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羽切家の非日常  作者: ラウス
羽切勇大
17/32

第十七羽

 夜。


 皆が寝静まった中、俺はムクリと起き上がった。


 時刻は23時13分。

 今日一日何もなかった……と、いうことは、そろそろ来る筈。


 嫌な、事が。


 ――――コンコン。


 窓が、叩かれた。


(……来たか)


 俺は同じ部屋であるベアコンを起こさぬように(今日は二人部屋だった)、窓の傍に立った。


「誰だ?」


 声を落として言う。

 両手はいざという時に対応出来る様、自然な形で待機させておく。


「…………俺だよ、兄者」

「――羽切勇大か?」


 驚いた。てっきり刺客か何かが来たと思った。


 しかし何の用だ?

 弟が訪ねてきた理由が皆目理解出来ない。


「……とにかく外に出てきて、ここじゃ話もできない」

「ああ、わかった」


 音を立てないように慎重に窓を開け、飛び降りた。


 ここは4階だが、今の俺なら耐えれないこともない。


 頭が下にならないことに気をつけつつ、無事に落下。着地。


 足が少し痺れたが、じきに治るだろう。


「で、話って何だよ」


 同じく落下してきた弟に向けて、そう切り出す。


「……兄者に手伝って欲しいことがある」

「……何?」


「『薔薇の園』を滅ぼすのを手伝って欲しい」


 ……?







*****







 羽切勇大の話によると、事の顛末はこうだ。


 俺の予想通りに『薔薇の園』の標的にされた羽切勇大は、勿論憤慨し、『薔薇の園』の非戦闘員、戦闘員の区別無しに、四分の一を壊滅させた。


 そこまではよかった、順調だった。が。


「『二十人の仙人候補』が四人に――『世界を変えることが出来る七愚人』が一人、『薔薇の園』に……?」

「ああ、俺は『仙人候補』の中じゃぶっちゃけ一番強いんだが……流石に四人同時にかかってこられると厳しかった……そこに『愚者』が造った兵器が加わるとなると……」

「なると?」

「ギリギリ勝てない」


 ああ、勝率0%じゃないのね、流石。


「でも何で俺なんだ? 母さんか羽切朱音の方がいいだろ?」

「この程度の件で母者に頼ってたらいつまで経っても追いつけないしな、……朱音は……あれだ、女の子の日だ」


 ……あ、そう。

 じゃあ消去法で言うと俺しかいないわけね。


「でもさー、俺が何の役に立つってんだ? とてもじゃないけど『仙人候補』なんざには敵わねえよ?」

「大丈夫だ、その辺はちゃんと考えてある」

「ほう?」


 意外だった。

 羽切勇大という人物は脳筋を地で行くようなやつなので、作戦とか戦略とかそういうのは一切無視、レベルを上げて物理で殴るがモットーなのに『考えがある』とは……成長したのか?


「その名も兄者が『仙人候補』を一人引きつけといてくれれば後は全部俺がぶっ潰す作戦!」

「大まかだなおい!」


 しかも俺がぼこられること確定じゃねえか!


「嫌だ」

「えー、なんでだよ、完ぺきな作戦じゃん」

「俺がボコボコにされるから。『仙人候補』ってお前ほどじゃないが超人だらけなんだろ?」


 どれだけ頑丈だろうと俺は一般人の域を超えれないのだ。

 例えミサイルが効かなくても、『仙人候補』にはただのパンチがミサイル以上の威力を持つやつがわんさかといる。


「兎に角、俺はそんな危険な真似ぜってぇしねえからな、修学旅行も途中だし」

「頼むよ兄者……この『初回限定らぶらぶ☆おさにゃにゃじみ』とか言うフィギュアあげるから……」

「弟よ、知ってるか? 兄という生物は、後から生まれてくる弟や妹を守るために存在していると……いいだろう、協力しよう。兄が弟のピンチを助けるのは――当然の行為なのだから」


 説明しよう!

 『初回限定らぶらぶ☆おさにゃにゃじみ』とは今幼馴染スキーの間でトップクラスの人気を誇るアニメの主人公のにゃにゃじみちゃんをフィギュア化したもので、初回限定版のそれは全国に20個そこらしか存在しないとされる正に幻の一品なのだ!


