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第7章 喰らい尽くせぬ魂

第7章です!よろしくお願いします!

 次の日の事。バートリー事件を解決するために手を組んだ僕ら10人は、僕とネロの部屋に集まっていた。目的は、グリンダの言った降霊術をするためだ。10人の内、7人は天才。学長先生は用事で2日間学園にいない。今と言う絶好のチャンスを無駄にしないために、僕らはこうして集まって、マッジの森で起きた人喰い事件の真相を暴こうとしていた。


 のだが……。


「ポテチ食べる人ー」


「あたし食べる!エポニーヌは?」


「え~?脂っこいじゃない!アゼルマ!私はギモーヴ食べるわよ。」


「おいネロ!お前何でコンソメ買ってんだよ!ブラックペッパーのが絶対旨ぇってこの前言ったろ!」


「文句言うなよ!食べたかったら自分で買ってくればいいだろラビニア!俺はコンソメ派なんだよ!」


「俺は断然のり塩派だな!」


「ジャンには聞いてねぇよ!」


「ねぇアン、そのイチゴ水…。」


「大丈夫よダイアナ。この前はさくらんぼ水と間違えたけど、今回は絶対イチゴ水よ…!神にかけて間違ってないことを誓うわ。」


「コゼットくん。僕がブレンドしたミントティーいりますか?」


「わぁ!飲む!ジムすごいね!」


 普通ではないとは言え、やはり皆、ちゃんと年頃の高校生。10人も集まると、お菓子パーティーが始まってしまう。


「なぁなぁ!久々にヴァリエレースで対戦やろうぜ!」


「いいぜ!馬鹿ネロ!お前には負けねぇからな!」


「ラビニア!お前キャラどれ使う?」


「…やっぱ魔王グレダスだろ。」


「お前昔からそうだもんなー。」


 そして、勿論ゲーム大会も始まってしまう。僕らは目的を忘れて、普通に皆で集まって楽しく遊んでしまっていた。


「…ねぇ…みんな目的忘れてない?遊ぶのは全部終わらせてからにしようよ…。明日だってあるんだから。これじゃあ、今日何のために集まったのか分かんないよ…。」


「あ…。そ、そうだったねグリンダ…。」


 グリンダの言葉に僕らはハッとする。グリンダは天然だけど、こう言う時は僕らの中で一番真面目だ。


「…レースは…全部終わってからにするか…。」


「…そう…だな。」


「…す、すまねぇグリンダ…。」


 遊ぶ気満々だったネロ、ジャン、ラビニアの3人は、少し気まずそうにする。


「いいよ別に。みんな集まると、遊びたくなっちゃうよね。だってあたし達、まだ高校生だもん。仕方ないよ。」


 グリンダの優しい微笑みに、僕らはホッとする。


「…でもさ…。ラビニーがリーダーでしょ?何ノリノリでゲームしようとしてるの?それにさっきネロのお菓子に文句言ってたでしょ?…ダメだよラビニー…。本来の目的忘れたら…。」


 グリンダのアルカイックスマイルにラビニアは顔をひきつらせる。


「…そ、そうだよな…。わ、悪かったって…グリンダ。」


「…分かればいいんだよ~!」


「…ら、ラビニア…グリンダって…もしかして怒ると恐い?」


「…あ、あぁ…。死ぬほどな…。ほら、見てみろ。口は笑ってるけど、目が全く笑ってねぇだろ?…あぁなると、グリンダがキレてる証拠なんだ…。コゼット。お前も気を付けろよ…?」


「…う、うん。」


 こうして、僕らはお菓子やゲームを一旦片付けて、降霊術の準備を始めた。


「…これで大丈夫だろ!」


「エポニーヌ。結界張った?」


「勿論よアゼルマ!完璧よ!」


「じゃあ、コゼットくん。始めましょう。」


「……う、うん…。」


 皆がいてくれる。…友達がこんなにいるんだ…。もし失敗しても…誰かがカバーしてくれるだろう。でも…僕がやらなきゃいけないんだ…。失敗したらなんて…そんなこと考えるな…。僕なら…僕のこの力なら…絶対に出来る…。


