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砂漠転生  作者: タマリンド
第1章 砂漠脱出編
16/34

第16話 枯れた水槽


 第16話です。


 監視塔を後にして十日。

 終わりの見えない砂海を、タクミはただ西へ歩き続けていた。

 その日、彼は砂の中に沈む奇妙な遺跡を見つける。


 

 監視塔を出て十日目。


 砂丘を越えるたび、景色はほとんど変わらない。


 空は白くかすみ、風は乾いている。

 足元では砂がきしむような音を立てていた。


 タクミは立ち止まり、太陽の位置を確認する。


 サラディンの知識も地球と同じだ。


 西。


 間違ってはいない。


 腰に下げた瓢箪型の水筒を軽く振る。

 中で水が揺れる音がした。


 少しだけ口をつける。


 冷たい水が喉を落ちていく。


「これなかったら死んでたな……」


 水筒を閉め、腰に戻す。


 空腹はほとんどない。

 喉の渇きも、普通ならもっとひどいはずだった。


(神の因子に触れているから……だったか)


 サラディンが言っていたのか知識を参照したのか思い出せないが、もはやどうでもいい。


 召喚の際、ほんのわずか神の因子に触れているはずだと。


 人間より飢えも渇きも遅いはずだ、と。


(確かに……普通じゃねえな)


 その感覚は日に日に強くなり体感できる。

 十日歩き続けても体は動く。

 疲労も営業時代より軽いくらいだ。


 苦笑が浮かぶ。


「ブラック営業とトントンか?」


 ふと、昔の記憶がよぎる。


 クライアントの会社へ向かうタクシー。

 ノルマの数字。

 上司の顔。


 あのまま働き続けていたらどうなっていたのか。


「……まあ」


 肩をすくめる。


「怒鳴り散らす上司がいない分、こっちの方がギリまだ少しマシかもな」


 砂を踏みしめて歩き出す。


 少しして、ふと頭に浮かんだことがあった。


(そういえば)


 サラディンから与えられた知識。


 その中にあった地理。


 かつてのサラトニア王国。


 海沿いの町から王都まで――馬車で三ヶ月。


 その情報だ。


 タクミは立ち止まった。


「……三ヶ月?」


 腕を組む。


「それどれくらいなんだ?」


 考える。


 だがわからない。


 馬車の速度など知らない。


 道の状態も違うだろう。


 休憩もある。


「……さっぱりだな」


 結論は出なかった。


 タクミは小さく笑う。


「まあ、なるようになるか」


 それが口癖だった。


 営業でも同じだ。

 絶望的な数字でも、とりあえず動く。


 動けば何とかなることもある。


 砂漠も同じだ。


 歩き続ければ、どこかには着く。


 そんなことを考えながら砂丘を下った。


 そのときだった。


 視界の端に石の影が見えた。


「……ん?」


 目を細める。


 砂の中から突き出した石の縁。


 人工物だ。


 タクミは進路を少し変えた。


 近づくにつれ形が見えてくる。


 石の円。


 崩れた階段。


 巨大な窪み。


 縁に立ち、下を覗き込む。


「……おお」


 思わず声が漏れた。


 巨大な穴だった。


 直径は三十メートルほど。

 深さもかなりある。


 石の壁は滑らかに削られている。


 明らかに人の手で作られた構造だった。


「水槽……か?」


 かつてここには水が溜まっていたのだろう。


 巨大な貯水施設。


 サラトニアの都市を支えていた水。


 今は――


 底に砂が積もっているだけだった。


 タクミは少し身を乗り出す。


 その瞬間。


 視界の下で何かが動いた。


「……ん?」


 よく見る。


 砂が動いている。


 一本。


 また一本。


 細長い影。


「……蛇?」


 目を凝らす。


 次の瞬間、背筋が冷えた。


 水槽の底。


 そこには無数の蛇がうごめいていた。


「うわっ……!」


 思わず後ずさる。


 何十匹。


 いや、もっといる。


 黒い体が絡み合いながら砂の上を這っている。


 長いものは二メートルほど。


 頭が三角形だ。


 サラディンの知識が頭の奥から浮かび上がる。


(サンドヴァイパー……)


 砂漠の毒蛇。


 強力な神経毒。


 咬まれれば数分で動けなくなる。


「マジかよ……」


 冷や汗が流れる。


 水を求めて生き物が集まる場所。


 その理屈は理解できる。


 だが数が多すぎた。


 蛇が折り重なるように蠢いている。


 足を滑らせたら終わりだ。


 タクミは距離を取った。


「食えるらしいけど……」


 サラディンの知識にはそうあった。


 蛇肉は食料になる。


 だが――


 底は完全に巣だ。


 降りる場所もない。


 戦う理由もない。


 タクミは首を振った。


「やめとこう」


 砂漠は長い。


 無駄なリスクは避けるべきだ。


 営業でも同じだった。


 勝てない案件は早めに引く。


 それも仕事だ。


 タクミはもう一度水槽を見下ろす。


 蛇の群れがゆっくり蠢いている。


「ここは拠点には無理だな」


 小さく呟く。


 踵を返した。


 西を見る。


 砂丘。


 その向こうもまた砂だ。


 終わりは見えない。


 それでもタクミは歩き出す。



 砂漠転生をお読みいただきありがとうございます。


 バトルもない、美少女も出てこない、砂しかありませんがお付き合いしていただきありがとうございます。

 読者様が絶望に陥らぬよう、後書きは少しだけネタバレを含んでおります。ご容赦ください。笑


 第16話「枯れた水槽」でした。


 ここからタクミはしばらく拠点を作れない区間に入ります。

 孤独と長距離歩行が続く砂海中盤へ入っていくパートです。


 次回、第17話「無言の前進」


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