第十三羽
フランス語はエキサイト辞典で翻訳しただけです。
読みにくかったらすいません。
「まー、昨日も言ったけど俺、今日から修学旅行なんだ」
「ああ、はい、言われなくても分かってますよ」
急に話が飛んだかと思われるかもだが、今日は私立若草高校の修学旅行である。
行き先は京都、奈良という超定番スポットである。
「じゃ、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
と、いつも通りの挨拶をし、いつもと違う少し重い荷物を持ち歩き出す。
着替えとかのもっと重たい荷物は昨日既に郵送済みだが、教科書は基本学校に置いている俺にとってこのショルダーバックに入ってる旅行用具は普段より重く感じる。
自転車に乗れない俺は――おっと自転車に乗れないというのは俺に運動神経が無いとかじゃなく、単に自転車が嫌いなだけだ、つまりアレルギーみたいなもの――徒歩十五分くらいの道のりをゆっくり時間を掛けて歩く。
時刻は7時12分――集合時間は8時なので時間は存分にある。
時間ぎりぎりに集合するというのが嫌いなのだ。
だからいつも集合時間というのはせめて十分前には着くようにする。俺のジンクスだ。
「……ん?」
十分ほど歩いて、ふと道端の本屋が目に入った。
こんなとこに本屋あったっけ?
と一瞬疑問に思ったが、妙に新しい外観と、『開店初日セール!』という看板を見て、新しく出来たのか、と納得した。
(……そういえば今日って『アレ』の発売日だよな)
『アレ』、とは勿論俺が創刊から愛読しているエロ本である。
題名は『こんなエッチな幼馴染は好きですか?』で、内容も俺のハートを射抜くようなものばかりな最高クラスのエロ本だ。
「…………」
集合時間まで後38分もある。
ここから学校まで僅か5分、しかし、もうチラホラ登校している生徒が居るので、エロ本を買ってるところを見られたら……。
いやしかし、待て、落ちつけよ俺。
今買ったら修学旅行に持ってくことになるんだぞ?
けどそれはそれで興奮す……げふんげふん。
待て待て待て、落ち着け、餅つけ……修学旅行にエロ本って……どんな変態だよ。
いや、確かに男は皆程度の差はあれど変態だ。
でもでもでも、流石にこれは……、あ、でも、もしこれを見るとしたら旅館だよな……。
つまり別にエロ本ばれても盛り上がりの種になるんじゃないか?
うん、そうに違いない、間違いなくそうだ。
そう、つまり俺がここでエロ本を買うことになんら間違いはない、むしろ修学旅行を盛り上げるために自ら道化になるという皆のためを思った行為なんだ。
決して自分が見たいだけどかじゃなく、いや、それも少しはあるが、修学旅行というプライベートが無い状態で性欲を持て余した男子たちのことを深く考えた結果がこれで、結果的に俺がエロ本読みたいから買ったみたいになるが、それは決して、決して俺が読みたいだけというものじゃなく、誰が何と言おうとそれは大いなる間違いで、俺は皆のためを思ってエロ本を買うのだ、仮に、仮に俺を変態と罵る男が出たとしよう、そうなったら俺は高らかに叫んでやる、主張してやる、男は皆狼だ、紳士な男など男じゃない、漢じゃない、それはただの愚鈍なる家畜で、豚で、己の存在理由を遥かかなたに忘却した人外、圏外、見当はずれの模範解答である、と。
「おはよー、羽切」
「……は!?」
「うお!? どうしたんだ、いきなり」
「い、いや、少しボーっとしてただけだ」
あれ? あれれ? どうして俺学校にいるんだ?
俺は確かに本屋の前で悩んでた筈なのに……まさか考えながら歩いてたら学校着いてしまったとか?
……いや、違う、何故なら俺のショルダーバックの重みがちょうどエロ本一冊分くらい重くなってるのを感じる。
……あ! 思い出した、無意識だったけど、俺『集合時間まで後38分もある』の時点で本屋に入ってって、エロ本買ったんだった。
いやー、無意識って怖い。
そんなわけで、俺は挨拶をしてきたプラチナヘアーのベアコンこと藤宮マサルに挨拶を返し、クラスごとに違うバスに乗る。
我ら2年3組のバスは3号車だった。
バス特有の匂いが鼻をツーンとさせる。この匂いはあまり好きじゃない。
さてと、変人戦隊カワッテルンジャーのメンバーはっと……青井秀を発見。
「おはよー、青井秀」
「おはよ」
青井秀、常に本を持ってないと爆発してしまう(何処がかは不明)という変わった読書中毒を患った眼鏡の変人。
「今日は何の本読んでんの?」
「植物図鑑」
「……面白いのか? それ」
「面白いよ、植物同士の種族間を越えた愛と友情のストーリーさ」
何ソレ面白そう。
今度貸してもらおう。
「熊の図鑑は無いのか?」
「おいおい藤宮マサル、動物図鑑ならともかくそんなのあるわけ……」
「あるよ」
「あるんだ!?」
青井秀がカバンを探ると、そこには確かに熊図鑑と書かれたハードカバーの本が出てきた。
藤宮マサルはそれを驚異的な反射神経で奪いとると、アクロバットな動きで自分の席に着いて読み始めた。
「……熊の図鑑なんてあったんだな」
「ベストセラーだよ? 知らないの?」
「何……だと……」
昨今の日本はどうなっとるんじゃい!
