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エピソード:ゼロ

見渡す限りの自然。適当に空いていた広めの土地に建てたような高校。俺はそんな『ド田舎』で暮らしている高校2年生の宮野蓮。周りにはもちろんロクな店もない。たまにおばぁちゃんが籠に野菜を入れ、1個300円くらいで道行く人に売っている光景を見る。売れないと思うだろ?でも、意外と買い手は多いんだ。それくらい、本当に周りには何も無い。


「おはよう蓮!今日もなんとも言えない顔してるね!」


このナチュラル失礼女は俺の幼なじみの川江真中。

善意悪意関係なく、思ったことを全て口に出すので、ある意味1番厄介な人種だ。なんだなんとも言えない顔って。こと細かく説明してみろ。


「あぁおはよう。朝からキレキレだね。」


「ん?元気だねってこと?」


そして頭も終わってる。こいつに皮肉めいた言葉なんて一切通じない。あんまなんないだろそんな解釈に


「当たり前じゃん!朝から蓮の顔を見れるんだから!」


「あの一言目の後だと多分褒められてないんだなぁって…」


常人なら一瞬で発狂するような会話でも、情緒を乱さず、自分のペースで話せる。これは十何年という長年の付き合いにより獲得した適応能力だ。お陰でメンタルも大分強くなって、言葉による攻撃ではまず押されない。


「そういえば今日の給食、主食が卵焼きらしいよ。ご飯のおかずにして食べるのちょっとキツくない?」


「いや、意外といけるぞ。てかこの世にはTKGというものがあるじゃないか。あれのTが固形になっただけだ。まぁどうせなら肉とかの方が良いって気持ちもあるけど。」


そんな他愛のない話をしながら、俺たちは高校へ続く坂道を歩いていた。この坂道かなり細く、大型の車1台分しか横幅がない。対向車が来た時は、歩行者が限界まで端に寄るか、車が後ろに下がるか…これは田舎あるあるの光景だ。


ブロロロロロロロ……


その時、前から1台のトラックが走ってきた。


「うーわタイミング悪……蓮、あっちに下がってもらわない?もうちょっとで坂登りきれる場所じゃん。」


「んん、そうだな。俺達が端によっても通れないくらいだし……俺がちょっと伝えてくるよ。」


そう川江に言い、俺はトラックに向け大きく手を振った。


「あのーすみません!避けれそうにないんで、下がってもらうことってできますかね!」


いつもはこんな感じで伝えれば、相手も素直に下がってくれていた。だが、今日は違った。いくら手を振っても、声を出しても一向に止まる気配がしない。なんなら


スピードが上がってきていないか……?


「え、ちょっと、何で……?蓮!一回下にーー


ブォォォォォォオン!!!


デカイエンジン音と共に、トラックが急接近してきた


「なっ……!?真中走れ!早く!」


おかしい。完全におかしい。たまに意地を張ってるのか知らないが、その場で止まるやつはいる。だが急接近って!意地どころか殺しにきてるだろうが!

俺たちは全力で走り、坂の下を目指す。前と右に道が分かれているため、曲がることが出来れば回避できる

という算段だ。

しかしトラックの出すスピードには勝てない。後ろを振り返らなくても分かるくらい、もうそこまで来ている。


(これ、間に合わなくないか!?2人とも仲良くスクラップになるぞマジで!)


目の前にはすぐ分かれ道が迫っていた。しかしそれ以上に、後ろからの接近を感じていた。


俺は、最後の力を振り絞り、前へ飛んだ。


川江の横っ腹を右へ押し込み、分かれ道へと突き飛ばした。


「……っ!蓮!!!!!」


鳴り響くエンジン音とクラクション


川江の叫び声と、トラックと身体がぶつかる鈍い音


世界がスローモーションになる


あ……これ、死んだな……真中…


俺は死ぬんだとすぐ理解できた。それと同時に

もうあのナチュラル失礼が聞けなくなることに、

ほんの少し、ほんの少しだけ、寂しさを感じた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……ーーーー…」


……ん…?ここは…?何も見えない。死んだんだよな俺。あれで生きていたらたくましいどころの話じゃ無くなるぞ。


「ーーー!!」


てかこれ、見えないんじゃなくて、目をつぶってるから暗くなってるのか。なんか感覚が変だな。


「…はや……ろ!!」


声……?人間は死んだ後、聴覚が最後まで残るらしいが、まさか真中の声が聞こえているのか?でも、何て言ってるのか聞き取れないな……


『早よ起きろ!!!』


「うわぁぁ何!?」


俺はあまりの爆音に驚き、反射で目を開く。そして、信じられない光景を目にする。


空は…青黒いというか、宇宙の1個手前みたいな色をしていて、虹のオーロラがかかってて、見たことの無い動物が空を飛んでいて……?整理しようにも情報量が多すぎて何も頭に入ってこない。


『全く。やっと起きたか。どれだけ寝れば気が済むんだ貴様は。神を待たせるものではないぞ?』


もっと分からなくなった。


「……えっと、色々聞きたい事があるんだけど。……とりあえず、誰??」


必死に頭を働かせ出た質問がこれだ。実際、今俺はかなり混乱している。


『俺か?ふんっ聞いて驚け!俺は世界を司る、君たちが必死に崇め奉っている神様だ!』


……こいつが?これが神?

