第二羽
我が妹である羽切朱音は学校には行ってない。
まあ当然だけど。
ちなみにどうでもいいが弟も学校に行ってない。
果てしなくどうでもいいが。
なので、三人兄弟の中で唯一普通で平凡な俺は一人寂しく学校への道を歩いていた。
まあ小学校のころからずっと一人だったから慣れたが、一緒に登下校をする美少女幼馴染が欲しいもんだ。
できればヤンデレがいいな、『うふふ……おや? 違う女の匂いがするね……よし、アナタを殺して私も死ぬ!』とか言われたい。
そしてもう一つ付け加えるなら胸は小さいほうが良い、ちっぱいは正義だ。そして俺の隠してあるエロ本を発見して顔を真っ赤にする純情な子なら尚良い。
……今度そんな感じのエロ本無いか探してみるか。
「……は! いかんいかん、これではただの変態キャラじゃんか。……俺はもっとクールでニヒルなキャラだったはずだ。そう、クールに行こうクールに」
「なーにブツブツ言ってんのよ」
「ふぅぉおう!」
突然聞こえたセリフに驚いて、思わず変な声が出てしまった。
くそう、今さっきクールに行こうと決めたのに出鼻を挫きやがって……。
そんな思い(恨み)を込めて声を掛けてきたソイツを睨むと、ソイツは腹を抱えて苦しそうに爆笑していた。
「ふぅぉおうって……ふぅぉおう……ふ、ひひひ、ははっははは!」
「…………」
笑い方が不気味だ。
「……おはよう、沢田リコ」
「ふ、ふふ、うん、おはよ、『ふぅぉおう』くん」
「…………」
変なあだ名が付いてしまった。
というかそれ呼びにくいだろ、絶対。
沢田リコ。
私立若草高校二年三組に属する快活な美少女。
ラクターアイスカラーだったかなんだかの運動部のエースで、色恋沙汰が苦手なひんぬー純情少女である。
ちなみに髪型は薄茶のショートカット。
…………。
……うーん、惜しい。
これで俺の幼馴染だったら完ぺきなのに残念ながら沢田リコとは高校から知り合った友達である。
これでもし幼馴染だったら間違いなく俺は恋に落ちてるだろう、非常に残念だ。
あ、でもヤンデレじゃないっぽいしなー。
「……しかし珍しいな、沢田リコは確か朝練があるはずだろう、部活の」
「あー、実は寝坊しちゃってねー、もう間に合わないからいっそのことゆっくり行こうと」
「開き直ってるし」
まあいいか、俺には関係ないし。
ライスターブレイダー部だったかなんだか思い出せんが、怒られるのは沢田リコだ。
いつまでも立ち止まってるのも何だし、そろそろ歩き始めることにした。
隣に沢田リコがすごいナチュラルな感じで並んだ。
「…………」
まあ、いいか。
寂しく無くなったし。
理想を言えば幼馴染と登校するのが夢だが、現実はこんなもんだろう。
や、俺の理想は叶うことはありえないから、夢ではなく妄想か。
俺の幼馴染は、十年前に死んだのだから。
*****
「はい、じゃーテスト返すぞー」
十月四日、私立若草高校二年三組の一時間目、物理の授業は鬼崎のあだ名で生徒に慕われてる(?)谷崎轟先生のひとことで阿鼻叫喚の図となった。
「イチイチ騒ぐな! さ、名簿順に取りこーい」
名簿番号一番のこのクラスでも優秀な類に入る青井秀が余裕の表情で先生からテスト用紙を受け取り、少し顔を歪めた。
どうやら思った以上に悪かったっぽい。
続いて二番の伊藤詩織がビクビクとテスト用紙を受け取り、ソーっと点数だけ確認するように紙を覗き、フリーズした。
あの様子だと赤点確実な点かもしれない。
ふむ、結構面白いな、人間観察。
俺は羽切なのでまだ呼ばれるまで時間がある。
たまには人間観察もいいだろう。
あ、沢田リコが呼ばれた。
……何かを諦めた――いや、悟った顔をしてやがる。
先生からテスト用紙を受け取り、点数を確認。
すると、奇声を上げつつテスト用紙をびりびりに引き裂いた!?
「こらぁ! 沢田ァ!」
「ひぃ! すいません先生! つい!」
あーあー怒られてやんの。
後で何点だったか聞いとこう。多分教えてくれんが。
続いて色んな人の色んな反応を見ることが出来て楽しかった。
……で、
「羽切ィ」
俺の番というわけですよ。
さて、何点かな?
先生から用紙を受け取り、チラッと点数を見る。
……。
…………。
……ま、こんなもんか。
先生に見えないように紙をくしゃりと丸めて、適当にカバンの中に放り込んだ。
「今回のテストは皆出来が悪かったな、百点も一人だけだったぞ。さ、テスト仕舞えー、教科書出せー」
先生のその言葉を皮きりに、皆教科書とノートを出し、やる気まんまんで授業に向かう。
多分、テストの成績が悪かったから今度こそは、とやる気になってるんだろうな。
あ、でも沢田リコは寝てるわ、うん。
先生に怒られた。そらそうだ。
ラキスーシェルアー部のエースは勉強が苦手らしい。
知ったこっちゃないが。