第31話 平原の終わり(出口)
第31話です。
終わりが見えた時、人は未来を思い描く。
それは希望であり、現実との落差でもある。
タクミはまだ知らない。この先に何があるのかを。
ザッ。
ザッ。
白い砂を踏む音だけが続く。
空。
地平線。
何も変わらない景色。
タクミは、ぼんやりと前を見ながら歩いていた。
「街に着いたら……」
ふと、そんなことを考える。
「……ビールだな」
喉が鳴る。
「冷えてたら最高だろ」
口の端が少し上がる。
「なかったら……まあ、その時はその時か」
小さく息を吐く。
「魚料理も食いたいな……」
焼いたやつ。
脂の乗ったやつ。
「港街なんだしあるよな?」
腹が鳴る。
「魚もいいけど……焼き鳥とかあったら完璧なんだけどな」
自然と笑いがこぼれる。
「食って飲んで……」
その先も浮かぶ。
「夜の街とか……あるよな、さすがに」
少しだけにやける。
「可愛い女の子と酒飲んで……宿戻って……」
視線が少し上がる。
「ふかふかのベッドで寝る」
それだけで、十分だった。
「……いいな」
ふっと息を吐く。
満足しかけた、その時。
「……ん?」
引っかかる。
「ちょっと待てよ」
一瞬、思考が止まる。
「……俺」
間。
「この世界の金、持ってないね……」
足が止まりかける。
顔がしかめられる。
「どうすんのこれ……」
空を見上げる。
「サラディンさんよ……金も渡そうや……」
返事はない。
タクミは目を閉じる。
意識を沈める。
知識を引き出す。
――流れ込む。
お金の稼ぎ方。
魔獣の素材を売って報酬を得る。
冒険者組合に登録し依頼をこなして報酬を得る。
漁業組合に登録し漁業で報酬を得る。
「なんだよ漁業って!」
思わず苦笑する。
だが。
「まあ……なんとかなりそうか」
肩の力が抜ける。
「なるようになるだろ」
顔を上げる。
その時だった。
「……ん?」
足元に違和感。
白い砂の中に、赤。
もう一歩。
ザッ。
赤が増える。
「砂の色が……変わった……」
呟く。
さらに進む。
白が消える。
赤が広がる。
完全に、別の世界。
タクミは顔を上げる。
遠く。
揺れる景色の向こう。
「……岩山?」
目を細める。
確かにある。
久しぶりに見る“起伏”。
「……日陰だな」
乾いた声が漏れる。
「……今日はあそこで休むか」
足が少しだけ速くなる。
ザッ。
ザッ。
ザッ。
近づくほどに、はっきりしていく。
岩。
影。
高さ。
「……地形が変わったな」
ぽつりと漏れる。
そして。
「……抜けたか」
小さく息を吐く。
「白砂地帯……完全に抜けたな」
足が止まる。
振り返る。
白い砂の海。
どこまでも続く地平線。
何もない世界。
長かった。
ただ歩き続けた。
それだけだった。
しばらく見つめる。
何も変わらない景色を。
やがて。
タクミは前を向く。
赤い砂。
岩山。
新しい世界。
「……行くか」
ザッ。
ザッ。
足音が変わる。
白の終わりを越えて。
それは――
死砂の大平原の終端だった。
(経過日数:298日)
砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。
第31話「平原の終わり」でした。
死砂の大平原、踏破。
長い行軍の果てに辿り着いた終端。
だが、タクミの旅はまだ続きます。
次回、第32話「32話 砂漠の谷」




