告白
空っぽだと思っていました。
私には何も無く、空虚でしかないと感じています。
皮膚の下は空洞で、底には穴があいている。
何もなく、何も残らない。
そんな存在なのだと。
あの人に出会いました。
私の空洞を埋め、何かを得ることができるのではと恋心以上に心はずんだものです。
しかし、あの人と過ごす日々には怒りと恐怖が溢れていました。
私にはなぜだかそれがとてもよく理解できたのです。
あの人の赤く鋭い眼光は押えきれない怒り。
あの人の強く硬い拳が振り下ろされるたびに湧き上がる痛みと気持ちは恐怖そのもの。
私はあの人と繋がっていると感じるようになりました。
私の恐怖があの人に伝わり、あの人の怒りは増殖する。
あの人の怒りが私に伝わり、私の恐怖も増殖する。
それはまるで天秤のようにバランスをとりながら揺れている。
そして私とあの人は表と裏のような関係。
靴の音であの人だとわかるようになり、あの人が放つ言葉は全て真実。
あの人の言葉こそ真理だと疑わなくなりました。
戸惑いや迷いがなくなり、私はとても生きやすくなった。
ですが、この関係では何も生み出さないことに気付きました。
ただそこにあるものとしてあり続けることしか出来ないのです。
カラのまま転がり続ける様は空き缶のようだと自嘲的な笑いがこみ上がったのです。
私はいままでありのままを受け容れてきた。
考えはなく、水の如く流れる。
そんな私が立ち止まったのです。
何かが変わるかもしれないと思うようになりました。
それからはあの人の元から離れることだけを考えるようになりました。
あの人の元を去るのはとても大変です。
生半可な行動ではすぐに引き戻されてしまう。
そうなれば私の心も揺らぐことでしょう。
あの人が出かけた後、とても勢いをつけて家を飛び出したことは
今でも勇気ある行動であったと私に力を与えてくれます。
そうして、あの人から逃れられた私ならば何にでもなれるような気持ちになったものです。
ですが、迷い、葛藤する日々をまた突きつけられたことにはうんざりしました。
絶対的な力は私にとって道しるべでもあったのです。
迷いも葛藤もなく、ただ言われるがままに過ごすことは楽でした。
あの人の元を去った今、立ち止まることは出来ないので
自分自身にひとつの真実を与えることにしました。
空虚でも、底に穴があいているわけでもない。
その虚無感に浸りたいだけなのだ。
自らがそのような虚構に甘んじていたかったのだと。
そんな中で、私はあなたと出会ったのです。
私の言葉を信じ、励ましまじりの叱責をくれましたね。
愛や喜びというものも絶えず与えてもらっていたかと思います。
ですが、それらは微かなもので、私の大きな穴へと落ちていくばかり。
正確には微かなものなのかもわからないのですが、
結果として私には何も残らなかったので微かであると思っています。
私はあなたに絶えず嘘をついてきました。
あなたといる時には太陽のように明るく燃え続け、
時に気を落とすとしても夜の星のように光を絶やさずに居ました。
私には星粒ひとつの輝きすらありはしないのに。
そんな私に、あなたは明るくて素敵だと仰いましたね。
私の嘘を信じているあなたの言葉では何も感じることが出来ません。
あなたはあの人とは違う力強さで私を包んでくれていたことはわかっています。
ですが、あなたの言葉をきく度に、私は空っぽなのだと思い知らされました。
あなたと過ごした日々は
私がどれほど中身のないものなのかを知らしめるだけの日々だったのです。
あなたには理解できないでしょう。
理解出きるはずがありません。
あなたの側で笑う私のことを愛していると語りかけてくれたあなた。
あなたの側でしか存在しない私だというのに。
清らかな教会であなたと誓い合った今日、
私の中である感情が生まれました。
空っぽだったはずの私がようやく手にする感情。
怒りや恐怖でもない。
また安堵や喜びといったものでもありません。
言葉にするのが難しく、あなたに伝える自信がありません。
ソレは私の中で大切に仕舞っておくことにします。
私にとってあなたは本当に特別な人。
ただ、ひとつはっきりとしていることがあります。
私はあなたを愛していません。