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第3章 乱闘騒ぎ

第3章です!どうぞ楽しんでくださいね!

「何なんだよもう…ここ一週間…慣れない事ばっかりで…さすがに疲れちゃったよ…。」


 そう。前の降霊術の授業を皮切りに、ここ一週間、学園での授業は本当に慣れないものばかりだった。毒草薬学の授業の実験でネロが失敗して2人で体調崩したり、体育の授業のフェンシングでアンと対決して負けたり、本当に慣れない事ばっかりで疲れてしまった。


「コゼット…気持ち分かるぜ…。俺もここの学園入ったばかりの時は、こんな感じだった。」


「この日々が3年も続くと思うと…先が思いやられるな…。」


 僕はネロと一緒に昼食を取るために学園の食堂に来ていた。僕は学食のBランチを頼んで、ネロはCランチを頼んだ。


「まぁまぁ。腹が減っては授業は出来ぬってな!昼飯食おうぜ!」


「…うん。冷めない内にね。」


 僕らはテーブルに着き、昼食を取り始める。


「「いただきまーす。」」


 この学園の学食は本当に美味しい。最初、もしかしたら毒が入っているのではと疑った事もあったが、普通に美味しい。


「なぁ、コゼットの魚ちょっとくれね?」


「別にいいよ。はい。」


「サンキュー!」


「相変わらずネロは良く食べるね。」


 僕らはそんな他愛の無いやり取りを続けながら、和やかな昼食を過ごすが、それは1人の人物によって止められる事になる。


『お前、編入生だよなぁ?』


「…え…?ぼ、僕?」


 僕は昼食を食べ終わった瞬間に、急に後ろから話しかけられた。目線の先には、黒髪の目付きの悪い男子生徒。制服は気崩しており、髪もボサボサ。見るからに不良学生だ。


「そうだよ。お前以外に誰がいるんだよ。編入生ぇ?」


 黒髪の男子生徒は僕を睨み付けてくる。僕はこの人を知らない。だけど、この人は僕を知っているようで、その真っ黒な瞳からは、何故か言い表せない怒りや妬みを感じる。


「おい!ジャン!お前コゼットに何急に喧嘩吹っ掛けてんだよ!」


「…ジャン…?」


 ジャンと呼ばれた黒髪の男子生徒は、チラリとネロを見た後ニヤリとした嫌な笑みを浮かべる。


「あっれぇ~?誰かと思えば馬鹿ネロじゃねぇか!何だよ、この編入生と仲良いのかぁ?」


「…仲良いも悪いも、こいつは俺のルームメイトで友達だよ!」


「ふぅん…。まぁ、いくら馬鹿ネロでも俺達7人の天才の一人だもんな。その天才が認めた編入生…。」


 ジャンは目を見開くと、僕の右の頬を思いっきり殴った。僕は力に押されてその場に倒れ込んでしまう。


「ッッ!!こ、コゼット!!おいコゼット!ッッ…お前いきなり何すんだよ!!」


 僕は殴られた右の頬を押さえながら、床から2人を見上げる。ネロの顔は怒りに震えており、ジャンの制服の襟を掴んでいる。


「ね、ネロ…僕は大丈夫…。」


「大丈夫な訳ねぇだろ!!殴られたんだぞ!!」


 殴られた衝撃で口の中が切れたのか、血の味がする。


「チッ…おい!編入生!お前の降霊術の授業、見てたぞ?とんでもねぇ霊卸したなぁお前。編入生のクセに…あのラビニアと同等の霊を卸すなんて…。許せねぇ…。俺、お前の事気に入らねぇ…。気に入らねぇんだよ!!」


 ジャンはネロの手を払いのけ、また僕に近付いてきて、僕を見下すような目をする。でも、今まで僕をいじめてきた普通の奴らの目とは違う…。一体何があって、僕にこんなことを…。


「よく聞け編入生。俺は7人の天才の1人、"祓いの天才"、ジャン・ブラックだ。金さえ払えばどんな悪霊でも祓う。」


「祓いの天才…。」


 僕は目を疑った。この不良学生がネロやアン、ラビニアと同じ7人の天才の1人?信じられない…。皆とは全然違うじゃないか!


