今年の書初め
中学三年生、三学期の最初の国語の授業は「書初め」でした。その45分間の出来事を書いてみました。
私は、小さな谷あいの町にある中学校の3年生。新しい年が明け、3年生最後の、中学生最後の三学期が始まった。三学期の最初の授業は「国語」。もともと国語は好きな教科だったが、三年生になってからの国語のK先生はとってもユニークで、もっと好きになった。その若い国語の先生は、私たちの言うことが間違っていても、いつも「いいねえ!」とリアクションして聞いてくれる。だから、変な緊張感もなく、授業に参加することができる。
さて、先生は言った。「今日の国語は『書初め』をします」。「え~、面倒くさい!」「え~、俺、習字は苦手!」などと不満を言う男子もいるが、先生は続けた。「書初めで書く字は、みんなが『前向きになれる言葉』なら何でもOK。中学の習字もこの時間で最後だから、習字なんてこれが最後になる人もいるかも?とにかく楽しんでみて!」その言葉に、さっきは不満そうだった男子も、気を取り直して習字の準備を始めた。先生のその一言こそが、まさに「前向きになれる言葉」だったのかもしれない。
私は何て書こう?前向きになれる言葉…急に言われても、なかなか思いつかない。みんなは何て書いているんだろう?周囲をそっと見まわしてみた。優等生のN子は「挑戦」と達筆で書いている。絵が得意なY美は、ためらうことなく、習字の筆で干支である馬の絵を描ている。アニメ好きのY香はアニメキャラみたいなものを、K-POPにはまっているH君はハングル語で何か書いている。英文を書いている人もいる。本当になんでもありみたいだ。K先生もその様子を楽しそうに、いつものように「おっ!それは何のキャラ?ハングル語かぁ、いいねえ!」と見回っている。
T君は何て書いているんだろう?席が離れていてよく見えないけど、会話は聞こえてきた。「卒業」「高校生活」などと書いているらしい。まだ高校受験の願書の提出すらしていないのに、もう高校生になった気分なのだろう。T君は、本当に驚くほど前向きなのだ。T君は保育園は違ったけれど小学校は同じで、隣の席になったこともあった。彼との特別な思い出があるわけではないが、いつの頃からか、いつも視界のどこかに彼を探している自分に気づいていた。彼の明るさ、優しさ、まっすぐなところに惹かれていた。目立たない地味な私にとって、愛の告白などできた話ではないが、K君のことがずっと好きだった。「好き」というよりは「憧れ」に近い感情なのかもしれない。
実は私は、親の仕事の都合で、中学卒業と同時に、少し離れた市に引っ越すことが決まっている。高校も市にある私立の女子高を受験する予定だ。4月からは、知り合いなど一人もいない場所に行くのだ。大好きだったT君を視界に探すのも、あと40日程度しかない。このクラスのみんなと過ごすのも、徒歩で通った通学路を歩くのも、住み慣れた家で眠るのも、もう数えるくらいの日数だ。そう感じた時、私は前向きな言葉を考えるのとは裏腹に、急に別れの哀愁が込み上げてきた。子供の頃からの出来事が、走馬灯のように、一気に頭の中をグルグルとめぐって、胸がキュンと締め付けられて、ちょっと涙まで込み上げてきた。悲しい思い出だってたくさんあったけど、それらもすべて愛おしく感じて、動けなくなっていた。
「おい、M代、ぜんぜん書いてないけど、どうした?」。背後からK先生の声がした。「あっ、えっ、前向きになれる言葉が、なかなか思いつかなくて…」。小声で答える私に「自分が前向きになれると思えば、なんだっていいよ!とにかく、人生で最後になるかもしれない習字を楽しんで!」。そう言われても、何を書いていいのか思いつかず、ただただ哀愁に浸っているだけの、鉛のように重い時間がゆっくりと流れた。
K先生が「じゃあ、今書いている紙で終わりにして、片づけを始めてください。今日書いた字の中で、自分が一番気に入ったものを提出してください。全校生徒のものを廊下に展示します」と言うのが聞こえた。えっ!私はまだ1枚も書いていないんだけど…一瞬で哀愁は消え去り、頭の中はパニックになった!やばい!どうしよう?一瞬目を閉じたとき、やっぱりT君のことが頭に浮かんだ。そうだ、私が前向きになれる言葉、いつも心の支えになってくれた大好きなT君、いつも助けてくれたクラスのみんな、この町や今までの自分に対して、この16年間のすべてに対して「ありがとう」って言ってみよう。そうしたら、きっと哀愁も吹っ切れて、前を見て進んでいけそうな気がする。私からのメッセージ…誰か気づいてくれるかな?「ありがとう」…時間があったらもう一枚「感謝」と書こう。そう言い残せば、なんだか笑顔で旅立っていけるような気がする。私は気を取り直して、急いで筆に墨をつけた。
自分の書いたものを誰かに読んでもらうのは初めて、少し恥ずかしいです。実在するいろんな人や、いくつかの実話を組み合わせて書いてみました。どうぞご覧ください。




