第7話 砂漠の食事
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燃える陽光が砂の海を焼き尽くしていく。
かつての日常を捨て、男は生存を誓う。
巨大な魔獣の骸を食すという。
文明とは程遠い異世界での食卓が始まる。
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夕暮れの終わり際。
砂の温度がようやく人間の許容範囲に落ちてくる、一日でいちばん短い時間帯だ。
タクミは身体を起こした。
ガントレットの跡が頬に刻まれている。枕には向かない。
視線を落とす。昼のあいだに干していた肉が、砂の上に並んでいた。
白かったものが、褐色になっている。端が反り返り、表面に細かな皺が走っていた。触れると、硬い。水分が抜けている。
「……凄い乾燥だ。半日くらいしか経ってないぞ……」
呟いて、一片を口に入れた。
獣臭い。砂が混じっている。嚙むたびに顎が痛い。
だが、確かに食える。
もう一片。また一片。無心で嚙み続けた。
味覚がどうこう言える立場ではない。これは食事ではなく補給だ。燃料を入れている、それだけだ。
「……うまくはないな。塩の効いていないジャーキーか」
独り言が風に溶けた。
残りをスーツのポケットに入れる。
水筒を傾け、一口だけ飲む。口の中で転がして、それから飲み込む。
喉が渇いていても、ここで飲み過ぎてはいけない。それもサラディンの知識だった。
立ち上がる。空の端がもう黒い。星が出始めている。
西へ歩く。それだけだ。
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ニ日目の夜、トカゲに遭遇した。
サンドワームよりも小さく、素早かった。ガントレットで地面を叩いて動きを止め、踵で頭を潰した。手慣れた、という感覚は自分でも気持ち悪かった。
血を飲んだ。肉を干した。歩いた。
◇
三日目の昼、倒れかけた。
太陽が真上にある時間帯に歩き続けていた。足が止まらなかった。
意識が落ちる直前、底から声が響いた。
『……止まれ。今すぐ。穴を掘って潜れ』
サラディンだった。残滓が、緊急時にだけ鮮明になる感覚があった。
タクミはガントレットで砂を掻き、浅い穴に身を埋めた。そのまま意識を失った。
目が覚めたら夕方だった。
それ以来、昼は眠ることにした。
◇
三回目の夜。
夜の砂漠を歩いていた。
頭上には星の海が広がっている。
息を呑むほど広大で、冷ややかで、美しい。最初の夜は見上げる余裕もなかった。今は少しだけ、見られる。
スーツのポケットには干し肉が入っている。砂トカゲのものだ。
サンドワームより小さいぶん、肉質が締まっていて嚙み応えがある。
獣臭には慣れた。人間の順応性というのは、おそろしい。
埃まみれのスーツ。ネクタイはどこかで脱ぎ捨てた。ワイシャツの袖は捲り上げたまま、砂と血と脂で変色している。
砂漠でスーツ。
我ながら、間抜けな絵面だ。
「営業の出張より、はるかに過酷だな……」
口の端に乾いた笑みが浮かんだ。
最初の頃は、ただ死なないことだけを考えていた。
今は少しだけ余裕がある。
余裕、というより、諦めかもしれない。
生きることが作業になった。
感情が入る隙間がない。それは悪いことではなかった。
西へ。
目指すのは漁港町オルデ。生きた人間がいる場所。
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砂の上に並べた白い肉が熱風に乾く。
それは明日へと繋ぐための、小さな記録。
誰にも届かぬ呟きを風に預け、男は眠る。
英雄でも救世主でもない、ただの生存劇。
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