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羽切家の非日常  作者: ラウス
羽切勇大
14/32

第十四羽

「喰らえ! 熊神流奥義! ベアー・ザ・ベアー!」


 そう言って、お土産屋で買った木刀(980円)を容赦の欠片も無く振るってきた藤宮マサルの奥義とやらを片手で受け止め、(勿論手加減して、折れない程度に)足払いを掛けた。


「うぉお!?」


 素っ頓狂な声を上げながら素っ転ぶベアコン、その際こぼした木刀をキャッチし、切っ先をそいつに向ける。


「降参?」

「……降参」


 流石に完全な一般人には負けられないしなー。

 と、いうか弟や母さんが異常なだけで俺の戦闘力も大概人外なんだよな……。


「属性に喧嘩が強いも追加かー、引くほどリア充よね、羽切くん」

「完全無欠ってコイツのためにある言葉なんじゃないか?」


 それは無いぞ青井秀。

 完全無欠というのは俺の母さん――と、もう一人居たか――まあ、そいつら二人のためにある言葉だ。


 俺が完全を名乗るなど恐れ多い……、俺は欠陥だらけの失敗作だというのに。


「ぐぐぐ……羽切……流石だな、トーマスの次くらい強いぜ、お前」

「いやお前のそのトーマスへの過大評価は何だよ」


 流石に熊のぬいぐるみに負けるやつなんていないぞ?


 と、いうわけでここは一日目の旅館。名をみんみん旅館。

 和風のわりと大きめな旅館である。


 六人部屋で、俺、藤宮マサル、青井秀と他に、堀沢古木(出っ歯)、峯川砲斬 (デブ)、瓜北和(ガリ眼鏡)が居たのだが、沢田リコ、伊藤詩織、フルフルの三人が来たところで、「こんなリア充空間に居てられるか! 俺たちは喪男集団の部屋に逃げる!」と言って出て行ってしまった。


 気持ちはわからんでもない。


 とまあ、そんなわけで今この部屋番号3533には、変人戦隊カワッテルンジャーの六人が揃ってるというわけである。


「Veuillez attendre une minute et je suis naturel, et pourquoi est-ce que je suis compté comme un excentrique?(ちょっと待ってください、何で私はナチュラルに変人としてカウントされてるんですか?)」

「ワターシフランス語ワーカリマセーン」

「Un neveuおい


 美少女の凄んだ顔怖っ!


「……Est-ce que nous sommes déjà des amis?(俺達もう、友達だろ?)」

「Pourquoi est-ce que vous dites des lignes légèrement bonnes par ce réglage?Veuillez l'utiliser dans une place plus importante.Par exemple, à temps quand, en fait, je combats contre vous avec les doigts de l'organisation du mal et parais me réformer.(何でこのタイミングでちょっと良いセリフ言っちゃうんですか。もっと重要なところで使ってくださいよ。例えば私が実は悪の組織からの手先で貴方と戦って改心しそうなときとかに。)」


 はは、無い無い。

 そんな創作みたいなことそうそう有ってたまるか。


「Est-ce que je pensais, mais est-ce que ma manutention n'est pas vraiment terrible en comparaison des autres gens?(ちょっと思ったんですが、他の人と比べて私の扱い酷くないですか?)」

「どうしてバレた。あ……Je ne peux pas tel.(そんなわけないじゃないか)」

「…………」


 き、金髪美少女にジト目で見られてるだと!? これはご褒美か!?


