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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
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第9話 砂の嵐


 第9話です。


 砂漠の旅が始まって一週間。

 タクミは昼の灼熱を避け、夜に歩く生活に少しずつ慣れ始めていました。

 しかし砂漠には、人間の努力ではどうにもならない自然の脅威があります。

 それが――砂嵐です。

 そして今回、タクミはサラディンから与えられた知識の中から

 なぜサラディンが亜神と戦わなかったのか、その理由を知ることになります。

 そこには、亜神を生み出した魔導師エルナンドの残したある“制約”が関係していました。


 

 砂の上に足跡が続いている。


 タムラ・タクミは夜の砂漠を歩いていた。


 空には無数の星。


 冷たい風。


 静かな世界だった。


 砂漠に出てから――


 七日目の夜。


 最初の頃はただ必死だったが、今は少しだけ余裕がある。


 昼は休む。

 夜に歩く。


 魔物を倒す。

 肉を乾燥させる。


 水は節約。


「……営業の出張より過酷だな」


 タクミは小さく笑った。


 自分の格好を見る。


 スーツ。


 完全に場違いだ。


「普通は砂漠装備だよな……」


 だが文句を言っても仕方がない。


 服はこれしかないのだ。


 ネクタイを外し、ワイシャツの袖を少しまくって歩く。


 星を見上げる。


 西。


 進む方向は変わらない。


 目指す場所は――


 漁港町オルデ。


 人がいる場所。


 その時だった。


 ザァァ……


 風の音。


 タクミは足を止めた。


「……?」


 耳を澄ます。


 風が強くなっている。


 嫌な音だった。


 そして地平線を見る。


「……おい」


 思わず声が出る。


 そこにあったのは――


 巨大な壁。


 砂でできた壁だった。


 空まで続く巨大な砂の波。


「砂嵐か……!」


 頭の中の知識が警告する。


 逃げ場がない場合。


 身を守れ。


 タクミは周囲を見る。


 岩も。


 窪地も。


 建物もない。


 ただの砂漠。


「……やるしかないか」


 タクミはしゃがみ込んだ。


 腕で顔を覆う。


 そして呟く。


「硬化」


 ガントレットが光る。


 体の表面が一気に硬くなる。


 鋼の殻のような感覚。


 そして――


 砂嵐が到達した。


 ゴォォォォォ!


 轟音。


 砂が叩きつけられる。


 無数の粒が体を打つ。


 もし普通の体なら、皮膚が削れているかもしれない。


 だが硬化のおかげで耐えられている。


「……!」


 それでも衝撃は強い。


 体が揺れる。


 砂がスーツを叩く。


 そしてタクミは気づいた。


 能力の感覚。


 それが――


 少しずつ弱くなっている。


「……やっぱり無限じゃないか」


 防御の膜が削れていく。


 時間が経つほど薄くなる。


 五分。


 十分。


 まだ終わらない。


 風は止まらない。


「頼む……」


 タクミは歯を食いしばった。


 ガントレットの光が少しずつ弱くなる。


 能力が減っている。


 体感で分かる。


 もしここで切れたら――


 この砂嵐では無事では済まない。


 スーツも。


 皮膚も。


 目も。


 全部やられる。


「……まだか」


 時間の感覚が曖昧になる。


 砂が打ち続ける。


 そして――


 しばらくして。


 風が弱くなった。


 ゴォォ……という音が遠ざかる。


 やがて静けさが戻る。


 タクミはゆっくり顔を上げた。


「……止んだ」


 砂嵐は約一時間ほど続いていた。


 タクミは大きく息を吐いた。


「危なかった……」


 硬化の感覚はほとんど消えかけていた。


 あと少し長ければ危なかった。


 タクミは立ち上がる。


 周囲を見る。


 景色が変わっていた。


 砂丘の形が違う。


 自分の足跡は完全に消えていた。


「自然ってのは……」


 本当に容赦がない。


 その時。


 タクミはふと思った。


「……そういえば」


 サラディンのことだ。


 なぜ彼は亜神と戦わなかったのか。


 その疑問。


 すると――


 頭の奥で知識が繋がった。


 サラディンが最後に与えたもの。


 この世界の知識。


「……ああ」


 タクミは静かに呟いた。


 原因は一人の魔導師だった。


 エルナンド。


 亜神を作った男。


 そして彼は――


 魔法陣に制約を書き込んでいた。


 その一文。


 『亜神同士の争いを禁ずる』


「だからか……」


 タクミは空を見上げた。


 亜神たちは戦えない。


 互いに争えない。


 それは魔法陣に刻まれた絶対のルール。


 だからサラディンは――


 他の亜神を倒せなかった。


「……八百年」


 研究施設で。


 動けず。


 戦えず。


 ただ罪を背負っていた。


「そりゃ、俺に託すしかないよな」


 最後の涙を思い出す。


 謝罪。


 慚愧。


 そして託された力。


「……大仕事だ」


 タクミは苦笑した。


 営業ノルマとは比べものにならない。


 世界の問題だ。


 だが。


 まずやるべきことは一つ。


「オルデだな」


 漁港町。


 人がいる場所。


 そこに辿り着く。


 タクミは星を見て方角を確認した。


 西。


 そして再び歩き出す。


 砂嵐の跡が残る砂漠を。


 一人で。


 静かに。



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第9話「砂の嵐」でした。


 タクミはサラディンから与えられた知識によって、

 亜神同士は戦えないという事実を知ります。

 亜神を生み出した魔導師エルナンドは、魔法陣に「亜神同士の争いを禁ずる」という制約を書き込んでいました。


 次回、第10話「ギガントワームの骨」


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