プロローグ、、、伝え聞く噂
人間も魔族も、理由をつけては群れ、徒党を組み、争いを繰り返す。
しかし現魔王は、群れるのを好まない存在だったらしい。
配下を引き連れ、軍勢を率い、血で大地を染める……。
そういう類の魔王では、もともとなかったという。
強大な力を持ちながらも、それを無闇に振るうことはない。
近づかなければ害はなく、干渉しなければ城からも出てこない。
そんな、どこか拍子抜けする魔王だと語る者もいる。
そして最近、各地を旅する商人や吟遊詩人の間で、妙な噂が流れている。
今から十年ほど前……。
人間同士の戦争で一つの国が滅びた。
王城は廃墟となり、一度は地図からも消えかけていた場所だ。
そして、誰も居なくなったその地を魔王がねじろにしたのは、 侵略のためではなく「静かでちょうどよかったから」だという話だ。
そこで、ひとつ奇妙な出来事があったらしい。
王城の瓦礫の下から、人間の子供が見つかったのだ。
魔王は死にかけていた人間の子どもを拾い上げ、しばらく城に置いていたそうだ。
理由はわからない。
噂では魔王の気まぐれだったとされている。
――だが、魔王のその気まぐれが、十年後に返ってきた。
これを『運命』だと語る者もいる……。
魔王が救った少年は成長し、勇者を討ち倒し、魔王城へ再び舞い戻った。
そして、伴侶として迎えて欲しいと魔王に告げたらしい。
結果、魔王はその求婚を受け入れた。
なぜ魔王が頷いたのか……。
その真実を知る者は、当事者だけだ。
ただ、噂ではこうも囁かれている。
今ではその国も、かつて地図から消えかけたとは思えないほど発展し、魔王が治めているとは思えないほど賑やかに栄えているらしい。
そして魔王城からは常に笑い声が聞こえるだとか、そんな話まで出回っている。
真偽は定かではない。
だが、商人達の間では「あの国は、頻繁に内乱が起こっていた以前とは打って変わって、治安も良くなり安心して取引ができる」という結論で、噂は落ち着きつつある。
魔王の気まぐれが、世界を変えたのか。
それとも、世界が魔王を変えたのか。
その答えを知る者は、今もあの玉座に座る魔王と隣に立つ者だけなのだろう。




