手くなったフルフルに訊かれ、迷う。
ちなみにフルフルの服装は男物の黒コートとジーパンである。
滅茶苦茶格好いい。流石は美少女である。
さて、よくよく考えれば家出とか小学生がすることである。なんとなく気恥ずかしい。
ああ、でも、もしかしたら青井秀か藤宮マサルに泊まっていいか訊くかもなんだよな……まあいいか、話しちゃおう。
「実は家出したんだ」
「家出!?」
沢田リコが驚きの声を上げる、が、他のやつらの反応は「ふーん」程度のものだった。
「実は家族と喧嘩っつーか意見の相違っつーか反抗期というか……まあ兎に角そんな感じ」
大方間違っては無い筈だ、実際には母さんが嫌いだから帰りたくないだけだけど。
言うと、青井秀と伊藤詩織が意外そうに息を漏らした。
フルフルは聞き取れなかったっぽい。
「へー、羽切にもそういった一面があるとはな」
「何か羽切くんに対して初めて親近感が沸いた気がする」
「そうなのか?」
「そうそう、だって羽切くんって完璧超人みたいじゃん」
白黒のジャージに身を包んで、相変わらずカチューシャを首に掛けてる伊藤詩織が言う。
完璧超人……ねぇ、それはあの母親を連想させる言葉だ。
――今日の俺は、特別機嫌が悪かった。
「家族が鬱陶しかったり煩わしかったりするんでしょー?」
「まあ、な」
「わーかーるー! 私もちょっと家柄が由緒正しいからって習い事とか礼儀作法とか五月蝿いったらありゃしない。エッチな本も駄目って言うしさー」
「…………」
「ちょっと、今のツッコムとこ……」
「わかる?」
自分の声が、自分の物と思えないくらい低かった。
頭に血が上り、冷静な判断が出来なくなる。
「わかって……たまるか!」
「ちょ、ちょっと? 羽切くん?」
「お前らにわかるか!? 自分が小学生の時に妹が大学を首席で卒業した兄の気持ちが! 自分を虐めてた同級生から6歳下の弟に助けて貰ったときの兄の気持ちが!」
叫ぶ。十余年の不満を、叩きつけるように、叫ぶ。
気付くと、俺は泣いていた。ボロボロと、子供のように。
泣き、叫んでいた。
「母さんが正しすぎて、それがまたうざくて! 大っ嫌いで! でも俺が悪いの分かってて! 妹も、弟も! 俺はあいつらの事大嫌いなのに! やたらと絡んでくるし! せめてほっといてくれればもっと楽なのに! 兄だから護ってやんないといけないし! 俺は! 俺は――!」
羽切家に生まれたくなかった。
せめて弟としてならもう少し楽だった。
その二言は、喉まで出っかかって、寸でのところで呑みこんだ。
「俺は――もうわかんねぇ」
立ってられなくて、膝を付いた。
あーあー、やってしまった。
感情をそのまんま、ぶつけてしまった。
泣き顔で、無様ったらしく妬みの感情を、まるで関係ない友達にぶつけてしまった。
ドン引き、されてるだろうなぁ。
重たい空気が流れる中、青井秀が、口を開いた。
「なぁ――羽切」
「……何?」
「お前はこう思ってるだろう、無様な姿を晒してしまった、ドン引きされちまった、重たい空気が流れてる……と」
「え」
何コイツ、エスパー?
「そんなお前に、素晴らしい言葉を贈ろう」
「……?」
「ぅぶぁっかじゃねぇえええのっぉおおおおおおおおおお!」
え。
ええええええええええ。
「羽切も意外と常識をしらねえなぁ、変人戦隊のメンバーだし当然か? あ?」
藤宮マサルが、笑いながら言った。
「そういうのは、愚痴って言うのよ、人間だもの、愚痴くらい言いたくなる時だってあるってもんよ」
叫んで、泣いて、それを誰かに聞いてもらえて、すっきりしたんじゃない?
と、伊藤詩織が言った。
確かに、朝ほどのイラつきはもう感じなかった。
「むしろ羽切くんの本音が聞けて嬉しいなぁ、ほら、だって羽切くんって弱音吐かないし、いつも一人で戦ってるって感じだったんだもん」
沢田リコが、いつもと変わらぬ快活な笑顔でそう言った。
「あの……途中からイマイチ、ききとれなかっタんですけど……」
「……ああ」
フランス語で訳してあげた。
すると、フルフルは成程、と一度頷き、言葉を選びながら言った。
「家族との喧嘩は、とても難しい問題です。血縁というのは切れるものじゃありませんシ、家にも帰りにくいことでしょウ」
「ああ……まあな」
「だから今晩は誰かの家に泊まるといいでしょウ」
まあ、そのつもりだったしな。
藤宮マサルか青井秀に――
「なんなら私の家でも構いませんシ」
吹いた。
フルフル以外の全員がもれなく吹いた。
「だだだだだだだ駄目だよフルフルちゃん!」
「? どうしてですか? リコ、私は一人暮らしですし、都合もいいかと」
「なおさら駄目だよフルフルちゃん!」
びっくりしたー、外国人だからその辺の貞操観念薄いのかね?
まあ俺も幼馴染相手以外だったら、安全だろうし大丈夫なんだろうけど……。
世間体的に駄目だろ。
「じゃ……じゃあ! 羽切くん! 私ん家でもいいよ!」
「いやいや何を血迷ってらっしゃるのですか沢田リコ、普通に藤宮マサルか青井秀に……」
「すまん、羽切、今日は無理だ」
「同じく」
……WHAT?
目を丸くして二人の方を向くと、二人は冷や汗を掻いており、背後にとても良い笑顔をしたどSが居た。
……あ、あのアマ~……。
「羽切くん! 選んで!」
「ワギワギ、どっちにするんですか?」
「どっちにするって……」
究極の選択すぎる。
いや、野宿するって手もあるけど。
「んー……」
こういう時は、レッツ……問題の先送り!
「……後で決めるよ、うん。そんなことよりカラオケ行こうぜ」
「えー」
「そうですか……」
沢田リコとフルフルから不満げな声が漏れる。
ていうか、この選択を即決できる男とかいないと思うんだ。
「じゃ、何処のカラオケにする?」
と、青井秀が言った。
「うーん、やっ……」
と、不意に声が途切れた。
同時にドサリ、と人が倒れる音。
何が――、と考える暇も無く、次々と皆倒れていく。
「え――」
気付くと、現在地である公園に、白いガスが充満していた。
そして強烈に襲ってくる眠気。これは――
「睡眠……ガス……?」
あらがうことも出来ず、俺の意識は闇に落ちて行った。
シーチキン旨いよね