「羽切くーん、フルフルちゃんと何喋ってたの?」

「N'appelez pas Furufuru, j'Riko……(リコさん、私のことをフルフルと呼ばないで……)」

「そんな大したこと喋ってないよ、ただフルフルが俺の生き別れのいも……姉だと判明しただけで」

「ふーん……、……ん? え?」

「冗談に決まってるだろ……なんでちょっと真に受けてるんだよ……」


 ああもう可愛いなあコイツは。

 俺に幼馴染スキーが無かったら間違いなく沢田リコという人物に俺は惚れてるだろう。


「おーい、そっちの三人集まれー」


 と、不意に伊藤詩織が俺達を呼び集めた。

 何だ何だ、と言われるままに六人は輪になって集合した。


「――で、何だよ伊藤詩織」

「ふふふ……良い機会だから決めておこうと思ってね」

「何を?」

「この変人戦隊カワッテルンジャー六人の『色』をよ!」


 ズビシ! と効果音が付きそうなくらいの勢いで、伊藤詩織はツンデレの代名詞ともいえる右手で指を刺し、左手は腰に当てるというポーズをしながら言いきった。


 色……ていうと、確かに戦隊物にはレッドとかブルーとかあるけど……。


 というかナチュラルにフルフルメンバー入りしてたな。


「Je ne suis pas un excentrique.(私は変人じゃないー!)」

「羽切くん、フルフルちゃんは何て言ってるの?」

「私は変人じゃないーってさ」

「ふむ……羽切くん、今から私が言うこと訳して」


 ……は! しまった、あまりにもフルフルの叫びが悲痛だったからついそのまま訳してしまった。


 ……まあいいか。



「――フルフルちゃん」


 ポン、と伊藤詩織は、フルフルの肩に手を置いた。


「私たち、もう友達じゃない」

「Est-ce que les lignes sont populaires-!?(そのセリフ流行ってるんですかー!?)」

「何て?」

「そういうセリフは悪の組織に捕まったフルフルを伊藤詩織が助け出したときに「なんで助けに来てくれたんですか?」って聞いた時とかにとっとけだとさ」

「そんなに長い文章だっけ?」

「英語だってほら、『1234』と書こうとすると『one-two-three-four』だぜ?」

「成程」


 うんうん、と二回頷いてから、伊藤詩織は会話を続ける。


「そんなに変人戦隊カワッテルンジャーに入りたくないの?」

 俺が訳すと、フルフルはコクコク頷いた。


「そうね……でも私……」


 あ、嫌な予感がする。

 この先の言葉を訳したくないんだが逃げても良い?


「嫌がる人を無理矢理屈服させて服従させてせめてもの抵抗でこちらを睨んできたときの顔とか気丈な人のレイプ目とか泣き顔とか大好きな人種なのよね」


 と、伊藤詩織は満面の、それこそ惚れてしまいそうなくらい素晴らしい笑顔でそう言ってのけた。


 え、ええと……これ、訳すの?


 そう訊くと、伊藤詩織は「ちょっとオブラートに包みすぎたから、もうちょっと誇張してもいいわよ」と言った。


 流石は超級どS、レベルが違った。


 周りに助けを求めようとした。

 藤宮マサル――目を逸らされた。

 青井秀――読書をしている、しかし上下が反対だ。

 沢田リコ――目が合った、笑顔で手を振ってきた、状況が分かってないっぽい。


 フルフル――涙目。


「Qu'est-ce qui font Wagiwagi, Siori disent?Veuillez le traduire tôt.(ワギワギ、詩織は何を言ってるんですか? 早く訳してください)」


 ……覚悟を決めよう。


 俺は、伊藤詩織が放った言葉を、精一杯の誇張と自分のサド精神を極限まで絞り取った言葉を追加してフルフルに伝えた。


「…………」


 フルフルは表情を一片たりとも変えず、それを聞き終えた。


 恐らく、脳みそがゆっくりと処理をしているのだろう。

 段々と顔が赤くなっていき、それはもうトマトのように赤くなっていき、ボロボロと涙をこぼし始めた。


 あ、泣き顔可愛い。と伊藤詩織が呟いた。


 確かにそれには心から同意するが、そんなこと言ってる状況じゃなさそうである。


 フルフルは、静かに藤宮マサルの買った木刀を手に取った。


「Une metamorphose! Une metamorphose! Une personne brutale! L'ennemi de la femme!(へ、変態! 変態! 鬼畜! 女の敵!)」

「危ない伊藤し――って俺ぇ!? まさかの俺狙い!?」


 力任せに振られた木刀を辛うじて避ける。

 太刀筋こそ出鱈目だが、何か武道でもやってるのかと疑う身のこなしだ。


「Je me vise pourquoi!C'est Ito pour avoir dit!(何で俺狙いだよ! 言ったの伊藤詩織だぞ!)」

「Lorsque je vends lorsque je vends, je suis bruyant!Il ne peut pas dire que c'est un tel joli sourire, et un tel joli enfant est une telle personne brutale!Raison... est choisi la sensation que vous êtes en tout cas étrange sans autorisation!(うっさいうっさいうっさい! あんな可愛い子があんな可愛い笑顔でそんな鬼畜なこと言うわけ無いでしょうが!どうせ貴方が勝手に変な風に訳したに決まってるわ)」

