第4章 厄介な付きまとい事件
第4章です!楽しんでね!
ジャンの乱闘騒ぎが起きてから約2週間くらい、学園生活にもようやく慣れてきたここ数日間。僕は、とある件に頭を悩ませていた。
「…ッ…誰だ…?」
ネロと共に次の授業へ向かう途中、中庭を通っていた時、僕は誰かの視線を感じて咄嗟に振り返った。だが、そこには誰もいない。
「どーした?またか?」
「うん…。やっぱり誰もいない。」
「ここ最近ずっと言ってるよな、誰かに見られてる気がするって。」
「…うん。ネロの言う通り、ここ最近ずっとなんだ。誰かの視線を感じるんだけど、振り返って見てみても誰もいなくて…。おかしいよ。」
そう。僕は、最近ずっと誰かに後ろから見られている感じがする。見られるだけじゃなく、付けられているような感じもする。気になって、いくら調べても、何の痕跡も残っていないし、本当に見られているのかどうかも分からない。
「……なぁ!それってストーカーとかじゃねぇよな?」
「…は?ネロ何言ってるの?」
「いや、ただの予想だけど…。だっておかしいだろ?ジャンのあの一件以降、ずっとなんて。」
「僕もおかしいとは思ってるけど…。もしかしてまたジャンが?」
「いいや、ジャンではないだろ。ジャン今停学中だし。確か、学長先生から、寮から出られない術をかけられてて、部屋に籠ってるはず…。」
「…うわぁ…あの後そんなことになってたんだ…。」
僕は学長先生を怒らせたジャンを哀れに思いながら、ネロと共に中庭を通り抜けて、学園の植物園に向かう。次の授業は、食虫植物や毒花の生体を勉強する授業。僕は、この授業が好きだ。何て言ったって、先生が面白い!僕は先程の付きまといの件は忘れて、ネロと共に植物園に走った。
「はーい!それじゃあ、授業を始めますよ~!」
この授業、危険植物生体研究の担当教師、エージェン・ゴルツォ先生が、ベルを鳴らして授業の始まりを告げる。ゴルツォ先生は面白くて楽しい人で、生徒思いの良い先生だ。僕は初めてこの授業を受けた時に、提出した体験レポートを、先生に誉めてもらった。それ以降、先生は僕に目をかけてくれていて、僕も先生の事が好きになった。自慢じゃないけど、この授業の成績はなかなか良い方だ。
「今日は、植物園の中を、この5、6時間目の間で、友達とグループを組んで回ってください!そして、その中で気に入った植物のレポートを書いて、授業終わりに提出!説明は以上!さぁ!皆グループ組んで回ってね~!1人はダメよ~!」
先生が言うと、この授業を選択している皆は、それぞれグループを作っていく。2人組もいれば、4人組もいる。皆本当に様々だ。
「ネロ!一緒に組もう!」
「おう!勿論!」
「…私も、いれてもらっていい?」
「「アン!」」
そこにはアンがいた。アンは僕らの方に歩いてくる。
「うん!一緒にやろう!アン!」
「ありがとう。2人とも。ダイアナはこの授業選択してないから、この時間は1人で寂しかったのよ。」
「そっか。でも、僕らがいるから!」
「おうよ!3人でいれば怖くねぇだろ?」
「…うん。コゼットがいるから平気。」
「は?お、俺は!?」
「私馬鹿はカウントしてないから。覚えておいてね?」
「…相変わらずの冷たさだぜ…アン!!」
僕ら3人がいつもの感じで話していると、少し遠くから、「おーい!」と、僕らを呼ぶ声が聞こえる。
「コゼット~!ネロ~!アンちゃーん!」
「あ、グリンダ!それに、ラビニアも…!」
グリンダはラビニアの手を引っ張ってこっちにやって来る。相変わらず、楽しそうな笑顔を浮かべており、手を引っ張られているラビニアは、やれやれと言うような顔をしている。
