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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
18/34

第18話 ロドス


 第18話です。


 砂漠を歩き続けて二ヶ月。

 言葉は減り、沈黙が増えていく。

 そんな旅の途中、タクミは空からの襲撃を受ける。



 乾いた風が砂を巻き上げる。


 タクミは黙って歩いていた。


 靴底の下で砂が擦れる音だけが、世界に残された唯一の音のようだった。


 髭は伸びている。

 無言で顎をさする。


 ざらついた感触が指に触れた。


 (……結構伸びたな)


 鏡などあるはずもない。

 だが触れた感触だけでも、自分がかなり野生じみた姿になっていることはわかる。


 風呂にも入っていない。


 体からは、きっとひどい匂いがしているだろう。


 砂と汗と血と、生肉の匂い。


 サンドワームを裂いて、そのまま食う生活。


 文明とはほど遠い。


 (まあ……生きてるだけマシか)


 独り言すら口に出さず、心の中で呟く。


 歩き続ける。


 ただ、ひたすら西へ。


 砂の海は終わらない。


 空は青く、雲はなく、太陽だけが世界を焼いていた。


 その時だった。


 遠くの地平線に、黒い影が見えた。


 タクミは足を止める。


 目を細める。


 砂の揺らぎの向こう。


 確かにそこに、何かがあった。


 (……城塞跡?)


 崩れた壁。

 突き出した塔のような影。


 人工物だ。


 間違いない。


 人の作った建造物の残骸。


 胸の奥で、わずかに希望が灯る。


 (遺跡かもしれないな)


 水。

 食料。

 あるいは道具。


 何かあるかもしれない。


 タクミは歩みを速めた。


 だが――


 そこで違和感に気づく。


 城塞跡の上空。


 黒い影が蠢いていた。


 ひとつではない。


 無数だ。


 空の中で、ぐるぐると円を描くように動いている。


 (……鳥?)


 いや。


 違う。


 翼の形が、どこかおかしい。


 飛び方も妙だった。


 鳥じゃない。


 その時、背後を黒い影がかすめた。


 次の瞬間――


 それは一直線に落ちてきた。

 

 ヒュッ――


 空気を裂く音。


 次の瞬間。


 ガギィイイッ!!


 鋭い衝撃が腕を叩いた。


 タクミは反射的に腕を上げていた。


 水色のタリスマンが淡く光る。


 硬化。


 鋼鉄以上の硬度。


 鋭い爪が腕を引っ掻いたが、刃は滑るだけだった。


 黒い影は再び空へ舞い上がる。


 タクミは構えた。


 敵の姿が見える。


 体長は五十センチほど。


 蝙蝠のような翼。

 爬虫類の顔。

 長い尾。


 ――小型のワイバーン。


 空で旋回している個体は、まだ無数にいる。


 その一体が、再び急降下した。


 物凄い速度。


 弾丸のようだった。


 タクミは動かない。


 ただ腕を上げる。


 手刀の形。


 水色の光がわずかに強まる。


 硬化。


 完全な硬度。


 一直線に突っ込んでくる影。


 距離がゼロになった瞬間――


 ザグンッ!!


 鈍い音。


 小型ワイバーンの体が、タクミの手刀に突き刺さった。


 勢いそのままに、腹を貫かれていた。


 翼が痙攣する。


 爪が空を掻く。


 だが、すぐに動きは止まった。


 砂の上に、血が滴る。


 タクミはそれを見下ろす。


 頭の奥で、何かが反応した。


 サラディンから与えられた知識。


 記憶ではない。


 理解に近い。


 言葉が自然に浮かぶ。


 (……ロドス)


 小型ワイバーン。


 旧サラトニア王国にも生息していた魔獣。


 危険度は低い。


 群れで行動するが、個体の力は弱い。


 そして――


 食用。


 (……肉は美味い)


 現代日本における鶏肉のような扱い。


 一般的な食材。


 庶民の食卓にも普通に並ぶ。


 タクミはしばらく死体を見ていた。


 腹が鳴る。


 ぐう、と鈍い音。


 口の端がわずかに上がる。


 「……鶏肉か」


 久しぶりに、声を出した。


 かすれた声だった。


 ナイフを取り出す。


 ロドスの翼を掴み、砂の上に置く。


 空を見る。


 まだ影が旋回している。


 群れだ。


 タクミは静かに立ち上がった。


 水色のタリスマンが淡く光る。


 空からまた影が降ってくる。


 タクミは笑った。


 ほんの少しだけ。


 砂漠の中で、初めての肉の“獲物”。


 飢えた生き物の目だった。


 (経過日数:七十二日)


 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 第18話「ロドス」でした。


 砂漠では食料もまた命です。

 この小さな魔獣が、タクミの旅に小さな変化をもたらします。


 次回、第19話「孤独」


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