今、俺の目にこいつがどう映っているか説明しよう


まず、少し長めの金髪に、真っ白な肌。空をそのまま映したような青い瞳。そして圧倒的な顔整い美少年。

ここまではいい。完璧すぎる。だが…


なんだ、上はパーカーに?下は…ジャージか?見たこともない変なロゴが入っているな。そしてポテチを貪っている。いかにもフカフカそうなソファに座りながら。


『驚きのあまり言葉を失っているか……ふっ、そりゃあそうなるさ。あの偉大なる神が目の前に現れれば、誰だってな。』


あぁ、心底驚いているよ。こんな残念なイケメンみたいなやつが神なんて。休日の俺と変わらない生活を送っているやつが神なんて。でも、なぜだが疑う気になれない。おそらく彼がほんとうに神だから、本能的なあれで感じ取ってるんだろう。多分。


「……ってことは、俺はやっぱ死んだんだよな…」


『そうだ。お前はあの女を庇い、跳ねられ死んだ。無惨な死に様だったぞ。映像あるけど見る?』


「頭おかしいんかお前。」


神ではなく、悪魔の間違いではないだろうか。


『お前は地球で死に、もはや魂だけの存在……普通なら、こっから天国か地獄に行くか決められる。』


天国とか地獄ってマジであったんだなぁ……というか俺、神様に対して結構不敬な態度取ってるけど、何も言ってこないな。割と寛容なのか?それとも馬鹿すぎて気づいてないのか?


「なるほど…それで、俺はどっちに行くか、もう決まってるのか……?」


生前、特に悪事も働かず素直に生きてきた。地獄に行く理由は無い……少し、緊張するなこれ…地獄だったらどうしよ……


『……それなんだが、お前はどっちにも行かせない

お前は、異世界に行け』


……ぬ?


「いせ……かい…とは?」


いや、聞かなくても分かる。異世界といえば、あの魔術溢れるFantasyWorldの事じゃあないのか!?


『お前も知ってるだろう。ほら、転生ってやつだ。お前が、転生、するんだ、よ!』


「なんで!?」


純粋な疑問と好奇心が含まれた上ずった声が出る。

異世界転生……憧れてた…小説もいくつ読んだか分からないくらいだ。あのド田舎で俺が唯一持てる夢が

異世界転生だったと言っても過言では無い。


『あぁ?……そんなの気まぐれだ。いつも通り天国か地獄に送るのはつまらん。』


「気まぐれですかい……?」


神の気まぐれで転生?なんて規模のデカイ気まぐれなんだろう。


『と!言うわけで……もう早速準備に取り掛かっちゃっていいかな?』


ん?なんだか急に喋り方が変わったぞ?


「え、あぁはい!よ、よろしく頼んます神様。」


『よぉしいい返事だ!さて、やる事は沢山あるぞ〜。キャラデザにスポーン地点の設定にスキルの贈与に……』


……こいつ、多分こういうの好きなタイプだな。心のどこかで謎の親近感を抱いた。


「え、キャラデザって……そんな自由にできるのか?」


『あぁ、まぁ俺の好みになるがな。お前に決定権はない。そこで指を咥えてワクワクしながら待ってるんだな。ふふ、ふふふふ……』


何やら謎のウインドウを操作している。俺からは見えないが……今まさに、転生先での俺が造られているんだろうな。…どうせなら、結構かっこよくして欲しい。


〜数十分後〜


『……きたな。最高傑作だ。いやぁこれお前、ビックリしちゃうぞ!』


神史上最高傑作が出来たらしい。結果を全く見せてもらえないからなんとも言えない。


「そ、そうか…期待して損は無さそうだな?」


『損どころか釣りが返ってくるレベルだ……』


本当に『俺、すげぇの作っちまった……』みたいな雰囲気出てるから、大丈夫だろう。


『お前はとある村の家に生まれることになる。生前過ごしていた場所よりは田舎ではないぞ。』


村か……公爵家の王子とか期待してたが、あのド田舎よりマシならいいだろう。


「容姿と転生先が決まった……ってことは後は」


『「転生特典のスキル!」』


俺と神が初めてハモった瞬間である。あまり嬉しくは無い。


『これも既に決まってるがな』


えーーーーーー……

こういうのって、転生者の希望とか聞いたり、候補の中から選んだりするんじゃないのか……?


「そ、そうなのか……なんだか楽しみを1つ奪われた感覚だ。」


『そう言うな。お前にピッタリなスキルを選んであるからさ。』


俺にピッタリなスキル?


『お前に与えるのは、適応進化スキル!その名も』


ーーー『アダプトシア』


適応進化……アダプトシア……?


「そ、それってどんなーー」


『それは転生してからのお楽しみだ!!さぁ準備はいいか!この後ろの扉が開かれた時、お前の第二の人生は始まる!』


こいつもう勝手に進めちゃって!楽しみすぎて早く送りたいんだろうなぁ!!


「えぇ!?せめて何かかるーく説明だけでも!」


『それじゃあつまらん。自分の目で、身体で理解しろ!幸運を祈る!!』


親指をグッと立て、すんごい爽やかな笑顔で俺を送り出していく。


扉が開かれる。俺は眩しい光に飲み込まれ、意識を失った。


再び目が開かれる時、俺の第二の人生が 始まる



エピソード:ゼロ


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