「ねぇねぇ!あたし達も一緒にやっていい?多い方が楽しいでしょ?」
「あ、うん。僕はいいよ!」
「俺も!…おいラビニア…。何でそんな不機嫌そうな顔してるんだよ…。」
「…俺は…2人でいいって言ったのによぉ…。まぁ、グリンダがいいなら…別にいい…。ちょっと…不服ではあるけどな…。」
僕は初めてラビニアの少し嫉妬したような顔を見た。
「…なんだよラビニア!君にもそんな所があるなんて、ちょっと見直したよ!いつも硬派な感じだったから!」
「…コゼット…。お前、ネロのうぜぇ所移ったな。」
「は?」
ネロは少し額に青筋を浮かべてラビニアを見ている。それとは対照的に、アンはグリンダを見て目を輝かせている。
「…お姉様と一緒に出来るなんて!私、とっても嬉しいです!」
「ほんと?えへへ。嬉しいな~。アンちゃんみたいな可愛い娘にそんなこと言ってもらえるなんて。」
アンはグリンダを尊敬しているのか、彼女のことをお姉様と呼んでいる。グリンダもアンと仲が良いのか、楽しそうにしている。
「じゃあ、グループ学習始めよう!」
「おう!まずどこから見る?」
「…私、人喰い薔薇が見たい…。」
「いいね!人喰い薔薇!最近青いのが咲いたんだって~!ほら!ラビニーも行くよ!」
「…ったく、しょうがねぇなぁ…。待てよ!」
僕らはこうしてグループ学習を始めた。
「…わぁ!見てみて!これ!象も飲み込む牙椿だって!すごーい!」
「お前!そんなに近付くな!危ねぇだろ!」
グリンダの無邪気な行動にラビニアは脂汗をかいている。僕とネロとアンは、皆で人喰い薔薇を見ながらレポートを書いていた。
「…すごいね。本当に青い薔薇が咲いてる…。」
「コゼット!指喰われるぞ!」
僕はネロに言われて指を引っ込める。
「あ…ごめんネロ。」
「…気を付けなさいよ。これ人喰い薔薇だって言ったでしょ?一歩間違えたら身体ごと食べられてたわよ?」
「…ごめんアン…。気を付けるよ…。」
皆で回れて楽しいけど、かなりハードなグループ学習だ。まぁ、仕方ないよね。危険植物生体研究の授業なんだから…。
「…ッッ!だ、誰だ?」
僕はその時、また視線を感じた。素早く振り返るが、やはりそこには誰もいない。
「コゼット?またか?」
「あ…うん。でも…やっぱり誰もいない…。」
「…何かあったの?」
「誰かそこにいたのか?…誰もいねぇぞ?」
「どーしたの?コゼット?」
「…ネロは知ってるんだけど…。その…実はね…。」
僕は事情を知らないアン、ラビニア、グリンダに付きまといの件を話した。
「…ってことなんだけど…。確証が無くて…。」
「付きまとい…かぁ…。確かにおかしいな。」
「意味分かんない…。それ、本当に付きまといだとしたら、コゼットちょっと危ないかも…。」
ラビニアもアンも訝しげな表情で考え込む。だが、グリンダだけは表情を変えない。
「…グリンダ?何か心当たりがあるの?」
僕が尋ねると、グリンダは一度優しく微笑むと、ステッキを取り出す。
「…んーとねぇ。それ、確かに付きまといだよ~!ちょーっと待ってね!…えい!」
グリンダは、誰もいない木の後ろに向かって、おまじないをかける。すると、誰もいない場所から、2人の女の子が出てくる。
「ほら!やっぱり!コゼット、これで付きまとい事件は解決だよ!この娘達2人が、犯人みたいだね!」
僕は2人の女の子の方を目を丸くして見やる。ウェーブのかかった赤紫色のロングヘアの女の子は、頬を赤くして僕を睨み付けており、その女の子の後ろにいる胡桃色の髪をツインテールにした女の子は、あちゃー、とでも言いたげな表情で目を瞑っている。