「…じゃあみんな…。始めるよ。」


 僕は心と頭を無にして、精神統一する…。


「……アブレル・ミヒャエル・ストラテス……アブレル・ミヒャエル・ストラテス……冥界に眠りし可の死霊よ、我の名の元において、汝その姿を現すがいい!」


 僕が降霊の呪文を唱えると、あの時と同じように、周りが青い光に包まれる。そして、その光の眩しさに、僕は一瞬目を瞑り、数秒経って目を開ける。すると、僕の目の前には…


「……あ、あなたは……?」


 僕の目の前には、若くて綺麗な、金髪の女の人の霊が立っていた。瞳からは血の涙を流しており、とても哀しそうな顔をしていた。


「コゼット…成功したのか?」


「僕には…分かりません…。」


「私も…。人形に霊を卸している訳じゃないから…。そのままじゃ視えないわ…。」


「私も、アンと同じよ。」


「私もよコゼット。」


「エポニーヌと同じく。」


 ネロ、ジム、アン、ダイアナ、エポニーヌ、そしてアゼルマの6人は、霊を視ることが出来ないらしく、僕の能力に驚いている。


「昨日の女性と…同じ…。」


「この女かぁ…。人喰いババアの餌食になったのは。」


「そうみてぇだな。」


 一方、グリンダ、ジャン、ラビニアの3人は、霊が視えるらしく、僕と同じ、女の人の方を見ている。


「ひとまず、降霊術は成功だね、じゃあ…話を聞くよ。」


「じゃあ、視えない皆にも、声だけは聞こえるように、おまじないをかけるね。」


 グリンダは、視えていない6人のために、霊の声が聞こえるようになるおまじないをかける。そして、僕は目の前に立つ女の人に、緊張しながらも、声をかける。


「…初めまして。僕は、コゼットって言います。周りの人達は、僕の友達で…。この皆で、バートリー事件を追っています。」


『…バートリー……。』


「…は、はい。エルゼベート・バートリー…。100年前に、このエスカロッティに迷い込んだ、人喰いの女です。今日、あなたをここにお呼びしたのは、その、バートリーについて、お聞きしたいことがあるからです。」


『…聞きたいこと……?』


「…はい。…単刀直入に聞きます。あなたは、黒マントの女……バートリーに…ここまで連れ去られ、殺され、そして……喰われましたか?」

 

 僕は目の前の女の人に尋ねる。女の人は少しハッとした後、血の涙を流しながら、ゆっくりと口を開く。


『…ええ。そうよ。私は……バートリーと名乗る女に、この不気味は谷まで連れ去られ、不気味な森に連れていかれて、何の抵抗も出来ないまま、殺されて、喰われました。』


 皆は女の人の発言に驚き、目を見開く。勿論、僕も。


「…やはり…そう…でしたか…。ご、御愁傷様です…。」


 僕はこのいたたまれない空気感の中、言葉がそれしか出なかった。


『…あら…こんな私に…弔いの言葉をかけてくれるんですね…。ありがとう…。あなた達は、優しいんですね…。』


「…いいえ…そんなこと…。その!…こんな事を聞くのは、酷かもしれないのですが…。教えて…頂きたいんです…!」


『…えぇ……何でも教えてあげます。』


「…ありがとう…ございます…。その…あなたは…バートリーに、一体何処から……ここ、エスカロッティに…連れてこられたんですか?」


 僕は一番気になっていた女の人の身元を聞くことにした。女の人は、少し口ごもるが、僕の目を見て、話してくれる。


『私は…ここの人間ではありません…。私は、あなた達の言う、"普通の者"達の住む世界から、ここ、"普通ではない者"達が住む世界に…連れてこられました。』


「……え……?」


 僕は驚愕の事実に、言葉が出ない。それは、周りも同じで…。皆は、まるで時が止まったかのように、目を見開いたまま、固まっている。


「…おいおい女ぁ!じゃあ、お前は俺らが元いた所の、普通の人間だって言うのか?」


「ちょっとジャン!」


『いいんです。…確かに私は、普通の人間です。…私は、あの日、仕事帰りに、暗い夜道を1人で歩いていました。でも、何故かいつも通っているはずの道が、すごく気持ち悪く感じたんです…。怖くなって…早歩きで自宅に向かいました。だけど、気付いたら、私の背後には、黒いマントを被った女が立っていて…。バッグミラーに映った女は真っ赤な唇に、異常なほどに白い肌をしていた…。私は振り返った瞬間に、叫び声をあげた。でも、遅かった…。女は、ナイフで私の腹を貫いて、そのまま、どこから現れたのか分からない濃霧の中に消えていった…。』


「それで……エスカロッティに連れてこられた?」


『…はい。貫かれた腹からは、血が溢れて止まらず…。私は、死を覚悟しました。だけれど、運命は残酷な物で、不気味な森に連れてこられた私は、薄れる意識の中、女に、ナイフとフォークで身体の一部を切り取られ、喰われ、想像を絶する苦しみの中、意識を手放しました…。そして、目覚めた時には、私はもう死んで……気付いたら、霊になっていました。』


 僕らは人喰い事件の真相に、今まで感じたことのない程の憤りと、苦しみ、哀しみを覚えた。


「…そ、そんな…そんな残酷なことが……あっていいのか?」


「コゼット…。」


 僕は膝から崩れ落ちて、床を殴り付ける。ネロは、そんな僕を心配して、僕の背中を擦ってくれる。


『…これが…私の経験したことの全てです。』


「…あぁ…話してくれて…ありがとな…。きつかったろ…。それで…最後に1つだけ聞きてぇんだけどよ。バートリーは、自分自身を…バートリーだって…名乗ったのか…?」


 ラビニアは、僕の代わりに、女の人に尋ねてくれる。


『…はい。確かに、私に、自分の名前は、エルゼベート・バートリーだと、名乗りました。100年前に、浮気していた夫と、浮気相手の女共々刺し殺して逃亡した女…。事件の話は、私も祖父に聞いて知っていましたから、同姓同名の人物が現れた事に驚きました。だけど…私を殺したあの女は…バートリー本人ではない。だってバートリーは100年前に40代後半…。今生きているわけが…』


