仮面
掲載日:2025/11/06
おでんの屋台で、煮締まった大根を肴に俺は日本酒をチビチビ飲んでいる。
退職祝いの花束を横に置いて。
中学を卒業してすぐに俺は働き始めた。
下っ端から勤めて50年。
殴られたり蹴られたりの辛い毎日だった。
今では、ブラック企業というのかな。
俺は出世が遅くて、スーツを着られるようになったのは入社から5年もたった後だった。
取引相手は恐ろしい人で、会うたびに殴られた。
テレビにでるような有名人であるのに遠慮なしだった。
下っ端時代は、取引相手も加減してくれたのか怪我をする事はほとんどなかった。だが、スーツを着るようになってからは違った。仕事終わりには、いつも強烈な蹴りを貰うのが常だった。スーツは動きにくくで結局、俺は怪我をしてしまい、また下っ端に逆戻りだ。
1度だけだが、必殺技を放てただけ俺はマシだったかもしれない。運の悪いスーツ組は大爆発で終いだ。大幹部になれるのは、ほんの一握りの人間だと思い知らされた。
だが、最後まで勤められて良かった。
俺がここで待っているのは、あの人だ。
俺を殴ったあの人だ。
背後でバイクが停まった。振り返ると赤いマフラーのあの人がいた。
「ライダーさん」と俺は声をかけた。