「え、エポニーヌじゃねぇか!」
「本当だ…。」
「え、エポニーヌ?」
ネロからエポニーヌと呼ばれた女の子は、どうやら赤紫色のロングヘアの娘のことらしい。エポニーヌは少し悔しそうな顔をしているが、まだ顔は真っ赤だ。
「ね、ねぇグリンダ。あの娘は?ネロとアンは、エポニーヌって…言ってるけど…」
「うん。あの娘はエポニーヌ・ミレガルダ。隣の娘は、アゼルマ・サントマッチ。2人は仲良しだから、いつも一緒にいるの。…因みに、エポニーヌは、"惑わしの天才"。7人の天才の1人だよ!」
「7人の天才…え、ええ?また?」
学園に在籍する7人の天才。初めてネロに教えて貰った時は、立っているステージが違いすぎて、ただの編入生の僕は、この人達と関わることなんてなく、卒業するんだろうな…。なんて思ってたのに、ネロとルームメイトになったのを皮切りに、アン、ラビニア、ジャン、グリンダと、僕は、何故かことごとく7人の天才達と知り合いになっている。しかも、ジャン以外の4人は僕の友達でもある。そして、このエポニーヌ。付きまとい事件の犯人。まさかこんな形でまた1人、7人の天才と知り合うことになるなんて…。
「エポニー。どうしてコゼットにこんなことしたの?惑わしの術を使って、透明になってたんでしょ?そんな術使ってまで…。どうして?何か理由があるの?」
グリンダがエポニーヌに尋ねると、エポニーヌは悔しそうな顔をしながらも口を開く。
「…お、お姉様には関係無いわよ…。」
エポニーヌはそう言うと、僕の前にづかづかと歩み寄ってくる。
「…え、エポニーヌって言ったよね…?その…ぼ、僕に何か用?」
僕はエポニーヌの圧に笑みをひきつらせながら言葉をかける。
「…別に!?用なんて無いわよ!?ただ、ショボい編入生のあんたが、いつヘマをするか見張ってただけ!ほら!あんたって、なんか鈍そうだし、からかってあげたら面白いかもと思って!!勘違いしないでよね!?あんたが、気になってたからとかじゃ全然ないんだから!!」
「……はぁ……?」
僕はエポニーヌの発言にポカンとする。ネロ達も、僕と同じ表情をしている。
「…え?もしかして、エポニー、コゼットの事が好……」
「言うな!」
グリンダの天然発言に、ラビニアは慌てて彼女の口を塞ぐ。
「え?その、意味が分からないんだけど…。えっと…つまり…君は結局…僕に何がしたかったの?」
「…分からない人ね!!さっきから言ってるじゃない!あんたがいつ失敗するか見張ってただけだって!失敗とかヘマしたら、一番最初に笑ってやろうと思ってたのよ!あんた、私のいいおもちゃになりそうだから!」
「お、おもちゃ?」
僕は支離滅裂なエポニーヌの発言にカチンと来て言い返す。
「あ、あのね!言ってるだろ?さっきから君が僕にしようとしてた事が分からないって!しかも、おもちゃって何だよ!人を勝手におもちゃにするな!」
「なんですって!?私に反論する気!?」
「まぁまぁエポニーヌもうやめようよ。ごめんね?コゼット。この娘本当に突っ走り型で。あ、あたしアゼルマ。一応この娘の親友やってまーす。」
「あ、うん…。よろしく。」
「うん。よろしくね。それで…さぁ。説明が下手なエポニーヌの代わりに、あたしがちょっと分かりやすく説明させてもらうよ。えっとね、実を言うと、この娘、コゼットに一目惚れしちゃったみたいなんだよね。」
「は……ぁ?」
「ちょっとアゼルマ!!何言ってるのよ!!あんた馬鹿じゃないの!?」
「いいえ、馬鹿はネロよ。」
「あぁそうだな。ネロは確かに良いやつだけど、馬鹿だ。」
「おい!お前ら!関係無ぇのに無理やりこっちに飛び火させんな!!」
