表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

第8章 命は奪われ、そして救われる

第8章です!楽しんでね!

 休み明けのある昼休みのこと。僕はネロ、アン、ダイアナと共に食堂のテラスで昼食を取っていた。その時、ジムが大慌てで僕らの元に何かを持って走ってきた。


「…み、みなさん!大変です!こ、これ!これ見てください!」


「ジム?どうしたの?そんなに急いで…。」


「何だそれ。新聞か?」


「そ、そうなんです!渡り廊下に何故か落ちていて…!」


「…これ…普通の人間達の読む新聞だわ…。」


「…本当だわ…。何でエスカロッティにこんな物が…。」


「とにかく読んでください!た、大変なことになったんです!」


 僕ら4人はジムの持ってきた新聞に目を通す。すると、そこには驚愕の事実が記されていた。


「…な、何だこれ…。」


 新聞にはこう書かれていた。


『6月xx日未明。ゼロンの街で、2人の20代女性の遺体が雑木林で発見された。女性の遺体にはどちらも何者かにかじられ、身体の一部を切り取られた形跡があり、雑木林一体には無惨にも、遺体から溢れた血が飛び散っていた。警察の捜査によると、事件現場には、犯人の証拠品や、痕跡は何も残っていないようで、事件性は低いとのこと。犯人が失踪した形跡も見つからなかった模様。近年、この雑木林では、熊や狼などの、野生動物による人身被害が多発していたため、今後警察は、害獣駆除の方向で、捜査を進めていく模様。』



「…これ…絶対動物のせいじゃないですよね…。」


「…アン…これって…。」


「…決まってるわ…。被害者は20代女性2人…。何者かにかじられ、身体の一部を切り取られてる。どう考えても獣の所業じゃない…。」


「…バートリーだ…。また…犠牲者が…。」


「っっざっけんなよ!!!!」


 その瞬間、ネロがテーブルを強い力で叩いた。いつも明るくて、笑顔を絶やさないあのネロが…初めて本気で怒っている。ジャンが僕を殴った時よりも…。ずっと…強い怒りだ…。


「ね、ネロ…ど、どうしたの!?」


「許せねぇ…許せねぇよ!!これだけはっきりと、犯人がバートリーだって証拠は揃ってんのに…警察の野郎は…それを罪もない動物達に着せようとしてんのか!?それで…害獣駆除とか言って…殺したりするんだろ!?許せねぇよ!!」


「ね、ネロ…。」


 ネロは動物と心を通わせ、その力を使う能力を持っている。たくさんの動物の友達がいる。誰よりも動物が好きで…この学園に飼われている獣達を飼育しているのもネロだ…。確かに熊や狼は、食べ物を求めて人里に下りてくる…。人を襲うこともある。だけど、ネロにとっては、みんな大切な友達なんだ…。


「…ネロ。気持ちは分かるけど。普通の人間はバートリー事件のことを知らないし、もう100年も前の事件。皆忘れてるし、今さら事件を追う奴らなんていない…。」


「私達は、バートリーが犯人だって、はっきり分かる。だって、ネロの言う通り、証拠が揃いすぎてるもの。」


「痕跡も何も残さずに去っていく辺り…やはりバートリーですね。だけれど、僕達がマッジの森で女性の遺体を発見した時は、ナイフとフォークが残っていた…。きっとその日、バートリーは何かに追われて…焦っていたのでしょうね。それで…証拠を残して行ってしまった…。」


「でも…僕らで調べようとしたけど…あの後学長先生が来て、結局分からず仕舞い…。聞いてもどうせ、危ないからって教えてくれないだろうしなぁ…。しかも、学長先生、土日いなかったみたいだし…。」


「私達…全部分かってるのに…。でも…肝心なバートリーの正体が分からない…。」


「…私達…どうしたらいいの…?」


 僕らはみんなで考え込む。バートリーはまた新たな犠牲者を出し、神出鬼没なため、誰がバートリーなのか、バートリーが誰なのかも分からない。分かっていることは、バートリーが未だに生きていて、カニバリズムを繰り返していること。そして……