「マジで!? ありがとー! 兄者!」

「はっはっは、良いってことよ。……時に弟よ、そのフィギュアは何処で手に入れた?」


 俺ですら買えなかったものなのに。


「ああ、フィギュアは拾った」

「なん……だと……」


 まあいいや、フィギュアが手に入るのなら文句は無い。


「――で、具体的に俺は何をすればいい?」

「その前にもっと詳しく情報を提供しとくよ、姉者に頑張ってもらったから最低限の情報はあるよ」


 そう言って羽切勇大は懐から一枚の紙を取り出した。


 紙にはこう書いてある。


 『二十人の仙人候補』

 ・百尾大河ひゃくび たいが……【水滴遣い】

 ・二柄高氏にのがら こうし……【殲滅家】

 ・大雪奇命たいせつき みこと……【魔法使い】

 ・死ノ原死神しのはら しにがみ……【殺害屋】


 『世界を変えることが出来る七愚者』

 ・氷河島左近ひょうがじま さこん……【快楽主義】



「――これは?」

「『薔薇の園』に所属している『仙人候補』と『愚者』のリストだ、これ以上詳しく調べるのは姉者の体調的に無理だった」


 ふーん、右のは二つ名かな。

 【水滴遣い】【殲滅家】【魔法使い】【殺害屋】そして【快楽主義】か。


 ……【水滴遣い】が一番平和そうだなぁ……【殺害屋】とか絶対会いたく無いなぁ……。


「――で、兄者には【殺害屋】を相手どって貰いたい」

「ふぅおわぅ!?」

「そんなに驚かなくても……一応こん中で一番弱いの【殺害屋】なんだから……」


 あ、そうなの?