「俺はなぁ、今まで向かう所敵無しだったんだよ。ほら、俺って強ぇから?誰も相手にならねぇっつーかぁ?」


 ジャンは自信満々で言うが、ネロは呆れたような顔をしている。


「…嘘吐くなよ…。ラビニアに全部負けてるくせに…。」


「あ、あいつは違うんだよ!ほ、本当は俺の方が上なんだぜ?あいつは力を出し惜しみしてるからなぁ!」


 ジャンは大きい手振りで自分の凄さを伝えるが、僕もネロもそれを白けた目で見ている。


「なぁ編入生…。この学園で平和に過ごしたかったら、あんまり目立たねぇことだな。俺は自分よりも目立ってるヤツが大っ嫌いなんだよ!だから、次お前が目立つことしたらさっきよりも強ぇ力でまたぶん殴ってやるからなぁ!?」


 ジャンの言葉は支離滅裂で、何1つ意味があるとは思えない。僕は彼の藪睨みのその目に今まで感じたことの無い程の嫌悪感を覚えた。


「…ぼ、僕は…目立った覚えもないし…君を怒らせてもない…。理不尽な理由で…自分勝手な理由で人を傷付けるなよ!!」


 僕は、座ったまま、ジャンを見上げて睨み付ける。


「…テメェ…自分の立場が分かってねぇみたいだなぁ…。天才に逆らったらどうなるか…今ここで分からせてやるよ!!」


 ジャンはそう言って僕にまた殴りかかろうとするが、その拳はとある人物によって止められた。


『おい。お前…さっきからうるせぇんだよ。大したことねぇくせに威張り散らしやがって…お前みたいなのが一番嫌いなんだよ。コゼットいじめんな。』


「「ら、ラビニア!!」」


 ジャンの拳を止めたのはラビニアだった。ジャンは手首を、爪が食い込むぐらいに強く掴まれており、その痛さに顔を歪ませる。


「…い、いてぇ!!や、やめろよラビニア!!お、俺はちょっと編入生をからかってやっただけだぜ?べ、別にいじめてなんか…。」


「立場が分かってねぇのはお前の方みてぇだな…。」


 ラビニアはそう言うと、ジャンの右の頬を強く殴り付けた。ジャンは吹っ飛び、壁に身体ごと打ち付けられ、倒れてしまう。


「…ってぇ!!」


「これでコゼットの仇は取ったぜ?殴られたの…右の頬だったよな?」


「…ら、ラビニア…。あ、ありがとう…。」


 僕はラビニアに向けて笑うと、ラビニアも笑ってくれる。


「礼なんて別にいいって。俺はただ、あいつが許せなかっただけだぜ?」


 ラビニアは本当にいいやつだ。さすがネロの幼馴染みなだけはある。でも…あのジャンが怯えるなんて、ラビニアに逆らえる人は、この学園には、本当に1人もいないんだなぁ…。


『もう!本当にジャンは最低ね!だからあたし、あなたのこと好きじゃないの!』


「…え?」


 急に後ろから響いた女の子の声。僕が振り向くと、綺麗な緑色の髪をした、すごく可愛い女の子が、僕の両肩を持ってしゃがみこんでいた。


「き、君は?」


『グリンダ様だ!』

『本当だ!グリンダ様よ!』

『南の良い魔女!何でここに!?』


「ぐ、グリンダ?」


 食堂にいた他の学生は、驚いた様子でこの女の子を見ている。グリンダ様?南の良い魔女?僕は全くその意味が分からなかった。


「うん!あたし、グリンダ・エルファジーナ。この学園の2年生だよ!よろしくね!コゼット!」


 グリンダはそう言って僕に優しく笑う。その可愛らしさに、僕は思わず頬を赤くしてしまう。


「…よ、よろしく…。ぐ、グリンダ…。」


「早速だけど、このほっぺの怪我、治しちゃってもいいかな?このままじゃ痛いでしょ?口の中も切れちゃってるみたいだし…。」


 僕は口から血が流れている事に今更気付く。


「あ、本当だ…。気付いてなかった…。」


「あんな状況だったもんね。でも大丈夫!あたしも中等部の時、体育で怪我しちゃって、膝から大量出血しちゃったことあったから!あれに比べたら全然軽少だよ~!」


 グリンダはそう言いながら笑う。すごく可愛いし、優しそうな子なんだけど、どこか、浮世離れしていそうで、天然?純粋?いや、きっとどっちもなんだろうな。このあどけない笑顔がそれを物語っている。


「はい。傷見せて。」


 僕は少し恥ずかしそうにしながらも口を開けて見せる。


「わぁ…かなり切れてる…。酷いね。ジャンって本当にろくなことしない。」


 さっきまで笑っていたグリンダが急に無表情で呟く。なんだか、感情がなかなか読み取れなくて、少し恐い。


「…な、治るの?」


「うん!すぐにね!」


 グリンダはそう言うと、小さな美しい花の装飾が施されたステッキを取り出して、僕の頬に何らかの呪いをかける。すると、優しい緑色の光が僕を包み、口の中の傷はすっかり治ってしまった。


「…い、痛くない…!ど、どうして?」


「傷が治るおまじないをかけたからだよ!これで、もう痛くないでしょ?」


「…あ、うん…。ありがとうグリンダ…。でも、君は一体?」


 僕がそう言うと、グリンダは柔らかく笑い、その場でクルリと一回転すると、ステッキを頬の前にかざす。


「あたしはね、ラビニー達と同じ、7人の天才の1人!"呪いの天才"!皆からは、南の良い魔女って呼ばれてるんだけど、理由は知らないんだ。」


 グリンダはにこやかに笑った。彼女も7人の天才の1人。南の良い魔女…。その所以が、なんとなく分かる。彼女の周りに満ちている幸せと優しさのオーラは、南の良い魔女と言う異名を体現している。……ん?ちょっと待って……?