 エスカロッティと"普通の者"達の世界を行き来出来ること。


「…なぁコゼット…。結局バートリーって何なんだろうな…。俺、分かんなくなってきた…。」


「…僕もだよ…ネロ。」


 バートリーが分からない…。多分、そう思っているのは僕とネロだけじゃない。アンも、ダイアナも、ジムも、それに、他のみんなも…。



『貴方達…。どうしたの?またそんなに顔を青くして。』


 僕の後ろから響く女性の声。僕らは声のする方へと振り向く。


「が、学長先生!!」


 そこには、学長先生が心配そうな表情で立っていた。


「新聞?どうしたの?…あら…これ…"普通の者"達の読む新聞じゃない…。どうしてこんなものがここに…?」


「…が、学長先生…。それは…僕が渡り廊下で見つけたんです。」


「ジム・カーネギー。あなたが?」


「はい。」


「そう…まぁ…なんて…。物騒な事件もあったものですね。…あなた達が気にすることではありませんよ。ここにいれば安全ですからね。」


 学長先生は、いつものように僕らに優しく微笑んでくれる。


「学長先生…。」


「…この新聞は私が預かります。あなた達は昼休みの続きを楽しんでね…。」


「は、はい…。」


 学長先生は新聞を持って去っていく。


「…学長先生って…神出鬼没よね…。」


「うん…。優しいけど…いつも何かを隠してる感じ…。拭いきれない悲しみとか…ぶつけようのない怒りとか…。」


「…ダイアナって…いつも鋭いよね…。まるで何かを見透かしてるみたいだ…。」


 僕は、学長先生には感謝している。こんな僕を拾ってくれたこと。この学園の生徒として僕を受け入れてくれたこと。……だけど、僕はずっと心に何かが引っ掛かっている…。あの優しくも恐ろしい微笑み…。異常に白く細い指先…。真っ赤な唇…。


「…ま、まさか……そ、そんなことないよね…。」


 いけない。そんなことを考えては…。学長先生は僕ら生徒を我が子のように可愛がってくれる…。疑ってはいけない。


「ネロー!ネロー!」


 その時、マッジの森の方向から、グリンダが毛布に包まれた何かを抱えてラビニアと走ってくる。


「グリンダ!ラビニア!どうしたの?」


「あ!コゼット!みんなも…!ねぇ!これ見て!」


 グリンダは心配そうな顔をして、抱えていた毛布の中身を見せる。


「…え…?これって…。」


「…キツネ…?」


「アン。しかもこギツネよ!どうしたのかしら…すごく苦しそう…。」


「マッジの森にキツネなんていたんですね…。」


 グリンダが抱えていたのはキツネの子供だった。前足が酷く腫れており、息も荒い。怪我をしているようだ。


「ど、どうしたんだグリンダ?このキツネ…。」


 ネロはすぐさまグリンダに駆け寄り、キツネの怪我を見る。


「さっき、お昼にお弁当を作ったから、ラビニーとマッジの森にピクニックに行ってたの。それで、帰ろうとしたら、森の少し奥でこのこが倒れてて…。」


「どうやら、スズメバチに前足を刺されたらしいんだ。すぐ近くに巣があってな。」


「そうなの…。それで、すぐに解毒のおまじないと、回復のおまじないをかけたんだけど…。あたし、動物相手は専門じゃないから…どうしていいのか分かんなくて…。ネロ!このこを助けて!ネロなら出来るでしょ?」


 グリンダは涙目になりながらキツネをネロにそっと渡す。ネロは悲しげな表情を浮かべて、キツネを抱き抱える。そして、急に走り出す。


「ネロ!どこ行くの!?」


「一旦寮に戻る!こいつ…放っておけねぇ!」


 ネロはあっという間に見えなくなってしまう。


「…行っちゃったわね…。あいつは…馬鹿だけど…やっぱり良いやつなのよね。」


「キツネさん…治るといいわね…。アン…。」


「グリンダ。スズメバチの巣って…学長先生に言わなくていいの?危険じゃない?」


「ううん。大丈夫。もう燃やした。」


「…え!?」


 僕はグリンダの発言に驚いてラビニアに視線を移す。ラビニアはため息混じりに僕に事情を話してくれる。


「こいつ。キツネの前足刺したスズメバチが許せなくなったらしくてよ。巣の方向に行って、周りにいたスズメバチ全部、業火のまじないで燃やし尽くしちまったんだよ。巣もろともな。だから、もうマッジの森にスズメバチはいねぇよ。灰しか残ってねぇ。」


「……う、うわぁ……グリンダってやっぱり……怒らせたらダメなんだ…。」


「お姉様、前も、スズメバチはミツバチを食べるから許せないって仰ってましたわよね?」

 

「うん。酷いもん。いらない。」


「さ、さすが……グリンダ先輩……。」


 グリンダはいつもの笑顔で言いきる。僕らはその笑顔に底知れぬ恐ろしさを感じ取った。


「それより、あたし達も、ネロの所に行こう?あのこが心配…。」


「…そうだな。まだ昼休み30分あるし…行くか。」


「うん。僕もネロが気になるよ。」


 そして、僕らは皆で連れだって寮の部屋へと駆け出す。部屋に辿り着き、ドアを開けると、ネロが集中した様子でキツネの前足に手を当てていた。ネロが手を当てた所からは、黄色い、優しい光が溢れ、徐々にキツネの前足の腫れは引いていく。