「俺も『仙人候補』だからね、名前さえ分かればある程度どんな相手か分かる……『仙人候補』内での集会とかあるしね」

「へー」


 知らんかった。


「この中で一番強いのは【殲滅家】、ヤバいのは【魔法使い】、相手にしたくないのは【水滴遣い】、そして、一番力を発揮出来ないのは【殺害屋】だよ」

「何で?」

「『薔薇の園』には男は殺さないってルールがあるらしいんだ」


 ……ほう。


「【殺害屋】は文字通り『殺害』に特化してる『仙人候補』だ、その『殺害』が禁止されてる以上本来の実力は出ない筈だ」

「ははーん、お前にしては考えてるじゃないか……で、それ何処情報?」

「ウィキペディア」

「ウィキペディア!?」


 すげー、流石ウィキペディアすげー。


「……で、まあ俺が【殺害屋】とやらを抑えればいいわけだが……具体的に何をすればいいんだ?」

「姉者にアジトの場所も調べて貰ったから、まずはそこに行こう」

「着いた後は?」

「野となれ山となれ」


 流石脳筋、大雑把だ。


 いや、まあコイツにしては考えたほうだけどさ……。


「そんじゃま、早速行き――」

「その必要は無いぜ!」


 突如聞こえてきた声に驚き、振り向く。


 振り向いた先には、四人の男が居た。


 一人は小学生くらいの子供。

 黒髪で、一見何処にでも居そうな雰囲気だが、死んだ魚のような濁った瞳をしている。


 一人は白髪の長髪、黒いコートに黒いジーパン、そして赤い瞳(多分カラコン)に赤い長剣という何処からどう見ても中学二年生が好みそうな格好をしたイケメン。


 一人はダボっとしたパジャマみたいな服に身を包んだ、天然パーマひげ面のおっさん。ちなみにかなりガタイがいい。


 そして一人は、明らかに他の三人とは違う雰囲気を持ったレインコートを着込んだ眼鏡の男。


「……誰だアンタら」


 突然の登場で済まないが、そんな個性的な格好ばっかな集団がいきなり来られても困る。いやマジで。


「『薔薇の園』……そっちから来てくれるとは助かるな」

「え? あいつらがそうなの?」


 まじかー、道理で妙に個性的な変人揃いだと思ったよ。

 『仙人候補』はそういう集団なのだろうか。


「……で、どれが【殺害屋】?」

「あのレインコートのやつだな」


 ふーん。

 ちなみに小学生が【殲滅家】で、邪気眼が【魔法使い】、天然パーマは【水滴遣い】らしい。


 まあ俺にはどうでもいいが。


「うほ、相変わらずイイオトコだな、勇大」

「黙れ天パ! 前々から怪しいと思ってたけどマジでガチだったのかよてめえはよぉ!」


 弟の交流関係を知るって何か複雑な気分だよね。

 基本的にどうでもいいけど目の前でわいわい騒がれると鬱陶しく思えてくる。


「おい、羽切勇大。雑談もいいけどそろそろ……」

「あ、そうだな」


 しかし、コイツはどうやって俺に【殺害屋】を仕向けるのだろうか。

 よく考えるとわざわざ四人の内の一人を俺にあてる必要が無いんだよな……『仙人候補』同士の戦いに割って入れるわけがないし。


 やはり挑発とかするのだろうか、まあそれが普通だろうが、断られた場合とか考えて無さそうだよな。コイツ。


 とか思ってたら、羽切勇大は「おーい、死ノ原ー」と、まるでちょっとコンビニ行ってパン買ってこいよとかそういう類の声のトーンで言った。


「ちょっとお前は俺の兄者と戦っといてくれよ、頼む」

「どストレートォオオオオオオオ!」


 馬鹿だった! 予想を遥かに上回る馬鹿だった!


 そんでその死ノ原死神も何か乗り気だし! 「勇大の兄か……興味があるな」とか言ってるし!


 ヒュ……と突然死ノ原死神の姿が消えた。


 そして、次の瞬間にはその死ノ原死神の脚が俺の腹に喰い込んでいた。


「――――ぇ」


 脚が地から浮き、身体が宙に投げ出された。

 そして景色が――ブレた。


 ガシャァアアアアアアアン! と、ガラスの割れる音が響き、俺は窓に叩きつけられたことを認識した。


「イテテ……」


 頭から窓に激突したらしく、結構痛い。それ以上に蹴られた腹が痛いが。


 ここは……どこだ?


 周囲を見渡す。

 ピンクを中心とした色使いの部屋、キングサイズのベッド、紫の照明、……発禁で描写してはいけないもの……。


 ……ラブホじゃねえか!


「おっと、勘違いしないでほしい」


 そして、割れた窓からレインコートの眼鏡男子、【殺害屋】死ノ原死神が姿を現した。


「別にラブホに突っ込んだからって俺に同性愛の気があるわけじゃないぜ、俺はただ雇われただけの身だからな」


 そう言って、死ノ原死神は、その名前に遵守してか、身の丈ほどある巨大な鎌を明らかに物理法則を無視する感じで懐から取り出した。


「『二十人の仙人候補』が一人、【殺害屋】死ノ原死神、参る」


 ……えーと、名乗ればいいのかな、これは。


「一般人、羽切ほにゃらら、名前は勘弁してくれ、死ぬほど呼びにくいんだ」


 おかげで名前で俺のことを呼ぶ人間が一人たりともいないというね、うん。


「ふん――行くぞ、羽切兄」

「来いよ、【殺害屋】」


 そして、バトルが始まった。






******






「さてと」


 死神と兄が無事戦闘に入ったのを見届けて、勇大は改めて『仙人候補』三人に向き直った。


「大丈夫なの? 君の兄さんは、死神強いよ?」

「なあに、兄者は最強だぜ。なんせこの俺が負け越してるんだからな」


 主に話術で反則負けを取られてるだけなのだが、それでも勇大は純粋に、兄を尊敬している。脳筋だから。

 が、その過大評価をあの兄が聞いたら、必死になって否定するだろう。


「へぇ……」


 小学生のような風貌の【殲滅家】が、感心するように溜息を吐いた。


「今度俺も手合わせ願いたいな」

「おー、今度俺から頼んでやるよ」


 断られる未来しか浮かばないが、そんな結果を想像すらせずに、無邪気に笑う勇大。


「じゃ、そろそろ――」


 そして、スイッチを切り替えたかのように勇大は真摯な表情になった。


 三人の『仙人候補』もそれを見て、それぞれ構える。


「安心しろよ、知りあいのよしみだ。殺しはしない、全員揃って――輪切りにしてやんよ」


 バトルが、始まった。


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