「…ら、ラビニーって?もしかして…」


「うん。ラビニアの事だよ?」


「…グリンダお前…人前でそのあだ名で呼ぶなっつったろ?」


「…え~?でもこっちの方が慣れてるし…言いやすいし…。」


 僕は2人の奇妙な距離感に若干の違和感を覚えた。


「ね、ねぇネロ。もしかしてこの2人…。」


「…あ、うん。カレカノ。」


「…ほ、本当に!?」


 確かにラビニアとグリンダはすごく仲が良さそうで、恋人だと言われると、すごくお似合いな気がする。


「皆の憧れ、南の良い魔女と、学園のボスのカップル。美男美女だし…お似合いだけど…やっぱ…なんかムカつくんだよな…。」


「ネロ…もかしてラビニアに嫉妬してるの?」


「…悪いか?」


 幼馴染みに可愛い彼女がいることを、ネロは妬んでいる。でも、僕は思った。さすがにそれはどうにもならないだろ…、と。


「おいネロ。お前まだひがんでんのか?いい加減諦めろよ。」


「う、うるせぇ!こっちはもうとっくに諦めなんてついてるんだよ!」


 何故かネロとラビニアは睨み会う。グリンダはその対立を見慣れているのか、「またやってる…。」と、ため息を吐いている。


「…お、おい!!お前ら!!俺のこと忘れてねぇか!?」


 声のする方を見ると、倒れていたジャンが座ったまま喚いている。


「そういやぁ完全に忘れてたな…。」


「俺も。」


「ら、ラビニアはジャン殴ってたのに…忘れてたんだ。」


「あぁ。」


「ジャンの存在って、そんなに記憶に残らないもんね。仕方ないよ!」


「ひ、酷ぇ!!南の良い魔女!!」


 グリンダの天然発言にジャンはさすがにショックを受けているようだ。すると、その時、食堂のドアから2羽のカラスが飛んできて、ジャンの両肩に止まる。


「あ!君達!」


「よぉコゼット!元気そうだな!」

「友達いっぱい出来たみたいで良かったじゃねぇか!」


「…うん!おかげで毎日、結構楽しいよ!」


「良かった良かった!…ラビニア!ジャン連れてっていいよな?グリムジレッタ様が呼んでんだ。」

「あぁ、さっきのコゼットに対しての件で大層お怒りだ。」


「あぁ。連れてけよ。」


「わかった。ほら!行くぞ!」

「グリムジレッタ様に思う存分怒られろ!」


「…は、離せこの!カラスめ!コゼット!俺はお前をぜってー認めねーからな!覚えてろよ!」


 ジャンは喚きながらカラスに連れていかれてしまった。友達のおかげで、なんとかその場は収束した。


「…皆、ありがとう。何てお礼を言ったらいいか…。ネロは、ジャンに怒ってくれたし、ラビニアは僕が殴られた分をジャンに殴り返してくれた。グリンダは僕の怪我を治してくれたし…。本当にありがとう。」


 僕は頭を下げて皆に謝る。


「いいって!俺もジャンにはムカついてたし、友達馬鹿にされて、許せなかったしな。」


「俺もネロと同意見だ。誰かが傷付いたら、皆で守る。それが俺らのやり方だからな。」


「うん。友達が傷付いてるの、見てられないもん。何かあったら、相談してね?必ず力になるから!」


 ネロ、ラビニア、グリンダの3人は、僕に優しい言葉をかけてくれた。こんなにも良い友達が出来るなんて…。思ってもなかったけど…。友達がいるおかげで、慣れない事ばかりの毎日も、楽しく過ごせている。僕は、もしかしたら、恵まれているのかもしれない。そう、思え始めた。


ーーー

ーー


『…エポニーヌ、どうしたの?あの編入生が気になるの?』


『……ううん。別に?気になってなんか…ないわよ…。』


『ふーん…。でも、顔赤いよ?もしかして…マジで好きになっちゃった?一目惚れ?』


『そんなことないって言ってるでしょ!!ふざけたこと言ってないで、行くわよ!アゼルマ!』


ーーー

ーー


- 学長室 -


「ジャン・ブラック…。あなたって人は…!!!」


「……す、すんませーん!!!」


第3章 fin.

第4章に続きます!読んでくださりありがとうございました!

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