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砂漠転生  作者: たまりん
第1章 砂漠脱出編
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第7話 砂漠の食事


――――――――――――――――――――

 燃える陽光が砂の海を焼き尽くしていく。

 かつての日常を捨て、男は生存を誓う。

 巨大な魔獣の骸を食すという。

 文明とは程遠い異世界での食卓が始まる。

――――――――――――――――――――




 夕暮れの終わり際。


 砂の温度がようやく人間の許容範囲に落ちてくる、一日でいちばん短い時間帯だ。


 タクミは身体を起こした。


 ガントレットの跡が頬に刻まれている。枕には向かない。


 視線を落とす。昼のあいだに干していた肉が、砂の上に並んでいた。


 白かったものが、褐色になっている。端が反り返り、表面に細かな皺が走っていた。触れると、硬い。水分が抜けている。


「……凄い乾燥だ。半日くらいしか経ってないぞ……」


 呟いて、一片を口に入れた。


 獣臭い。砂が混じっている。嚙むたびに顎が痛い。


 だが、確かに食える。


 もう一片。また一片。無心で嚙み続けた。


 味覚がどうこう言える立場ではない。これは食事ではなく補給だ。燃料を入れている、それだけだ。


「……うまくはないな。塩の効いていないジャーキーか」


 独り言が風に溶けた。


 残りをスーツのポケットに入れる。


 水筒を傾け、一口だけ飲む。口の中で転がして、それから飲み込む。


 喉が渇いていても、ここで飲み過ぎてはいけない。それもサラディンの知識だった。


 立ち上がる。空の端がもう黒い。星が出始めている。


 西へ歩く。それだけだ。


 ◇


 ニ日目の夜、トカゲに遭遇した。


 サンドワームよりも小さく、素早かった。ガントレットで地面を叩いて動きを止め、踵で頭を潰した。手慣れた、という感覚は自分でも気持ち悪かった。


 血を飲んだ。肉を干した。歩いた。


 ◇


 三日目の昼、倒れかけた。


 太陽が真上にある時間帯に歩き続けていた。足が止まらなかった。


 意識が落ちる直前、底から声が響いた。


『……止まれ。今すぐ。穴を掘って潜れ』


 サラディンだった。残滓が、緊急時にだけ鮮明になる感覚があった。


 タクミはガントレットで砂を掻き、浅い穴に身を埋めた。そのまま意識を失った。


 目が覚めたら夕方だった。


 それ以来、昼は眠ることにした。


 ◇


 三回目の夜。


 夜の砂漠を歩いていた。


 頭上には星の海が広がっている。


 息を呑むほど広大で、冷ややかで、美しい。最初の夜は見上げる余裕もなかった。今は少しだけ、見られる。


 スーツのポケットには干し肉が入っている。砂トカゲのものだ。


 サンドワームより小さいぶん、肉質が締まっていて嚙み応えがある。


 獣臭には慣れた。人間の順応性というのは、おそろしい。


 埃まみれのスーツ。ネクタイはどこかで脱ぎ捨てた。ワイシャツの袖は捲り上げたまま、砂と血と脂で変色している。


 砂漠でスーツ。


 我ながら、間抜けな絵面だ。


「営業の出張より、はるかに過酷だな……」


 口の端に乾いた笑みが浮かんだ。


 最初の頃は、ただ死なないことだけを考えていた。


 今は少しだけ余裕がある。


 余裕、というより、諦めかもしれない。 


 生きることが作業になった。


 感情が入る隙間がない。それは悪いことではなかった。


 西へ。


 目指すのは漁港町オルデ。生きた人間がいる場所。



――――――――――――――――――――

 砂の上に並べた白い肉が熱風に乾く。

 それは明日へと繋ぐための、小さな記録。

 誰にも届かぬ呟きを風に預け、男は眠る。

 英雄でも救世主でもない、ただの生存劇。

――――――――――――――――――――


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リシェルとガウル
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