「Il comprend mal!Cet associé est un sadique!(勘違いだ! あいつは超級のどSなんだよ!)」

「Même si une chose a même la gaufrette si j'avais paru le comparer!(例えそうだったとしてもオブラートってもんがあるでしょうがああああああ!)」

「Le plus(ごもっともおおおおおお!)」



「さて、羽切くんとフルフルちゃんがいちゃいちゃしてるの待つのめんどくさいから私たちで決めちゃいましょ」

「さっすが伊藤、自分で蒔いた種を他人に回収させる。そこに痺れる憧れるぅ」

「薄情者ぉおおおおおお!」

「で、やっぱレッドから決めるべきだと思うの」


 無視かよぉおおおお!

 痛い! ていうか痛い! フルフルやめて! 木刀でお尻を叩かないで!


「レッドかー、やっぱリーダーシップが溢れるやつかな。それで男」

「リーダー……」

「シップ……」

「…………」


 痛い痛い痛い! 頭叩かないで!

 ……あれ? 何で俺ダメージ喰らってんだ? 魔改造の所為でミサイル喰らっても平気なのに。


 ……あれか、ギャグ補正というやつか。


「レッドは保留ね」

「同感」

「異議なし」


 段々痛いのが気持ちよくなってきた……。


「よく考えたら別に既存の戦隊物を真似る必要も無いわね」

「そうだな、はみだし者の集団なわけだし、逆に奇をてらった方がいいかもしれない」

「じゃあ藤宮はプラチナね」

「髪の色で判断!?」

「しゃあないわね、じゃあプラチナベアーで」

「了解」

「もうベアーが付けばこいつ何でもいいんじゃないか?」


 っ……!

 え? いやいやいや、別に感じてなんか……え、ちょい待てそれは拙い不味い。

 いやマジでホントお願いします!


「リコはピンクね」

「あー、確かにそれっぽい」

「ピンク好きだからそれでもーいいよ」

「いや、待て、ピンクだと普通すぎないか?」

「じゃあショッキングピンクね、決定」

「え!?」

「あら、リコ。パスカルピンクのほうがよかった?」

「普通にピンクでいいよ!」


 ――――んぁ……!

 うぅぁあああ! マジで! 洒落になってないから!

 くぅううううう……! は……ぁ……。


「青井くんは……ブック?」

「色ですらないな」

「それくらいがちょうどいいのかもよ」

「というかそれくらいしか特徴無いもんな」

「……人が気にしてることを……」

「じゃあブックマークで、はい決定」

「それはお気に入りって意味だ!」


 っはー! はー!

 らめ! そんな大きいのらめええええええええええ!


「私は……」

「「「ブラック」」」

「否定できないわ」


 堕ちちゃう! 堕ちちゃうぅうううううううう!


