−030−言語
恰幅の良い色白のオジサマとオバサマがTシャツ姿で
立っている。
最上階ドアの先には外国人
一句読めるほどの間の後、
オジサマは、手で「どうぞ」という仕草をしてくれた。
うぉぉぉおお。紳士!!
ちょっと感動したが、
違うのだ。私は下に下りたいのだ。
こんな最上階に用は無い。
でも、それをどう伝えたらよいのだろうか…。
Be動詞で躓いて以来、英語は捨てて、今まで生きてきた私。
さぁどうする。
困り顔のチワワの顔が浮かぶ。
エレベータから降りない私を不振に思う夫婦。
そして、この時ばかりは、エレベータも閉まってくれない。
ちくしょう。気分屋のエレベータめ!!
こんなとき、何て言ったら良いのだろうか…。
悩んだ末、出てきた一言は!!
「へるぷ・みぃ。」
驚くほど何も解決してない。
むしろ悪化。
「へるぷ・みぃ。」
私の知っている助けを乞う言葉は、実際には何も役に立たないことを実感した瞬間だった。
さて、どうしたらいいものか。
オジサマとオバサマも助けて欲しいのは分かったようだが、何をどう助けてよいものやら。
いっそドアよ閉まってくれと思うほどの気まずい沈黙が流れる。
オジサマはエレベータの外についている「下」ボタンを押してドアを開けてくれている。
ぽくぽくぽく(○休さん風)
私は、エレベータについている、鍵の差込口を指で叩いた。
オジサマとオバサマはエレベータに乗り込み「あぁ。分かった。」という反応をしてくれた。
そして、鍵を差し込んで、エレベータのボタンを、「さぁ選んで」という感じで、上からサッとなぞった。
私は「G」を選んだ。
エレベータの中は少し狭かったけれど、「G」のフロアまで…友達にいる階まで無事到着できた。
こうして、やっと、ふりだしに戻ることができた。
ふりだしに戻ることは大変である。
そして、ふりだしに戻れることが、こんなに嬉しいことだとは、思わなかった。