「結構有名な本なんだけどな、……羽切って本屋とか行かないの?」
「うーん……」
本屋はエロ本買いにしか行かないからなー。
ベストセラーとかどうでもいいって感じだし。
「うん、そんなに行かないな」
「へー」
自分から訊いた癖にあまり興味無さそうな口調で、青井秀はまた読書に戻った(植物図鑑を読むことを読書というのかは甚だ疑問だが)。
さて、沢田リコと伊藤詩織はまだ来てないようだし、俺も大人しく席に座るとするか。
*****
さて、伊藤詩織が首輪とリードを付けて四つん這いになった沢田リコに乗って学校に来たこと以外特に面白いこともなく――というか伊藤詩織のインパクトが強すぎた所為で何が起こっても『はん、この程度かよ』となってしまう――1日目の目的地、京都に着いた。
小学生の頃も京都に来たわけだが、もうその頃の記憶なんて殆ど無いし、純粋な気持ちで楽しめそうである。
バスから降りて、駅を出たところで、沢田リコが「鹿! 鹿はどこだ!」と騒いだ。
沢田リコ、鹿は奈良だ。
「熊は! 熊はいるか?」
「いたら大問題だボケ」
ベアコンに鋭いツッコミを入れつつ、辺りを見渡す。
やはり京都と言っても駅周りは普通に都会なのか。
「ほら、先生が集合かけてるぞ」
植物図鑑を読み終えたのか、また違う本を読んでいる青井秀が言う。
確かに駅近くの公園に皆集まってた。
「初日は寺巡りだっけ、ちょっとだるいな」
「早く自由行動したいなー」
「おいおい、金閣寺は感動するぞ、金閣寺は」
「あー、そんなのあったな、小学校のころ見たことある気がする」
「小学校の修学旅行か?」
「おう、銀閣寺は何で銀で出来てないんだろうとずっと考えてたからそれ以外何も覚えてないけどな」
そんな会話をしながら、集合場所に到着し、先生の話が始まる。
内容はとりとめのない話で、やれ他の人に迷惑かけるな、とか、金閣寺の金を剥がそうとするな、とか。
「――以上だ。各自、班ごとに別れて解散」
班か……そういえば班って俺が入院してるときに決まったから知らないな。
確認しとけって言われてたのについ忘れててしまった。きっとアイツの所為だ、クソ。
「どれどれ……」
修学旅行の日誌と称された紙をカバンから取り出し、パラパラとページを捲る。
羽切羽切……、あった。
青井秀、藤宮マサル、伊藤詩織、沢田リコと……フルート・ジョネス・フレットマーレ?
誰だこれ? こんなやつクラスにいたっけ?
「あー、フルートさんね、そういえば羽切が入院中に転校してきたんだっけか」
「転校生?」
「ああ、もっとも、転校直後に不登校化、いじめとかは無かったらしいけど……詳しくは知らん」
ふーん、変わったやつも居たもんだ。
「……で、変人だらけの俺らのとこに捻じ込まれたってことか」
まあ不登校なら関係無いか。
「いや、それが今日は来てるらしいぜ」
「……へぇ?」
そりゃまた何で……。
「Nice vous rencontrer.(はじめまして)」
――と、不意に聞こえた耳慣れぬ声に振り向く。
「Aujourd'hui qui vous remercie dans l'avance.(今日はよろしくおねがいします)」
振り向くとそこには、金髪碧眼、赤いリボンで縛った三つ編み。
身長は俺と同じくらいか、それ以下。金髪にセーラー服がよく映える。
人形みたいな綺麗な顔をした――というかマジでCGじゃないのかと疑うレベルの美少女が、そこにいた。
……というか、フランス語?
「……Dans cette place.(こちらこそ)」
俺がフランス語で返すと、その外国人美少女は「Oh!」と驚いた様子だ。
「Est-ce que vous pouvez parler français?(フランス語を話せるのですか?)」
「あー……Pour le moment.Bien qu'il est-ce que le souvenir vague est, est-ce que vous pouvez parler correctement?(一応ね。うろ覚えだけどちゃんと話せてるかな?)」
「Oui, c'est beaucoup un bon handicraftsman.Que parce qu'ils ne le comprenaient pas, seulement certain bon japonais soit troublé.Il y avait la personne que comprenait des mots et a été sauvée.(はい、とてもお上手です。よかった、日本語は少ししかわからないので不安でした。言葉が通じる人がいて助かりました。)」
成程……多分不登校はその辺の言語問題からかな?