「…ネロ…。」


 ネロは僕らが来たことにも気付かずに、何かを唱え続けている。


『…我らの理を壊し、全ての生命に光をもたらせ…。アーティーロード・アーティーロード…。』


 ネロは何かの呪文を唱え終え、目の前のキツネの小さな身体を抱きしめる。その瞬間、部屋は明るい光に包まれ、僕らは目を閉じる。


「…な、何があったんだ……ね、ネロ?ネロ!」


 目を開けた僕らの目の前には、元気そうに尻尾を振り、ネロの頬をペロペロとなめるキツネの姿があった。


「ネロ…!その子…!」


「…ん?……あ、お前ら!来てたんだな!悪い悪い!気が付かなくて…。ほら!見ろよ!こいつ元気になったぞ!」


 キツネの前足の怪我は綺麗に治っており、呼吸も正常。とても元気そうにしている。


「…わぁ!良かった!ありがとうネロ!」


「いいや。お礼なんていいよ!グリンダがおまじないで応急処置してくれてたから、上手くいったんだ。ありがとな!」


 ネロは涙ぐむグリンダに向けて明るく笑って見せる。


「相変わらずお前の力はすげぇな。ネロ。」


「おうよラビニア!」


 ネロとラビニアは拳を付き合わせて笑っている。


「ね、ねぇネロ。ネロって…動物と心を通わせて、その力を使う力を持ってたよね…。怪我を治す力もあるの?」


「…う、うん…。そうなんだよ…。意志疎通をすることで、怪我をした動物の傷も、治すことが出来る。だけど、上手く行かない事が多くてさ…。小さい頃、怪我した小鳥を、治してあげようと思った事があったんだけど、逆に怪我を悪化させちまって…死なせちまったんだ…。それからは…この力は…ずっと使わずにいた。」


「…あぁ…。あの時お前、すげー泣いて…。俺がいくら励ましても泣き止まなくてな…。」


 幼馴染みであるラビニアは、ネロの話を知っているようだ。


「…で、結局最後に、ラビニアに、『悲しんだらそいつの霊がいつまでたっても上に上がれねぇだろ?』って言われて…。それで、なんとか涙を拭って、2人で墓作って埋めてやったんだよな…。あの時は死なせちまったけど…今回は…救えた…。良かった…。」


 ネロはギュッとキツネを抱きしめる。その場にいたみんなは、嬉しそうに涙を流すネロを優しく見守る。


「…奪われる命あれば…救われる命あり…。世の中と言うものは、本当に良く出来ていますね…。」


「…なぁグリンダ。こいつ…俺が飼ってもいいか?」


「…え?ネロが?…勿論!このこもネロに懐いてるみたいだし!あれならネロ、その子を自分の使い魔にしちゃえば?」


「こいつを俺の使い魔に?」


 グリンダの提案に、皆はハッとする。


「うん。ネロは使い魔いなかったでしょ?ほら!学長先生のカラス達みたいに。」


「…こいつが…。」


 ネロはハッとした様子でキツネを抱き上げて自分の顔の位置まで持っていく。


「いいんじゃないかな。ネロ。このこ、グリンダの言う通り、すごくネロに懐いてる。このまま森に帰したくないだろ?それに、飼うのには僕も賛成だし。」


「…私も良いと思うわ。」


「私も!」


「僕もです!ネロくん!」


「もうそいつはお前の友達だろ?使い魔にすれば、いつだって一緒にいれるぜ?」


「そうそう!あたしとリーフさんみたいにね!」


『やほー!』


「う、うわぁ!!誰そのこ!!」


 僕は急にグリンダの肩に現れた小さな葉っぱの妖精?に驚く。


「リーフさんだよ。あたしの使い魔。見ての通り葉っぱの妖精。」


『やほー!』


「…あ、知らないの僕だけだったんだ…。…えっと……や、やほー…。」


『やほー!』


 僕は何故かリーフさんとの寸劇を繰り広げる。


「…うん!みんな!俺そうする!よし!お前の名前は今日からポレットだ!よろしくな!」


 ネロはポレットと名付けられたキツネと鼻を付き合わせる。ポレットも楽しそう。なんとか…一件落着かな。


 まぁ…バートリー事件を解決するまでは、落着は出来ないか…。でも、今だけは…この和やかな空気に浸っていたい。僕はネロとポレットを見てそう思った。


第8章 fin.

第9章に続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