アンとラビニアにキレるネロは置いとくとして…。エポニーヌが一目惚れ?しかも…僕に?確かに…綺麗な娘だとは思うけど、なんだか厄介そうだし…めんどくさそうだな…。
「え、エポニーヌ…それって…。」
「嘘よ嘘!アゼルマの嘘よ!」
「いいや全然嘘じゃないよ。コゼット、この前ジャン・ブラックに殴られたでしょ?その時、あんたジャンに言い返してたじゃない?あの時のコゼットを見て、エポニーヌったら、顔を赤くして、「素敵…あのジャンに堂々と立ち向かうなんて…。」って、言ってたんだから。」
「アゼルマ!!」
「え、ええ……!?」
「…んー…あ!コゼット!さっき付きまといが始まったの、ちょうどジャンの一件以降って言ってたよね!さっきのアゼルマの話だと、全部納得がいくの!つまり!エポニーヌは、あの一件のコゼットを見てから、あなたのこと好きになっちゃったから、付きまとってたってことになるよ!」
「え、ええ!?」
僕はアゼルマやグリンダの言葉に脳が追い付かない。
「……な、何よ何よ!!悪い!?いいでしょ!?別に私が誰の事好きになったって!!コゼット!!この私が好きになってあげたんだから、光栄に思いなさいよね!私が誰かに想いを寄せるなんて、滅多にないことなんだから!これから覚悟しなさいよね!手作りのお弁当とか持っていってあげるんだから!!……それと!アン・ブリジット!コゼットとあんまり仲良くしないでくれる!?不愉快だわ!私のコゼットよ!狙わないで!!」
「ち、ちょっとエポニーヌ!!開き直るにも程があるって!!」
あまりの状況にアゼルマはエポニーヌを止める。
「狙ってない。ただの友達。」
「そう!!ならいいわ!!さぁコゼット!!私を好きだと言いなさい!さぁ!!」
「…は?え、……う、……うーん……。」
「うわぁ!!コゼットー!!」
「た、倒れた!コゼット倒れちゃった!」
「…そ、蘇生のおまじない!蘇生のおまじない!」
「うるせぇ!落ち着けお前ら!まずは先生呼べ!先生!保健室連れてくぞ!!」
それから僕が目を覚ましたのは、保健室のベッドの上だった。周りにはネロ、アン、ラビニア、グリンダ、そして後から駆け付けたらしいダイアナがいる。そこに、エポニーヌの姿はなかった。
「…み、皆…。」
「コゼット!良かった~!無事で!大丈夫だ!思い込み激しすぎ女は追っ払ったからな!安心しろ!」
「レポートなら一緒に提出しておいたから、大丈夫。」
「ラビニーが先生に説明してくれたから、もう平気だよ!」
「…はぁ…何かどっと疲れたな…。」
「コゼット!大丈夫?アンから聞いて来たわ!」
「皆……ありがとう…。ダイアナも、授業違ったのに、わざわざ来てくれてありがとう…。何か、明日からの生活がちょっと不安だけど…皆がいてくれて良かったよ。」
なんとか僕は、友達の手により助けられたようだ。エポニーヌかぁ…同級生だし…また会うことになるよね…。はぁ…僕は、最近、何かと厄介事に巻き込まれるなぁ…。願っても無駄だろうけど、一応…平和な学園生活を送れるように、星に願ってみよう…。
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「明日はちゃんとコゼットに好きって言わせるわ!!応援してね!アゼルマ!」
「ちょっとは反省しろ。」
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「…おいカラス。俺の出番は?」
「お前停学中だろ。」
「お前も少しは反省しろ。」
第4章 fin
第5章に続きます!次回もお楽しみに!