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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
35/39

第35話 緑の代償


 第35話です。


 岩壁の関所を拠点に、タクミは初めて「緑」を手に入れる。

 それは生存の希望。

 そして同時に、死へと繋がる罠でもあった。


 

 あれから三日が経った。

 干し肉もたんまりある。

 疲れてはいないが出発はまだ先でよい。

 焦ることはない。


 今日も見張台からこれから歩く先を見る。

 魔獣がいないか確認するためだ。


(……ヤバイ奴はいなそうだな)


 黒いワイバーンを思い出す。

 絶対に勝てない魔獣。


(……あの時は隠れる場所があったから良かった)


 この広い砂漠。

 行軍中に出会ったら詰みだ。


 それに。


(……今まで一対一だからなんとかなってきた)


 もし一対多数ならどうなる。

 切り抜けられるか。


(……わからない)


 全身硬化を使えば時間を稼ぐことはできる。

 だが有限だ。


「……よし」

「……見える範囲には何もいないな。そろそろ取りに行くか」


 サボテンを取りに向かう。

 そこそこ近くに生えている。


 歩く。

 三十分ほど歩いた。


 一つ目のサボテン。

 一メートルほどの高さ。

 棒状。


 棘は鋭い。


「硬化」


 手を固める。

 払う。

 棘が弾ける。


 根元を掴む。

 捻る。


 バキッ!


 折れる。

 そのまま持ち帰る。


 詰所まで戻る。

 置く。

 また取りに行く。


 半日ほど繰り返す。


 夕暮れ。

 拠点に戻ってきた。


 棒状。

 扇状。

 玉状。

 枝分かれして広がっている物もある。


 さらに小さなスイカのような実も採ってきた。


「……サボテンって生で食えるのかな」


(……サラディン)


 知識を探る。


(……わからないのかよ)


「……あいつ知識偏り過ぎだろ」


 とりあえず棒状のサボテンから食べてみることにする。


 硬化した手で割る。


 中はみずみずしい。


 口に運ぶ。


 シャクッ。


「……ん?」


 もう一口。


 シャクッ。


「……少し苦いが、いけるな」

「……アロエっぽいぞ」


 食う。

 喉が潤う。


「……これは当たりだな」


 口の端が上がる。


 視線が移る。


 丸い実。


「……これも食うか」


 割る。


 バカッ。


 中は薄い。


 かじる。


 シャクッ。


「……ん?」


 味が広がる。


「……スイカの皮の白いところみたいな味だな」

「……ほろ苦いが、かすかに甘い」


 ――その瞬間。


 舌に、ピリッとした刺激が走る。


「……?」


 一瞬の違和感。


 だが。


「……まあ、こんなもんか」


 もう一口。


 シャクッ。


「……悪くはない」


 飲み込む。


 その瞬間。


 キーン。


「……?」


 耳鳴り。


 視界がゆがむ。


「……なんだ?」


 立ち上がる。


 ぐらり。


「……っ!」


 腹が痛い。


 内側からえぐられる。


「……うっ!」


 吐き気。


 こみ上げる。


「オェェェ!!」


 吐く。


 止まらない。


「……やば……」


 さらに。


 下。


 漏れる。


 止まらない。


 上下。


 同時。


 身体中の水分が出ていく。


 急速に。


 抜ける。


 命が。


 視界が歪む。


 何かが見える。


 いないはずのもの。


「……幻覚……か……」


 倒れる。


 目を覚ます。


 痺れ。


 動かない。


(……水……)


 腰の水筒。


 遠い。


 腕を伸ばす。


 震える。


 届かない。


「……く……っ」


 もう一度。


 掴む。


 落とす。


 拾う。


 口へ。


 水を流し込む。


 わずかに意識が戻る。


 ――落ちる。


 起きる。


 時間がわからない。


 喉が焼ける。


 水を飲む。


 視界が揺れる。


 吐く。


 また落ちる。


 繰り返す。


 何度も。


 やがて。


 少しずつ。


 戻る。


 感覚。


 動く。


 身体が起きる。


 壁にもたれる。


「……はあ……」


 息が出る。


「……ヤバかった……」


 目を閉じる。


 思い出す。


 あの実。


「……あれか……」


 小さなスイカ。


 一瞬舌が痺れた。


 確信。


「……水筒がなかったら死んでたな……」


 よろよろと立ち上がる。


 バックパックへ。


 干し肉を取り出す。


 噛む。


 ――噛めない。


「……くそ……」


 力が入らない。


 そのまま壁に寄りかかる。


「……とりあえず……毒が抜けるまで……寝るか……」


 目を覚ます。


 翌日なのか。

 わからない。


 だが。


 回復している。


「……助かった……」


 息を吐く。


 視線を落とす。


「……ズボン……」


 沈黙。


「……終わってるな……」


 乾いた笑いが漏れた。


(経過日数:324日)



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第35話「緑の代償」でした。

 

 未知の食料は、命を奪う。

 だが同時に、生きるためには試すしかない。

 タクミはまた一つ、砂漠の“常識”を知った。


 次回、第36話「手甲の諸元」


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