「すまねぇな…。バートリーは、本人だ。」


『え……?』


 ラビニアは、苦痛に顔を歪ませながらも、女の人に向き直る。


「…本当のバートリー事件の舞台は、ここ、エスカロッティなんだ。バートリーは、夫と浮気相手を殺した後、ここ、現実と幻想の狭間であるエスカロッティに迷い込んで、浮気相手の女と同年代の若い女を、殺して喰っていったんだ…。そして、その喰った女の中に1人、呪術師の家系の娘がいてな、そいつの呪術の影響で、永遠に年を取らねぇ身体になっちまったんだ。だから…バートリーは年を取らねぇまま、未だに…どこかで生きてんだ。」


 ラビニアの話す真相に、女の人は、青冷めた顔をして目を見開く。


『ウソ…ウソよ…ウソ……!!ウソ嘘ウソ嘘ウソ!!!

そんなの信じないわ!!嘘よ!!嘘!!そんなこと!!嘘に決まってるわ!!!嘘ウソ嘘ウソ嘘!!!!!!』


「お姉さん!落ち着いて!!」


 女の人は、髪を振り乱して、発狂する。先程の優しげな女の人の面影は、その表情には見られない…。


「嘘じゃねぇ。現にお前は、バートリーに殺されて喰われてる。これが何よりの証拠だろ。信じたくねぇのは俺達も同じなんだ。…でも、これが事実で…これが全てなんだ。」


「…そうなんです……!僕らは、もうあなたみたいな犠牲者を、これ以上出したくない!……僕らは、バートリー事件を、僕らの代で終わらせるために、皆で…バートリーに立ち向かう事を決めた!……霊になってまでも…嫌な思いをさせてしまってごめんなさい…。でも、あなたが勇気を持って…全てを話してくれたお陰で…真相に一歩近付けた気がします!……その……ありがとうございました!」


 僕は、女の人の前に土下座して、感謝の気持ちを伝えた。すると、皆も同じように、頭を下げる。


『……バートリーは……年を取らずに……未だに生きてるのね……。分かったわ。ごめんなさい……さっきは……取り乱してしまって……。あなた達の思い、受け取ったわ…。協力できたのなら……良かった……。』


 女の人の霊は、僕らに向けて優しく笑う。そして、その姿は淡く白い光に包まれていく。


『…絶対に……解決して……。バートリーに……勝つのよ……。ヒルデリジェット……。』


「…え……?お姉さん!待って……!ヒルデリジェットって……?」



『…"小さな探偵達"……。頑張ってね……。あなた達のこと……見てるわ……。』



「……お姉さん!!」


 女の人は、そう笑うと、白い光に包まれて、その場から消え去った。


「…魂が……浄化されたみたい。コゼット…あなたの誠意と真心が、伝わったみたいね。」


「僕の……誠意と真心……。」


 グリンダの言葉に、僕の心は少し軽くなる。


「そう。こうして降霊術をやらなかったら、あの人の魂は、きっと報われないまま、冥界を彷徨っていたと思う。でも、あなたが救ったの。これは誇れる事よ。」


 グリンダは僕に微笑みかけてくれる。周りの皆も、強い瞳で、僕を見つめる。


「……ヒルデリジェット……。"小さな探偵達"……。僕らは……本当に……真相に一歩近付いたんだよね……。」


「当たり前よコゼット!!」


「そうそう。今回はエポニーヌに同意する。」


「チビのくせにやるじゃねぇかコゼット。」


「お姉様の言う通り、あの人の魂を救ったこと、誇っていいわよ。」


「アンの言う通りよ。コゼット。すごかったわ!」


「コゼットくん!本当に……よく頑張りました……!」


「さすがは俺のコゼットだな!!」


「強かったな。コゼット。」


「うんうん!ラビニーに誉められるなんて、コゼットすごいよ!」


「……皆……ありがとう……。」


 僕は皆に、涙ぐみながら笑いかける。一歩真相に近付いた僕ら10人…。あのお姉さんの勇気を無駄にしないように、僕らは、くじけずに進む。そう……決めたんだ。


「じゃあ!今度こそレースやろうぜ!」


「おう!コントローラー出せ!ラビニア!」


「何で俺なんだよ。ネロに頼め。」


「僕も一緒にやるよ!!」


ーーー

ーー


『…さて…この間の女は血が薄くて不味かったから…今度こそ…肉付きの良い食べ応えのある女が現れる事を……祈るわ……。フフ……。じゃあ、狩りを始めましょうか。』


第7章 fin

第8章に続きます!

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