「で、さっきから地文で遊んでる馬鹿はどうする?」

「読めんの!?」

「ええ、勘よ」

「一人称だから俺のプライベートまるわかりじゃないですかやだー」


 さっきから普通にボコボコにされてただけなのに地文でふざけて読者にいかがわしい妄想させようという俺の計画を台無しにしやがってー。


「――虹でいいかしら」

「意図は分かるがせめてレインボーとかにしてくれよ」

「公的理由により却下」

「説明を求む」

「なんかかっこよくてムカつく」

「私怨!?」


 ま、まあいいや。些細なことだ。


 ええっと……今までのを纏めると……。


 藤宮マサル――プラチナブルー

 青井秀――ブックマーク

 沢田リコ――パスカルピンク

 伊藤詩織――ブラック

 俺――虹


 か。


 ――うん、ものの見事にカオスだな。

 これはもういっそ芸術と言っていいくらい統一性が無い。


「それで――フルフルちゃんはイエローかしら」

「まあ、髪の色的にな、でもいいのか? 本人相当嫌がってるぜ?」

「それはそれで濡れるけど――」

「何が?」

「変態死ね。――やっぱ、仲間はずれは駄目っしょ。友達的に考えて」

「そっちが先に濡れたとか言うから……、――ま、本人に伝えなきゃいいだけか」


 訳さない限り、話してる内容が漏れないのは便利だな、色々と。


「ところでもう消灯時間近いぜ? 女子部屋に戻らなくて大丈夫か?」

「は? 何言ってんの? ここで寝るに決まってんじゃない」


 ホワッツ? 何言ってやがりますかコイツは。


「駄目に決まってるじゃねーか」

「えー、何? ムラムラしちゃうの?」

「いや、しねーけどさ」

「少しはしなさいよ!」


 そんなこと言われても俺幼馴染以外に欲情しねーし。


「堀沢古木(出っ歯)、峯川砲斬 (デブ)、瓜北和(ガリ眼鏡)もこの部屋だぜ?」

「うげ、そういやそうだったわね……」


 露骨に嫌そうな顔すんなよ……可愛そうだろ……。

 同情なんて欠片もしないが。


「しゃあないか……それじゃ、カワッテルンジャーの決めポーズだけさっさと決めて帰ることにするわ」

「決めポーズまで作んの?」

「当然よ!」


 それから消灯時間を少し過ぎて、喪男三人衆が来るまで決めポーズの練習をした。


 結構楽しかったが、疲れた……。

 もう今日は……早いとこ……寝るか……。






*****






 消灯時間後、女子部屋。


 小さい電灯を点けて、変人戦隊カワッテルンジャーの女子三人組はひそひそと女子の話をしていた。

 ただし、日本語はまだ全然使えないフルフルは、雰囲気を楽しむしかないようだが。


「ねえねえ、しーちゃん、青井くんとの関係は進展した?」

「うぐ、うー……リコのくせに言うようになりおって」

「もう高校生だもーん。赤ちゃんの作り方だって知ってるんだから」

「え」

「し、舌べら使ったキスでしょ? お母さんに教えてもらったんだから!」

「あーうんそうですねー」

「そそそ、そんなことより! しーちゃん、青井くんとはどうなの?」

「どうって……進展無いよーだ」


 伊藤詩織は、恥ずかしそうに枕に顔をうずめる。


「青井くんにだけは絶対いじわるして無いのにねー、何で気付かないのかな?」

「……気付かれなくていいんだよ」

「どうして?」

「だって私Sだもん、それも超ド級の、青井くんとそういう関係になったら……絶対彼を傷つけることが愉しくなっちゃう」

「しーちゃん……」

「そんなの――ヤダ」


 ……雰囲気が重くなるのを、フルフルは感じた。

 何を話してるのかは分からないが、詩織ちゃんに元気が無いというのは分かる。


 覚えかけの僅かな日本語から使える言葉は無いかと頭をひねり、一つ思いついた。


「だ……ダイジョウブ」

「え……」

「ダイジョウブ、ダイジョウブ」


 確か、心配するな、とか、そういう意味合いの日本語だったと思う。

 言葉を詰めらせた詩織ちゃんを見て、間違ったか、と思ったが、どうやら正しかったようだ。


「……アリガト」


 ありがとう、くらいの日本語は理解できる。

 フルフルは、自然と自分の頬が緩んでくのを感じた。




「――で、リコは羽切くんとはどうなの?」

「え、えええええ、ええ、えええーーええーと、ななな、何でそこで羽切くんが出てくるかなー、私全然分からないよー」

「そんな顔真っ赤にしてあわあわしながら言っても説得力無いよ……、で、実際どうなの?」

「わ、分からないよそんなの……恋愛とかしたことなかったし……」

「ふぅん、……羽切くんといるとドキドキする?」

「う……うん」

「寝る前に羽切くんのこと思い出す?」

「え、なんでそれを……」

「羽切くんに嫌われたくない?」

「ぜ……! 絶対やだ!」

「じゃ、その気持ちは恋だ、頑張れ」

「う、うー」


 こうして女子三人衆の夜は更けていくのであった……。


女の子の話とか書けないマジ無理だった。これが限界。

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