別に根暗そうには見えないし、いじめは無かったらしいし。
「Oh, si est bon avec moi, apprenez le japonais dans le pouvoir .... tôt, et sommeil; dans Sawada Rico comme pour Shiori Ito……Parce qu'il est dit, et les cheveux du platine qui lunettes et Fujimiya Masaru que Shu Aoi qu'il y a là dit pour dire à sont un type, est bon sûrement; peut faire des amis.(まあ俺でよかったら力になるよ、でも日本語も早く覚えてね、沢田リコも伊藤詩織も……あそこにいる青井秀っていう眼鏡と藤宮マサルっていうプラチナヘアーもいいやつだから、きっと良い友達になれるよ。)」
「Oui!Est-ce que vous étiez bien, bon avec Wagiri?(はい!えーと、羽切さんでよかったですよね?)」
「Oui, je suis Furufuru.(そうだよ、よろしく、フルフル)」
「Fu…Furufuru?(ふ……フルフル?)」
「Veuillez un surnom.. le surnom est joli?(あだ名だよあだ名、可愛いだろう?)」
フルネーム主義の俺からすると、フルート・ジョネス・フレットマーレの名は長すぎて呼びにくい。
「……Est-ce que je vous appelle alors Wagiwagi?(じゃあ私はあなたのことをワギワギと呼びますよ?)」
「Oui」
……ん? さっきから他のやつらの声が聞こえないな……と思ったら、全員こっちを注目してました。
……やっべ、目立ちすぎた?
幸い、変人戦隊カワッテルンジャーの四人以外はもう班別行動としてこの場にはいないが、それでもちょいと拙いか……。
「……す」
「酢?」
「すっごぉおおおおおい!」
沢田リコが心底驚いたと言わんばかりに腹の底から声を出し、ちらほらいたエキストラがこっちに注目を寄せる。
やめろ、恥ずかしい。
「羽切くんってフランス語話せたんだねー!」
「あ、ああ、まあな」
「すごいすごい! 何処で習ったの?」
「……通信教育」
適当に、嘘を吐いておく。
「通信教育かー、すごいなー」
「というかさっきからボキャブラリー少ないなお前、すごいしか言ってねーぞ」
「むむむ! なら……」
うーん、と、沢田リコが頭を悩ませること数十秒、ピコン、と豆電球が沢田リコの頭の上に浮かんだように見えた。
「すっごくすごい!」
「……はいはい」
つっこむ気力すらわかない解答だった。
つっこむ気力すらわかない解答だった。
大事なことなので二回言った。
「C'est la réponse qu'il n'obtient pas à volonté égale de questionner sur.」
「うわお! ちょちょちょ、羽切くん! フルートちゃん今何言ったの?」
「えーと、『つっこむ気力すらわかない解答ですね』、だそうだ」
気が合うな、フルフル。
「それとな、皆、聞いてくれ」
俺の声で、五人全員の視線が俺に集まる。
これから円滑に学校生活を送る上で欠かせない事柄を述べるためだ。
「今日! 今! この瞬間! フルート・ジョネス・フレットマーレのあだ名は本人きっての希望によりフルフルだぁ!」
一瞬、シン……とした空気が流れたが、すぐ、
「フルフルちゃんか……ありね」とか
「よろしく~フルフルちゃん!」とか
「電撃を使いそうな名前だな……まあいいか、よろしく、フルフルさん」とか
「フルフルか……そんな名前の熊いないし、異論はないぞ」とか
……くくく、計画通り。
「Oh, veuillez attendre une minute.
Qu'est-ce que vous avez maintenant dit en japonais?
J'ai une sensation que j'ai entendu un mot pour appeler Furufuru quelque chose ou autre…….(え、ちょっと待ってください。今日本語でなんと言ったんですか? 何やらフルフルとかいう単語が聞こえたような……)」
「Le toucher a soulagé.Un nom devient à partir de maintenant Furufuru.(安心しろ。これから名前がフルフルになるだけだ。)」
「Cela qui……?(は……?)」
「ねーねーフルフルちゃん何て言ってるの?」
「ん? 早く寺巡り行こってさ」
「了解! じゃあ班長たる私に着いてこーい!」
あ、沢田リコ班長なんだ。
よく先生許したな……。
「……A……Attente!(ま……待って!)」
「ん? どうしたんだフルフル」
「フルフルちゃんどうかした?」
「ねーねーフルフルちゃんが何か言ってるわよ? 羽切くん」
「大丈夫か? フルフルさん、そんな顔赤くして」
「んー、すまんな、マダナラッテナイタンゴダワー」
「~~~~!」
残念だったな、フルート・ジョネス・フレットマーレ。
お前の名前はもうすでにフルフルなのだよ。
フハハハハハハハハ! と、心の中で高笑いしながら一同は街の喧騒に消えていくのであった。




